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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第五章

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204/219

5-35.帝国から王都へ


 翌日、翌々日と帝国の異邦人達の拠点を潰し、罪人として捕らえるための軍事行動を見守ることになった。

 ワイバーン達には合図があるまで近づかないようにと指示をして、その場から離れさせたので、私もレウスも徒歩。ただ、ゆっくりと行進なので、別段問題はない。


 私とレウスは、スペル様の近くに控えて、従者の真似事をしながらただ見ていた。

 廃村になった村や、だいぶ被害を受けた町。捕らえた異邦人に石を投げつける子供もいた。


 

「捕らえた異邦人が4人で、巻き込まれた帝国民が数十人……死亡。怪我人合わせると、だいぶ被害大きいですね」

「そうだね~」

「マジで、ぶっ放すだけで何も考えてないんだね」

「レウス、発言には気を付けてね」


 レウスは気にしないように振舞っているが、民間人にも被害が出ていることにスペル様も眉間に皺を寄せていた。

 町で偉ぶっている異邦人を討伐するにあたり、脅されている町の人達ごと……引き離すことも出来なかった場合もあったとは思うけど、関係なく範囲が広い魔法や技を使ったことによる被害もあった。


 共和国側の奴隷の異邦人と、王国側の異邦人との間でも軋轢が広がっていて、ここにいるだけで嫌な部分を見ることになってしまった。


 帝国の異邦人を捕らえるために、異邦人が戦う。知っていたことではあるが、一方的な破壊活動が目の前にはあった。


「クレイン。戻ろう……こっち見てる奴いるし」

「良く気付いたね」

「あれって監視?」

「さあ? 色々と複雑な立場だからね」


 私とレウスが戦場を見ていると視線を感じた。「行くよ~」というスペル様の言葉についていきながらも、周囲を警戒する必要がある。


 スペル様の側にいれば、守られる。ただ、そうでない時を虎視眈々と狙う人達がいる。

 レウスはしっかりと状況を理解した上で何もないように振舞っていた。


 以前より、しっかりと周囲を見ることが出来るようになっている。レウスの容姿は目立つ。竜人のハーフというのは、異邦人でも少ないからね。


「そうそう。僕から離れないようにね~。共和国の方からも接触したいと申し出があったけど、今日から、帝国も合流するから」

「帝国側の方が増えるんですか?」

「そう、皇太子殿下が生きていて、こちらに向かってるって。君とも直接話をしたいってさ」

「ラズライト様の許可なく、高貴な男性と話をするわけにはいきませんので」

「そうだね。友人の僕ならいいけど、他の男が婚約者のいる女性と話すわけにはいかないね」


 もう、貴族の接触は全て、それで断る。ラズ様の許可無しなら、不可。

 その言葉に、将軍たちが咽て、咳き込んでいるけど知らないふりをしておく。


 レウスはレウスだから。従者ってことにでもしておけば問題なし。


「そういう理由なら、天幕以外では出来るだけ口を開かないようにね~」

「レウス以外と話してないので大丈夫です」

「あはは、そうだったね」


 スペル様は面倒なことが起きないよう、絶対に口を開かないようにと言う。私もその方がいいだろうと思うので、それに従っている。


 ただ、将軍たちは味方だけど、王国側も懐柔される人がいたりと、接触を完全に消すことは難しい。


「ところで、帝国はなぜ、今更?」

「最後に合流して、手柄を掻っ攫うのはよくあることだよ」


 皇太子を名乗る人物が合流したこともあり、あとは帝国の方でやるという趣旨の会議が開かれることになったらしい。

 スペル様の会議中は、帝国側、共和国側から面倒な接触があった。


 金銭をいくら詰まれようと断るからいいのだけど、それだけではない。出されたお茶にすら警戒が必要なのはいただけない。


 レウスに口を付けないように言って、事なきを得たけど……明らかに、昨日よりもこちらへの接触がおかしい。情報を聞き出すためではないが、思わせぶりに話をしてくるだけならいいけど。

