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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第五章

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5-4.先輩冒険者


 人が増え、開拓が進み始め、一週間が経過した夜。


 自分達が住む予定の家と、簡易の寝泊り用の宿がとりあえずできた。大工さんが多いので建築を同時作業で進めてるから、だいぶペースは速い。


 家は、私達とルナさん達の2棟だけで、数は足りてないけど……それでも、テントよりもずっといい。

 クロウ達の方が先かなと思ったけど、女・子供優先でいいと3人とも譲った。ただ、あと2棟も建て始めてるので、そんなに時間は掛からないはず。


 簡易ではあるけど、寝泊りできる場所ができたことを祝って、今夜は宴会のようになり、酔っ払いたちが騒いでる。


 私もこういう雰囲気が苦手なのと、師匠が少し体調を悪くしていたから抜け出して、新築の家に戻った。

 まだ、外側ができただけで、もう少し中を整備するため、大きな家具とかは入れてない。師匠の部屋になる部屋に布団を敷く。


「すまないね……あんたはもう少し楽しんできな」

「師匠。気にしないでください。私はああいう雰囲気はあまり得意じゃないので……畑の様子も気になるから散歩してきます」


 師匠が寝る邪魔をしたいわけではないので、部屋に送った後は、モモを連れて牧場の方へ向かう。



 開拓地は畑と田んぼも形になってきている。田んぼはまだ苗をプランターで育てている状態なので、水を張って放置。

 畑は、麦に芋、トウモロコシを植えてみた。トマトとかかぼちゃとかの野菜も育ててみたいのだけど、いきなり出来るかわからないのでね。まずは、簡単そうな野菜からということで、農業を始めた。


 夜だし、確認はできないけど、早いものだと芽が出始めていたりする。

 


 夏までにもっと畑の場所は増やしておこうと思いつつ見回りをしていたら、目のまえに人が現れ、道を塞がれてしまった。



「……何か用ですか?」

「ああ、頼みがあってな。お前は頷けばいい、簡単だろ?」

「兄さんに言ってください。あなた方の世話は兄がします」


 私は関係ないと言ってその場を離れようとしたが、腕を掴まれてしまった。


 相手はラウネンさん。4人の中でも一番話をしたことがない。この人は気まぐれで、作業中にもその場から離れてさぼりではないけど、勝手な動きをしていることは知っている。


 その時に、こちらの様子を窺うように見ていることも……。彼が何を望んでいるのかも何となくわかっている。


「何もないまま、この場を去ってくれないかな? 話を聞きたくないんだけど」

「断る」


 話をしたくないと言ったけど、こちらの要望を聞くつもりはないらしい。


「オレはあいつを許せない。なあ、頷いてくれよ。お前があいつを追放すると決めればグラノスもティガも認めるってのは、わかってるんだ! 簡単なことだろう、頷けばいい、それだけだ!」

「……はぁ……」


 不和は見えていたけど、それを心の内に秘めてくれたら……少しずつ、ルストさんを知り、穏便にしてくれるなら可能性はあったのだけど。


「私はルストさんを選ぶよ」

「はぁ!?」


 彼らとルストさん、私が選ぶのは決まっていた。

 自分を傷つけた人でも、側に置くほど、彼は必要な人材だと判断している。


「もう一度言うよ……私がルストさんに助力を頼んでいるから、彼はここにいる……いらないのは君たちだよ」

「ふざけんなっ!」


 掴んでいた私の腕を捻り上げようとした瞬間、足払いして相手を転ばせる。驚いて手が離れたら、勢いよく蹴り飛ばして距離を取り、すぐにでも魔法を唱えられるよう、魔力を集中させておく。


 レベルが違う。

 体術の技能アビリティはちゃんと育てている。


 魔法無し、武器無しだと、攻撃力で圧倒して倒すのは難しくても、単純な組手であれば負けるわけない。それくらいは鍛えてる。

 兄さんとレオニスさんだと相手にならないから、その二人を除いてだけどね。


「なっ!? お、女のくせに! 言うことを聞け!」


 倒れたまま、こちらを怒鳴ってくる。

 別に怖くはないけど……まずいな。こっちに近づいてくる人がいる。



「そこまでだ」

「ジュードさん……」


 こちらを睨んだままラウネンさんが立ち上がった瞬間、ジュードさんとその仲間が私と彼の間に入った。


「知ってるか? 犯罪奴隷が主に暴力を振るおうとしたらただじゃすまないぞ」

「……ジュードさん。主側が奴隷に暴力を振るっただけですよ。見てましたよね?」

「勝手なこと言ってんな。わかってんだろうが」


 私に蹴り飛ばされただけで、彼から攻撃なんて受けてない。そう主張したけど、やれやれと首を振られてしまった。


「少しおチビと話す。こいつは連れて行ってくれ」


 ジュードさんの仲間がラウネンさんを連れて行き、ジュードさんと二人になってしまった。

 犯罪奴隷が主に暴力を振るうことは許されない。場合によっては処分されることもあると知っている。


「おチビ」

「わかってますよ、どうなるか。だから、庇うことを許してくれませんか?」

「俺は事情なんて知らねぇ。レオさんや兄貴の方が何であいつらを連れてきたのか、お前があのぽやぽやを庇うかもわからねぇ。だがな、奴隷が手を出したのを見た以上、口を出させてもらう」

