5-25.南ルート 〈ルスト視点〉
〈ルスト視点〉
ぼくとレウスとティガがワイバーンに乗って出発して、3日。
「ルスト! 落ちないようにね」
「うん、だいじょうぶだよ」
「暇なのはわかるけど、あんまり乗り出して下を見てると落ちるよ」
少し風が変わったなと思って下を見たら、辺り一面が砂。目印になるようなオアシスもない。
何かないかなと身を乗り出していたら、一緒にワイバーンに乗っているレウスに落ちないように注意をされた。
今回の旅では、レウスが一応、仮のご主人様扱いになるらしい。
レウスは借金奴隷だったけど、お金を返した。ティガも同じようにこの機会に借金を返したらしいので、ティガでも問題はないのだけど、ぼくがレウスを希望した。深い意味はない。
奴隷から平民に戻るのは、ぼくの場合は借金ではなく犯罪奴隷だから、簡単にはできないらしい。
クロウについては、今はまだ奴隷。グラノスと何かしていたみたいだけど、考えがあるのか、二人と一緒にお金を返すことはしなかった。
彼は十分すぎるほどお金を持っているけどね。
「なんか面白そうなものあった? 休憩がてら寄ってく?」
「急に気候が変わったなって思っただけだよ」
「ね、急に乾いた風で、砂漠になったよね。共和国入ったかな。でもさ、まだ結構遠そう」
「楽しい?」
「ルストは楽しくない? こんなこと、普通じゃできない体験じゃん!」
わくわくした表情のレウスに「そうだね」と答えながら、ティガを見ると、あっちも嬉しそうに笑っていた。穏やかな旅だった。
ドラゴンに挑むかもしれない……ぼくの中にいる黒の神が妨害してくる可能性だってある。なのに、ぼくも楽しくなってきた。
こんな旅ができるとは、ずっと思わなかった。
ぼくがしてきたことを知れば、笑っているレウスもティガも距離を取るかもしれないけど……今だけでも楽しんでもいいかなと思う。
この世界に来てから、ずっと、頭の中でぼくに話しかけてくる存在がいた。
好き勝手に言っているナニカをどうにかしようという気持ちは湧かなかった。別にどうでもいいと思っていたから。
勝手に喋りながら、この世界の知識を教えてくれたし、やりたくないことは無視していればよかった。
嫌な気分になることも度々口にして、感情を逆なでるようなことを言ってくるのがウザかった。
いなくなってくれと思っても、勝手にぼくの頭に住み着いているのでどうすることもできなかった。だから、気にすることを止めた。
それが間違いだったと気付いたのは、帝国で、反乱が起きてしまったときだった。
殴られて、かっとなった瞬間にナニカに体を奪われていた。
自由に動かない体の中で見た光景は地獄絵図だった。
ぼくらを管理していた騎士達を殺して、笑っている顔見知りの人達。圧政から解き放たれたと……邪魔をする者は同じ仲間でも殺していく。
ぼくが操ったわけじゃない。ただ、ナニカが感情が爆発するように仕向けた。結果が、大惨事だった。
呆然としているぼくを引きずるようにその場から離れさせたのはレウスだった。
彼らも感情が昂っていたけど、それでも冷静に対処しようとしていた。いや、クロウが「落ち着け」と何度もレウスに言っていたから、冷静だったのはクロウとティガだけかもしれない。
クロウとティガも一緒にその場から逃げ出した後、これからどうしようかと考えた。
体は自由になったけど、ぼくの頭の中には相変わらずうるさいナニカがいて、楽しそうにしている。
次は助けてくれた彼らにも危害を加えるかもしれない。
それなら、離れよう。
そう思って、彼らには王国側に逃れるように伝えて、別れた。彼らが少しでも暮らしやすくなるならと思って、亜人に寛容な国は少ないから王国がいいともアドバイスをした。
そのまま、一人で旅をして知ったのは、頭の中にいるナニカはぼくの負の感情を煽り、体を奪えること。恐怖や悲しみ、怒りなどの感情を出すと体を奪われる。
そして、他の人達の感情を操ろうとする。
