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5ー15.チビドラゴンと今後の予定


 捕まえたドラゴンを連れて、農具を仕舞っている小屋に移動をした。

 大工さん達に見られてしまうと色々と面倒な可能性があるからね。


 大工さん達の他は信頼する人しかいないけれどね。どうせ貴族は大工さん達にここで何を作ったかとか、聴取すると思うんだよね。

 その時にドラゴンの話が伝わってしまう。結構まずい気がしている。だから、他には見えない場所ということで移動したのだけど……。


「聞きたいことがあるんだけど」

「……」


 檻にいる小さなドラゴンに話しかけるが、何も答えない。先ほど言葉を発したのに、今は黙り込んでいる。


「……さっき、喋れたよね?」

「こいつは話せるのかい?」

「多分? さっき墜落したときに聞いたことない声が聞こえたから」 

「……」


 兄さんがおもしろそうにこちらに確認する。ドラゴンは何も言わずに体勢を変えて、おしりをこちらに向けてだんまりを決め込む。


「ティガさん……」

「すまない、あの時は耳がやられていたからね」


 ティガさんは耳をやられていたせいで聞こえていなかったらしい。まあ、咆哮でだいぶダメージもらっていたから仕方ない。


「だんまりだなぁ」

「そのようだね」

「喋れるよね? オリーブ、どう思う?」

「しゃ~」


 私以外に声を聞き取れていたとしたら、オリーブくらいだから聞いてみると、オリーブも頷きを返した。このドラゴンは人の言葉を話せる。

 おそらく、檻に入れられたのが不満だから話さないだけだろう。


「兄さん、その檻を貸してくれる?」

「ああ、どうするんだ?」


 ゆっくりと餌をあげたりして手懐けてもいいのだけど、このドラゴンが大工の人達とかに見つかっても厄介。できれば手短にすませたい。


 仕方ないので、檻を手に持って、左右上下に揺らしたり、回転させる。

 手荒な方法になるけど、物理解決。どうせドラゴンだから、檻にぶつかる程度は痛くないだろう。


 しばらく、頭を檻にぶつけるように振り続ける。


「ヤメルでち~!」

「おっ、本当に喋ったな」

「止めてほしいなら、なんでここを襲ったのか教えて」

「ワかっタでち~、ヤメルでち~!」


 ドラゴンの檻を机に戻して、こちらの質問への返事を待つ。

 こちらが知りたいのはここを襲ってきた理由。いずれは話し合いの場をもつにしても、思ったよりも早かった上に……へぼドラゴンだったから、脅威がなかった。


「随分と焦っているようだけど、何かあるのかな?」

「何もないといいんですけどね……どう思う、兄さん?」

「カイアからの情報を信じるなら、大工の中に貴族の受注が多い奴がいるな。まあ、隠したところでドラゴンとワイバーンの情報は洩れるだろ」

「本当に、君たちは貴族から離れられないね」


 ティガさんが少々呆れたように言っているけど、どうしても注目を浴びている状態だからね。人畜無害だとわかってもらえればこちらへの警戒も減ると思うのだけどね。


 現状は、監視対象から外れることはないのだろうと思うけど、いずれは減っていく。


「無理だろう」

「無理だなぁ」


 私の希望ははっきりと否定された。思っているだけで、今は時期的にダメだろうと私だってわかっているけど。そこまではっきり否定しなくてもよいと思う。


 大人しく引き籠っていればこちらへの興味を無くす可能性もあった。でも、薬の素材がない状態を放置できなくなった。


 結果、注目を増やしてしまった。


「さっさと話を聞いて、解放しないと面倒になるよね?」

「いないものはいないですませた方がいいだろうな。そういうことだ、さっさと俺らの知りたいことを教えてくれるかい?」


 兄さんが手加減なしの殺気をドラゴンにむけると、途端に勢いを無くしたドラゴンは何でも話すと言い出した。


「他のドラゴンはどうした? さっさと答えろ」

「ワカッタでち~……ミンナ、ヨウスミするってイッテタでち」

「ふむ。なら、君が様子見をしなかった理由は?」

「……光焔様のカタキでち……」


 話を聞いたところ、今回の異邦人が大量にこの地に来る前に、1体のドラゴンが亡くなっていたという。膨大な力を狭間から感知したらしく、それを止めるために狭間に入っていき、そのまま帰ってこなかったらしい。