「見逃してほしいんですけど、ダメですか」

「甘いこといってんじゃねぇよ。いつまで半人前でいるつもりだ?」


 ジュードさんに対し、頭を下げつつ、隣に座るよう促す。

 たくっと言いながら横に座ったジュードさんへ、水筒を取り出して温かいお茶を渡す。


「レオさんにも信頼できないならパーティー組むなって言われただろ。ここで一緒に暮らせないことは、すでにわかってるだろうが」

「いや、レオニスさんも彼らを組み込むことになった一因ですよ」

「ああ、聞いてる。おチビ、あの4人とぽや男は無理だろ。どっちを取るんだ?」

「ぽや男って……ジュードさんは何でここに?」

「あいつがお前のあとを追っていたからだ」


 う~ん。しっかりやり返したから、許して欲しかったけど……甘いか。

 暴力を奴隷側が振るうのはまずい。やり返したけど、あちらから仕掛けてきたところも見られてるので、何も言えない。


「心配させました?」

「いや、全然。まあ、強くなったなとは思ったがな」


 頭にぐりぐりとげんこつで刺激がきた。

 一部始終を見ていたなら、わかるだろう。もう、半人前の実力ではなくなっている。でも、ずっと変わらず後輩として私に接してくれている。



「おチビ。俺はな、異邦人は嫌いだ。なんでだと思う?」

「……自分勝手だから」

「それも間違ってないけどな。一番嫌なのは、人が努力しているのをあっさり超えていくからだ」

「……はい」



 それを言われてしまうと、なんて返していいかわからない。

 ジュードさんは最初の頃からお説教が多かったけど、世話も焼いてくれた人だ。先輩として慕ってる。

 だけど、すでに、私とジュードさんの実力差はない。4か月経たない短い間で、彼に追いついてしまった。


 そもそも、兄さんとナーガ君はスタンピード前から同格だった。持ってる下地が違う……魔法、スキル、アビリティをレベル1から持っている恩恵は、ステータスの上がり方に反映される。


 私もそれなりに強くなったと思う。


「はっきり嫌いって言われると……結構、くるものがあります」

「恵まれた才能があるくせに、勝手なことばかり。努力して認められようなんて考えもせずに口だけは達者でな。俺だけじゃなく、みんな内心そう思ってる」

「はい……だから、嫌いなんですね」

「当り前だ。俺らがどんだけ振り回されたか、わかるか? お前は我関せずで雑草を引き抜いて遊んでいたが、その間、俺らはセージの葉の調査をしながら、やらかす異邦人を見張って物理で止めたり、報告書を作ったりと奔走してたんだ。わかるか!?」

「えっと、お疲れ様です……あの、雑草を引き抜いて遊んでいたわけではなくてですね」


 いや、まあ……レオニスさんも忙しそうな時期だったし、微妙に愚痴は聞いたからね、知ってます。

 私は異邦人が色々やらかすのをわかってたから、全く関わらないスタンスだった。


 そして、雑草というか百々草を採取して、調合していたのであって遊んでいたわけではないけど……。その間に、冒険者ギルドの依頼で色々調べて、多忙を極めていた人達だもんね。お疲れ様です。


「当時のことを知らない奴らが、勝手に異邦人の噂を振りまいて、好き勝手に言う。被害を受けた奴が言うならいい、だがな、いなかっただろうが! 何も知らないくせに、さも、お前が悪いと吹聴するのは許せん」

「えっと……ジュードさん?」

「異邦人が嫌いだ。俺もそれはわかる。迷惑を被ったからな。だがな、そいつらが、お前のことを何も知らずに批判するのは我慢できん。おチビが何かしたか? 薬が足りない冒険者のために頑張って調合してくれただけだ。そこかしこで嬉しそうに雑草を抜いてまわってる奇行くらいで、迷惑かけたことはない」


 奇行……。


 異議あり!

 みんなが雑草と思っている草でも、薬師にとっては素材なんだよ! 奇行じゃないから! 