ぼくが危険だと、討伐部隊を組まれて、100人以上の騎士達に囲まれたときに恐怖を感じたときも、体を奪われて、騎士達を同士討ちさせて全滅する状況を目の前で見ることになった。
それからは感情を出さないようにと気を付けて放浪した。それでも、ぼくは帝国ではお尋ね者になってしまい、どうしようもないため王国へと逃げ延びた。
王国では、人目を避けつつ、たまに女の人にお願いして、食料を入手したりとふらふらしていた。
そんなときに、ナニカが漏らしたのは、同じように指示をしている女の子がいること。現地の人に囚われて、衰弱していることを知った。
ずっと頭の中で五月蠅く騒ぐせいで、人生を狂わされて捕まってしまったのなら、助けたいなと思ってその地に向かった。
そこで再会したのが、ティガ達だった。
会えたことは嬉しかったけど、これからぼくがしようとしていることは、同胞を助ける……脱獄をさせるのは犯罪で、正直、どうしようかなと思っていた。
ティガは親切に「冒険者になって、生活を安定させるといい」と説明をしてくれた。
そのうち、レウスが帰ってきて、ダンジョンを攻略したお祝いになった。
今夜だけは楽しく過ごして、姿を消そうと思っていた。……そこに現れた、白の眷属。
クレインという少女は、ぼくの中のナニカが自分を襲わせているのを知っていて、ナニカを封じてくれた。
重傷を負ったのに、クレインさんはお人好しで、怪我をさせたぼくをそのまま迎え入れてくれた。
彼女を守ろうとするグラノスやナーガ達は警戒をしていても、ぼくを追い出そうとはしなかった。ルナとも出会った。
クレインさんはドラゴンと接触して、狭間を封じたいという思いがあって、そのためではあるようだけど、ぼくもそれは賛成だった。
2,000年以上前に、ナニカと白の神が大量の異邦人をこの世界に召喚した。そして、白の神が抜け駆けをして、この世界に降臨することに成功した。次元の狭間が出来た。
それからは聖教国のように白の神を崇拝する国も出来て、神の力が強まっていく。
狭間を介して、単独で、定期的に異邦人をこの世界に送り込むことも出来るようになった。
黒の神は白の神を妬むようになり、負の感情を司るように変質していった。結果、今は、天使と悪魔という形になったようだ。
ナニカも妬んで、この世界に対しても恨みをもち、消し去りたいと考えていた。
狭間を消せれば、この世界への干渉がし辛くなるのは間違いない。
「……すごいなぁ」
ぼくは流されやすい性格で、はっきりと意思をもって、この世界のために動けるだろうかと考えたら、無理だった。
多少はナニカに話を聞いて知っていたけど、やろうとも思わなかった。
「なに? なにがすごいの?」
「う~ん、クレインさん。何も知らないはずなのに、どうすればいいかだけはわかってるから」
「不思議だよね。どうやって、その情報が繋がるんだろうとか思うけどさ。でも、一生懸命に動いてるのも、自分や仲間のためだから。疑問に思っても付き合ってあげてよ」
「レウスは信頼してるんだね」
「え? だって、ティガやクロウよりはクレインのが人のためになることしてるもん。……誰についていくのが大事か考えたら、一番いいよ」
にこにこと笑っているレウスは年齢よりも若く見える。
大学生だったと聞いたから、ぼくともそんなに離れていないけど、のびのびとこの世界で生きることを楽しんでいる。
前よりも影が無くなったのは、クレインさんのおかげなのかもしれない。
レウスは本当はぼくとティガではなく、他のグループに入りたかっただろうに、それでも文句は一切言わない。
「レウスはいい子だね」
「子ども扱いしないでよ。だいたい、ルストはぽやぽやして、何考えてるかわかりづらいよ!」
「ごめんね?」
レウスの頭を撫でているとティガもこちらに視線をむけてきた。
「ルスト。きみはどうして協力するのかな?」
「ぼくもルナも、扱えない力を捨てたいからかな。人を魅了し、操る力なんて欲しくなかった。ドラゴンの元へ行けば捨てられるでしょ」
