5-26.西ルート(3)
ドラゴン達に祭壇へ行くように促される。
すでに他が起動させていて、力……ポイントが捧げられている。詳細は確認できないけど、すでに900P捧げられていて、残りが100P。
「う~ん。どうやって、ポイント計算したんだろう?」
私の種族値が30P。祝福がレベル4で、50P。あと20Pか。
これなら、ナーガ君のユニークを捧げる必要はない。聖魔法を捧げようかな……あまりポイントは大きくないけど、聖魔法が高いのも目をつけられるので、減らしてもいい。
種族値と祝福のアビリティを捧げて、後のポイントを考えているとナーガ君も祭壇に来てしまった。
「……足りないなら俺が捧げる約束だ」
「いや、まって……勿体ないから」
「……他の奴らも捧げたはずだ……グラノスとかな」
確かに、兄さんは捧げてる気はする。
多分、ルナさんとかルストさんも、無理して捧げてくれてるんじゃないかな。
普通に250ずつにすればいいのを、300ずつ入れてくれている。
「……無用ダ。捧げずともなんとかしよウ」
「え?」
ナーガ君が狭間に近づくのを止めようとするが、ふわっとナーガ君の体から何か出てきた。
「……世話になっタ。もっと、ドラゴンが犠牲なると思っていタが吾だけですみそうダ……ありがとウ。宿主とともに、息災でナ」
透明な大きなドラゴンがナーガ君の体から出てきた。魂の状態だよね? どうするのかと思ったけど、祭壇の中心に吸い込まれていく。
その姿に水のドラゴン達がざわついているが、皆、光焔に向かって頭を下げていた。
「……光焔。こちらこそ、ありがとう」
どうやら、魂でも20Pの価値があるらしい。祭壇を確認すると1000Pを満たしている。いや、なんか余ってるような感じもするけど、確認できない。
もう消えてしまったドラゴンにお礼を言う。
今まで邪険に扱ってしまったけど、悪い奴ではなかったはず。
「……くそっ、あいつ……」
「ナーガ君?」
「……消えた。何も言わず……」
「でも、どういうことだったんだろう?」
「魂だけでも、少しでも力になりたかっタのだと……ドラゴンとしても、力を貸せタのは良い結果かと」
水の長の言葉は、光焔らしいと続いた。それなりに親しかったようだ。
ドラゴンが何もしないのも、矜持に関わるらしく、何故か感謝された。
う~ん。
なんかよくわからないけど……もしかしたら、光焔が足りないことにならないと断言していたのは、ドラゴンに力を借りるつもりだったかな。
ただ、それ以上に、みんなが力を捧げてくれたらしい。
釈然としない。ナーガ君も納得はしていないように見える。だけど、すでに消えてしまった魂を呼び戻せない。
「封じようか……このままでも意味ないからね」
「……ああ」
これでポイントを捧げれば終わり……なんだけど、なんか嫌な感じがする。
「……どうした?」
「これから、あの亀裂を封じるけど……ナーガ君。何か起きても、ここから私が降りないように守ってくれる?」
「……ああ」
ここから降りてはいけないと直感が告げている。危険は無さそうだけど、何かある。
捧げた力を狭間に送るために、決定の操作をすると、SPとMPが吸われるのを感じた。
祭壇を確認すると、『作業を開始します。作業中はSPとMPを捧げ続けてください。残り時間・72時間00分』と記載されている。
このシステム、どうやって作られたんだろう。
現地の人だけでは難しそうだけど、アーティファクトとかも使われているから、異邦人が作るのも無理そうなんだよね。
「3日、拘束か……ナーガくっ……」
ナーガ君の方に向き直る瞬間、狭間が光って、白い光が私の体に纏わりついた。
「クレイン!!」
「……だい…………ぶ……」
ナーガ君が私を呼ぶ声が遠くに聞こえ、気付いたら……3度目の白と黒の世界が広がっていた。
「はぁ……邪魔するの? 前にここを塞ぐって伝えたと思うけど」
〔どうしても、塞ぎたいのですか? あなたのようにあちらでは生きることが辛い者が新しく生きるチャンスを与えているのですよ〕
「……この世界に来て、良かったと思っているよ。私はね……あちらではうまく生きることが無理だったから……でも、この世界の人達に迷惑をかけていい訳じゃないよね?」
被害を受けているのはこの世界の人達。異邦人に対する上層部の考えは良くない。民間でもいい印象は持たれていない。
今回は大勢で迷惑をかけたため、さらに悪感情が広がっている。
この世界の人達は異邦人を望んでいない。
ここを塞ぐだけで、今後はこの世界に異邦人が現れるのを減らせる。
完全ではないにしても……この世界の人達にとってはいいことだろう。
だが、目の前にいる神には痛手らしい。
〔なぜ、そう思うのですか〕
「あなたは黒の方が力が強いと言ってたけど、その理由、定期的に異邦人を召喚していたからでしょ? 黒が召喚したのは、数千年ぶり……今回と前回の大量に現れたとき。今まで召喚していたのはあなただよね?」
私の問いには答えない。でも、確定だろう。
不思議なのは、どちらが召喚したとしても、自分の眷属だけとか、能力を絞ることは出来ないらしい。それぞれが選んだ中で、眷属がいれば従わせようとしている。
ただ、今回は白の神は、自分を称えるはずの聖教国で眷属を失っているので、私に目をつけているようだけど……従う気はない。
「どちらにしても、異邦人がこの世界にいい影響は与えていない。だいたい、こちらの世界にきた異邦人の多くはすでに亡くなってる。こちらの世界で生きるチャンスを活かせる人はほとんどいない」
まるで、私たちのためのように言っているけれど、本当に救われた人はどれくらいいるのだろうか。
呼び出された私達も、この世界の人達も……わずかに救われた人がいても、大多数が被害を受けている。
