5-13.開拓地に帰還
マーレスタットでラズ様に報告をしてから、開拓地に戻った。
一週間ほど離れていたのだけど、順調に建物が出来上がっている。
でも、大工の人数が少し減ったかな? 基本的には必要な建物が揃ってきたので、十分かな。
あと欲しい建物は、秋までに粉ひきのための水車くらいかな。まだ、出来ていない迎賓館とかもあるけれどね。
「なんか、すごい大きい門に立派な家も出来てる! あの家で寝れる?」
「ほんとだ、すごいね。2か月弱でここまで出来るんだね」
「……ああ」
ナーガ君、レウス、アルス君が門や迎賓館、宿に感激をしている。だけど、そっちはお客様用で使わないからね? 君たちにはちゃんと家が用意されている。
「今のとこ、クロウとティガさんとルストさん、レウス、アルス君の5人で家を用意しているけど、どうする?」
「え~アルスと二人がいい」
「まあ、二人用に家を作ってもいいけどさ。二人とも留守の期間が長くなることを考えると、家の換気とかしておいた方がいいから、ティガさんが住んでた方が楽だと思うよ? それに、ティガさんが住むからちゃんと他の家よりも防音しっかりしてるから」
本人の希望でもあるけど、盗み聞きとかが出来ないようにはしている。まあ、家の中での声が聞こえにくいので、住みやすいかは不明。
「他の家だと筒抜け?」
「正直、どこまで聞き分けてるかわかんないしね。まあ、こういう外だと丸聞こえかもね。人が少ないし」
「なんだか、疲れそうだよね」
「アルス……疲れるって、なんだよ」
「まあ、俺も昼と夜で見える視力が段違いだから結構疲れるからな……あの能力は使い勝手悪いだろうな」
兄さん、ティガさんが聞いているのを承知でそういうことを言わなくても。
まあ、使い勝手が悪いのは間違いないよね。
レウス達が騒いでいると、気付いた大工さんが近付いてきた。
「おっ、帰ってきたのか」
「おう、カーペンター殿。どうだい、進捗は?」
「順調だ。一部の大工連中は次の仕事もあって、帰ったがな。すまんな」
ちょうどいいところに通りかかった大工の棟梁が声をかけてきた。大工のまとめ役もしてくれている。帰った人達に払った給料などを報告してくれた。
「いえ、2か月近くも作業をしてもらっていますから。あの、きちんとお支払い足りています?」
「十分、十分。そもそも、材料の木や石は用意してもらってるからな。予算としてはかなり余裕があるからな」
前金とは別にお金をお支払いしているが、ちゃんと行き届いているらしい。日当いくらかとか聞いてないけど……不満はないらしい。
ただ、一部の人達が木材とか石材を持ち帰ったりしているらしい。
一応、売買と言う形を取ったらしい。余っているからいいんだけど、薬以外の収支とかの報告は面倒なんだけどな。
「でな、嬢ちゃんには頼みがあってな。また、魔法でレンガ作ってくれないか?」
「わかりました。明日、作業しますね」
一瞬、私がいない間にレンガを持ち帰ったのかと思ったけど、レンガを使用した建物を増やしたらしい。それなら用意するのは構わない。
できれば、定期的に購入させて欲しいとのお願いがあったけど、それは保留させてもらう。余った場合は売るのは構わないけど。
レンガは材料を混ぜて型に入れて乾燥させた後に焼く。そんなに難しいものではない。乾燥を魔法でできるから、自然に作るのよりも品質が均等に作れるので好評なだけだ。時間があるときなら作るのは構わないので、棟梁とかが顔出してくれるならお土産に作るくらいはしてもいい。
一応、魔法なしでも作れるように乾燥させるための小屋とか、焼くための窯も立派な物を作ってくれているけどね。ちなみに、兄さんが頼んで料理用の小さい窯もあり、こっちはピザ作るとか、すごく重宝している。
「クレインさん! 良かった!! 話があるの!」
話しているところで、ルナさんが慌てたように走ってきた。その瞬間、あ、やばいと気付いた。
厄介事の発生を感じ取ってしまった。
「棟梁。すみません。今日は早めに切り上げてもらってもいいですか?」