「じゃあ、この後はどうするつもりかな?」
「う~ん。出来ること探さないとね。農業のお手伝いもあまり役に立ててないみたいでね。クロウには作業場で転んで、試験管を割ってから、作業場立ち入り禁止って言われたから、出来ること探さないと」
「建築現場でもやらかしていたね」
「冒険者にも向かなそうだよね~。でも、いいんじゃない? やりたいことはこれから探せば?」
レウスはあっけらかんとこれから探せばいいと言う。
たしかに、落ち着いたら、楽しいことを探すのもいいかもしれない。
それが許されるなら……。
「やりたいことが見つかるまで何もしないのは良くないからね。ナーガやスフィノの次に動物には好かれるようだから、そちらを手伝ったらどうかな。手が足りないこともあるようだからね」
「たしかに! ナーガいないと蜂蜜採取するのとか、結構困ってるよね……クレイン、虫、苦手っぽいよね。ルナも避けてるしさ。蜂蜜は欲しがるのに」
「女の子は甘いものに目がないから。そうしようかな」
ぼくでもできることがあるなら、それを手伝うのはいいかもしれない。
ぼぉっとしてると魔物達寄ってくることは多いから、世話をするのもいいかもしれない。
「よかったよ。終わったら、出ていくというんじゃないかと思っていた」
「ティガ?」
「目的があって、マーレスタットに来たみたいだったからね。今回の件が終わったら旅立つんじゃないかと思っていたよ」
ティガが「安心した」と呟いた。たしかに、目的はあったのだけどね。それに気づいてるとは思わなかった。
「うん。事情も知らないけど、できれば助けたいなって思ってたんだけど」
「ルナさんのことかな?」
「う~ん。多分、ぼくらに会わせない、最後の一人だったんじゃないかな。捕らわれてると聞いて、助けようと思って、マーレまできたんだけどね」
最初はルナかなと思っていた。事情はわからないけど、捕らわれているようには見えなかった。
出発の計画でようやく、もう一人、悪魔族のクォーターの子がいて、捕らわれていたのだと知った。
「ぼくの中にいる存在が、ルナやぼくみたいにちょっかいをかけてる……企んでるようだったから」
ナニカが一番よく言うことを聞くと言っていた。
ぼくと同じように利用されて捕まってしまったなら、助けたいと思った。
帝国で、ぼくのせいで1,000人以上の人が死んでしまっていることは知ってるから、同じになって欲しくなかった。
ただ、話を聞くとそういうことでもなかったみたいだけど。
ぼくは途中から負の感情を出さないようにして、ナニカに抵抗していた。だから、他の子にターゲットを変えた。それが会ったことのない子……多分、恨み辛みもあって、〈蠱惑〉のレベル上げてしまったんだろう。
〈蠱惑〉のレベルがどんどん上がっていけば……いずれ、ナニカを召喚できるようになると言っていた。
「ルスト、なんかあるの?」
「どうだろ。白の作った狭間はぼくらの中にいるナニカにとっても邪魔なものだから、妨害しないとは思うけどね」
クレインさんの祝福による封印は、ちょっとしたきっかけさえあれば簡単にはがれてしまう状態だとわかっている。
そもそも、ぼくの〈蠱惑〉のがレベルが高いし、種族値も高い。あの時は僕も受け入れていたから封印できただけで、次はない。
そこまでは封印された状態を保たないと邪魔される。
「でも、ぼくが変になったらレウスが止めてね?」
「は? え、マジで? 俺が制圧するかんじ?」
「うん。ティガよりレウスのが確実でしょ?」
この中で強いのはレウスだし、クレインさんがしっかりと〈蠱惑〉対策をしているはずだから、任せよう。
共和国に入って2日、全体で5日目。
空を飛んでいることもあって、人と会うことも無く、竜玉が反応する場所についた。
「あれ、アリジゴクの下を示してる気がするんだけど」
「大きいね」
「ルスト、のんびりしてる場合じゃないよ!」
大きなアリジゴクは大顎だけでも数メートルある。幸い、飛んでいるワイバーンには攻撃できない。こちらを威嚇するように鳴いているけれど、互いに攻め手がない。
