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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第五章

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5-19.準備


 7の月に入り、ラズ様への報告しに行くと、帝国の異邦人殲滅作戦が始まったことを教えてもらった。

 結局、共和国や公国からも参加し、おおよそ現地人と異邦人合わせて1,500人規模の部隊が帝国に向かったらしい。


「それで、そっちはどうなの?」

「ドラゴンとのやり取りをしているのですが……あまり芳しくないです」

「グラノスから聞いてるよ。婆様が心配で開発地から出ようとしない。君がドラゴンと交渉すると言い出したのに、今度は止めたくなった?」

「いえ。やらないといけないと頭ではわかってます」

「そう? ドラゴンの件、本当にやらなくてはいけないこと?」

「……多分、ですけどね。確証はなくても、やっておかないといけないとは思ってます」


 ラズ様は苦笑している。

 根拠は何もなく、私がドラゴンと対話をすることを望んで、他の人を巻き込んでいる。


 そのくせ、師匠と離れたくないと我儘をいっているのも私だ。それは理解している。



「確認だけど、冒険者ギルドからの依頼はクロウがそのまま継続するんだよね?」

「はい。緊急でもクロウがいれば対応できる体制になっています。ただ、クロウの判断ではなく、師匠かラズ様の命令がない限り作らないようにと指示します」


 正直、面倒事は起こる。それも貴族関連と予想している。

 それでも師匠が心配だし、クロウは置いていくのが一番いいと直感さんも言っている。わかっていても回避できないのであれば、対策を講じて被害を減らすように動く。


 何かあったときのために在庫もかなり多く用意していて、私達が2か月いなくても問題はない。


「婆様か僕の指示がないなら、作らないってこと?」

「冒険者ギルドからの通常の受注している依頼を除き、クロウの判断では依頼は受注しない……そう、命じるつもりです」


 クロウにもきちんと説明をして、納得してもらっている。

 奴隷にするとき、理不尽な命令をしたりしないと決めていたのに、結局は私の都合に振り回していることは反省している。


 この世界での奴隷の扱いにもできずに、すごく中途半端な状態。だからこそ、安全だけは確保しておきたいのだけどね……結局、避けられない危険にはどうしようもない。


「珍しいね。まあ、いいと思うよ。他人が奴隷に対し理不尽なことを出来ない。従えないだけの理由があるのは、彼の身を守ることにも繋がるからね」

「そこでお願いなんですが、ラズ様。ラズ様の部下の人を開発地に置くことは可能ですか?」

「人手に余裕があるわけじゃないけど、何かあるの?」


 ラズ様も色々と人手が足りていない。いや、信頼できる人を増やすのが大変なんだろう。なにせ、本来貴族の学園に通う時期に冒険者やっていたという、貴族の鼻つまみ者なんだよね……。


 後から知ったけど……王弟の息子であっても、他の貴族からの評判がすごく悪い。というか、ラズ様の下で働きたいと考える貴族子息がいないっぽい。経歴はどの世界でも大事らしい。


 病弱なカイア様でも学園に通っていたらしいのでね。ただ、ラズ様はそのことを後悔もしてないっぽい。レオニスさんや師匠との繋がり、ギルド長との関わり合い方を見る限り、問題は無さそうだしね。


「今のところ、危険を感じているのが師匠とクロウ……それでも、いくと決めたからには機会を逃せない。振り回しているからドラゴンに会いに行かないという選択も取れません」

「あそこは父上の裁可だから、僕の方で勝手に人員を増やすのは難しいんだけどね。やってみるよ……僕の許可ということにしているのであれば理由もあるから、伝令役を置いておくよ」


