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6-6.フォルへの報告


 ライチにラズ様宛の手紙とカイア様宛の手紙を預けた翌日の夜。


「夜分に失礼いたします」

「フォルさん? えっと、どうされました?」

「ライチからの手紙を受け取りましたので。ラズ様は明後日の昼頃には、キュアノエイデスの方に到着予定です。マーレに戻るのは、まだ少しかかりますので、お伝えに参りました」


 ライチで届けて、すぐにフォルさんを派遣してくれた感じかな。

 キュアノエイデスに戻れてないなら、多分、急いでこちらに向かってくれたのだろう。


 見た目はいつも通りの姿だし、馬とか乗り物も連れていないようだけど。どうやってここまで来たのだろう。


 深夜と言うほどの時間ではないけど、それなりに夜遅い時間だったので、門は開かないはず。

 やっぱり、隠密系の人達が侵入しようと思えば塀を越えて出来てしまう作りなのか。


「もう少し、塀を高くする必要がありますかね」

「いえ。これ以上防備を固めると余計に警戒されますので、この程度に納めるべきかと」

「そう、ですか。えっと、ラズ様と話をしたい場合、キュアノエイデスに向かった方がいい感じです?」

「手紙にはなにも有りませんでしたが、すでに問題事が発生したのでしょうか?」

「……ええ、まあ。内容を書けないので、とりあえず、季節のお便り書いてみたのですけど」

「拝見致しました。少々、気になる部分もありましたので、こちらの本をご参考になさってください」


 駄目だしされてしまった。頑張って、書いてみたけど、不評のようだ。当たり障りない内容を書くのも難しいから、見本があるのは助かるけど。そんなに変だったかな。


「さて。クレイン様。ご自身でのご報告前に私がラズ様への言伝することもできない内容でしょうか?」

「いえ。フォルさんなら問題ないと思います」


 大司教様の紹介の件と、薬師ギルドでの件を報告する。

 私がどう動くべきなのか、その指示を出して欲しい。

 指示が無いなら、こちらで勝手に動くけどね。


「相変わらず、目を放すと面倒事に巻き込まれますね」

「ええ……カイア様にも、面倒事を起こさないようにと言われているんですけど」


 正直、忙しいのが確定しているラズ様とカイア様に相談するのも申し訳ないのだけどね。勝手に進める訳にもいかないだろう。


「しかし、聖教国ですか。本来であればショルネイ大司教の管轄であり、シンザ大司教が出てくることはあり得ません」

「それなんですけど……7、8年前まで、偽名で師匠の顧客だったことの確認が取れました。師匠の弔いに訪れるのは不自然ではないようです」


 面倒なことにね。火葬の際に立ち会えなかったため、納骨の儀の時に参加したい旨のお手紙も来ていた。偽名でだけど。

 同じような手紙は貴族からもぽつぽつとそういう手紙は来ていて、ラズ様に丸投げしたいなと思っていたんだよね。


「貴族関連も手紙は来ているので、多少面倒ではあるのですが、一度セレモニーを用意しようとは考えてます」

「その場で、シンザ大司教と会うと?」

「何となくですけど、ファブロス枢機卿側を避けたいので? シンザ大司教とご挨拶しておこうかなと」

「それは大変結構なことですね」


 え? いや、何が?

 にっこりと笑うフォルさんにゾクッとした。殺気、駄々洩れなんだけど? 


 直感による危険ではなく、単純に、フォルさんの殺意に毛が逆立ったのだけど?


「ああ、申し訳ございません。クレイン様は聖教国の事情はどこまでご存知ですか?」

「いえ、勉強不足で申し訳ないのですが、全く知らないです」

「なるほど。では、カイアナイト様の呪いの首謀者の一人にファブロス枢機卿の名が上がっていることはご存じないですか?」

「……知らないです」


 あの呪いの概要、私は結局知らないんだよね。クロウも鑑定結果をそのまま鑑定書にしただけで、名前とか詳細は覚えていないという。



「ファブロス枢機卿か」


 過去の新聞で、若くして、大司教になった記録は見た。

 40歳未満での大司教、魔力の高さに優れるとかだったかな。その時の記事で当時の王太子、王弟殿下の兄で、前王と言っていいのか悩むけど……あの王が後ろ盾となり、大司教になった人。


