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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第五章

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202/219

5-33.帝国へ


 仲間内での話し合い後、再び、ラズ様達と打ち合せをした。


 王都をクヴェレ家の軍が包囲した状態で、少人数で王宮を制圧が望ましいということで意見は一致。

 それだけではなく、各地方でも動くことになったらしい。


 師匠の弔問客の貴族にも声をかけ、貴族達が領地で同時に蜂起することも決めたらしい。各地方での蜂起は、王都への脅しであり、実際に進軍して王都まで行くということはない。


 クヴェレが動くなら、王都の包囲がすぐに可能。


 食料不足が懸念されている時期に軍事行動することには、貴族も難色を示したらしいが、そこは前宰相と王弟の3男……この短時間でしっかりと説き伏せたらしい。


 まだ、クヴェレ家が動くと決定していないのだけど。あの家なら断らないことを前提に動いている。


 宰相は孫娘を呪った魔導士の生家……貴族を攻め込むことを決めている。

 そこを攻めている間に、王都は終結するという見込み。結果は見えている。蜂起だけして、点数を稼いだらどうかと話したらしい。


 人質についても、一斉蜂起なら殺せないだろう。流石に、やり過ぎれば王都にいる他貴族も黙っていないとしたそうだ。


 実際、ラズ様も結構厳しいルートではある。

 隣のヴァルト伯爵家の領地を通過して、さらに南の子爵家も国王派……次にクヴェレの領地を通って、もう一つ、伯爵家を通過した上で王都だからね。


 大河を渡って、穏健な川下の伯爵家を脅して、領地通過させてもらった方が早い。ちょうど使者はいるしね。


「早さがものを言いますからな。クヴェレを動かすのが確かに効率的……いつ、動けますかな?」

「流石に、全く動員せずに父や兄を救出という訳にはいかないからね。キュアノエイデスに行って、騎士団を一連隊を借りてクヴェレに向かう。伝言役は先に向かってくれる?」

「……ああ」


 ラズ様の確認に、私とナーガ君が頷く。不在についても、人員を増加してあるからなんとかなるらしい。


「……シマオウで向かってもいいか?」

「うん? ワイバーンを使わないってこと?」


 ナーガ君がシマオウでの移動を提案してきた。空からのが早いけど、スペル様と連絡取れるまでは準備と考えればシマオウでも十分早い。


「……ああ。レウスと1匹ずつ使え」

「でも、シマオウ使うとこっち側の戦力さらに厳しくない?」

「……ティガがタンクで、他が後衛になるが……チリやコウギョクは接近タイプだ……」

「……こちらの意図を察して動けるほどとなるとシマオウでないと厳しいよ?」


 シマオウが優秀。もちろん、シマオウに従っている他の仔達だって、言うことを聞いてくれるけど……それでも、ナーガ君に比べると他のメンバーに対するやる気が違うというか……。


「……スペルを乗せて移動する可能性が出てくるだろ」


 確かに、その可能性は考えていたけど……ナーガ君はシマオウがいいらしい。

 具体的な理由までは言わないけど、シマオウを使うと決めているっぽい。


「……ティガに許可を取る」

「わかった。それなら、任せるよ」


 ここの防衛を担当するティガさんが許可をするのであれば、私も文句はない。

 ただ、レオニスさんもラズ様についていくので、流石に心配になる。一応、ギルド長にだけ伝えておこうかな。




 翌朝。

 私とレウスがそれぞれワイバーンに乗って出発した。モモはナーガ君に預けた。オリーブの時もだけど、じっとしていられないと困るからね。


「いってきま~す」

「レウス、気をつけろよ」

「わかってる、クロウもティガもね~」

「いってきます」

「……ああ」

「にゃあ~!!」


 ナーガ君に挨拶をして、ワイバーンに乗る。モモが納得していないように鳴いているけど、仕方ない。


「出発!!」


 レウスと空へと旅立った。

 う~ん。結構、怖いかもしれない……。鞍と手綱をしっかり握るとモモを抱えてられないので、置いてきて正解。


「それより、本当にあの貴族のいる場所わかるの?」

「いや、多分ね? 帝国内で探すのは大変ではあるけど……帝都にいた異邦人を追い払う形のはずだから、帝都に向かって……情報聞きつつ探すことになるかな」


 直感さんがピンポイントで見つけられるといいのだけど、そこまでは出来ない。ただ、多少時間かかっても、会えるとは思っている。


「なんかさ、すごいことになってきたじゃん。クレインはどうするつもりなの?」

「王弟殿下のサポートして、さくっと即位してもらう。あとは関わらずにあの地で引き籠りを希望」

「ふ~ん。ねぇ……グラノスさんは?」

「兄さん……多分、生きてる。でも、グラノスという名前を捨てた、かな?」

「ちょっと、わかんないんだけど……」

「貴族としてのメディシーア家は、グラノスが死んだことで滅んだ。そういうこと……生きていないと思わせるほどの何かがあったわけでしょ? 普通に、死ぬようなことなら、直感でわかると思うから……生きてると信じる」


 クロウのは危険の直感が発動したけど、死なないと判断して……あの怪我なわけで。兄さんに何も発動してなかったから、絶対に安全とは言えないけど。


 死んだなんて考えたくない。それは、みんなそうだと思う。目の当たりにしたクロウだけは……落ち込みがひどかった。


「……兄さんが死んだことで、貴族としての家が残らない」

「クレインがいるじゃん?」

「私はラズ様の専属という形を取ってる。貴族として独立するなら、私がラズ様と手を切らないといけないけど……面倒事になるのがわかってるので、ラズ様を盾に出来る立場を手放す気はない」

