5-36 .王都決戦前夜
王都では、すでにシュトルツ様が王都の南門を取り囲んでいた。
門は固く閉ざされている状態。どちらもにらみ合うだけで、攻めてはいない。いや、睨み合ってもいないかな。
王城には兵はいるけど、街側には配備されていない。
シュトルツ様に話を聞くと、宰相の蜂起と他家もいくつか動いているが、相手の動きはないという。
「なんで動かないんですか?」
「貴族の反感を買いすぎたせいだろうな。王の命令を聞く者がいない……命令をしても、だれも聞かない。王弟殿下を殺すようなことは、流石に騎士もできない」
「口だけで、自分が実行できる人じゃないしね~。それに、ラズがいるからね~。ここで王弟殿下達を殺したとしても、根絶やしにできない。王弟殿下に手を出した途端、自分が殺されるくらいはわかっているんじゃない?」
「なるほど」
なんだかんだと、王城の情報も仕入れているらしい。先に帰ったアディ将軍の働きにより、さらに騎士たちも数が減ったらしい。王城で働く使用人の数も減り、残っているのもどこかのひも付きであったりするらしい。
「まあ、僕らはラズが来たら動けばいいよ」
明日にはラズ様も到着予定で、西門をラズ様が封鎖する予定とのこと。
「じゃあ、弟。半分は僕が率いて、東門を封鎖するよ~。王宮がある北側はとりあえず、放置かな。あそこを完全封鎖すると流石に面倒が起きそうだからね。ラズの到着まってからだから、しばらく待機かな」
王宮から脱出する可能性があるので、見張りはおくけど、軍を置かない方がそこから逃げるのを捕まえやすいということらしい。
2日後に王宮で王弟殿下を救出するということで、おおよその段取りは決まった。あとは、ラズ様の到着を待って、詳細を詰めることになった。
「では、私とレウスは街の様子確認してきます」
「ああ、クレイン嬢。健闘を祈る」
「えっと、まあ、頑張りますけど……明日、夕方にもう一度合流します」
キラキラっとした笑顔でシュトルツ様が言うけど、私、まだ、王宮内がどうなってるのかすら、情報がない。明後日までに、出来る限り調べるけど、それだって簡単ではないはず。
「うんうん、期待しているよ。市民を怖がらせたいわけではないから、無理な突入は避けたいからね」
「はい。中から解放できるように調べてきます」
レウスと仮眠を取って、夜を待って、目立たないようにワイバーンで侵入した。
「う~ん。中に入ったのはいいけど、外を出歩いてる人少ないね」
「まあ、外を包囲されているのに、のほほんと出歩きはしないでしょ……酒場に向かうよ」
「え? 大丈夫なの?」
「多分……ラーナちゃんからネビアさんに繋いでもらえる酒場って聞いているから」
王都の東側の門に近い酒場……侵入した場所からもそう離れていないので、そんなに人目につくこともないはず。
ただ、張りつめた雰囲気の王都は居心地が良くない。
「……こんな時間にここに来るのはまだ早いんじゃないか? お嬢ちゃん」
「マスター。これを持っている人に会いたいのだけど、場所を教えてくれる?」
メディシーアの紋を掘った魔石と、ネビアさんに会えるということでラーナちゃんから借りている小さなベルがついたブレスレット。この酒場もラーナちゃんから聞いている。
「……外を歩くと目立つからな。呼んでやるから、ミルクでも飲んで待ってろ」
マスターは私とレウスがテーブルに着くのを確認して、本当にミルクを出してきた。そこまで子供ではないのだけど……。
食事も運ばれてきたので、それを食べつつも大人しく待つ。宿屋も何とかしないといけないのだけどね。まずはネビアさんと話をしてから考えよう。
最初は誰もいなかったのだけど、時間経過とともに人が出入りしている。ただし、こちらを見た後にマスターがぎろっと睨むため、私達に声をかけてくる人は少ない。
でも、いない訳ではない。私が誰かもわかっているっぽいので、彼らも情報屋かな。
しばらく、レウスと食事をしつつ、王都での現状をマスターから聞いていると待ち人が現れた。
「んふっ、遅くなりましたね……おや、マスターの料理を食べていたのですか?」
「はい、美味しくいただきました。お酒は出してくれないのがちょっと不満です」
「……ガキが酒の味を覚えるもんじゃねぇ」
マスターはそういうけど……領地で酒仕込んでますけど。