「べつに戦わなくてもよくない?」
「え~、でも、多分地下の空洞に土のドラゴンいるんなら、あれを倒さないとじゃない?」
「レウス……アリジゴクの穴がその地下空洞に繋がっている保証はないよ。むしろ繋がっていないから、あの程度ですんでいるのではないかな」
「あ、そっか。それもそうだね」
でも、どうやって地下に行くかは問題かな。
アリジゴクの先が繋がっていないのであれば、他に繋がる場所を探さないといけない。
砂漠の地下となると……流砂とかに入る必要があるのかな。先が繋がってない場合死んでしまうね。
「ドラゴンが来て、案内してくれればいいのにね」
「ルスト……楽ばかりしてないで、入口探すしかないんだよ! ほら、なんか案出してよ」
「レウスも落ち着きなさい。日中に砂漠を歩くのは危険だからね。近くはないが人がいる場に行き、そこに行き、日が沈むまで休みつつ、情報を集めてはどうかな」
「村があるの?」
「微かにだけど、人の声が聞こえるからね。村とは限らないね」
ティガの案内で向かった先は砂漠の中にある遺跡だった。村じゃなかったどころか、ちょっと危ないかもしれない。
「ティガ……村じゃなかったの?」
「おかしいね……話し声がこちらから聞こえたのは間違いないよ」
レウスはぴょんぴょんと飛び跳ねて、遺跡の祠を調べている。砂にまみれて、風化して崩れやすくなっている。
「レウス。気をつけなさい。……人がいるようだからね」
「もう遅いよ」
飛び跳ねているレウスに向かって何本もの矢が降り注いだけど、全て斬り払っている。器用だなと思っていたら、素早く2人ほど気絶させてしまった。
「すごいね」
「のんびりしないで構えなさい」
「ルスト、戦う準備してよ。攻撃を受けてるんだよ?」
ぼくの前に立ったティガはしっかりと盾を構えている。レウスもぴょんっと戻ってきた。
「なんで攻撃されてるんだろうね」
「盗賊のようだよ。制圧してしまって問題はない。レウス、頼めるかい?」
「はいはい。まっかせてよっ!」
「魔法で牽制するよ……火の矢〈ファイアーアロー〉」
矢が飛んでくる方向に火の矢を射かける。その隙にレウスが素早く斬り込んでいく。様子を窺っているけど、あとはレウスだけでも制圧できるみたいだ。
「火魔法を使うのだね」
「うん? 森では使っては駄目と言われてるよ?」
こんな砂漠では水は希少だし、無制限に出せるわけじゃないから火にしただけだ。見本で見せてもらったのは水だったけど、火でも同じことができた。
どうやら、2,2,3人で別れて行動していたようだけど、レウスが縄で縛って連れてきた。
「ああ、うん。山火事起こさないようにでしょ。ここならその心配ないからいくらでも使って!」
「レウス、戦いの最中に……」
「終わったよ。7人倒した……ティガ、他にいる?」
「いや、いないね……生きているのかな?」
「うん。そんなに強くなかったから」
レウスが戻ってきて、盗賊達をロープで縛り上げている。一人は大怪我をしているけど、他は軽傷。レウスもかすり傷を負っていて、ポーションを少しかけて治している。
「殺しちゃうのも後味悪いし、ポーション飲ませておくか~」
「レウス、強いね。7人相手でも全然平気そう」
レウスが余ったポーションを怪我のひどいところにふりかけつつ、周囲を見渡している。なんとなく、この遺跡はドラゴンが関係しそうな装飾が施されている。
ただ、神殿が放置されてからも長いような感じだ。まさに遺跡、すでに使われていないのがわかる。
「まあね。ちゃんと修行してるんだから。俺だけ弱いとか嫌だし。どうする? この遺跡、広いし……ちょっと調べてみてもいい?」
「そうだね。ここで彼らを見張っているから、危なくない範囲で見てきて構わないよ」
ティガから許可が出たので、レウスと二人で遺跡を調べる。古い神殿のような作りで、あちこちにドラゴンの絵が彫られてる。ドラゴンを称える神殿らしい。
