5-23.東ルート 〈グラノス視点〉
早朝、アルスを連れ、マーレスタットに向かった。
「グラノス。これ、本当に連れて行って大丈夫?」
「ラズ。言っただろ、4か所あるんだ。4人目が必要だって……処刑前でよかったぜ」
「そう……この布を巻いてる限りは力が使えないはずだよ。取り扱いは気を付けてね」
「随分と念を入れるな?」
「……まあね。捕まってからずっと、逃げようとして力を使い続けているからね。君達が保護している二人よりも力は強くなってる可能性もあるよ。気を付けてね」
こいつが捕らえられたのが2の月の下旬。今は7の月に入ったばかり……俺らが鍛えてきた期間をずっと〈蠱惑〉を使うことだけに費やしていたなら、確かに、使い手としては厄介だろうな。
「ああ……連れて帰る必要はないな?」
「ないよ。好きにしていい」
「ありがとな、助かった」
ミノムシのように厳重に力を封じる布が巻かれている女を肩に担いでアルスとキャロとロットが待つ場所に戻る。
「えっと……グラノスさん……それ、リディなの?」
「ああ、俺を嵌めたくそ女だな……逃がそうとか考えるなよ?」
「……考えてないよ。邪魔したりしない……ただ、最後、彼女の行く末を見届けるのは許して欲しい」
「……ああ、いくぞ」
アルスが俵のように担いでいるミノムシに一瞬だけ複雑そうな顔をした。
だが、今更、裏切るつもりはないらしい。狭間を封じた後、死ぬこともわかっているのだろう。見届けるのは、何のためか……聞き出すのも野暮だろうな。
「ぷ~」
「キャロ。ロット。俺らが向かう先は火山だ。君たちの速さならゆったり行っても間に合うだろうが……せっかくなら、一番に到着したくないかい?」
「ぷぷっ!」
「ぷ~!」
「いい気合だな。よし、速度上昇ポーション使うか」
二匹にポーションを与えて、移動を開始する。
できれば、予定よりも3日は早く到着しておきたい。
「グラノスさん、そんなに急ぐ必要あるの?」
「ああ。クレインが大工たちにも俺らが帰ってくる予想を伝えてるからな。10日後に作戦を開始するから、2週間以上帰ってこない……その間に、悪さをしようとする奴が絶対にいるはずだからな」
「えっと……同時に作戦を実行しなくていいの?」
「ああ……同時にやらないと封じられないような代物とは思ってない」
クレインが封じると言い出したときに、ルストはいない。この女がどうなっているかも不明だった。ルナと二人でもやれる。
クレインがそう信じていたということは、おそらく多少のずれはあっても、封印は出来るはずだ。
余裕をもって日付を指定することで、相手がこちらのいないはずの時間を使って動くのを妨害する。
「……僕たちには貴族関連の話をしないけど……その、結構、まずい状態なの?」
「クレインがクロウに何か起きると言った。間違いなく、俺らがいない間に仕掛けてくる。だから、相手の裏をかいて、早めに戻る……何事もなければいいんだがな」
「あの、僕ができること、ある?」
「もしもの場合には、開拓地の中に入ってきた奴らを制圧してくれ。貴族であろうと王弟殿下の許可がないなら入れなくていい」
「……グラノスさんもクレインさんもいないときに、だね……わかった」
アルスはこくりと頷いたので、頭を撫でておく。
何事もなければ、それで構わない。ただ、俺もクレインもいない状況が起きる可能性がある。
ナーガは言葉が少ない……察する能力はそれなりにあるが、対人戦は無理だろう。
アルスは今回の件で、顔見知り……というか、1か月共にいた女を見届けるためだけに一緒に来たからな……有事の際に、人が相手でも動ける可能性がある。
「よし、行くぞ」
「「ぷ~!!」」
「え、あ、うん!」