密造酒を作っていることになるのかな。でも、薬に必要なアルコールなので許されるとも思っている。 調合用と飲食用で多少違うけどね。
「さて、それで……僕に何をお望みでしょうか」
「城内の様子と、街の様子、あとはお城の見取り図ください。ついでに、おおよそでいいので、カイア様が捕らわれている場所と、王弟殿下が捕らわれている場所も……わかります?」
クロウから王宮に出入りしていたと聞いたので、侵入口とかも知っているのだろう。情報屋なので商売もあると思うから、話せる内容だけで構わない。お支払いはいくらでもって感じだ。
「ええ、それはもちろん。他にも状況が落ち着きましたので、お兄様が亡くなった状況の書面は用意していますが」
「え?」
「あ、俺が興味あるんで、知ってるなら教えてほしい!」
「んふふっ、どうしますか?」
「あ、いや……とりあえず、知っているなら状況を教えてください」
心配していなかったわけじゃない。でも、考えないようにはしていた。
耳元で小さい声で囁くように伝えられた。
「彼は生きています。ただ、彼には彼の都合があり、顔は出せないそうです……こちらが経緯をまとめた書類になります」
共に行動しない。決別……そういうことだろう。やっぱり、生きてはいた。ただ、グラノスとしては死んだことにするのだろう。
小さな声で、他には聞き取れていないほどの小声で伝えれた言葉にこくりと頷いた。
「わかりました。……遅くなりましたが、依頼していた情報操作についての報酬になります」
錬金蜂蜜で私が稼いだお金の5分の1が入っている魔法袋をネビアさんに渡す。大金だけど、多分、必要だろう。
「多いですね……まあ、今後の前払い料金も含んでいるということで受け取っておきますよ」
ネビアさんは魔法袋を確認した後、半分をぽいっとマスターに投げた。半分でも大金だと思うけど、扱いはぞんざいだね……マスターのが、驚いているけど。
「すみませんが、一人で出来ない部分もありましたので協力いただいた方にはこちらで分配しますよ」
「はい。もちろんです。ネビアさんの判断で構いません……状況は?」
「王都中に広まって、すでにパメラ薬師の死を知らない者は王都にはいないでしょうね。貴族が軟禁状態であることも事実であり、人心は離れていますね……見回りの騎士は減らされ、治安が悪化しないように冒険者が借り出されていますので、表面上は問題は起きていません」
なるほど。
情勢不安からの治安悪化を心配したけど、今のところは冒険者を使って問題がないらしい。
冒険者も一度でも王都の外に出ると戻れない可能性があり、滞在中の仕事として協力してくれているらしい。
「その、外の軍と連携して動くつもりですけど……出来るなら、門番などにも王家を庇わない方向で動けるように誘導したいのですが」
「ええ、すでにやってますよ。ちなみにですが、後世に名を残したいですか?」
「え? 嫌ですけど」
「では、王弟殿下達の救出はこちらで手配しますので、戦力の足止めをお願いできますか?」
確かに忍び込む手段を持ってる人達の方が救出の成功率高いか。
助けに行って、身バレしてしまうのも困る。たしかに、ネビアさんの案の方が良さそう。
「具体的に、足止めとは?」
「騎士団の兵舎。ここから増援が来ても困りますし、ここを抑えたいのですが、なかなか任せられる家がないのですよ」
「なるほど……」
魔法で通路を塞ぐなら、可能かな。一人で行動することになるけど。
「クレイン、俺らもやるよ?」
「人と戦うことになるよ」
「うん。大丈夫」
「……レウス、考えて行動しようよ」
「クレイン一人で動くよりはまし。俺らで通路塞ぐんでいいんだよね?」
「んふっ、ありがとうございます」
対人戦をレウスにさせるのは難しい気もするけど、後でレウスと打ち合わせをしよう。ナーガ君とアルス君も、多分ラズ様と行動してるから合流してからかな。
「では、こちらが御所望の書面になります。宿まで送りますので、後ほどご確認ください」
ネビアさんの案内で宿に行く。高級そうな宿を二部屋。
レウスとは別々に用意されている。名前は偽名……というか、ネビアさんの方でやってくれたので、身分がばれることもないらしい。
明日以降、ナーガ君達が来ることも伝えておくと手配してくれるらしい。
「ありがとうございます」