 ドラゴンの長の一人で、火のドラゴンだったらしい。

 ドラゴン達は個体数も少なく、この緑色のドラゴンは一族の末っ子で可愛がってもらっていた。結果、原因の異邦人を皆殺しにしたいらしい。


「いや、皆殺しって……悪魔や天使を狙ってるという話はどこにいった?」

「シラナイでち。アツマッテル、イチバンちかイでち」


 どうやら異邦人が集まっているのはここが一番近かったらしい。

 しかし、ドラゴンって異邦人か否かもわかるのだろうか?


「シラナイでち! ミナゴロシでち」


 単純に人がいるところならどこでもよかったとなると……その次に近いのはマーレスタットになる。実は危なかったのかもしれない。


「どうするんだ?」

「う~ん。ドラゴンの長に伝言を頼める?」

「イヤでち! ミナゴロシスルでち」

「君一匹では出来なかったでしょ? ドラゴンの長に、話し合いの場を持ちたいから今度お伺いしますって伝えてほしい」

「オウカガイでち?」

「君がいるのはここから近いのが山脈の奥にいる風の長だよね? そこに私達が行くってこと」

「ワカッタでち! オマエタチがクルから、ミンナでタオセバいいでちね?」

「ああ、うん。話し合いたいって伝えてね? こちらは情報も欲しいから」


 あほのドラゴンだということはわかったけど、伝言役として使えるだろうか? 


「やれやれ。ちっこいの、こいつを一緒に持って行ってくれ。老水竜、ヤトノカミの友人として、ドラゴンの長に話がしたい、その証左だ」


 クロウがドラゴンを檻から出して、ドラゴンの首に鱗のネックレスをかける。


「ヤトノカミ? ワカッタでち、ユウジンとして長にワタチテオケばイイでちね? マカセルでち」


 クロウの目の前に飛んでうんうんと頷いている。

 そういえば、その鱗はナーガ君達も持ってたな。どういう価値があるかわからないけれど、なぜかクロウの言うことは聞くらしい。


「なんで?」

「この鱗の持ち主が、その長達よりも長生きだからだろ。ほら、暗くなる前に帰った、帰った」

「あ、まって……光回復〈ヒール〉。これで怪我治ったでしょ? ちゃんと伝言おねがいね」

「シカタナイでち!」


 クロウが窓を開けて、ドラゴンを外に行くように合図をする。ドラゴンはパタパタっと部屋を周回した後、窓から飛び出していった。



「ドラゴンとの接触もうまくいきそうだね」

「ティガさん……そうだといいですけどね。身動き取れなくなる前になんとかしたいところです」

「だが、下手するとドラゴンが勢ぞろいで戦闘になりそうだがな」


 うん。確かに、兄さんのいう可能性もある。

 あほの仔だったからね、あのドラゴン。


 元々は水のドラゴンに会いに行こうと思っていたのだけど、風のドラゴンか。情報は無いけれど、約束したからには行くしかない。



「どうした?」

「ううん。とりあえず、ドラゴンのことは次の動きがあるまで置いておくね。先に、直近で起こる面倒事を伝えます。ナーガ君達にも伝えますが、先に意見を聞いておきたいのでこのまま少しいいですか?」

