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6-5.教会にて


 薬師ギルドでの話し合いが終わったので、ギルド長と別れて、教会へと向かう。


「神父様、います~?」

「おう、嬢ちゃん。あんまり顔出すなって伝えなかったか?」

「いや、他のことでごたごたしているし、今ならいいかなと思いまして。何となく、ですけど」

「まあ、いいけどな」


 人もいないので、魔法でささっと掃除をしてしまう。本当に、ご無沙汰なんだよね。来るなと言われていたし、私の方も行かない方がいい気はしていた。

 教会に来たのはかなり久しぶりだ。


「どうした? 悩みのありそうな顔だな。お前さんは割と自分で判断できる側だが、何を悩んでいる」

「……どうしようもないことですかね」

「そうか。本当にどうしようもないことなら、お前さんは気にしないと思うがな」

「そうですかね?」

「ああ。ボウズどもは元気にしてんのか?」

「ナーガ君も少し引きずってますよ。でも、彼の方が割り切るのは早そうです」


 今はまだ怒っているけど、そのうち許すつもりだからね。

 私もまあ、いずれは許すんだろうなという気持ちに傾きつつある。みんなに心配されてるしね。


 ただ、外聞としては、私は兄を、彼にとっては兄貴分である幼馴染を亡くした。ナーガ君が先に立ち直ってもおかしくはないはず。


「悩むなら、とことん悩んでやればいい。だがな、白黒とはっきりさせる必要はない」

「……そんなもんですかね」

「そうだ。相手のいることならな。お前さんから動かないでも、相手から動きがあるかもしれん。それを待つだけだ。その間に変化も起きるかもしれない。即断即決しなくていけない状態なのか?」

「……いえ」

「お前さんも、兄貴の方も、普段はそつなくこなすのに、恋愛は駄目のようだからな」

「え?」


 兄さんとのことだなんて言ってないよね? 死んだと思っているはず。


「どうも、思いつめると暴走しがちだしな。話し合いの余地くらい残すべきだろう」

「いや、なんで?」

「何日か前にもボウズが祈りを捧げに来ていたからな。あっちのが素直に受け止めてるな」


 ナーガ君……ばらしちゃった? いや、余計なことは言わないだろうから、この神父様が察したのかな。


「お前さんが倒れたときな、兄貴は思いつめていた。必死に抑えていたが、それでもお前さんを守れなかった奴らへの怒りが滲み出ていたくらいにな」

「……知りません」

「当り前だ。死にかけていただろう。おまえさんはどうだ? 生きてることを知っていながら、随分と過激な要求をしたんだ。気持ちくらいは想像できるだろう」


 兄さんは安否不明だったけど、確かに私も死にかけたことはある。

 起きたとき、みんな何事もなかったかのように振舞っていたから、気にしていなかったけれど。


 私が目覚めてから、意識が覚醒するまで一週間あったんだった。そのこともあって、多分、みんな心の整理が出来ていたのかもしれない。


「少なくとも、死にかけたことについてはお相子だろう」

「……でも、計画していたんですよ?」

「それならそこを相手に伝えればいい。怒りがあるなら、ぶつければいい」


 そう、なのか。

 怒っていいのだろうか。


「気にせず、ゆっくりと待ってやったらどうだ? それまでに、気持ちが固まるかもしれないしな」


 ぽんぽんと肩を叩かれた。少し、すっきりしたかもしれないけど……。

 

「さて、面倒事の話になるんだが」


 私の相談が終わったと判断して、話を切り替えてきた。

 いや、さくっと話を聞いたふりして、神父様の方が話したいことがあったらしい。


「え~……何でしょう?」

「今度、大司教様がこの地に来ることになってな。紹介しろと煩くてな」

「えっと、春先に、巡察士が来てましたよね?」

「あれとは別件だ。俺も世話になった人だから、紹介を頼まれると無下に出来ない……そんな顔しなくても、良い方だぞ」


 本当に面倒事ですよね、それ。

 大司教様がこんな田舎の町に何しに来るんだか……嫌だなと思うが、顔に出ていたらしい。


「聖教国に関わる気はないですけど」

「だろうな。パメラ様が毎年、王家に薬を納品していたのは知っているか?」

「はい。超級の薬を5~7種類ですよね? 爵位に対する年金を考えると金銭が釣り合ってないですけど、まあ、貴族であることのステータスとか、色々面倒なので考えたくないので……。あと、今年は納品していないと聞いてます」


 これは、師匠の体調の悪化と、爵位の譲渡を妨害することがあったため納品は見送っていた。

 一応、薬の材料は確保しているので、ラズ様から言われればすぐに作れる。


「一部の薬を聖教国に譲っていてな。国同士の円滑な交友のためだが、今年はそれが無くなるらしい」


 現状、メディシーアは貴族ではなくなったから、王家に納品する理由はないからね。他国との親善のために薬が必要となるなら、王弟殿下とかカイア様がラズ様を経由して指示をしてくるだろう。