キャロとロットの頑張りにより、3日で火山の麓まで到着をした。予定の倍のスピードで到着している。休憩なしでも続く体力はポーションのおかげだろう。
ただ、そうでなくてもシマオウ達よりも体力が続くので休憩が少ない。移動用、運搬用として重宝される種類なだけある。
ただ、やはりキャロとロットは熱さに弱く、火山の熱気を感じるほど近くなると一気にバテてしまった。
「さて……ちょっとドラゴンと遊んでくるから、君達はここで休憩しているといい」
「ぷぅ~?」
「その長い毛だと熱さに弱いだろう? 帰りも活躍してもらわないとだしな」
納得していないロットを撫でながら、火山の麓で待っているように指示をする。タンクがいないため、キャロとロットを守る奴がいない。
さらに、ドラゴンはクレインの魔法攻撃すら効果が薄かったので、この二匹を連れて行っても戦力にはならない。
「ちょっと行ってくるから待っててくれ」
「ぷぅぷぅ~」
「えっと、行ってくるね、ゆっくり休んで待っててね……これ、おやつ」
アルスが道中の休憩中に入手した草花をいくつかキャロとロットに渡している。
キャロとロットが嬉しそうに食べている。
「いいチョイスだな。鑑定を覚えたのか?」
「……ううん。資料貸してもらって、覚えたんだ……帝国での調合には使うって書いてあったから」
「ああ。キャロもロットも好物が調合素材だからな」
「ぷっ!」
「わかってるさ。ちゃんと3分の1はクレイン、残りは君達だ。食べながら待ってるといい」
キャロとロットに餌を渡して、アルスと二人で火山へと向かう。ミノムシを運ぶのが面倒ではあるが、さっさと目的を果たさないとな。
「えっと、頂上に向かうの?」
「いや、風穴……昔の火山で溶岩流が流れ出してできた洞窟があるはずだ。そこから奥に行くとドラゴンがいる……と、この情報が本当だといいんだがな」
「ねぇ、ちなみに、この火山って……活動してる?」
「ああ。火山灰が舞ってるだろ。毒ガスとかが出てる可能性もあるな。君もキャロ達と待ってるかい?」
「……ううん、いくよ。でも、一応、口はマスクで覆っておこうかな」
「ああ、それがいい」
アルスも冒険者としての基本が身についてきたのか。
先輩冒険者から、色々と教えてもらったという。多少、おどおどしているが、しっかりと自分の考えを持てるようになったらしい。
「引キ返セ……此処ハ神聖ナ場所ダ」
「風のドラゴンから聞いていないか? 次元の狭間を封じるためにきた。通してくれ」
「要ラヌ。人風情ニ頼ムコトハ無イ」
「敵対するということでいいかい? こちらはこちらの目的があって動いている。邪魔をするのであれば、敵として排除する」
大きな風穴を見つけ、そこを進むとドラゴンがいた。
美しい炎の鬣をもった黒いドラゴン。竜人が神と崇めるだけの神々しさを感じる。
開拓地にて襲ってきた緑の小さなドラゴンとは格の違いを感じる。
こちらに気付いたドラゴンが奥への道を塞ぐようにして、こちらを見据えている。
「立チ去レ……人ノ助ケハイラヌ。吾ラノ誇リニ懸ケテ」
「別に、君達ドラゴンのためじゃない。俺達には俺達の事情がある。退く気はない」
「愚者ヨ……ナラバ、相手ヲシヨウ……互イニ譲レヌナラバ強キ者ガ意思ヲ通ス」
「グラノスさん……その、僕がもっておくよ」
「ああ、じゃあ、頼むぞ。目的地までは生かしておく必要があるからな」
アルスは俺から荷物扱いしている少女を受け取り、俺とドラゴンから距離をとった。
巻き込まれないように。俺への手助けは不要と悟ったようだ。
「何ノツモリダ?」
「男同士、互いに譲れない戦いだろう? 一対一……俺が負けたら、あいつらには手を出すなよ?」
「生意気ナ……蛮勇ハ死ダ」