「おう? なんか、あったか?」
「ちょっと騒がしくなるかもしれないので……久しぶりの兄さんの手料理食べれるので、今日の午後は休みにして、ゆっくりしてください」
「そうか、んじゃ。今日はさっさと切り上げとくな」
詳細は棟梁さんが他の大工さんに指示を出している。まだ昼前なので、昼には終わらせるように伝えて、他の人達も従ってくれた。
「クレインさん! まずいの、どうしよう!?」
「あ、やっぱり……じゃあ、ちょっと部屋で話そうか。兄さん、お昼ごはんとか頼んでもいい?」
「さっき棟梁に俺の食事だと言って、早く終わらせるようにしただろう。……厄介ごとかい?」
「多分ね。でも、昼過ぎになると思うからあとで相談する」
私を呼びに来たルナさんもこくこくと頷いている。嫌な感じは昼過ぎで当りらしい。
ナーガ君達には女同士での秘密ということにして自室に案内する。
「ごめん、その……予知夢で」
「落ち着いて。何となく、何かありそうだなって感じてるから」
「え? あ、そっか。そんなにわかるんだ?」
「多分? 危険なときなら、何となくね」
「そう! 危ないんだけど、どうすればいい!?」
ルナさんが見たのは、ドラゴンがこの地に空から襲ってくる光景だったらしい。そして、私と兄さんにナーガ君達が戦っている姿だったという。
「覚えていること、教えてくれる?」
「えっと、本当に一瞬しか見れなくて……緑色のドラゴンが北側の山脈側から飛んできて、後ろからなんかわらわらと影が見えた。はっきり見えたのはドラゴンで、後ろのはわからない……形が違うようにも見えたかな。地面にいたのはグラノスさんにレウスはいたかな。えっと、シマ君とキャロちゃんロットちゃんもいて、その近くに人影はあったけど、誰かわからなくて太陽の角度から、3時くらいの時間帯かな」
兄さんとレウスがいた。つまり、帰ってきたらすぐに報告しないといけないと思ったらしい。
場所は牧舎付近なのがわかっている。ドラゴンか……こっちが行く前に来ちゃった。でも、チャンスでもあるかな。
「他に人いた?」
「えっと……その、見えた画面内にはいなかったんだけど、日にちも経って、朝、不安だったから、レオニスをちらちら見てたら、その……今日はここに残ってくれていて。でも、ほら……そのせいで、未来変わったらとか考えちゃって」
どうやら、襲ってくる場面が見えただけで、その後の被害とかは一切わからないらしい。
予知夢はだいたい2、3日以内に起きるため、見てから3日目の今日は不安だったという。そして、先ほど私達が帰ってきたと聞いて、確信して、慌てて伝えに来た。
私達が帰ってきていないこともあって、戦力になる人に残ってもらうというのは良い判断だと思う。
「多分、危険はあるけど、命が危ない状態にはならないと思う。任せてほしい」
「うん、あの……手伝うことある?」
「う~ん。ドラゴンを予知夢で見て、どう思った?」
「怖かった……だって、あんなのが空から襲ってくるなんて、無理って……」
「じゃあ、戦闘に参加しない方がいいかな。統率が取れなくなると困るからね。……師匠の側にいてほしい。何もないように対処するから」
「……わかった。おばあちゃんのとこいる。何かあれば、絶対守るね」
「ありがとう。心配しないでも大丈夫だよ、レオニスさんもいるなら十分すぎるほど戦力は足りてるから」
準備をするにしても、なんか気になるんだよね。
緑色のドラゴンと後ろから見える大きな影か。
でも、ドラゴンより影の方が気になるのはなんだろう。倒しちゃいけない気がする……。
いや、ドラゴンも討伐するのはまずいかな。交渉するにあたって、生け捕りするなら大変かもしれない。
「えっと、予知夢はいつ現れるかわからないんだよね?」
「うん。最近は写真みたいに、その場面が一瞬浮かぶだけ。でも、天気予報はわりとできるようになったかな」
「あ、そうなんだ?」
「天気予報をしてたら、結構、安定して使えるようになった。ただ予知夢は望む場面ではない感じ。あと、結構外れる」
うん? 外れるんだ?
