5-20.出立の前に
「竜玉ヲ持ッテキタ。話ハ通シタソウダ」
ドラゴンの伝言役の竜人により、竜玉を二つ手に入れた。スペル様に借りてる分と合わせて、三つ。
これで準備は出来た。道のりはおそらくルナさん達で3日程度。ティガさん達は空を行くから計算しにくいけど、1週間くらいかかる。おそらく、私もそれくらいだろう。兄さんのとこはもう少し早いかな。
全体で往復すると15 日前後はかかるはず。いや、もっと余裕を持っておいた方がいいかな。
でも、師匠が心配だから、長く離れることはしたくない。
「それで、実際、ドラゴンの巣にいったら、なにすればいいの? ぼくとルナは封じてるから、力を使えない状態だよね」
「ルストさん……その、正直、私も状況見ていないのでどう動けばいいかを指示は出来ないです。ただ、おそらく私の祝福によって封印されている悪魔の力は、なんとでもなると思います」
「クレインさん、それ、どういう状況なの?」
ルナさんも不思議に思っているけど、説明は難しい。
二人とも魔法を使い熟せるようになって、〈蠱惑〉は使わないように心がけていた。だから、いまだに髪の毛の一部が白いままになっている。
ただ、解こうと思えば、二人とも解けるはず。
二人のレベルはまだ40くらいだけど、純血だからか、すごく力の差を感じることがある。戦いではなく、種族の力の差。
だから、あんまり心配はしていない。
「この世界にドラゴンが聖女を攫うという物語はいくつかある。残念ながら、子供向けの御伽噺くらいしか持ってないけど、内容はクヴェレ家で確認してる。この元になった歴史も調べた。おそらく、聖教国は4回か5回、ドラゴンに襲撃をされている。そして、物語の一部、聖女は攫われたけど生きてる描写になっているのもあった」
「ただし、聖女の力を失ってだけどな。狭間に行けば、聖女の力は失われる。この話を信じて、狭間に行ってみるしかない。少々無計画すぎるところはあるが仕方ない」
「少々かな?」
兄さんの言葉に、ティガさんが一言もらしたけど、「すまない」と謝罪が入った。気になる点はあれど、情報が足りていない。ゆっくりと調べてからというのも出来ない訳ではないけど……今更、延期するのも微妙だからね。
「ティガさんが謝る必要はないです。私も無計画だなとは思っています。ただ……思ったよりもドラゴンが焦ってるような気もしてるんで……チャンスではあるので、こちらも動きますけど」
「根拠なく動くのは今に始まったことでもないしなぁ……命の危険はないということを信じて頑張るしかないだろ。俺は留守番だが、気をつけてな」
ざっくりとクロウがまとめた。根拠はなくても、安全は確保しているはず。
「あのさ、確認してもいい?」
「レウス? どうかした?」
「行きはタイミング合わせる必要があるとして、帰りは? 寄り道したりしても平気?」
「いいよ。ただ、共和国は構わないけど、聖教国側に近づかないようにね? ルストさんとか、すごく危険になるから」
「ぼく?」
悪魔の容姿は当然知られているので、危険なのはルストさん。
ただ、共和国も王国と同じように、獣人や竜人が出入りすることが出来る国ではあるけど……。
「ティガさん。ほどほどでお願いします。ティガさんとレウスもハーフで、それなりに種族の特徴が出てるので共和国でも目立ちます」
「羽目を外さないように見ておくよ」
観光とかできるルートは、レウス達側だけ。ルナさん側は山脈しかないし、危険なので寄り道とかの余裕はない。
兄さんとアルス君はやろうと思えばできるけど……帝国がすでにだいぶ疲弊しているから、観光とかの余裕はない。
「レウス。共和国は砂漠があるから、過酷なはず。水の確保と体力は気を付けてね」
とりあえず、危ないことを伝えておいて、あとは好きにすればいいと思う。遅くなるようなら連絡はして欲しいけど……ちらりとティガさんを見ると頷いたので大丈夫だろう。
若干、「楽しそうだね~」と呑気なことを言っているルストさんも気になるけど。
「では、明日の朝、出発とする。出発から240時間後に作戦を決行する。細かい判断は各自に任せる。多少のずれは大丈夫だと思うがな。帰りは自由、観光するなり、ダンジョン攻略するなり、自由に帰ってきてくれ」
北と南はそこまで時差はないと思うけど、西と東はズレるからね。時間としては、だいたい10日後。ドラゴンとの話し合いとかもあるだろうから、そんなに時間に余裕はないのかもしれない。