 何かあればすぐにラズ様に報告が行く状態を作っておく。それであれば、何とかなるだろう。


「クロウは君の助手でいいんだよね?」

「はい。兄さんの従者をしてるときもあるけど。基本的には私の助手ですね」


 奴隷の中でも、クロウだけは任せていることが違う。

 クロウだけは、調合などの機密事項を扱う存在として、実は色々と縛っていることもある。主に情報漏洩が出来ないようにしてある。


「顧客情報や調合レシピについて話せないようにしてある?」

「……はい。クロウは調合、錬金や鑑定などによって知ったことは私達以外には許可なく話せないようにしています」

「私達の範囲は?」

「メディシーア家。ナーガくんと師匠も含まれています。それと特殊な目で知った情報も含んであります。ラズ様には代理権限を持たせます?」

「いや、いいよ。情報については君達だけにしておいて、作業は僕にも権限があるならその方がいい……そこまでするくらいには、何か起こるんだね?」

「………………多分」


 クロウを置いていかないという案も考えた。その場合、師匠とディアナさんがすごく危険な気がする。

 こちらのが無視できないくらいには、危険。師匠に無茶はさせられない。


「クレイン。確認するけど、相手は貴族? 王家?」

「え?」


 ラズ様の突然の質問に戸惑う。王家という選択肢か……それって、さらに厄介ごとだよね。ただ、すでにそういう状態でもないのだろう。


 クロウが私達に知らせなかったカイア様を呪った相手。

 あれは、おそらく王家で……どう考えても、王弟派は動く。巻き込まれるのは確定だろう。



「……たぶん、王家」

「だよね~。クロウと婆様はこちらでも気を付けておくよ」


 絶対にわかっていて、釘を指したということだろう。私達……いや、私に覚悟を持てといいたいのだろう。


 出来ることなら関わり合いたくないけれど……どちらにしろ、1回は関わることになる。師匠が亡くなったとき…………王家と顔を合わせることになるのは必定。


 兄さんほど覚悟が決まっていればよかったのかもしれないけれど……私は王弟派に所属していることを自覚しないといけないのだろうな。



 今後の話は置いておき、まずはラズ様の許可は得た。

 次は冒険者ギルドかな。


「クレインさん。お元気そうですね」

「はい、マリィさん。今日は人が少ないですね」

「そうですね。今の時期は出稼ぎに行く冒険者も多いですからね……。それに最近はどこかから伝え聞いたという噂により蜂蜜が高騰化するらしく、共和国のダンジョンに向かった方たちも多いですよ」


 おっと……情報が洩れている。


 マリィさんが苦笑しているので、貴族とか薬師ギルドに錬金蜂蜜が出回り始めたとかかな。高騰化させないように作り終わるまで極秘でやってきたんだけど……作り終わったから材料として買い取ることはないのだけどね。


「共和国ですか……」

「はい。クレインさんが行くのは難しいと思いますが、ナーガさん達が行くなら推薦状も用意できますよ」

「う~ん。彼らが望むようならお願いします」


 マリィさんから最近の情報を聞きつつ、国境山脈での魔物討伐の報告をする。開発地には魔物は出てこなくなるくらいには魔物を狩っていて、それなりの量になる。


「薬の開発のための材料は一通り納品が終わっていますが、次はありますか? 事前にご相談いただければ融通を利かせることも可能ですよ」

「ありがとうございます。じゃあ、スタンピードで安くなっている魔物素材を一通り欲しいです。研究素材にします。それと、ギルド長に話があるのですが……」

「承知いたしました。では、お帰りの際までに用意しておきますね」


 具体的に指定をしなかったけれど、余っている素材を用意してくれるのだろう。マリィさんにお願いをしてギルド長室へと向かう。


「久しぶりじゃな、お嬢ちゃん」

「お久しぶりです、ギルド長。今回はお願いがあってきました」

「ふむ。お嬢ちゃんも少しは成長したか?」

「腹の探り合いをしたいということなら、兄に頼んでいます。本当にこちらからのお願いでもあるので、判断はお任せします」


 この狸爺と交渉をするなら、私では力不足、兄さんにお願いした方が早い。

 ただ、提案なので、引き受けるも受けないも自由なので、話をしにきた。


「話を聞こうかのう」

「マーレ所属の冒険者が魔物の毒で負傷した場合の解毒薬の調合依頼書を用意してもらえませんか?」

「……ふむ。話を聞こうかのう」


 私が不在の時、クロウは自由に調合依頼を受けることが出来ないようにする。

 そのせいで、頼ってきた冒険者を見殺しにしてしまっては、本末転倒。事前に許可があることにしておきたい。


 すでに冒険者ギルドの下請けとしての薬の納品はしているが、これはあくまで傷薬などの冒険に必要となる薬をギルドでも販売するための薬。

 