「報酬はしっかりといただいていますのでお気になさらず……次に会う時には笑顔で会いたいものですね」
ネビアさんが意味深に笑って立ち去るのをレウスは少し複雑そうに見ていた。
「レウス?」
「何でもないよ……俺も見ていい? わかんないと思うけど」
「いいよ」
ネビアさんからの資料を読みつつ、兄さんの死について書かれている紙を読む。
兄さんは、騎士により、心臓を一突き。その後、串刺しの状態で謁見の間に掲げられた。
しんっと静まったその場で国王が捕縛命令を出して、王弟殿下や貴族達が捕まり、今は王宮内で何人かずつでまとめて軟禁しているらしい。
記録では、最初は狭い状態で一室に軟禁して、体調不良者を出してから変えたようだ。
兄さんの死体については、いつの間にか消えていた。王弟殿下達を捕らえている間にどこかに消えたことになっていると記載されている。
王宮内への出入りを制限し、貴族をなんとか懐柔しようとしていたとか、色々と記載されている。
「レウス。大丈夫?」
「う~ん……結構、気分悪いかも」
レウスも読みたいというので、書類を渡したが「なにこれ」と呟いて、顔色が悪くなっている。
私も兄さんについての部分は想像するだけで気分が良くない。確認をさせたのは失敗だったかもしれない。思っていた以上に凄惨な死に方をしている上に、どうやったか知らないけど、これ、騎士団での正式な報告書の写しらしい。
「大丈夫なんだよね」
「多分……。さっきのネビアさんとの会話から、生きてるのは間違いない。保護したのはネビアさんじゃないかな。あの言い方といい、多分、詳しいことを知ってると思うよ。書面に残してないのは、他の人に知られると困るからだと思う」
書面を確認する限り、どうやら、グラノスという人物も、異邦人ではないという認識に変え、死んだことにしている。今後、生きて、目の前に現れたとしても、土台が違うことになるのだろう。
「明日、外を出歩いて様子見をしつつ、明後日に備えよう……どこまで、民衆に話が流れているかわからないけど……もう、どうしようもない状況まできてるしね」
「……なんかさ、すごいことになっちゃったよね」
「そうだね。本当はもっと穏便になると思ってたし、こんなに関わる気も無かったんだけど」
政権交代はもっと知らないところで起きる出来事になると思っていた。
政争が起きて、王権が変わる瞬間、私は引きこもって、薬作ったり何気ない生活している予定だった。
こんなど真ん中で積極的に戦況をかき回す予定なんてなかったのに……。
「まあいいや! 俺、グラノスさんが生きてるって聞いて、安心した。事情があるにしても、生きてるだけでよかった……あとは、できる限り手伝って、終わらせよう」
「レウス……」
「戦って廃墟になるって、どういうことかもわかったしさ。あんなふうになっちゃダメだ……出来ることをやりたい」
「そうだね……じゃあ、レウスには活躍してもらおうかな。私達が騎士の増援を抑えれば、それだけ王弟殿下達の安全に繋がる。これが王宮の地図だけど……ここを抑えれば、兵舎から王宮内に入れない」
地図を確認すると王宮と繋がった通路の先に騎士達の兵舎がある。ネビアさんは私にここを抑えてほしいという。
明日の昼間までここで情報集めつつ、夕方に外と合流して、相談した方がいいかもしれない。
「でもさ、王宮内って秘密の通路とかありそうじゃない?」
「あったとしても、普通の騎士は知らないと思うよ? うまくネビアさんが情報を流してくれれば、街の人達も邪魔はしないだろうし、スペル様やラズ様が城門を突破して王宮に来るまでの時間も長くはないはず」
「へぇ~。でもさ、どれくらいの間、封鎖するんだろ?」
うん。それなんだよね。殺す必要はないっていっても、あっちは殺す気でくるからね。訓練感覚と必死な職業軍人。多分、危険なんだけど……でも、実力的にはいけそうでもある。
そもそも、救出の間、増援させないことを目的とするなら……幽閉されている王弟殿下を助けて、国王を捕らえるまででいい。外の方は考える必要はない。
王宮内の騎士の人数が減っている時間なら、制圧も早いはず。
「門から王城までの道も含め、どこまで戦闘せずに王城に入れるかだけど……そこまで長くないと思う。明日の夕方、一度、スペル様達のところに戻る。ラズ様達が予定通りにいれば、ナーガ君とアルス君もいるはず。4人なら何とかなると思う」