「前王が皇太子の頃から、側近のように近くにいたのですよ。クロウ様の鑑定により、洗いだされた関係者の中で唯一他国の人間です」

「……呪いの知識の出処ですか」


 カイア様の件に関連してるのは知らなかったけど……外部からもたらされた知識という方が納得かな。


 目を開いて、にっこり笑うのはやめてほしい。心臓に悪い。

 元から、呪いとか王国にないし、治せるのが聖教国の人間しかしないとなると、疑わしいとは思っていたけど。


「その通りです」

「これ、私が知っていい話ですか?」


 呪いを解呪したのは私だけど、知っていていいのだろうか?

 そもそも、カイア様の方で、私達を巻き込まないって約束してなかった?


「ラズ様はご存じありません」

「は!?」

「……カイア様のご指示でしょうか?」

「いいえ」

「……フォルさんの独断ですか?」

「はい」


 うん。

 私を巻き込まないことにした人達ではなく、フォルさんが私を巻き込みたいってことか。


「何をご希望ですか?」

「クレイン様の人柄に期待したい部分がございまして」


 人柄? 私は出来れば、面倒事から逃げたいのだけど。


「……フォルさん。その、カイア様のことで、許せないのはわかりますけど……フォルさんが動くのはお勧めしませんよ?」


 ファブロス枢機卿を教皇にしないためにフォルさんが動くのは駄目だろう。

 色々と問題があり過ぎると思う。


「ご心配ありがとうございます。ですが、職を辞すことになると考えておりますので」

「第一王子の件です?」

「やはり、気付いていたのですね」

「何となくですけど。兄さんの手腕を考えると、そんなミスしないと思うので? 兄さんが予想しない動きできるのって、ラズ様の周辺だけですから」


 ネビアさんの動きを封じるくらい気を使っていたなら、なおさらだろう。

 スペル様やシュトルツ様のところにもしっかりお目付け役を付けていたみたいだし、イレギュラーを見逃す可能性は、ラズ様だけだろう。


 その中で暗殺なんてできる手腕、フォルさんしか考えられなかった。


「ラズ様が命令で処理するので、大丈夫だと思いますよ?」

「それが許されると思いますか?」

「多分。だって、そうしておけば、ラズ様を担ぎ上げる人いなくなるので、ラズ様も嫌じゃないと思いますし……責任者、兄さんなので? カイア様も犯人捜し諦めると思いますよ」


 ラズ様が犯人であれば、王族同士。ただ、他の場合は、王族殺しは重犯罪になるからね。


 あの王宮奪還作戦の総指揮にまで責任を波及させることは避けたいだろう。ラズ様の命令が無くても、有ったことにしておけばいい。


「……まだ、兄さんと呼んでいるのですね」

「あ、いや、ツルギさん、ですね」

「仲違いをしていると聞いていたのですが」

「まあ、そうですね……でも、言動は理解はしてるつもりなので? 多分、あちらもフォルさんって気付いたと思いますよ? その上で、何の連絡もないなら、そういうことじゃないかなと思います」


 後処理はカイア様とツルギさん、追加でネビアさんが完璧にやるだろう。


 ラズ様より貴族らしく、不手際なく、やるべきことを淡々と処理すると思われる。


 いや、やられたままにしておかない上に、倍返しくらいするのがツルギさんだけど。

 その手綱を握るカイア様が放置はしないだろう。


「任せていいと思いますよ? 枢機卿も多分、自ら止め刺しに行くんじゃないですかね」


 カイア様は自分を苦しめた人間を他国の要人だから見逃すような人でもないと思う。ツルギさんも嬉々として手を貸す気がする。


「あの方の手を汚させる訳には参りませんが……」

「……いや、だって、ラズ様はフォルさんいないと困りますよ。カイア様の方は最悪、二人を切り離せばいいので。多分、これ幸いに責任取ったふりして、トンずらするだけですよ……二人とも」