 今、私が頼んだ依頼書は、冒険者個人が負傷した場合の治療薬であり、症状が異なることや、値段なども変わる。相談があれば師匠を推薦することもあったようだが、はっきりと依頼という形でギルドは関わってこなかった。


「正直に言えば、お嬢ちゃん達は拠点をマーレから移しておる。推薦してもすぐに対応は出来ないこともある上に、薬師ギルドとの関係も表面上は穏やかになっておる。その依頼書を用意する理由は?」

「私の不在時に、有事の際であっても、クロウには依頼を受ける権限を持たせないことにしました。今だけですけど」

「思い切った判断じゃな。つまり、冒険者ギルドに所属している者の有事の際には、解毒薬などの薬を作れるようにするにはギルドからの常時依頼書が必要ということじゃな。なぜ、そのような回りくどいことをする? あのクロウという男なら、冷静に物事を自分の判断で切り抜けられる。お嬢ちゃんがそこまでして行動を狭める理由がわからんのう」


 私がスタンピードでの不在、その後の負傷期間中もクロウは自分の判断でギルドからの依頼を受けていた。

 冒険者ギルドだけでなく、商業ギルドなどからのシロップやスポドリの依頼も含め、かなりの額を稼いでいる。本人はやる気ないように見せてるだけで、やることやっている。


 しかも、しっかりと休憩をとったり、8時間以上は働かない宣言しているあたり……自己管理も含め、優秀。


「権限を委任すると、多分、クロウは攫われると思いまして。これからメディシーアの身分が変われば、さらに危険は高まります。クロウは単独で依頼を受けられないことを周知する。そうすることは彼の身の安全にも繋がると考えました」

「……なるほど。あり得ん話ではないな」

「ただ、そうすると冒険者が解毒治療を依頼してきても、受けられない。散々お世話になった先輩たちが頼ってくれたなら、力になりたいと思っていまして。冒険者ギルドから依頼が出ている状態にしたいです」

「目的と理由は理解できたが、その依頼費をどのように捻出するかが問題となるのう」


 依頼として費用を出す必要がある。だけど、実際に治療を受ける冒険者が出るかはわからない。

 さらに言えば、町から離れた場所になったのでわざわざ依頼をする人などいない可能性のが高い。月額固定で依頼を受注しつつ、どうせいないのだろうから還元できるように設定するべきだよね。


「有事の際に冒険者の治療をするという継続依頼を月500Gで結ぶ。代わりに、こちらが治療をした場合には、冒険者への請求を5%値下げします。もちろん、冒険者ギルドには治療したことの報告も行います」

「利益は冒険者が受け取る形か」

「えっと、紹介料としてギルドにも1件につきいくらという形で支払います?」

「不要じゃ」


 う~ん。ギルドにも利益を寄こせって話ではないの? 即答で断られたのだけど、なんで?


「えっと、薬師ギルドに依頼していた頃よりも、クロウや私が納品する方が利益でてますよね? 素材の用意が不要になったため、月500G以上の利益は最初から出てると思うので、その分ってことで定期契約できません?」

「定期契約はしよう。じゃが、お嬢ちゃん、この話をクロウにもグラノスにもしておらんな?」

「え?」


 していない。

 いや、正確には一応したのだけど、色々と忙しいこともあって、「詳細は任せる」ってことになっている。


 だけど、なんでそれがわかったんだろう。


「お嬢ちゃんもパメラと一緒で商才がないのう」

「……ギルドは得しているはずですけど」

「そうじゃな。よいか? 互いに利益を生み出すようにするべきであり、お嬢ちゃんの提案は治療した冒険者が増えれば増えるだけ、メディシーアが損をする。有事がそうそう起きるわけではないと考えているかもしれんが甘いぞ」

「そう、ですか?」

「パーティー単位での負傷の方が多い。1件で済まないと考えるべきじゃな。この地域ではベテランが多いからこそ、治療が必要になったときには国境山脈での事故の可能性も高い。継続依頼として、月1000G。治療が生じた場合には、治療費の1割を追加でギルドが支払おう」


 うん? 

 それすると、冒険者に対して値下げをしても、本来よりも多くのお金がこちらに入ってくることになるのだけど?