「そんなもん?」

「うん。だって、自分の身一つで、異邦人嫌いの海千山千の貴族達にボディブロー攻撃を受け続けることになる。笑顔で躱し続けるしかないんだよ? 嫌じゃない?」

「嫌だけどやらないとなんじゃないの?」

「そのための盾がラズ様なんだよ」


 仕事なら嫌でもやらないといけない。それが大人だ。

 でも、仕事は選べる。わざわざ苦労することがわかっている貴族という職に就く気はない。それだけのはず……そのための犠牲が兄・グラノス。


 兄の死を嘆き、貴族にならないと、用意された舞台で泣けばいい……胸の内がずきずきと痛む。望んでいなかったけど、望んでいた……私のために用意された道。


「王様替わって、過ごしやすくなるなら俺も頑張るよ」

「……そうだね」


 表立った功績は無くても、確かな保護が貰えるはず。

 スペル様も甘くない人だけど、ここで動かないという選択はしないはずなので、見つけ出せばなんとかなる。



 レウスと話をしつつ、のんびりと山脈を越えて帝国へ。

 2日後。帝都と思われる場所についた。


 市街地戦もあったのか、結構、ぼろぼろになっている。ただ、ちらほらと人影もあり、話を聞くと異邦人が占拠した後も捕まって、雑用とかをさせられていたらしい。解放されたが、行く場所も無く、ここに留まっている人も多い。


 情報が欲しいと言ったときに、立候補してきたおじさんは知りたいことをきちんと教えてくれた。


「異邦人の一部が東に逃げたらしいから、追ってると聞いてるぞ」

「はーい。おっちゃん、ありがとね」

「ぼうず、情報代置いていけよ」

「じゃあ、干し肉と野菜や芋とかでどうです?」

「嬢ちゃん、話がわかるな。金より食料ってのは正しい……だがな」

「はいはい。ボアみたいなおいしい肉じゃないんで、量で我慢してくださいね」


 何だかんだと、戦利品の魔物の肉は干したり燻製したりと加工して大量に保存している。春のスタンピードで手に入れた魚の方を食べることを優先した結果、今は干し肉の常備が多い。


 なんだかんだ、食料不足に備えているわけで……王都に隠れている人達に1週間分を分け与えるくらいは可能だったりする。


「いいのか、この量……」

「代わりにこちらからも依頼があります」

「なんだ?」

「死体を火葬して、埋葬してください」

「どういうことだ?」

「……放置されている死体を集め、焼いて、火葬をした方がいいです。このままだと疫病が発生します」


 放棄されている死体を何とかしないと、すでに悪臭を放ち始めている。夏のこの時期は腐りやすいので、さっさとなんとかしないと二次被害が大きい。


「死体を焼くなど……」

「もう、腐り始めている死体を土に埋めるとなると、疫病に感染する可能性が高いと思います。薬師の観点で言わせていただきますが……この地に留まるなら、死体の処理が必須。そうでない場合はすぐにここを離れた方がいいと思います……処理する場合も口と鼻を布で覆ってくださいね」

「……そんなことを嬢ちゃんに言われてもな、あまり信用できんが」

「クレイン・メディシーアと言います。王国の薬師です……早く処理しないと、大変なことになりますよ?」

「メディシーア!? ……そうか。王国はどうだ? 救援などは……」

「そんな余裕はないですよ……帝国の復興を支援できる余裕があるかは不明です」


 帝国内は空から見ても荒地になっているというか……村とか町も被害が大きい。今年の食料不足は目に見えている。人の流出も激しい。復興は大変だし、このままだと疫病も発生するリスクが高すぎる。


 だけど、王国も混乱状態にある。この地ではその噂は広まっていないようだけど、手を差し伸べるのを待っているならやめた方がいい。


「共和国に行っても、奴隷になるくらいなら王国だろうが……」

「無事な領地もありますよね? どちらにしろ、このままでは遅かれ早かれ、死ぬことになります。王国からの救援を期待するくらいなら王国に向かった方がいい」

「……まあな。あんがとよ……しばらく食料はもつから、死体を処理しつつ、どうするか俺らで考える。嬢ちゃん、色々辛いんだろうが、がんばれよ」

「え?」


 大量な食料をもって、どこかに移動するにしても……それなりに大変。

 ただ、ここに残ってもいいことも無さそう。なにせ、半壊……街中でも関係なく魔法を撃って、破壊したのがわかる。どこに死体が埋まってるかもわからないから、見つけた死体を処理したら、さっさと離れるべきだろう。



「どういう意味だろ?」

「……心配してくれんじゃない? 俺もだけど、クレインもあの崩れた街、見てて嫌でしょ? あれ、さ……何も考えてない異邦人の仕業でしょ」

「……うん。魔法で破壊したんだと思うよ。制御の訓練はしているにしても……実際に使う機会とかはなかったはずだし」


 実戦経験がないから、力加減がわからなかったのか……どうせ、自分たちの土地ではないから関係ないのか。


 人が住む都市としては、壊滅的な被害を受けている。スラムとしても厳しい……死体がどれくらいあるのはわからないけど。今残る人達は、行く当てがないからだろう。作り直すより他の地を探した方が早い。病の危険も減る。


 食料を上手く使ってくれればいいと思うのは偽善だろうけど……何もしない選択は出来なかった。

 

「行こう……スペル様は北方向に向かった」

「うん。なんかさ……王国がああならないといいよね」

「……そうだね」


 帝国が復興するまでの道は厳しそうだ。


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