「聖教国のお偉いさんで、その薬がないと死んでしまう方がいてな」

「大変ですね」

「そのため、薬を作って欲しいと大司教様が依頼のためにいらっしゃる」

「はぁ……その大司教様が必要なんですか?」

「それを知ったら逃げられないぞ?」

「いや、私は勝手に作れないですよ? ラズ様と王弟殿下、いや国王陛下に許可を取っておかないと、紹介されても無駄なんですけど」


 事前に、誰それの薬を作る許可くださいとお願いする必要がある。

 これで、聖教国のために黙って薬作ったら、貴族からの依頼も逃れられなくなる。


「教皇様だ。この混迷の時期にトップが変わるのはまずいという考えは王国も一致するはずだ」

「なるほど……」


 カイア様にお手紙を書くわけにもいかない内容なので、どう連絡していいか悩む。

 ラズ様がまだ帰ってきていないから、相談もできない。


 だけど、帝国が滅び、王が変わる中で、聖教国のトップが亡くなるのはまずい。だけど、カイア様にも念押しされているから、上の判断待ちの案件となる。


「いつ頃になります?」

「10日~14日後の間、マーレに滞在する予定だな」

「師匠の49日あたりじゃないですか……」

「墓に納骨する時期は前から決めていただろ? そこに合わせた。まあ、元顧客だから訪れても不自然でもない」


 神父様がそこを指定したのか。

 たしかに、どうせ貴族も参加表明しているし、そこに混じって紹介されたら面識は作れるのか。


「私の仲間、亜人種の特徴ある方ばかりなんですけど、大丈夫です?」

「あの方は問題ないだろうが、お付きの者もいるからわからないが……トラブルが起きないように俺からも事前に伝えておく。ただ、可能なら黒髪は染めておいた方がいい」

「……面倒事は嫌なんですけど」

「亜人に対してもだが、黒髪もな。……教義と神の意志が真逆だからな。紹介する方は数少ない真っ当な方だから平気だと思うが」


 あの白の神、亜人種のことを保護対象にしていて、人はどうでもいいスタンスだからね。聖教国の教義と正反対なのに、なんで崇めているんだか、理解不能。


 しかし、この神父様。教義よりも白の神の思想を知ってそうな言動なんだよね。そこまで、真っ当と言うなら、大司教様も問題ないのかもしれないけど。


「教皇様の病気については、発表してもいいが薬は必須だ」

「それを国がどう判断するか、怖いんですけど。一応、名前を窺っても?」

「シンザ大司教だ」


 新しく王になる王弟殿下は、簒奪だのと口出しをされないように薬は用意すると思っている。ただ、それを私に任せるか?

 内密に作れる人を確保しているからね。わざわざ私に依頼する必要がない。


 逆に、聖教国としては、今後も定期的に必要であるから、私に依頼をして、王家と関係ないところで薬の入手経路を確立したい。

 今年については、師匠からやってみるように言われていたということにすれば、できないわけじゃない。


「難しいですね」

「パメラ様しか作れなかった薬だからな……」


 いや、それはそれ。

 素材さえ手に入れば、成功率が低くても作れる人は王国内にもいる。

 師匠の成功率の高さと、子爵という地位を保つために納めていただけだろう。


「調合成功率の問題だと、何とも言えないですね。薬にもよりますけど、そもそもが師匠に素材を納品していた冒険者も引退しているんで……メディシーアでなくてはいけない理由って、成功率だけなんですよね」


 素材採取が自分達で出来れば、来年以降も調合依頼に対処は可能だけれどね。

 

「わかった。とりあえず、そっちでも報告上げといてくれ」

「はい。少し、奥で本を見て行ってもいいですか?」

「おう、ゆっくりしていくといい」



 奥の部屋で書物を確認してさせてもらい、いくつか調べておきたいことを探す。


 聖教国はなんだかんだと、2,000年くらいの歴史があるんだよね。古い頃の教義と今の教義の違い……。

 以前、聞かされた説法は、人の意図により都合のいい状態になってると言ってた。ただ、流石に元々の話がここに置かれているわけでもない。


 教皇をトップにして、教皇を支える枢機卿が7人、その下に大司教がいる。大司教は聖教国内に3割いるけど、7割は各国に派遣されている。


 関わりたくないと思うんだけど、巻き込まれそうな予感はしてるんだよね。

 意外とドラゴンが話が通じたこともあって、聖教国がドラゴンに襲われた件とか、改めて、調べておきたいのだけど。


 流石に、その手の資料は見当たらなかった。


「シンザ大司教……王国の大司教は、前がファブロス大司教、現ショルネイ大司教だから、この国に派遣された人じゃないのか。経歴まではわからないな」


 ファブロス大司教は、現在は枢機卿。5年前までこの国にいて……王国の在任期間が25年か。長いな。う~ん、なんか、すごく嫌な感じがするかも? 


 ラズ様経由でカイア様にでも報告しておいた方がいいかな。



「じゃあ、ありがとうございました」

「おう。気を付けとけよ、嬢ちゃん。今までガードしていた兄がいなくなったからな、隙があると考える奴はいるぞ」

「……わかってます」


 とりあえず、ライチを使って、ラズ様には挨拶だけ綴った手紙でも出しておこうかな。用があることだけわかればいいだろう。

 帰ってきたら、呼び出してくれるはずだ。


 素材の件と聖教国の件の対処。どうするべきか、判断を仰ぎたい。


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