少しずつ使えるようになっているけど、外れやすいってことは精度が下がったのかな。
「危険な能力だとも思うから、ばれないようにね……でも、そんなに外れるの?」
「同じ目に合わないように気を付けるだけで簡単に外れるかな。見えたのがうさちゃんがぶつかってくるシーンだったけど、実際は、タイミングわかってたから、避けて……バランス崩したせいで田んぼに倒れ込む大惨事になったかな……泥だらけで大変だったから、ぶつかった方がまだよかった」
やっぱり、結構簡単に予知を変えられるんだ。う~ん。
そして、スフィノ君のウサギたちも牧場から脱走してるなら注意しないとだね。
「他は上手くいっている? しばらく、留守にしていたけど、困ったこととか」
「う~ん。特にないよ。クロウさんは我関せずって感じで、実は一番程よい距離感かな。女苦手ってはっきりと言われてるもん。こっちも用がないと話さないけど、気を使って言わなくても手伝ってくれるのはありがたいかな。おばあちゃんを大切にしてるってのはわかるし、最近は私もおばあちゃんに相談したりで、話さないこともないかな」
師匠に肥料の相談とかをしていると、クロウが作るから自然と仲良くなったらしい。リュンヌさんとクロウはお互いに一切会話しないらしい。
「ティガさんはね、困ってると現れて手伝ってくれるよ。力仕事が必要だったり、手が足りないときににゅって出てくるの」
「ああ、うん……」
「優しいし、助かってるけどリュンヌは嫌ってる」
「むしろ、リュンヌさんの男嫌いも相当だよね?」
「ティガさんは嫌いみたい。でも、私は助かってるよ」
ティガさんは普段はスフィノ君を手伝ったり、大工さんの方を手伝ったりと色々なとこでお手伝いをしつつ、足りない物がないかなど、チェックしてくれているらしい。
そして、多分、ルナさんが口に出すのが聞こえるので、助けに行ってるんだろうな。
思ったよりも、上手くやってるのかな。
「じゃあ、困ってはない?」
「ルストさんがわかんないかな……何考えてるんだろ?」
「私もあんまり話したことないけど。たぶん、元からあんな人だと思うよ? 色々考えて行動もしているっぽいけど、真意を読ませてくれないかな」
「なんで、妹にしたいとかわからないんだけど」
「ルストさんも悪魔の力使えるから、ルナさんのことも心配なんだと思う。たぶん、言わないけど、帝国の滅亡のきっかけは彼だから。その能力が使い熟せないことも気にしている」
悪魔族、黒の神の存在に対しては説明をしたときに嫌そうに眉間に皺を寄せていたから、ルストさんも困っていたのだろう。
自分の体が勝手に使われてしまうというのは、私だったら恐怖でしかない。ルナさんは体を乗っ取られるよりも、嫌な場面を延々と見せられたことを怖がっているけど……その気になれば、二人とも、今すぐにでも封印は解けるんだよね。
帝国のこと、自分のせいじゃないと言って欲しかったんだと思うけど。実際、自分のせいだったわけだしね。彼なりの葛藤があり、同じ立場のルナさんが気になるんだろうな。
「そうだ。追い出した人達、ばらばらにだったけど、こっちに顔出してたけど、いいの?」
「顔見知りの冒険者の方たちが引き取ってくれたからね……気になるなら、こっちの区域には入らないように言っておくね」
「クレインさんに話があるって、みんな言ってたよ。ティガさんが話を聞くと言って、要求は全部突っぱねてたけど……大丈夫?」
彼らが何かできるかというとできない。
ジュードさん達もだけど、こちらに入れる冒険者の人達が引き取ってくれたから、入っては来れるんだよね。
「自分の要求が通らないことを学んで、真っ当な道に戻れるようになればいいけどね。不満があるから暴力で解決しようとしたわけだし、一人追放よりも全員追い出した方があと腐れない……恨まれても、私なら逃げられるしね」
「……私、あいつら嫌いだった。リュンヌもね。女って、馬鹿にしてる感じがしたの。リュンヌを性的な目で見てたし」
「私としては、リュンヌさんの恰好は男性からそう見られても仕方ないと思うよ? 似合ってるけど、女の私でも気になる」
むちむちのスタイルを惜しげもなく晒しているのだから、そう見られるくらいはわかっていると思う。ただ、何となくだけどそうすることでルナさんを守ってるようにも見えるんだよね。
依存しているようにも見えてしまうので、そのうちゆっくりと話を聞いた方がいいかなと思う。
「ティガさんとかはそんな風に見てないけど?」
「クロウとティガさんはそれなりに落ち着いた年齢だからじゃない? ナーガ君達は刺激が強すぎないか心配なんだけど」
「あの3人はこっちに興味無さそう」
「……うん。失礼なこととか、何かあれば仲裁するから言って。ちゃんと責任持つから」
基本的にはティガさんに任せているけど、ここにいるときくらいはちゃんと対応をするつもりではいる。ナーガ君が魔物を拾ってくるのに文句を言った手前、私も自分がしたことに責任を持つ必要があるからね。
「じゃあ、私は兄さんの手伝いに行ってくるね」
「今日のご飯なに?」
「楽しみにしていいよ。沢山作るから、おかわりも出来るようにするよ」
王弟殿下からあり得ないくらいの報酬を貰ったからね。
お金に余裕が出来て、スパイスを大量に買い込んだ兄さんお手製カレーの予定。
高額でも、やっぱりたまに食べたくなるんだよね。
今ならお金も十分すぎるほどあるから、これくらいの贅沢は許されるはず。でも、あとで税金がどうなるのかは調べておこう。
「なになに?」
「カレー。お米も用意してある」
「カレー!? ほんと!? 楽しみにしてる!」
ルナさんが笑顔で部屋を出ていくのに続いて、作業場の方へと向かう。師匠に挨拶してから、兄さんのところに行こう。