 王国から所属を変えさせようと言質を取るために、なりふり構わない動きが多い。



「王都が色々と大変でしょう。いかがですか、帝国でゆっくりされては?」


 そう言ってきたのは、皇太子の側近を名乗る人物。帝国の方が大変な状況であるのに、王都のことを持ち出してきたので、顔に出さないように話を続けた。


 多分、帝国側は国王派のことを知っている。そう、確信したため、会議後のスペル様に進言した。


「だろうね~。今日の会議は不自然だったよ」


 スペル様を帰らせないようにしている。そういう動きがあったらしい。

 さらに、帝国側の要求は撤退をするなら連れている異邦人を全て引き渡せという。


 スペル様が全て突っぱねているが、異邦人の扱いは王国側も困ってはいる。それでも、はいどうぞ、という訳にはいかないだろう。


 

「もう、話が通じないから勝手に帰ることにしたよ」

「いいんですか?」

「『王都でクーデターが起きたため帰る』と宣言してきた。これを止めるなら、戦ってでもと言ったら、引いたよ。帝国は知っていたね。共和国側は知らなかったと判断したよ」

「あ、やっぱりですか」


 スペル様をこの場に拘束したいという明確な意図はないっぽいから、王都への反乱の作戦が漏れているわけでも無さそうだけど。

 戦力を王国に持ち帰らせたくないという意図を感じている。


「邪魔をするなら王国の敵ということで、突き通したよ。戦力を譲れないことも理解させた。明日、別れてからはデイルに軍を任せるから、僕は王都に直行するよ」

「はっ、お任せください。ただ、従わない異邦人ですが……」



 これ以上は無理と判断し、スペル様の帰還は決まったらしい。ただ、異邦人達にあることないことを吹き込んでいる様子も見ている。


 結局、その後にも帝国側が共和国と使者を連れてやってきて、再度、会議となっていた。


「お疲れ様です」

「帝国側がどうしてもというから、明日の朝、帝国への移住を異邦人に提案し、希望する者はここに残すことになったね。面白いよね~どんな条件で引き抜くんだろうね」

「なるほど……」


 帝国側は、しつこく異邦人の意思を確認させてほしいと言ってきて、スペル様最終的に了承したらしい。甘い言葉と金に、目が眩むのは何人くらいか。


 帝国では奴隷になる可能性が高いけど、騙されたと怒っても助ける人もいないだろう。能力が高い連中に引き抜きをかけているようだしね。



 ただ、レウスも引き抜きの標的になっているんだよね。

 スペル様が再度、会議に向かった後に運ばれてきた食事には色々と盛られていた。私を庇おうとして行動した結果、現在、体調不良で倒れている。

 食事に盛られてるのを抗議しに行った先で、毒を充満させてるとかえぐい。


「レウス、大丈夫?」

「だめ……気持ち悪い。なんか、へんな香りをずっと嗅がされてた」

「うん、わかった。確認したから、治していいよ~」


 スペル様の許可が出たので、魔法で回復をする。

 すぐに治療したかったけど、危害をきちんと見せてからではないと証拠がないからね。


「状態異常回復〈リフレッシュ〉……危害を加えたと抗議は?」

「国同士だからね。言うだけで、効果はないよ」


 何かしら食べ物や飲み物に暗示が効きやすくなる薬とかが入っていたり、あの手この手で言質を取ろうとする。


 レウスも容易には断れないのもわかっていてちゃんと躱していたけど、無理やり長時間押し留められた部屋にて、嗅ぎなれないにおいにより、体調不良となった。


 鑑定した結果、はっきりと毒としての症状が出たので、証言できる偉い人の確認を得てから魔法で治す。


「抗議しとくよ。すでに奴隷じゃないんだよね?」

「はい。私の護衛ですよ」


 レウスは護衛。私の盾になることが出来るくらいに強いということになっている。奴隷から解放と同時に手続きをして、しっかりと戸籍も作ってあるから、王国民となっている。

 奴隷からの復帰の場合、意外とあっさり申請が通ったんだよね。


「クレイン、なんかまだ、ムズムズする」

「え?」


 気分が悪そうなレウスに回復魔法を唱えたけど、なにかすごく嫌な予感がしてきた。