「はぁ……あんたがいると休む暇もないなぁ」

「力になれることがあるといいのだけどね」


 私が3人に向き直って、ゆっくりと意図が伝わるように重々しく真剣な表情を作って言う。三人も口調とは別に真剣な顔が返ってきた。

 兄さんはある程度知っているのだろうけど、私がラズ様から聞いた情報を共有しておく。


「帝国の異邦人の殲滅作戦が7の月に起こります。あと1か月程度です。殲滅する側もされる側も異邦人です」

「わたし達はどうなるのかな?」

「私はその作戦に必要になるポーションを大量作成し、売ります。物資補給を……戦争行為に加担することになります。他の人を巻き込むつもりは無いので、これらはクロウや兄さんには頼みません。ただ……普段の調合作業は頼むことになるかな」

「まあ、それはかまわないけどなぁ……戦争かぁ」

「それが身の保障をする代償ということかな?」

「……いえ。ただ、少なくとも私は王弟派の命令で動きますが、メディシーアを王家が切り捨てるまでがすでに出来上がったシナリオみたいです。帝国の件が片付いた後、国王派と王弟派での政争が起こります。おそらく、表向きに焦点となるのが異邦人への扱い……」


 私が使えること、それが異邦人を生かす道に繋がる。そのための布石として、協力していたという実績を作る。

 異邦人を殲滅して数を減らした後に、有用だったのにという流れにする。

 王国の異邦人が減り、帝国の異邦人がいなくなっても、共和国にはまだ奴隷となった異邦人がいる。


 これで共和国から攻められれば、王国の国力低下が目に見えている。実際に攻め込まれることはなくても、政治的手腕を問われるのだろう。

 王家の政策を問う。そのための手駒が私達だと思う。まあ、裏側は呪いの件とかがあるから、王家が詰んでるので……あくまでも平民や他国向けの理由だけどね。


「本当かな?」


 ティガさんの言葉には棘を感じた。他にも何かあるだろうということだけど……。


「俺の方で聞いているのも、似たようなもんだな。共和国側も一応参加するらしいが、下手すれば漁夫の利を狙う国だからな。国防側にかなり力を入れるため、ほぼ異邦人だけで戦わせるらしいな」

「随分と思い切ったなぁ……実際、上手くいくのか?」

「セティコ達の話を聞いたところ、すでに一度死んで、ユニークスキルを持たなくなった異邦人が大半だ。一部……数人だけが強い。他は現地の人間と変わらない成長率になった状態で、そこまでレベルもない。普通に王国側の異邦人が訓練して育っていれば負けはしないだろうな。……たかだか半年で、人を殺せる職業軍人になっているならな」


 実戦経験は帝国側、実力は王国側だろう。人数、物資から王国側が負けるはずはない。何事もなければ……。


 だけど、ぬくぬくと王都で庇護されていただけの普通の人が、いきなり人を殺せ、殲滅しろ言われて出来るとは思えない。


「つまり、初めての戦場、混乱で犠牲になることが前提だね」

「すでに、使い勝手がいい人、又は、このままだとまずいと動き出した人は、帝国に派遣しないために選別されています」

「仮に、帝国側が全員投降したとしても、おそらく王国側はいらないと判断した異邦人はそのまま帝国の復興のためにと言って押し付けるだろう。扱いに困るからな。この前、帝国内を確認したがかなり魔物の被害が広がってるからな。……俺らはここで引き籠りになるがな」


 戦いに参加することはない。保護したりもすることはない。

 ただ、結果だけを待つ。その後に、貴族の思惑により利用される。


「政争自体は、もっと深い禍根がある。理由は知らん方がいい」

「君は知っているということだね?」

「やめとけ。どっちにしろ、すでに貴族から王への信頼は崩れた。民にわかりやすくするために異邦人を利用するだけだ」


 兄さんは王弟派が勝つのを確信している。私もその通りだと思っている。

 王都で色々と騒ぎが起こっているとは聞いたけど……。まあ、政争の話を聞いた時に危険を感じなかったから、準備万端な王弟派が政権を取るとは思う。


 ただ、簡単に「譲って」、「はい、どうぞ」にはならないからね。一つ一つ、相手を攻めるカードを増やしている段階のように感じている。


「ここの人員を増やすことは?」

「今後はクレインが拾ってきたときに限るだろうな。俺が拾ってきた奴らがどうなったかはわかっているだろ?」

「私はティガさんが人を増やしたいというのであれば、反対しないです。先日のように問題が起きないことが前提ですけど。もし、帝国側に忍び込んで、保護することを希望する場合も……判断は任せます」