神殿は奥に続くほど道が広くなっていき、巨大な動物が歩くことができそうなほどの道。その先には大きな扉がある。
「ねぇ、この奥……反応してない?」
「うん? あ、そうだね」
レウスに呼ばれて、竜玉を確認すると確かに反応している。でも、一度アリジゴクで見たときはもっと沢山光っていた。
遺跡の中心部の大きなドア。ここには1体だけいるのかな。
「ティガ、呼んでくる?」
「う~ん、まあ、そうだね。戦うことになった場合、ルスト危ないけどいいの?」
「うん。ぼくが来たいって言ったんだよ? だいじょうぶ、ちゃんと鍛えてもらったから」
レベルが一番低いのはぼく。でも、ティガもそんなに強くないと思うけど……打たれ強いのは間違いないから、ぼくのが危ないかな。
だけど、気を抜かなければ、問題ないとグラノスが言っていた。
ティガを呼んできて、盗賊は入口の前に置いておくことにして、3人でドアを開けて入る。
「力を見せよ。さすれば、望みを叶えよう」
「うわぁ~、まじでドラゴンだ! やっぱりかっこいいな」
「きれいだよね。緑の子よりも大きいね」
「……二人とも、はしゃいでないで、切り替えなさい。危ないだろう」
ドアの先にいたのは大きな茶色のドラゴン。
こちらを試すつもりだろう、威嚇するように一鳴きするとびりびりと肌が痛くなるほどの威圧感が襲ってくる。
「いっくよ」
「お~、レウスかっこいい」
レウスが駆け出して、大きなドラゴンの背後に飛び乗った。ぴょんぴょんと身軽に跳ねているレウスは楽しそうに笑っている。
ただ、相手は戯れのように軽くいなして、レウスの攻撃を防いでいる。
「威勢はよいな」
ドラゴンが動いて振り落とそうとするが、レウスはしっかりと鱗にナイフを突き立て、それに掴まって落とされないようにしている。ただ、あのままでは危ないかな。
「風の刃〈ウィンドカッター〉」
ドラゴンに向けて、風魔法を放つとドラゴンは動きを止め、ぼくの魔法を打ち消した。その隙に、レウスはドラゴンから降りて、こっちに戻ってきた。
「やっぱり、もっと攻撃力欲しい。ぜんぜん、固くて、奥まではいらない」
「魔法も簡単に打ち消されちゃったね」
「きみたち、緊張感を持ちなさい」
ティガはドラゴンの威圧からぼくらを庇う様に前に立ってくれているが、ドラゴンもこちらを試したいだけで本気でなく、こちらも倒す決定打を作りだすのは難しい。
「もう終いカ?」
「うん、まだ勝てないのはわかったからね。目的を見失うわけにもいかないしさ」
レウスはあっさりと負けを認めた。ほとんど攻撃も通っていないし、ドラゴンの背に乗って宙吊りになったくらいだけど、もういいらしい。
ぼくも本気で魔法とか撃って、封印が外れてしまうと困るのでそこまで本気では戦えない。
「願いは叶わぬゾ?」
「それは困るかな」
「ドラゴン殿。こちらの要望を聞いた上で、試していただけないかな?」
ティガの言葉に、ドラゴンは戦闘態勢をやめてこちらの話を聞くために四つん這いのような体勢になった。
「ふむ、それもそうだ。そなたらは何を望ム?」
続きを促すように首をくいっと上げてこちらを見ている。ティガは話す機会を用意したが、自分が説明をするつもりはないらしい。ぼくの方に視線を送っている。
そのまま、こちらの希望を伝えるのがいいかな。
「えっとね、白の神が作ってしまった狭間を封じるために作られた祭壇に行きたい」
「ふむ……よく見れば、黒の眷属のようだの。だが、あれは一人で封じられるものではないぞ……作ったはいいが無用の長物ダ」
「俺ら仲間と協力して、手分けしてるから……風の長から聞いてない? 他の場所にもそれぞれ向かってるんだけど」
「ほぅ……最近は群れに行っていないのでな。そういうことなら、それなりに実力もあるようだし、案内しよう。ワイバーンはここで待機させておけ」
ドラゴンはぼくたち3人を乗せると空を飛び……最初のアリジゴクがいた辺りより先まで進み、砂漠の中にある流砂に飛び込んだ。