「いいじゃん! そうしよう!」
おそらく、ナーガ君達もラズ様と一緒にいるはず。4人なら、無理せずに足止めは可能のはず。
多分、無血開城をさせようと準備しているようなので、抑える時間は1、2時間くらいかな。もっと早く終わる可能性もある。
「じゃあ、今日はゆっくり休んでね。明日、忙しくなるから」
「オッケー。クレインもさ、少しは安心したでしょ? 力抜いて、休みなよ?」
「うん? そうだね、おやすみ、レウス」
レウスと別れ、部屋に戻って休む。
疲れているはずなのに、全然眠くならない。
兄さんは生きている……。その情報が嬉しいはずなのに、喜んでいるのに……背筋がひんやりとしてくる。
絶対の味方ではなくなった彼は……どう動くつもりなのだろう。
ネビアさんは仲介役をしなかった……。つまり、私達に彼の情報が流れることを望んでいない。
ほかの情報はくれる。頼んだこともしてくれる……でも、兄さんがしようとしていることは教えてくれなかった。
遅くまで、自分の考えを纏めた後、書面にまとめる。渡す相手はネビアさん。今後の計画について、彼に伝えておいた方がいいと思うことを書き綴ってから寝た。
翌日。
酒場のマスターにネビアさん宛の手紙を預け、王都内を散策した。
レウスと散策しながら、あちこちで国王への不満が広がっている。さらに、王宮への門が固く閉ざされているにもかかわらず、その周囲に人が集まり、抗議している。
変な雰囲気が街の中に溢れかえっている。異様な熱気……。
「なんか……やばくない?」
「元から不満はあったみたいだね。まあ、焚きつけたんだけどね……思ったよりも、評判が悪い。税金上がったとか、貴族が横暴になったとか、もともとあるみたいだね……ただ、王都の中でも、王宮に近い貴族街への道も封鎖だって……」
貴族の家はどの家も固く門を閉じているらしい。
いや、一部は解放して、外のクヴェレに合流したという話もある。
とりあえず、順調。レウスと街の中を散策しながら、飛び越えられる家や門の確認をしていく。行きはワイバーンで行けても、帰り……逃走する場合には、ワイバーンを使えない可能性がある。
「そんな状態になる? 俺らが揃えば、負けないと思うけど」
「レウス。長時間、人と戦ったことある? 毎日、人を殺す訓練をしてる人達だよ。時間が経てば、不利になるのは見えてる」
「……でも、やるんでしょ?」
「やるよ……」
そのために、ネビアさんにも私達が兵舎を抑えることを伝えた。ついでに、色々と買い物もしておく。
「ところでさ、クレイン。何を買ってるの?」
「身バレしないようにするためのローブと口元を隠すマスク」
「こちらのローブであれば、隠蔽するための付与もあり防御力も高くお勧めでございます」
酒場のマスターのお店に戻って、出入りしていた人から商品を購入している。黒のローブにマスクを4人分。ついでに、刃の部分を黒くする薬品も購入した。
「なんか、急にやばい組織の人間っぽい」
「まあ、夜に活動するわけじゃないから、顔隠せればいいんだけど……ついでだから」
情報ギルドというが、それなりに裏というか、闇ギルドでもあるらしく、必要そうなものをいくつか購入させてもらった。身バレは良くないからね。
夕方、ラズ様と合流するために門以外から、王都から出る。
レウスとだと、屋根から門とかに移動も難しくは無いのですぐに合流できた。
「……」
「ナーガ君? どうしたの?」
ラズ様のいる場所まで案内されたが、スペル様とシュトルツ様がいる中に、ナーガ君とアルス君もいた。
私が来たのに気付いたナーガ君が突然抱き着いてきたので、驚く。
「……殴っといた」
「えっと、ナーガ君?」
「……生きてた。さっき、やることがあるからと立ち去った……」
どうやら、兄さんが居たらしい。それもあって、関係者以外はこの場にいない状態だったらしい。
「えっと……殴ったの?」
「……ああ。腹が立ったから……あんたも殴っていい」
どうやら、ナーガ君としては許せなかったらしい。多分、死んだと聞かされて心配していたのに、何もなかったように出てきたんだろうなと想像できる。
「ナーガ君」
「……ああ。あんたが頑張らなくても……あいつがなんとかする」
「うん……」