 さらに言えば、結構な額をギルドが負担することになる。


「きちんと利益を取らなくては、安いからと他の地域からも同じような依頼がくる。遠い分だけ、助かる見込みがない可能性も増える。はったりとして最初から高額請求をしておくんじゃな」

「ギルドの負担、厳しいのでは?」

「冒険者がきちんと治療をしなくては冒険者は減り、ギルドは立ちいかない。治療費の一部をギルドが負担する、その環境を作るだけでもこの地での活動を望む冒険者が増え、宣伝効果はある。さらに、お嬢ちゃん達のおかげで薬の在庫に心配はなく、費用も以前よりも抑えられていることもあり、そのくらいの費用負担は可能じゃ」

「私は駆け引き苦手なんで、何を企んでいるか教えてください」


 好条件過ぎると何か企んでると考えた方がいい。でも、その企みがわからない。


「善意じゃな」

「いや、それは無理がありすぎます」


 流石にこの狸爺が善意とか言ったら疑う。いや、協力者だし、悪い人だとは思っていないのだけど。


「嬢ちゃんがポーションなども作れることは、広まってきたのでな。錬金ギルド側も薬師ギルドのように依頼先の変更をされては困ると躍起になっている。薬師ギルドも体制が整いつつあり、依頼の半分は薬師ギルドに戻すようにと言ってきている」

「ん?」


 それって、こちらへの依頼が減るってことだよね。

 ギルド同士の連携も必要になるから断れないのに、高額を支払う継続依頼をするの?


「メディシーアでなく、お嬢ちゃんがこの契約を取りまとめた。ラズ様の専属薬師ではあるが、冒険者としての籍がある限りはお嬢ちゃんはこの継続依頼を受けることになる」

「はい」

「優秀な人材を確保し、冒険者ギルドとは円満な関係であることが他ギルドへの牽制ともなる。その対価としては些細な額じゃな」

「些細?」

「Aランクパーティーに指名依頼をする額を知っておるか?」

「え? いや、全然知らないです」

「では、Aランクパーティーが他地域の所属にならないように確保するための費用も知らぬな」


 知るわけがない。

 知ってるのは、冒険者ギルドが張るクエストにA級はないってこと。指名依頼をするので額とかは一切知らない。


「お嬢ちゃんの現等級では確保のための料金としては割高ではあるが、メディシーアを確保するなら安いのう。昇級が間に合っていないだけで、S級ヒーラーにS級アタッカー、A級タンクじゃからな」


 うん?

 タンクをナーガ君だとするとS級にはならない感じなの?


「ステータスの固さはあるが、技術が粗削りじゃからな。タンクとしてはまだまだじゃな。逆に、兄のアタッカー能力はレオニスと二人で2,000匹規模のスタンピードを壊滅させ、エンペラー1体、ナイト10体を討伐してるのでSじゃな」

「それって、レイド……大規模クエストでは?」

「そうじゃな」


 兄さんとレオニスさん、何やってるんだろ。

 まあ、昇級が間に合わなくても十分すぎるくらいの戦力だから、確保のためのお金は安いになるのか。


「契約書を用意し、近日中に開発地に伺おう」

「え? ギルド長が来るんですか?」

「久しぶりにパメラに会いたいのでな」


 そっちが目的か!

 いや、まあ、いいんだけどね。師匠を連れ出してしまったのは私の方だし、会いに来るのを止める気はない。


「お嬢ちゃんはもう少し金回りと利権について学び直すようにのう」

「……はい」


 貴族や商売人ならわかるけど……そっちの能力も伸ばさないとなのか?

 交渉人とか、代わりにやってくれる人を探した方が早いと思うのだけど。むしろ、そこを兄さんが担当してくれているのだから、今回も任せればよかった。


 次があればそうしよう。



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― 新着の感想 ―
~「話を聞こうかのう」 ~「マーレ所属の冒険者が魔物の毒で負傷した場合の解毒薬の調合依頼書を用意してもらえませんか?」 ~「……ふむ。話を聞こうかのう」 【話を聞こうかのう】 大事なことなので二回?
直感って曖昧だから観察力や考察の技量とかないと普段は使いづらいだろうなあ。0か100の判断の時もありそう。戦闘時の方が便利に使えるのかな。
直感さんはお説教を回避するまでは面倒見てくれないか
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