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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第五章

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5―31.火葬


 師匠が亡くなった5日後。

 クロウが帰ってきた。


 疲労困憊で、帰ってきた途端に倒れるように眠ってしまった。

 クロウを起こしてでも何があったかを聞きたいが、それ以上にここまで悲惨なクロウの状態にも驚いた。


 師匠の弔いのためにこの地を訪れている神父様に頼んで、治す前の傷の記録を残す。

 その後、全身の打撲や青あざ、肋骨とかも骨折していたので、魔法で丁寧に治す。


 乗せていたシマオウも痩せていて、満足に食事もせずに走ってきたのではないかと思う。


 シマオウは食事をした後、いつもなら牧場の方で眠るのに、兄さんが気に入っていた作業場のソファーを占拠して眠っている。


 何か思うところがあるのだろう。いつもは作業場にはモモも含め、全ての魔物は立ち入り禁止にしているけど、今日だけは許した。

 モモもシマオウに寄り添っているように見える。



 他のメンバーもみんな沈んでいる。レウスはずっとクロウについて、看病をしている。

 師匠のこともあって、落ち込んでいるナーガ君を支えるためにアルス君も一緒にいてくれることが多い。


 それぞれ、いつもよりも言葉数が少なく、やるべきことに追われている。


 ティガさんは私と一緒に、師匠への弔問客の対応をしている。マーレからも沢山の冒険者や客などが訪れて、師匠との別れを惜しんでいる。


 貴族からは手紙などで師匠の死に対する問いあわせもあり、ラズ様とも確認したあと、大々的に死んだ経緯を含めて知らせている。



 夜、来客の対応が終わって、一息ついてお茶をいれているところにティガさんが問う。


「ほんとうに、彼は生きていると思うかな?」

「はい……生きてると思います」


 兄さんの生死。伝えてきたのは王家側であり、王弟殿下は掴まっていて連絡がとれない。

 クロウはまだ目を覚まさない。


「王都にて王弟殿下達が軟禁されている状況です。おそらく、巻き込まれたんです。それで、情報が錯そうしているのか……私をおびき寄せるためなのか、死亡と言っているのだと……」