普段使う太刀ではなく、脇差を抜く。
炎の太刀はこのドラゴンに効果はないだろう。熱量が違う。雄大な炎を纏うこのドラゴンにとって、ちっぽけなマッチのようなものでしかない。
それなら、間合いは短くなるが、SPを込めやすく、扱いやすい脇差の方が勝機があるだろう。
相手は油断しているのか、見極めるためなのか……最初の一手をこちらに譲るつもりだろう。
俺が脇差にSPを込めているのがわかっているのに、それを止めることなく、様子を見ている。
ドラゴンの硬い鱗に傷をつけることは、この小さな刃では難しい。そう考えているのだろう。
「〈一念岩通〉」
ドラゴンに駆け寄り、首めがけて飛びながら技を繰り出す。
俺の技の中でも最高峰の切れ味を誇る光の刃がドラゴンの首筋の鱗すら切り裂いた。
事前にSPを込めて、貫通力を増した技は、ドラゴンの鱗も断ち切ることに成功した。
「……すごいっ」
「馬鹿ナ……有リ得ヌ」
「俺の攻撃には貫通がついてるからな。硬い鱗でも多少は貫ける」
おっさんと共に帝国でリザードマンと戦ったとき、あいつらの鱗も硬かった。
特にエンペラーと対峙したとき、鱗が貫けず、致命傷を与えることがなかなか出来なかった。その時から、ひそかに練習していたが、効果はあったようだな。
首から血を流し、息も絶え絶えという状態になったドラゴンが倒れている。
「さて……アルス、行くぞ」
「待テ……止メヲ刺サヌノカ…………吾ノ素材ハ人ガ欲スルハズダ」
「俺らの目的は次元の狭間の封印だ。……互いの譲れぬものを賭けた戦いだろう。敗者を素材にして貶める気はない」
事情は知らないが、ドラゴン達にとって、人の力を借りたくない何かがあるのだろう。だが、俺らにとっても必要なこと……クレインが白やら黒やらといった因縁やドラゴンから狙われることが無くなるためには、ここではっきりとしておく必要がある。
「……見事ダッタ、吾ヲ倒シタ事ニ敬意ヲ払オウ、強キ者ヨ……」
「先手を譲ってもらったからな。あの一撃に全てをかけただけだ」
「ソノ微細ナ火ヲ放ツ武器デ吾の心ノ臓ヲ刺セ……吾ノ加護ヲ……力ヲ……持ッテイケ」
「いいのか?」
「見誤ッタ……ダガ、後悔ハナイ。強キ者ヨ、オ前ノ武器トナロウ」
言われた通りに、炎の太刀を抜いて、ドラゴンの心臓に突き立てる。
ドラゴンの体から出たオーラが太刀を包み、刀身が黒く染まっていく。ドラゴンの体が透明になっていき、太刀にはめられていた魔石の部分が変化していく。
そのまま、ドラゴンはきれいさっぱりと……姿かたちがなくなった。
「グラノスさん……」
「ああ……どうやら、魔石がドラゴンハートになっている。刀身も随分と強化されて、ドラゴンの鱗よりも硬くなったらしいな……炎獄の太刀、だそうだ」
鑑定をすると『ドラゴン〈炎獄〉を吸収した太刀。その刃は熱を帯び、全ての物を溶かす刃となる』と書いてある。本当に、太刀がその力を吸収したらしい。
「えっと、良かったんだよね……その、悪いドラゴンじゃなかったよね」
「ああ……先に進むか」
アルスが少し困ったように近付いてきた。
強く誇り高いドラゴンではあっただろう。こちらに先手を譲り、そのまま倒されても俺のことを認めてくれた。あっけないとも思うが、これでさっさと終わる目途もついた。
そう思っていたんだだがな。
「炎獄様ノカタキだ!」
「……はぁ」
奥へ進むと他のドラゴンに絡まれるようになった。
ただ、ドラゴン同士でもだいぶ実力差がある。武器がものすごく強くなったこともあるが、最初、手加減をせずに誤って殺してしまった。
個体数の少ないドラゴンをむやみに狩るべきではないと思うのだが……こちらについては素材にするために持ち帰ることにした。ドラゴンで薬を作る可能性は高いからな。