振り落とされないようにしつつ、砂に圧し潰されそうになるのを耐えていると一転、涼しい風を感じて目を開けると地下の空洞だった。
「長、ようやクお帰りですカ」
「何もないと退屈ダ。だが、風から何か伝言はあるか?」
「人が狭間を封じるためにここに来ると……その者たちですカ?」
「あ、俺はレウス。えっと、このルストの護衛ね。ルストが封じるための祭壇に行きたいんだけど、教えてくれない?」
レウスの言葉にドラゴン達が寄ってきて、こちらをじろじろと観察している。敵意はないけど、面白がっているのかな。
「人の子よ……あれがどういう場所かわかっているのか?」
「え? 知らない」
「昔、白をよく思わない黒の眷属の手によって作られ、力が足りずに、その用途をみたせずに放置されているもの……だよね?」
レウスの後に続いて僕が話すと、ドラゴンは頷いている。
ナニカが言っていた。年々大きくなる白の力を封じるためには、捧げる力が大きくなり過ぎたと言っていた。封じるよりもぼくらの力を高めて、自分が力でこじ開けた方が早いとか……聞き流していたけど、言っていた気がする。
「知っているなら、こちらだ」
あっさりと祭壇に案内された。祭壇に上るとすでに力を捧げられていて、550P分が溜まっている。北と東が終わっているから、あとはクレインさん達かな。
ぼくが捧げる力は、種族150Pと蠱惑150P。レベル8まで上がってしまったこれを漸く手放すことができた。
「う~ん。どうしようかな」
「ルスト、どうかしたの?」
「これで悪魔の力は手放せたけど……他の負担にならないように、もう少し力を捧げた方がいいかな?」
「そんなことできるの?」
「種族とかアビリティとかと同じで、ユニークスキルも捧げられるみたい」
「ルストって、ユニークあったんだ?」
「〈天命〉だよ。無い方がいいかなと思って」
大多数の異邦人が持っているスキルなので、良い印象がないんだよね。
ぼくやルナは容姿もこの世界では嫌われるから、異邦人だとバレてもバレなくても変わらない気もするけど。
「死ねば生き返れるというのは悪いことではないのではないかな?」
「ティガの言う通りだけどさ、そもそもクレインがいると死ぬようなことってあんまりなくない? 老衰で死んで、生き返ってとかは意味ないし?」
「だよね。うん、捧げちゃおう」
「軽いね……ルストがいいなら構わないと思うけど」
「終わったのか?」
「まだ1か所あるよ~。それを見届けるまで、此処にいてもいい?」
「ああ。好きにするといい」
多分、残っているのはクレインさんだと思う。
ぼくの髪の毛の先端はまだ白い。これはクレインさんが力を封じているということだから、まだ、彼女は天使の力を持っている。
ここに捧げる力は天使や悪魔の力の方が大きい。クレインさんは他の能力は高いけど、天使の力は少ないから、もしものときはもっと力を捧げるためにも待機していた方がいいよね。
「ドラゴンのじいちゃんたち、ここで肉焼いてもいい?」
「構わんぞ。少しわけておくれ」
「いいけど、ちょっとだけね? 俺らの食料無くなると困るし。じゃあ、ティガ、ルスト。終わったならご飯にしよう」
「……そうだね。ルスト、どれくらいここに残るのかな?」
「髪の毛が毛先まで黒くなったら、終わったと判断して戻ればいいと思うよ」
お肉を串に刺して、ついでに野菜も同じように刺して、バーベキューの用意をする。
力は捧げたけど、弱体化した感じはない。いらない物を処理できたという安堵の方が大きかった。レウスにお肉を渡して焼いてもらいながら、漸く、肩の荷が下りた気がした。
翌日、ぼくの髪色が真っ黒に戻った。祭壇を確認し1000Pを捧げたのも確認できた。
しっかりと成功したらしい。少しずつ、狭間が小さくなっていくのを確認する。
祭壇からSPとMPを送るらしいけど、多分、クレインさん達の方でも送っている。
ぼくも送れば時間が短くなってるみたいだから、やってから帰ろう。
その間は、ドラゴン達と騒いでるのも楽しいしね。