「なるほどね……王都にいくのかな?」

「はい。……若者組が精神的ショックが大きいので、ケアが必要です。師匠のこともあるので、明日が終わってからですが……お任せしても?」

「彼らだけではないけどね……彼がいない場では、きみが要だ。だけど……放置できる問題でもないことは理解しているよ」


 師匠の死。

 続いて、伝聞ではあるけど兄さんの死。

 ズタボロのクロウの帰還。


 みんなが動揺している。


 心の傷はそう簡単に消えるものではない。

 心が落ち着くまで……。ゆっくりと平穏に過ごすことができればいいのだけど、現状がそれを許さない。


 王都に呼び出されているのは私だけなので、一人で行動するべきだろう。


「クロウに詳細を聞いてからになりますが、私はラズ様と王都に向かうことになります。ラズ様も父親たちが捕らわれているままではいられない」

「きみは大丈夫なのかな?」

「ティガさんも穏やかではないでしょう?」

「……無理はしないと約束してくれないかな。グラノスがいない中で、きみまで倒れることはさせられない。一人での行動は避けてほしい」

「大丈夫です」


 ラズ様と話し合いの場を設ける。そして、可能であれば一緒に王都に行くのがいいだろう。

 流石に、一人がまずいことくらいは理解している。


「……そういうことにしておくよ。誰を連れて行くのかな?」

「……ここが危険な可能性もあるため、置いていきます。タイミング次第では、クロウを攫ったように、攫いに来る可能性もあるので……いないときの戦力は減らしません」

「それはだれも納得をしないと思うけどね。きみ側に戦力をつけてでも、事を収めるのも手ではないかな」

「おそらく、ラズ様の護衛としてレオニスさんが借り出されます。同じく、私も彼の護衛として参加する形になるかと……それなら、私側は安心ですよね?」



 王弟殿下の軍は、ラズ様の部下ではないからね。ラズ様の直近の部下で戦闘能力が高い人を連れて行くとなると……レオニスさん、フォルさんと私くらいだろう。


「きみがおとなしくレオニス殿とずっと一緒にいるなら心配はしないけどね」

「さすがに一人での行動はしないですよ。レオニスさんと離れる場合には、他の人を連れて行動します」

「わかったよ……もしもの場合に備え、罠などを門の近くに用意しても?」

「はい。任せます……危険な場合はここを放棄して逃げてください」


 戦闘能力はあるけれど、対人戦はさせられない。

 そんな覚悟を若者組にさせないためには、逃げることも手段の一つ。


 だいたい、相手側は人と戦うための訓練をしているのだから、こちらが不利。対人戦を戸惑わずに指揮できるのは……兄さんしかいない。


 不在の状態なら、逃げを選択した方が無難だ。



「方針は理解したよ。それと、明日の火葬は、弔問客を中にいれていいのかな?」

「……師匠のために集まった人達ですから。明日だけは、中心部にて、師匠を火葬するのを皆で……。以降は、関係者以外は立ち入り禁止します」


 師匠の死を悼む人達には、最後を共にする機会くらいは提供したい。

 こちらの世界の場合、普通は教会で行う……土葬ではなく火葬することもだが、本来とは違うことをするため、批判もある。


 それでも、神父様にも相談して、火葬を取り計らってもらうことになった。

 土壌汚染とかを避け、魔物をおびき寄せることになっても困るという説明をすると、意外とあっさりと許可が出た。



 クロウはその日の夜遅くに目覚め、師匠とは無言の再会をしていた。

 クロウの目には涙が浮かんでいたこともあり、数時間は一人にさせて、明日の準備をした。


 その後、王都で何があったかの詳細を教えてくれた。兄さんに逃がされたこと。少なくとも、兄さんが重症を負ったのを見ているという。


 ただ、中途半端に謁見の間に呼ばれ、逃げたこともあり、詳しい情報は全然ないということだった。


 レウスの「生きてるよね?」という問いに「……わからん」と返しているクロウは、多分、生存を信じていない。それほど、ショックを受けている。


「……すまん」

「ううん。私が甘く見ていたから……」


 兄さんも何か考えがあるようだったから、甘く見ていた。

 死なないだろうと安易にクロウに留守番を任せた結果、クロウは重症を負い、兄さんが死に、みんながショックを受けている。


「クロウ……相手は騎士だったんだよね?」

「ああ。謁見の間で、武器を装備することが許された騎士だ」

「……そう」


 兄さんの実力なら負けないと思う。

 けれど、クロウを逃がしてすぐに刺されたというなら……何かあったかもしれない。



「クロウは休んで? これ以上は、負担をかけないようにするから」

「いや……何かしていれば気がまぎれる」

「怪我も酷かったから、休んだ方がいい。明日……というか、数時間後には来客で忙しくなるから頼むことも多いよ」

「……覚えていることだけでもまとめておく。必要になるはずだ」


 師匠の件に、兄さんの件で、クロウがだいぶ参っている。

 それでも王都で見聞きした内容、自分を訪ねてきた貴族のことなどを纏めるというので、無理はしないように言って、彼の判断に任せた。




 澄み切った青い空の下で、師匠を火葬した。

 近隣だけでなく、他の地域からも師匠のためにと集まった人は多く、300人とか500人とか……数え切れていない。


 町の人が多いけど、貴族とかもいて、揉めそうになった。


 ただ、冒険者の多くが私の味方であったことや、貴族を抑えてくれる人がいた。


「薬師であり、伝染病などの知識は他家の追随を許さないメディシーア家の決定を他家が口出せるものではない。これ以上の妨害をするのであれば、我が家としても考えないといけないようだ」


 貴族を諫めてくれたのは前宰相ヴィジェア様。

 この前も来ていたけど、こんな頻繁に敵対していた貴族の領地の奥深くに来ていていいのかなとは思った。


 ただ、彼のおかげで貴族の問題もなくなり、火葬を行った。


 しかし、クロウが王都で世話になったと言っていたので、厄介事な感じがする。

 シマオウと同様の速さでここまで来ることができるか? ……馬車では無理だろう。何か、別の手段があるにしてもおかしい。


 混乱の中で、王都から抜け出して、一番最初に来るのがここ? いや、目的はラズ様かもしれない。大義名分として、一番大きいのはラズ様だ。

 火葬のあとで、きちんと考えないといけないようだ。




「皆さま、師匠と最後の別れを……」


 沢山の花が添えられた師匠の棺に蓋をして、師匠を火葬した。


 火葬後は、日本の風習で弔い、骨壺に入れて、49日までは保管することにした。

 今回弔問できなかった人達が求める可能性もある。中に入れないよう、迎賓館の方にて保管することになった。


 かつて、師匠の奴隷だったことがあるという人を冒険者ギルド長から紹介され、警備は任せてほしいというのでお任せすることにした。


「嬢ちゃん。儂が引退したら、ここに住んでも良いかのう?」

「まあ、すぐは厳しいと思いますけど、いいですよ」


 この狸爺が引退するのはいつになるかわからないけど、最後の余生は師匠の側で過ごしたいというなら、好きにすればいいと思う。

 微妙に世話にはなっているので、此処に住みたいというなら他の人達を説得するくらいはしてもいい。


「しばらくは大工連中も入れません。今回、そこで問題が起きているので」

「そうじゃな」

「家を用意するにしても、1,2年後になると思っていてください」

「無理はしないようにな」

「……はい」


 以前からの知り合いみんなに言われているけど、無理をしているわけではなく……ただ、やることが多いだけなのだけど。


 みんなが心配をして、頭をぽんぽんするのは止めてほしい。ショックは受けているけど……大丈夫のつもりなんだけどな。


 お墓については、出来れば門の外に作ってほしいとちらほら話が出ている。


 いつでもお参りできるようにとのことだけど……できれば、師匠が気に入っていた西側の薬草採取ができるあたりに作ろうかなと考えていたので保留にする。


 ゆっくりと師匠を見送るためにも、まずは現状を打破しないといけない。

 やるべきことから……片付けよう。


 

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― 新着の感想 ―
分骨という風習もありますよ〜 悲しいことや大変なことがいっぱいですねえ。
大工の棟梁?は信用丸潰れだろうね。 まぁだからと言って大工一人ずつの信用度なんてその程度だろうね。 個々人の信用なんてそいつの生涯賃金を超える金を積んで転がらないほうが珍しいだろ。 大工の生涯賃金を超…
大工連中の対応が気になるところ。信用とか面子とか貴族以上に厳しいと思うんだけど
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