最終的に、奥に行くまでに炎獄を含め、3体のドラゴンを殺し、他にも重傷含むドラゴンは数多となった。
「申し訳ゴザイませン、ドうかお許しヲ……」
「いや。襲ってこなければ、何もしない。狭間を閉じるためにそちらに行きたいんだがいいかい?」
「はイ」
狭間があるという大広間には、数頭のドラゴンが頭を下げた状態で出迎えられた。道中のドラゴン達は若いドラゴンで暴走し、逆に年嵩のドラゴン達はこちらと敵対の意思はないのがはっきりわかる。
「吾等の長は光焔、炎獄。次々と亡くなリ、統率デきずに申シ訳なイ……」
「次元の狭間を封じたい、場所を教えてくれ」
「コちラになりまス」
案内されたのは、地下の奥深くにあるマグマだまりだった。
高温のマグマに近づく必要があるため、耐火ポーションを飲む。ここまで連れてきた荷物にも顔の布を取って、ポーションを飲ませて進んでいく。
「アれが狭間、歪、傷跡、穴……様々な名ガあるが、かつテ白の眷属ニより世界ニ空イタ穴デス……今、吾等ドラゴント自然ノ力ヲ利用シテ広ガラヌヨウニシテオリマス」
「効果はあるのかい?」
「……光焔様ハ気休めでアろうガ、ヤらぬ選択は無イと……好キ勝手に侵略サせられぬト仰セだったノで」
ナーガの中にいるドラゴンか。
効果が薄いことは承知で、広がりそうになるとドラゴンが犠牲になってでも止めようとした。
「白の侵略者が世界を破壊した。その名残りね……まあ、強ち間違ってなさそうだが……ここに異邦人が入ると穴が縮まるのか?」
「……僅カに。人もドラゴンモ狭間に入レると、そノ生命力により縮まりまス。今マでも何体モノドラゴンガ犠牲ニなってまス……光焔様モ召喚の兆シを感じ……先日、亡クなるも効果ナく、異邦人があらわれたときいてまス……。それでモ……白ト黒……聖女とか悪魔ト言われる者達ヲその祭壇ニ置くト、祭壇の力が使エ、狭間が大キク縮む……祭壇は力ヲ捧げる場合は死ナないでス」
案内された狭間の前には、祭壇のような物があった。
そこに力を捧げることが選べるらしい。どういう仕組みかは知らないが……ここから種族の力を吸い上げることが出来るのか。
仕組みがわからないが……この祭壇をドラゴンが作ったとも思えない。
謎が多い……ただ、このドラゴン自体が、詳しいことを知らないようだからな。
光焔、炎獄と力のあるドラゴンがいなくなったせいで、詳細がわからないか。
俺が祭壇に立っても、起動はしていないのだろう。何も変わらない。
「アルス。君は絶対に近づくな」
「でも……」
「今の説明を聞いていただろう。祭壇に近づいたら、異邦人として得た力を失う可能性がある」
光焔が示していたのは、この祭壇でナーガのユニークを捧げるという意味だったからな。だが、起動させるには天使か悪魔の力が必要か。
「で、でも……」
「別に、ドラゴンも異邦人全てをここに投げ込むつもりはないんだろう?」
「投げ込ンでもたいして……ただ、祭壇を起動サせてモ……皆、得た力ヲ自ら返ス事など、デキぬのでス……」
せっかくの特別な力を失い、ただの人になる。それを嫌がるのもわかるが……クレインに協力的なのは、いいことだな。
「そういうことだ……さて、大人しくしてろよ」
ミノムシになっている封印の布を取り転がす。
まあ、道中も食事のために、顔の布は取ったりしていたんだが……全身を自由にさせたのは初めてだった。
「……ぁ…………」
「お前の悪魔の力をその祭壇で捧げろ。俺らやドラゴンに使おうとするな」
「……いや」
「そうかい。力を手放すなら、生きる道もあったがな。この亀裂に投げ込もう。君が死んでも誰も困らない」
すでに精神的に壊れている。前の時には自信満々だったが、心が折れている。