多分、ルナさん達は到着してからもしばらく待機になるだろうしね。
全員で最後の打ち合わせを確認し、解散をした。
しかし、すぐに兄さんからナーガ君とともに呼び出された。
兄さんの部屋に移動して、話を聞く。
「どうかしたの?」
「ああ、何かあったときのことを伝えておく」
「…………何かあるのか?」
兄さんが真剣な表情で、こくりと頷く。ナーガ君が眉間に皺を寄せつつ、続く言葉を待っている
「メディシーアの今後についてだ。お師匠さんに何かあった場合、俺はメディシーアの爵位を返還する申し出をするために王都に向かう。これは決定事項だ」
「……ああ」
「うん。当主の指輪とか、王家からいただいている勲章とかを返還しないと面倒なことになりそうだからね」
「ああ。大丈夫だと思うが、俺の方が遅かった場合は待機、君達が動くことはしないでくれ。王都には俺が向かう」
「うん? なにかあるの?」
「何もないといいがな……俺らがいないことが発覚すれば、ここに厄介者が来ることを想定してもおかしくないだろう? クレインがクロウに危険を感じているようだしな」
たしかに、それは否定できない。
いや、否定できないどころか、多分、そういうことだろうな。
「ラズの手の者を置いておくし、何があったかわからないという状態にはならないだろうが、焦って動くのは駄目だ。特に、クレイン。目の前のことしか見えなくなることがあるから、危ないと思ったらナーガが止めろ」
「……わかった」
「兄さん……私が動くのは反対ってこと?」
「君と違って、俺は感じ取ることが出来ないからな。不測の事態を防ぐために、俺が動いている限りは、動くな。俺の安否が不明になるなど、連絡が取れないときには君が動くことになる」
たしかに。
私はラズ様の指示、兄さんはカイア様と王弟殿下の指示で別系統なんだよね。途中で連絡が出来ればいいけど、相手方に動きを悟られないように連絡手段を断つこともあり得るのか。
兄さんに危険があるとは思わないし、同時に動くのは良くないか。
「そういうことなら、従うよ。どちらにしろ、師匠が何かあったときでしょ?」
「……ああ。何もないとは思うが、念のためな。クロウが攫われて、救出に向かうとかもあり得るしな」
う~ん。
攫って、無理矢理調合とかの可能性はあるけど、それを出来ないように、クロウから権限をはく奪してある。
他にクロウを攫って、何か得することある? と思うのだけど、あり得ると感じがする。行く前にもう一度、気を付けるようにいっておこう。
「……それだけか?」
「うん? どうした、ナーガも何か確認したいことあるか?」
「……告発状含め、こちらからも動く準備をしているだろう……あんたは守るよりも攻める方が好きだしな」
「まあな。国王派の弾劾は、メディシーアが切り込む側になる。王弟派を有利にするためにな。だが、それは俺がやる。邪魔をしないでくれればいい」
「……危険なんだね?」
「引き際は心得てるさ」
「……無茶はするな」
私もナーガ君も心配はしているけれど、兄さんは止まるつもりはない。
師匠への嫌がらせなどには腹を立てているから、きっちりとやり返したい。それは、私達も同じだ。
でも、危険からは遠ざかりたい気持ちもある。
「どうせなら、派手にやって、クレインに無理やり継がせようとするのを阻止しておきたい。……任せておけ」
「……それは必要だな」
ナーガ君がこくこくと頷いている。
ナーガ君がどこまで気付いているかわからないけれど……私に継がせようとするということは、兄さんを消す必要がある。
どうやって、私を貴族の目から背けさせ、爵位を渡すことを阻止をするのか。
なんか、嫌な感じがするんだよね。
「兄さん、無理は駄目だからね。なんでアルス君を付けたのか、よくよく考えてね」
「君……やっぱり、足手まといになるのがわかっていて付けたのか」
「アルス君が一緒に行きたいっていったのを尊重したのもあるよ。彼の成長のために必要だと思う……ただ、兄さんが無理し過ぎないようにお目付け役としての意味もあるよ。……犠牲はない方がいいしね」
「……悪いな」
兄さんが少し困ったように謝罪をした。
アルス君と一緒にいた少女は、助ける気がないということはわかった。
「アルスのことは見ておく。心配するな。そっちこそ、無理をするなよ」
「ああ……ちゃんと守る」
「大丈夫」
私とナーガ君が一番問題がないけどね。
それでも、別行動だからこそ心配ではある。みんな無事に帰ってきてくれると思うけど……頑張ろう。