ぽんぽんと背中を叩くと離れてくれたので、話を聞くためにラズ様に近づく。
「あっちも随分と無茶はしたみたいだけどね。クレイン。このまま、僕のとこにいても問題は無さそうだけど、どうする?」
「兵舎と王宮の道を塞ぎます。明朝8時、朝礼で兵舎に集まった時点から……王弟殿下が救出されるまでの時間を稼ぎます」
「そう、ありがとう。ナーガとアルスも連れて行くんだよね?」
「はい。ラズ様も早めに門を攻略してくださいね」
「僕のとこだけ遅いでは話にならないからね。スペル達に後れを取らないようにするよ」
ラズ様のところに残って、攻略を手伝うというのも悪くはないのだろうけど。
さっさとカイア様達を救うなら、兵舎を抑えるのは有効な手段だと思う。
「クレイン」
「はい?」
「……グラノスは死んだ。会うことがあっても、彼はグラノスではない。そのつもりでね」
「……はい。別の人です。大丈夫ですよ……やることやってとんずらします」
「うん、そうして」
ラズ様の念押し。お互いに会ったこともない他人。目的が同じ、王弟殿下の救出であろうとも。
もう、関係ない人だ。念押しされた内容を自分でもうんうんと頷く。
「……クレイン」
「大丈夫、行こう、ナーガ君、レウス、アルス君」
4人で王都内に戻り、宿で作戦会議をする。
「えっと、グラノスさんのことは知らないふりすればいいんだよね?」
「……ああ」
「えっとね、たぶん、わかんないんじゃないかな。僕もわかんなかったし、あの偉い人も……ナーガ君はわかったみたいだけど」
レウスの質問にナーガ君が肯定する。
さらに続いたアルス君の話だと、ぱっと見では全然違う雰囲気になっているらしい。声の印象も違ったというので、結構、徹底しているらしい。
「多分、救出部隊にいるんじゃないかな。私達と会うことはないよ……それよりも、明日、足止め中はこのローブとマスクをつけて、顔は晒さないようにする。それと、各自の名前も呼ばないようにね?」
「……シマオウ達はどうする?」
「う~ん……待機、かな。ただ、そうすると兵舎までの侵入が難しくなるんだよね」
ワイバーンを使うと簡単に抑えられるけど……スペル様への密使にも使ってるから、顔隠してる意味が無くなるんだよね。
「そっちは少し考えるので、まず、各自の武器にこれを塗って、特徴消して。特にナーガ君」
ぽいっと購入していた剣を黒くしたりと、目立たなくするための薬を渡す。
「結構、本気で正体隠すんだ?」
「ラズ様の軍にいることはバレてるけど、一応ね。実際、ここでばれたところで、今後王都に近づかなければいいから問題はないから、絶対じゃないよ。危険な時は速攻で逃げてね」
「あの、実際に、騎士を相手にどの程度通じるのかな……」
「正攻法でなくてもいいなら、正直、ワイバーンに乗ったまま、通路に魔法で土壁作っちゃうのが早い。通らせないようにするなら、それで十分なんだよね」
最終手段でもある。対人戦をすることでトラウマになっても困る。
だから、戦い始めて無理だと思ったら、魔法で足止めする。
「え? じゃあ、なんでここに俺ら行くの?」
「単純に、騎士のやる気を見るためかな? この状況でも王家に忠誠誓う騎士がいるとしたら……王都に置いておけないでしょ? いつ、王弟殿下の寝首をかこうとするかわからない。逆に、国王は見限ってるけど、逃げることも出来ない人もいるはず」
「……それを見極めるのか」
「そう。3人は無理に倒そうとする必要はない。危険な人は私の方で対処するから、タンクのナーガ君を基本に二人は遊撃で」
全員を捕まえてということにするより、危険な人だけ倒させてもらい、あとはラズ様は無理でも、解放されたセレスタイト殿下やカイア様がなんとかするはず。
「俺とクレインが先に暴れ始めて囮になって、ナーガとアルスはワイバーンから降りてきたら?」
「……危険だろう」
「うん、僕らが来るまで二人ってことでしょ? 危ないよ」
「合図をしたら降りてもらうとして……ここの建物の影から降りてもらえば、まあ、目立たないかな」
侵入経路を二つに分けて、私とレウスが囮になる分には問題がないかな。
危険も少ないはず。騒ぎの後なら、ナーガ君達も安全に降りて来れるはず。
危険はない様に……でも、出来る限り、有利に終わらせるために。
明日は、決戦だ。