それでも嫌がるのであれば、処分するしかないだろう。起動をさせれば不要、後は俺の力を捧げればいい。
「……なんで、わたしばっかり……」
「別に君だけじゃない。異邦人の半数以上がすでに死んでる。まあ、君がこうなった理由ははっきりしている。俺をはめた。馬鹿なことをしたな、あれで君の人生は終わった」
「……だって……」
「自分でもわかってるだろ。自分がやったことが犯罪だとな。嘘の証言で、人を犯罪者に仕立てた。バレて、君が犯罪者になった。今まで生かされたのはこの時のためだ。恩赦を期待するなら力を手放せ」
しばらく見つめ合ったが、祭壇に立つと、祭壇が光を帯びる。
どうやら、起動したらしい。なるほど、天使か悪魔がいないとどうしようもないのか。
透明なパネルのようなものを弄り、「できた」とぼそりと呟いた。
「どれ……」
俺も祭壇に乗り、パネルを確認する。
女が捧げた力は、種族値60Pと蠱惑90Pで合計150Pになっている。
「蠱惑のレベルは?」
「……6だったわ……それ以外だと、ポイントが下がるわ……」
「ふむ……10ポイントが2ポイントにしかならない。5分の1か、なかなかに痛いな」
完全な封印をするためには、1000Pとなっている。
悪魔と天使の種族以外だと効率が悪いということだろうな。
クレインは種族値が30P、祝福のアビリティレベルを聞いていないが……レベル3か4あたりだろうか。身内にしか〈祝福〉を使っていないだけに、レベルは上がってないだろう。
ルナとルストは種族値は150。蠱惑のレベルはわからない。
最低のポイントで考えるとクレインが50、ルストとルナでも200くらいとすると……足りないか。それでも、やるしかない。
元より、光焔がナーガの力を手放そうとしているのに、俺の力を手放さないという選択はしない。クレインの〈直感〉さえ残っていれば、今後もなんとかなりそうだしな。
俺のアビリティなどでポイント変換を確認すると、ユニークスキルは3分の1。他の最初に選んだ技能・アビリティは5分の1。
こちらの世界で覚えたアビリティは10分の1になるようだ。
捧げる力に〈刀の極み〉を選ぶと、〔封印か、格下げを選べます〕と表示された。
封印の場合、80P。格下げの場合、〈刀の嗜み〉なら60P、〈刀の道〉なら30Pと記載されている。
「……ふむ。封印と格下げか。……封印だな」
出来る限りポイントを稼いでおきたい。
封印を選ぶと、〔取得要件を満たすまで封印されます〕と確認が入ったが、もう一度封印を選ぶ。
ステータスを確認すると、刀の極みが消えて、いくつかのアビリティや技能のレベルが一つ下がった。そして、80Pが加算されて、封印値が230P。
「再取得の要件はがわからんが、10年くらい努力すれば手に入るといいんだが」
刀術が7から6に下がっている。
これが10になるとユニークスキルを覚えるということは、刀術以外にも下がったアビリティを全て10まであげれば、刀の極みを再取得できる可能性があるな。
「……グラノスさん。次、僕がやってもいいよね?」
「アルス……まて、そいつにポイントを全て変換させるから君はやらなくていい」
「でも、ポイント足りないんだよね? ……それに、ユニークスキルを格下げ出来るなら、僕はそれをしたい」
「アルス?」
「……3段階目のユニークスキルは貴重すぎるんでしょ? 異邦人を警戒する理由もユニークスキルにあるなら、それを手放せて、僕でも役に立てるならそれを選びたい」
真剣な瞳で俺を見ているアルス。
おどおどした様子はないということは、本気だろう。
「グラノスさん、お願い……僕も」
「少し待て、考える」