 内心で嫌だと思っていようと、表面上に出てこないなら問題もないと思っている。ただし、貴族のひも付きは困る。何でもかんでも情報が流れる状況はお断りしたい。


 特に、ルストさんが意外と顔がバレていて、帝国側から恨まれているからね……ギスギスするのは出来れば避けたい。


「帝国からは考えていないよ。大工の一部と冒険者の一部から移住の希望があったのだけど、どうなるのかな?」

「難しいですね。まず、ここは領地ではないのが少々……。ここでの収入に対する税金の計算がすごくややこしくなるというか……ぶっちゃけ、私達と師匠とレオニスさん、ディアナさんくらいなら何とでもなるんです。レオニスさんはギルドでの収入がありますけど、他は冒険者収入とメディシーアの薬などの収入の管理はそこまで難しくない。自分たちの自給自足用の作物とかは研究用でなんとでもなります。ただ、ここに暮らす人口を増やすとなると……」


 大工さんはまだいい。建築中の間はいくらでも誤魔化せる。迎賓館は時間をかけて作る方が貴族の受けもいいだろうしね。問題がなければ、一年くらいなら常駐してもらってもかまわない。


 冒険者を中に住ませるとなると話が変わってくる。門の外の宿に泊まる分には、別会計扱いで宿と食事代を取って、それをそのまま申告する形にすればいい。


「ティガ。移住希望者については、しばらく待つように言ってくれ。大工は建築中は留まることになるだろうし、外の宿が出来たなら冒険者がそこに泊まるのも問題ない。ただ、中に移住となると少々面倒だ。どうせ、落ち着いたらここに監査官が置かれるようになる。その後なら問題ない」


 あれ? 監査官をこの地に置くのは確定なのか。兄さんの言葉にちらっと視線を送るとにっと唇の端を上げて笑いが返ってきた。


 ラズ様から何も聞いていないから、王弟殿下からの指示が入っているということかな。


「それは確定かな?」

「ああ。後で時間を取る。君にはここの土地の管理を任せるから、きちんと説明をさせてくれ」

「わかったよ」


 ここで話をしてくれてもいいのだけど、兄さんは話す気が無いらしい。ティガさんと二人で打ち合わせをするみたいなので任せよう。


「確認だけれど、ここの統治者は誰になっているのかな?」

「保留中だ。それも後でな」


 私に知らせたくないってことだ。クロウもやれやれという表情をしている。


「7の月に世情が動くことは理解したがなぁ。俺らの今後の方針はないのか?」

「当分はないよ。あ、クロウは私の助手として調合作業を手伝ってもらうことになるけど……錬金も調合も材料は足りているから問題ない。基本的には生産作業ばっかりかな」

「若者組がダンジョンに潜るのであれば、ルナとリュンヌとルストは鍛えるために連れて行くかを検討する。レベル50あれば何かあっても対処可能だろうからな」

「それは本人達次第だね。邪魔をするつもりはないよ」


 うん。でも、ルストさんは鍛えた方がいい。ドラゴンのところに一緒に行くと希望しているから、若者組に預けてパワーレベリングは必須だと思う。

 まあ、キノコの森ダンジョンに入る要件満たさないから、レベリングするには微妙ではあるけど。



「やれやれ……来月以降は面倒が減るといいがなぁ」

「いや。むしろ、帝国側が落ち着いたらドラゴンのところに行くからね?」

「俺はパスでいいんだろう?」

「うん。クロウは置いてくよ。何かあったときに困るでしょ」


 緊急の調合とかがないとも限らないから、留守番は任せられるのは大きいからね。今後とも色々とお願いしたいところではある。


 とりあえず、できることはやっておくのが一番だよね。


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