5ー34.スペルと合流
帝都の生き残りから聞き出した情報に従い、移動すること半日。
集団を見つけたけど、何故かいきなり攻撃を受ける。弓ではなく魔法のようだけど、ワイバーンで急上昇して避けたけど、危ないのでやめてほしい。
上から様子を見ていると騎士らしき人が、止めるように指示している。攻撃してきたのは服装からして、正規の騎士ではないようなので異邦人かな。
攻撃してきた異邦人とは別に罪人らしく腕をロープでつながれた連中が後方にいるので、むやみに殺したりもしていないらしい。
「クレイン、どうする?」
「う~ん、スペル様いるみたいだから、ちょっと降りてくる。ワイバーン達を攻撃したいみたいだし、レウスはこのまま呼ぶまで待機してくれる?」
「いいけど。大丈夫?」
「魔法で落下を相殺できるから、大丈夫。私が火魔法を空に向けて撃ったら速攻で逃げて」
「オッケー。降りるときは?」
「じゃあ、水魔法で……行ってくる」
ワイバーンから飛び降りて、着地寸前に風魔法を発動して浮遊し、スペル様の近くに着地する。スペル様が私を見て、少し目を大きくしたけど、何も言わずに笑顔で手を振っている。
「止まれ! それ以上、近付くことは許さない!」
スペル様を護衛している騎士数人がこちらに武器を向けてくるので、腰に下げていた剣を外して地面において、その場に膝をついて頭を下げた。
「クレイン・メディシーアと言います。王弟殿下の第三子息ラズライト殿下、前宰相ヴィジェア様からスペルビア・クヴェレ様への手紙を預かっています。ご確認をお願いします」
荷物から手紙を二通取り出して、封蝋が見えるように見せる。
ただ、距離があるから封蝋の家紋は見えないだろうけど、無下にはできないはず。
「下がっていいよ。知っている子だからね」
護衛の騎士達をどけて、スペル様が近付いてくる。視線を合わせ、こくりと頷いてから手紙を渡す。
「やあ、久しぶりだね。急ぎなのかな?」
「はい。大至急、確認をお願いします」
「うん。確認するよ……でも、何があったの?」
スペル様の質問に苦笑しつつ、手紙を見ればわかるはずと伝える。
手紙を受け取り、天幕を作るように指示している。行軍をここで止めて確認してくれるらしい。
スペル様とは別に率いている人がいて、そちらは共和国側の人で、急いで伝えているらしい。また、帝国側と公国側の人も少し参加しているようで、ざわめきが広がっている。
「メディシーア嬢に失礼のない様にね。ワイバーンに乗ってる彼も降りてきていいよ。確認する間、お茶でもどうかな?」
「ありがとうございます」
「すぐにお茶を用意してくれる? あっちには僕が説明してくるから」
レウスにわかるように水魔法を空に放つとゆっくりとレウスが下降してくる。スペル様も頷いて、私から離れようとした瞬間、レウスに向かって魔法が放たれた。
スペル様が私の前に立って、庇おうとしてくれたのにお礼を言いつつ、風魔法を発動する。
「風の円屋根〈ウィンドドーム〉!」
放たれた火魔法の攻撃を風魔法でかき消しつつ、レウスが降りてくるのを援護する。先ほどもだけど、攻撃の手数が多いので数人で攻撃してきている。
ワイバーン達は未然に防がれているけど、攻撃に対し気が立っている。降り立ったワイバーンにレウスが餌を出して宥めている。
スペル様は私を庇う様にしつつも、レウスと一緒に騎士達の前で餌をやり始めた。
敵ではないというアピールもあるのだろうとは思う。
しかし、再度、ワイバーンに向けて魔法で攻撃がくる。水、火、風、土……全員使い手が違うようだけど、それなりに魔力が込められた攻撃。これは風属性だけだと難しいかな。
「反射〈リフレクション〉」
光魔法で魔法を反射する。これなら、属性によって防げない攻撃があっても問題はない。反射された魔法は本人に返っていき、被弾している。
「私の連れに対し、攻撃をする意図はなんでしょうか?」
「し、失礼いたしました。すぐに対処を致します!」
近くにいた騎士に尋ねると謝罪はしつつも、魔法を放った方へ向かう様子はない。こちらに対して訝しんでいるようだった。
「うん。じゃあ、すぐに犯人を連れてきて」
「は? しかし……」
「僕の命令が聞けないのかな?」
「こわっ」
騎士達が慌てて走り出した。私に対してのお座なりな対応と違い、笑顔のスペル様には素早い対応だった。スペル様の笑顔が怖いので、気持ちはわかる。
レウスの言葉につい頷いてしまうと、スペル様と目が合い、にこりとこちらをみて微笑まれた。
スペル様が笑っているのに、ここら辺の気温が一気に下がったように感じる。