たしかに、アルスは3段目。その力を格下げするのは有りか。
今更、少し成長率が下がったところで、すでにアルスも70レベルあるからな。ステータスの恩恵は十分に受けた後だ。
ユニークスキルを格下げすれば、こちらへの警戒度を下げることはできるだろう。
俺とナーガに次ぐ、戦闘能力の高さを下げることには悩ましいが、3段目なら手に入れたいと願う貴族がいる可能性はある。一段か二段目まで下げれば……俺らを敵に回してまで手に入れようとはしないだろう。
そして、クレインのユニークスキルを無くすことは避けたい現状では、アルスが下げるのはありだろう。
最低でも250ポイントは俺ら3人で稼ぐ必要がある。できれば、もっと稼いでおいた方がクレインやナーガに負担させずにすむ。
「わかった。君の判断に任せる」
「う、うん! ありがとう、グラノスさん」
一段目にするのも、二段目にするのも口を出す気はなかった。
だが、そのせいで余計な悩みを増やしたらしい。
「う~ん、どうしよ」
「君が自分で決めろ……決まるまでそっちで考えてくれ」
アルスをどかして、女の方を見る。
「……なによ」
「〈天運〉を封印しておけ。それを持ってると異邦人だとバレるからな」
少し悩んだあと、天運を封印したようで、10ポイント増えた。
「……」
「君はすでに脅威ではなくなったからな。俺の見えないところで生きるなら勝手にしてくれ。余計なことをばらさなければな」
「……でも」
「王国までは連れて帰ってやる」
少女は驚きつつ、涙を流した。「怖かった、死にたくない」とかすれた声で泣き出したので、祭壇から降ろして、座らせておく。
アルスは俺の言葉に少し驚いたように目を見開いてから、お礼を言っている。
「決めたよ」
アルスは結局、三段目だった〈一騎当千〉を一段目の〈百戦錬磨〉まで格下げをしたらしい。これで、300ポイントか。
「グラノスさん……あとは、各自の判断に任せていいと思うよ? その……クレインさんが封印できるって言ってたから、多分、足りるんじゃないかな」
「……確かに」
ここで俺らが悩むより、任せた方がいいだろう。
後のことは任せて、ドラゴンにも現状を伝えて、俺らは帰路につくことにした。
「他ノドラゴンにも、必ず、協力スルヨウに伝えますノデ、どうか、どうか、お許しヲ」
ドラゴン達は離れていても、簡単な意思なら伝えられるらしく、俺らのことを伝えると言っていた。
意思統一されていない状態で、炎獄のような被害を出すのもまずいだろう。
人を操る力を失った女は脅威ではないため、そのまま歩かせて火山を出る。
「こちらの要望通り、悪魔の力を捧げてもらったからな。後は自由にするといい」
「……王国に帰ることは出来ないから、こっちのどこかの町とかまで連れて行ってくれない?」
「無理だな」
「……グラノスさん。僕が、帝国のどこかの町まで連れていってもいいかな。リディに時間を使う暇ないんでしょ?」
「ああ。なら、頼む……それから、こいつで髪の色を染めるようにしておけ」
毛染めの薬を数本、渡しておく。3か月くらいは効果があるはずなので、しばらくは困らないだろう。
「なんで?」
「黒髪は不吉だと言われてる。君は黒よりの焦げ茶だが、念のためにな……もう少し明るい色に染めておくといい」
「……ありがとう」
「目立たなければ、君を異邦人だと認識できる奴はいないはずだ……じゃあ、アルス。後を頼む。ロット、すまないが急いで戻りたい。キャロと離れ離れですまないな」
「うん、任せてよ」
「ぷ~」
「ぷぷぅ~」
キャロを撫でて餌をやってから、ロットに乗る。
戻ってからが正念場だろう。急いで戻らないとな。
何事もないといいんだが……難しいだろうな。