 忠誠心がある二人じゃない。それを承知で騎士にしているカイア様もだけど。

 ネビアさんの場合、自分の恨みの有無でやる気が変わりそうだけど。そこら辺はカイア様が上手く使うのだろう。


「任せてよいと思いますか?」

「はい。私が出来ることとして、教皇様が病気で亡くなるまでの期間が短いと不利かなと思いますので、許可がほしいと伝えてください」

「教皇様への薬、シンザ大司教との面会については、承知いたしました。おそらく、ラズ様も同席することが条件となりますが」

「はい。わかりました」


 聖教国のごたごたに巻き込まれたくはないけど、薬は必要だしね。

 王家からの依頼とするのか、聖教国から直接の依頼をするのかはこれから決めるのだろうけど、作ることは許可が出た。



「素材不足とアレンジレシピについては、報告をしておきますが、判断は陛下にお願いすることになるので、時間がかかると思います」

「わかりました。レカルスト様にはそのように伝えます」


 今後も含め、その点は任せる。冒険者ギルドの方も、最悪の場合は私が作れるのであれば、ぎりぎりまでは待つ方向で調整するはず。


「では、私からお願いがございます」

「フォルさん個人ということですか?」

「はい。セルフィス伯爵家に警戒を。接触は出来る限り断り、もし、会うことがある場合にはカイアナイト様にお伝えいただけますか?」

「……ラズ様ではなく?」

「はい。いかがでしょうか?」

「わかりました」


 兄弟間で意見対立があるのであれば、本来は、ラズ様が側に立つべきなのだろうけれど。

 カイア様からの指示ではなく、フォルさんの独断ということであれば、従おう。


「事情はお聞きしても?」

「実は、詳細は私も知らないのです。当時、私はカイアナイト様の従者として学園に付き従っていた時に、ラズ様とセルフィス伯爵令嬢……現、セルフィス女伯爵との間で起きたトラブルですので」

「……噂の、ラズ様が女は信用できないと考えるようになった原因の元婚約者?」

「ご存知だったのですね」


 いや。冒険者時代に玉の輿狙いの女性陣に詰め寄られたせいとか、そんな噂も聞いているけど。そもそも、元婚約者のせいだって言ってたんだよね。ディアナさんが。


 ラズ様の妾を自称したとき、心配してディアナさんから色々聞いている。

 ディアナさんが冒険者になった頃にはラズ様引退しているし、二人がパーティーを組んだことは全くないらしいけど。女性冒険者同士の情報網なのか、詳しいんだよね。



「とりあえず、セルフィス家からの話は全て、カイアナイト様を通すように指示が出ているって言います。あと、カイア様にも許可とっておきます」

「よろしくお願いいたします」


 少し待ってくださいと言って、机の方に置いてあった手紙の束から一枚取り出し、フォルさんに渡す。


「確認をしても?」

「はい。可能であれば、これをそのままカイア様にもお渡しいただけると助かります」


 私からは渡せない。ラーナちゃんに頼んで、ネビアさん経由なら、他の人に見られない方法が取れるかもしれないけど、確実ではないからね。


 セルフィス家からの今後仲良くしましょうというお手紙はフォルさんに渡しておく。薬を調合していたなどの過去もなく、仲良くする気もなかったので、困っていた。


「調合依頼ではないため、ラズ様に相談しようかなと思っていましたが、カイア様にするので、先に話を通していただけると助かります」

「お預かりいたします」


 流石に元婚約者と現妾が仲良くする道理はないだろう。多分。断っても失礼にはあたらない。


 フォルさんが帰るので、門を開けるために一緒に行く。


「5日後にキュアノエイデスに来ていただけるのであれば、時間を空けるように調整しておきます」

「わかりました。お伺いします」


 カイア様に直接話をする機会はしばらくないと思われるけど。フォルさんの方で、繋ぎを取ってくれるのだろう。多分。


 ラズ様に相談する方が気は楽なんだけどね。

 フォルさんが頼んでくるということは、ラズ様は表面上は許しているのだろうな。


 周りが許してないから、ラズ様に内緒で動いているのだろう。



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いきなり戸田奈津子出てきた。
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