〔それは、黒が召喚した者だからでしょう〕
「それなら、なんでこの世界の人達から恨まれてるの? 人の寿命を考えれば、100年も経てば記憶から消える。なのに、恨まれてる。ずっと昔から異邦人がやらかし続けたから、お偉いさんが記録として残して、対処させている……ずっと、困った存在だという認識が消えなかったから……あなたのせいで」
この祭壇を見てから気になったことがある。
多分、仕組みは異邦人が得た神の力を還元するために作られたもの。特に白と黒の力を……。
でも、数人で封じることは出来ない。ポイントがそのまま反映されていないから、この世界で得た力を捧げても、普通なら足りない。
数十年で現れると言われる異邦人は、4人くらいだと記録が残っている。
今回、黒3人、白1人、さらに仲間がいてもぎりぎりだったことを考えれば、4人では狭間を塞ぐには得た力も含めてすべて捧げても足りない。
そのことをこの神は理解している。だから、ドラゴン達は狭間の前にいるだけと評した。何もできないことがわかっていたから。
〔この世界に馴染む努力が足りなかっただけでしょう〕
「そうだね。それも有るとは思う……でも、そんなことは関係ないんだ。私はこの世界で生きたいと思う。ここが新しい居場所なんだ……だからさ、邪魔なの」
白には白の、黒には黒の思惑がある。
この狭間を黒が妨害してこなかったのは、黒にとっても利益があるから……白のこの世界への干渉を完全でなくても減らせる。
そして、自分の手駒の方が多く残る。
まあ、種族も手放したから、ルナさんやルストさんは力を失っても……まだ、他にいるかもしれない。
全てが解決するわけでなくても……やっておいて損はない。
「私には、あなたのせいで再び現れる異邦人は邪魔でしかない。この狭間を放置して、ドラゴンに襲われるという状況も嫌。私は自分の我儘で、この狭間を塞いで、次を無くす。ドラゴン達には恩が売れ、為政者たちからも感謝される」
私にはメリットしかない。
仲間が協力してくれたおかげで、私が失うものはほとんどなかった。だから、ここでやめるはずがない。
それに、次が無いとわかれば……少しは異邦人の価値が上がる。今、生きている異邦人達で……問題がない人達の希少価値ができる。
〔あなただって、私の加護を失いますよ〕
「いらない。今、成長率が多少下がったところで、問題は無い。むしろ、あなたに良い様に使われる可能性がなくなる」
〔本当に?〕
「いらない」
〔決意は固いようですね。あなたのせいで、この世界が滅びるとしても?〕
世界が滅びる。
それは、困るとは思う。
ただ、本当に滅ぼせるほど干渉するには……眷属が必要だったのだと思う。
そして、この神が滅ぼしたいのは世界ではない気がする。
「……滅びるのは世界じゃないでしょ。伝承では種族同士の争いが絶えなかったらしいね」
〔……ええ。だから、住む土地を分けました。それでも……人は争い、奪うために侵略する〕
「異邦人という異物がいれば、差別はあっても、亜人種を滅ぼすことはしなかった……2000年近く、亜人種は彼らの繁栄を享受できた。だけど……人は自分にないものを恐れる。異邦人がいなくなった後の矛先……それが彼らでないとは保障できない」
自分と違う他者を差別し、それが争いを起こす。
より脅威な存在があれば、矛先はそちらに向かうのだろう。
実際、獣王国とか亜人の国との大規模な戦争は起きていないことは確認している。ナーガ君達が獣王国に行った時も遺恨などはなかったと聞いているから……一定の効果はあるのだと思う。
余所者を利用して、この世界の住人の結束を高める。人より寿命が長い亜人側が敵意がないくらいには関係は良好。
帝国では奴隷にされるからこそ、近付かないという不文律も有り、距離も保てている。
ハーフとかほとんどいないくらいの距離感だけど、そもそもできにくいとかもあるのだろう。
適切な距離感が、王国や共和国とは保てていて、帝国の領土はその両国をなんとかしないと亜人種の国には接触できない。
互いに、節度ある距離感で、しっかりと繁栄している。
この関係が、今後は変化する可能性はある。でも、それもこの世界の人達が考えることであって、神がしゃしゃり出てくることではない。
「争いが起きないように努力はしてもらうようにきちんと伝える……まあ、長い時間が経てば、争いは起こると思うけど……少なくとも、今は帝国が復興しないといけない状態だし、しばらくは争いもないと思うよ」
〔前回、無理にでもあなたの体を奪っておくべきでした〕
それはどうかな。
承諾しない限り、奪えなかったと思うけど。生命力は低下していたから、出来なくもなかったのか。
眷属なら体を奪えるというなら、聖教国に降り立った聖女達を見殺しにしていないだろう。条件が整わないと無理なはず。
〔次はありません。滅ばぬように努力をするよう伝えなさい……〕
「為政者がすることだけどね……出来る限りは伝えておくよ。戦争が起きると、神が使徒を送り込んで世界滅ぼす選択をするとかね」
他所から連れてきた人が死んでいっても、この世界の人が死なないならいいということなのか……人よりも亜人が大切だからなのか。
望んでいることはわからないけれど。
伝えるだけ、伝える。あとの対処は、為政者の仕事だ。
〔……あなたがいる限りは、見守りましょう〕
「うん? ありがとう?」
気まぐれなのかは知らないけど、私が生きている間は安泰ということなのか……その間に整備しろということなのか。
とりあえず、王弟殿下に相談はしておこう。王国はそれほど差別ない国なので、それをスタンダードにできるようにするといいのかな。
まあ、できる事はしようと思う。