「さて、なぜ僕の客人に対し、何度も魔法攻撃をしたのか、答えてくれる?」
呼び出された異邦人達は、不服な顔で、何度も攻撃をしてき理由は、魔物が近付いてきたら倒していいと許可があったからと説明した。
行軍中に魔物が近付いてきたら倒す。それは基本ではある。だから、攻撃した。私達が敵じゃないというのがわからなかった。指揮官が襲われていると思った。
色々と言い訳を並べていたが、空中でも何度も自分の攻撃が打ち消されていたのが気に入らずに試していたのが本音らしい。
今後の軍事行動に加わることを禁止し、行軍について来るだけ。反射によるダメージを食らっているが、回復のためのポーションを使用禁止という処分を言い渡されて腹を立てている。
「なんで俺らが! おかしいだろう!」
「何もおかしくないよ。命令されていないのに、攻撃をし、目上の人間を傷つけようとしたんでしょ? いらないんだよね。君たちは上の命令が出るまで何もしなければいいだけ。それも理解できない?」
「うるせぇよ! 俺らは指揮官が襲われてると思ったからやったんだ! そっちが反撃するのがおかしいんだよ、魔物を守ってるんじゃねぇ!」
これは駄目だなって思う。スペル様に対して、言っていい言葉ではない。
スペル様の指示で、彼らは罰を受けることになったけど。こんな連中ばかりを率いているのだとしたら、異邦人への印象が良くなるはずがない。
処罰するために連れて行かれて、ちょっとホッとした。
ただ、共和国側の兵は静かにしている。こっちは奴隷だから、命令されたことのみに従うらしく、口答えをする王国側との関係も悪い。見た感じ、目が死んでる。
こちらの様子をみている共和国側に軽くお辞儀をしておくが、あちらも食えない性格をしていそうな人だ。
「まあいいや。天幕も出来たから、中で話をするよ。クレイン、悪いけど天幕でも会話が聞こえないようにしてくれる?」
「かしこまりました」
「はい。大きい天幕ですし、心配なのでワイバーンも一緒でいいですか?」
「うん、外に置いておくと何されるかわからないしね。いいよ~」
魔法で結界をはってから、レウスとワイバーンと一緒に大きな天幕に入る。
中にはデイルさんと、共和国側に伝言していたアディさん。それと前に見たことがあるスペル様達の従者がいた。
「スペル様。どういう状況ですか?」
「異邦人を率いてた者達は倒せたよ。ほとんど犠牲も無くね」
「そう、ですか」
結構、高レベルがいると聞いていたのに、あっさりと制圧ができたのだろうか。
「帝都を見てきたならわかるだろうけどね。それなりに被害も大きいね」
「……どうしたら、あんな状態になるんですか?」
「自主性に任せただけだよ」
つまり、異邦人が案を出して、そのまま帝都を破壊した。……他も巻き添えに。
笑っている姿にぞくっとする。相手の話とか、交渉もすることなく、ただ攻撃をしたんだろうな。
「帝都を滅ぼしても、まだ血の気がありそうですね」
「そうだね。だから、連れまわしてる」
「どういうことですか?」
「主要な者達は死んだけど、いくつか拠点を持っていてね~。町やダンジョンに部下を置いていてね。回収してるとこだよ。順調ではあるけど、王国側の異邦人が暴走してるよ」
そういえば、セティコさん達もダンジョンで拾ってきたんだっけ? 異邦人の制圧がほぼ完了しているとはいえ、散らばったのを回収までがお仕事か。
流石に、町を攻撃してこれ以上の犠牲はさせられないため、異邦人のみを攻撃し、捕らえるように指示しているらしい。憂さ晴らしに魔物も許しているというけど。
「スペル様、何を考えてるんです?」
「彼らの適性を見てるんだよ。一部、自分たちの行動を省みることが出来てるよ。そういう子達は確保して、引き離してるから」
暴走する人達に対する目はひどく蔑んでいる。
王国の人材として、有益かどうか。それを判断するのだろう。
「まだかかります?」
「だいたい見終わったから、後を副官に任せてもいいとは思うけどね~」
「閣下、困ります。きちんと仕事をしてください」
困ったようにしているのは年配の騎士。たたき上げだろうなとわかる苦労人の雰囲気をしており、先ほどの異邦人達を厳しく指導し教育をしている。教育しても全く聞いていなかったけどね。
彼自身はスペル様が任せてもいいと考えるくらいには優秀なのだと思う。
「さてと、クレイン。ひさしぶりだね、元気ではなさそうだね~」
「えっと、そうですかね?」
スペル様の言葉に、少し驚く。元気ではないのだろうか。