 魔法で毒を治しても症状が残ってる? 鑑定をしたら、まずい状態だった。媚薬も盛られてる? これって、魔法で症状が消しにくいというか、発散した方が早いんだよね……。


 今、私とレウスはスペル様、二人の将軍に次ぐ待遇を受けていて……個別の天幕。護衛騎士は付けてくれているけど……レウスが危ないかもしれない。


「スペル様。明日、昼前に迎えに来るので、ここで失礼していいですか?」

「いいよ。さっきの会議で今後のこと決まったから、伝達に送ったことにするから」

「ありがとうございます。レウス、行こう」

「え? クレイン、どうしたの?」

「失礼します」

「うん、明日ね~」


 レウスを連れて、馬を借りてこっそりと軍から離れる。


「なんかあるの?」

「うん、多分……レウスが盛られた香り、催淫剤も含まれてるかもしれない。しかも、ゆっくりと効き目があるやつ」

「げっ……」

「治療したけど、多分、自分でその、鎮めた方がいい……」

「…………ちょっと、ワイバーンで飛んでくる」


 レウスは微妙な顔をして、ワイバーンで離れていった。今日は別々に野宿の方がいいだろう。

 レウスは何もなく盛らないだろうから、天幕に残っていると襲われるとかがあったかもしれない。


 とりあえず、心配ではあるけど任せよう。



「ありがと……まじで、やめてほしい」

「そうだね」


 翌朝、ばつが悪そうに戻ってきたレウスに頷きつつ、スペル様と合流するまではゆっくりと過ごした。

 


 昼前にスペル様は単身で馬を駆って集団から抜け出したようで、のんびりと過ごしていた私達の元までたどり着いていた。


「よくわかりましたね」

「君の気配は独特だからね~」


 なんか、聞き捨てならない言葉を聞いたけど、スペル様としても脅威になる人物は少ないとかで、レベルが高い人物がいる方向くらいならわかるらしい。


 早かった理由を聞いたところ、帝国側がごねて、異邦人を引き抜こうとすることもあり、中々出発できないことに腹を立てたという形らしい。


「お疲れ様~昨日は悪かったね、え~っと、レウス?」

「あ、いや……何かあった?」

「君達の天幕に血の気の多い部隊長二人を宛がっておいた。朝、結構な騒ぎだったよ。行軍中とは思えないハッスルぶりだったのか、女の方は白目向いてたよ」


 天幕の中には、催淫剤の匂いで充満していたらしい。帝国側が用意した女だけど、目的のレウスがいなかったこともあり、結果は散々。揉めていたのでスペル様が単独で帰るのも難しくなかったという。


「王都でいいですか?」

「うん。ところで、なんでレウスと僕が一緒なの? 僕とクレインのが軽くて負担かからないんじゃない?」

「ナーガが俺でもクレインと一緒に乗るの嫌がったのに、他の男とクレインを乗せられないから……前に俺とルストでも平気だったから、重さは問題ないし」


 うん? ナーガ君、嫌がってた?

 シマオウで行くって、そういうこと?


「え?」

「クレインももうちょっと考えたら? 振ったのかもしれないけどさ、諦めてないんだし」

「いや、まって、何で知ってるの?」

「ナーガから聞いた」

「そっかそっか、なら、仕方ないね。楽しくなりそうだね~」


 スペル様が笑っている。レウスとの二人乗りには文句がなくなったらしいけど、そのにまにまがすっごく気になる。


 だいたい、ナーガ君。レウスにそんなことまで話をしているの? 振ったから諦めるじゃないのもあれだけど……。


「もういいや、急ごう。もう、動き出してるかもしれない」

「そうだね~。ヴィジェア様は待たないでしょ。他家も一斉蜂起、弟も牽制してくれるはずだけどね。その前に王都に入っていた方がいいからね」


 スペル様を待って遅くなったのだけどね……。

 最悪は、夜にワイバーンで飛んでいるところから落ちて侵入という荒業もできるので……王都が封鎖されていてもなんとかなるはず。



 まずは王都に潜入して、状況確認の上で、王宮へ。決戦だ。




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