レウスを見ると苦笑しつつ、頷いている。そんなにひどい顔をしているつもりはないのだけど……強行軍とはいえ、休憩もしっかりとっている。
レウスも無理ない範囲のため、疲れなどは見えないのに、私は疲れているということなのかな。
「うん。だいぶね。それで、手紙の件だけど。君、いつ、ヴィジェア様と知り合ったの?」
「師匠のお見舞いに来たのが……2か月くらい前ですかね。今回は、師匠の弔問に来ていたので」
「ふ~ん。じゃあ、これは本当の話なんだね?」
「ラズ様の手紙については内容聞いてますけど、宰相様のは知らないのでなんとも?」
「クヴェレの力を借りたい。王都をクヴェレの軍で囲んでほしいって」
「なんですと!? 王都を!?」
事情を知らないデイルさんに睨まれた。普通に反逆行為だからね。
いや、これから国王に反逆するために力を貸してほしいとお願いにきているので、忠誠心があるなら殺される可能性もあるのだけど……。
スペル様がラズ様の手紙と前宰相の手紙を副官に渡し、内容を確認させる。少し、私への態度が和らいだけど、それでも厳しい。
「宰相位を奪われたヴィジェア様の暴走でないことの証左が欲しいとこだね。ラズも状況判断が甘い。もう一声、何か欲しいかな」
「今のところ、ヴィジェア様しか王都の現状を知りません。兄さんが殺されたという情報もあって、こちらも困っていまして……少なくとも、王弟殿下とセレスタイト殿下、カイア様は捕らわれているのは間違いないです。私は師匠が死んだ原因である王家を許す気ないんですけど」
師匠が死んだ原因と言う言葉にスペル様も、副官二人も反応を返した。原因が王家にあるという理由もしっかりと説明すると副官は疲れた顔をしている。
ヴィジェア様が私情で暴走しているのは事実だけど、他に何かあるとしたら……。
「……あと、知ってる事といえば、軟禁している貴族を一室に数十人をまとめて閉じ込めて、一部が体調を崩したとか? 毒とかも疑われていて、混乱してると聞いてますよ」
「誰情報?」
「懇意にしている情報屋さんです」
ネビアさんからの情報で、倒れた貴族の名前を伝える。「無差別に……」とか「終わりですな」と呟いてるけど……無差別も何も、毒じゃない可能性が高い。ただ、傍目にそれはわからないから、人質を無差別に毒を盛ったように見えている。
簡単に体が異常をきたす可能性については説明をして、毒でないことも説明したけどね。
「うん。どちらにしろ、終わってるね~」
それは王家のことだろうか……呪いの件もだけど、終わってるよ。どれだけ晩節を汚したいのだろうと思っている。ただ、王家は下り坂を駆け落ちるように、悪い方に色々重なってるような気はする。
「それじゃあ、この連名の貴族達の一斉蜂起は? どうやって取り付けたの?」
「……師匠の顧客だった貴族ですね。当主本人でなくて先代の方たちばかりですけど、弔問に来ていました。そこをラズ様と前宰相で説得したらしいです。人質取られていたり、当主が王都で捕まっていて動けない人もいたんですけどね」
副官の二人は頭を抑えて、唸っている。この軍を実質指揮している将軍。どちらも王家が保有する軍を束ねる将軍らしい。この状態だけど、王都の部下に命令すれば、3分の1くらいは言うことを聞く可能性があるとか。
彼らも、王都の現状を記した手紙の内容だけでなく、私の話を真剣に聞いてくれた。
「事実だとしたら、王弟殿下が捕らわれて10日……他家が動く前にクヴェレが抑えたいところではあるね。長引かせれば、それだけ国力低下につながる」
「ナーガ君がシュトルツ様に書状を渡しに行き、準備してくれています……一応、一筆もらえます?」
「う~ん。こっちから鳥を飛ばすから、クレイン、3日ほど付き合ってくれない?」
「……ここが片付いたら、一緒に王都へ行くという意味であってます?」
「うん、よろしく」
まあ、それくらいは予想範囲内かな。
どうせ、ラズ様達は団体での移動だから、王都まで出発から10日近くかかる。おそらく、3日ほど付き合っても間に合うだろう。
スペル様がここに残り、アディ将軍が異邦人を15人くらい連れて、戦線を離脱することになった。どうやら、連れてきた中でもまだ真っ当だった人達らしい。彼らは、王都に戻り、騎士達の寝返り工作をするらしい。
「なんか、話が大きくなり過ぎて、俺、ついていけないかも」
「レウス……気持ちはわかる」
すでに、反乱軍の中核がラズ様とスペル様で確定したからね。これ、失敗をすると大変になるというのは、歴史を知っていればわかるんだけど……王家のやらかし大きいから、失敗するとも思えないというか……すでに民心離れすぎてるよね。