 悪い噂の根源がそこなら、異議を申したい。それに人目がないところでやってたはずなんだけど。


「だいたい、お前もお前だ。変な噂ばかりであの町に居たくないって気持ちはわかる。だがな、家出する前に言えよ。困ってるって、助けてほしいって! せっかく冒険者としても芽が出てきたんだろう」


 あ、いや……噂は知らない。

 私の噂が広まっているらしいことは聞いてるけどね。実際に面と向かって言われてないし、私が異邦人だってことは知ってる人は知っている。


 そこをわざわざ否定するのも面倒というか、笑って何も言わないのが正解だと思ってる。

 噂が原因で家出……新しい拠点を求めたわけではない。ただ、面倒だったことも事実。


「えっと、その……別に冒険者をやめるとか、ここに引きこもるつもりとかじゃないですよ? 師匠のためにもいい環境で過ごしてほしかったし。あの町じゃ私達のせいで面倒ごとが起きて申し訳ないと思ったり、色々面倒だなぁって思ってましたけど……」

「それを思ってるだけじゃなく、口に出して言え。いいか? お前が頑張って、町に馴染もうとしてたことも……騒がれたくないって理由で、兄貴達がお前のために町から離れたのも俺らは知ってるんだ。後から来た奴らが何を言っても、俺らが否定してやる。頼らずに、消えようとするな」


 わざわざ追いかけて、収入を減らすことになってもここで手伝ってくれたのは、心配だったかららしい。

 私達が何を考えてるのか見極めるためでもあったのかな。


「ここはパメラ様の終の棲家にするんだろうが。お前らの都合でギスギスした雰囲気にするべきじゃない。おチビ。あいつらを俺に売れ」

「ジュードさん? 嫌いって言いませんでした?」

「上手くやってるお前らを羨む奴らだ。気に入らない奴がいるって、ぽや男を消した後だって、どうせ気に入らないことを次々と言い出す。きりがないんだ。手放すしかないだろ。俺らは信用できないか?」

「いえ。ジュードさんのことは信頼してます。お世話になってますし、でも、嫌いなのに良いんですか?」

「ああ、根性を叩き直してやる。別に、根性悪い奴らが多いだけで、まともになろうとする奴らもいることはわかってるんだ。まあ、冒険者として死に物狂いでやるしかないのは変わらないがな」


 異邦人を噂だけで判断せず、中身も知っているという点ではお任せしてしまった方が良いかもしれない。でも、目をかけてもらっているのはわかるけど、そこまで頼んで良いのかと思う。


「いいから、頼れ」

「だって、あの4人て結構な厄ネタですよ? 帝国の事情を証言させるために連れ帰ったのもあるんですけど……」

「わかってる。ポーターとして、一人ひとり別パーティーに組み込む。おチビに協力的なパーティーにな」

「それで異邦人嫌いになって、私まで嫌われたらどうするんですか……」


 もちろん、そんなことはないと思うけど。

 でも、迷惑をかけるだけではいけないと思う。


「それが嫌ならたまに顔出せ。おチビの顔を忘れちまうくらい見なくなったら、近くにいる異邦人を見て嫌いになるかもな」

「ジュードさん。これ、渡しておきます」


 メディシーアの紋章が彫ってある魔石を渡す。

 信頼の証として……メディシーアの関係者であることを示せる。


 私や兄さんが信頼しているという意味しかないけど。一応、いつでも奥側へ自由に入れるくらいかな。


「はい。えっと……ジュードさん達がここへ買いに来てくれるなら、割り引きします。それ見せれば割り引きでどうでしょう」

「頼れって言ってんだよ。たくっ」

 

 感謝を形にするなら、割り引き価格の提供かなって思ったんだけど。

 もちろん、言葉でも伝えるようにする。


「で、割り引きするのと?」

「そうですね。あと、メディシーアの土地を自由に行き来できます。連れも含めて。そういう風にしておくんで……貴族なんか、面倒だからこっちの居住地区へは出入り不可にする予定なんですけど、それ持ってる人は別扱いにします。レオニスさんとかマリィさんにも渡すのでジュードさんだけじゃないですけどね」

「他の奴らは?」

「お世話になってる人も渡します。彼ら4人を引き受けてくれるパーティーには渡してもいいんですけどね。でも、こっち側入りたいですか? 別に何もないですよ、兄さんの美味しい手料理が食べられるくらいです」

「それはいいな。まあ、貰っとく。おチビも兄貴くらい料理上手になれよ」


 兄さんが書いたレシピ通りに作れば、それなりに美味しい物が作れる。師匠のレシピでも可……。

 難しいんだよ、味がぼやけるというか……。どうやったら、味が一発で決まるのか、誰か教えてほしい。


「しかし、誰も助けに来ないんだな?」

「私を力で負かせるのは兄さんとレオニスさんくらいですから。みんなお酒飲んで潰れてますよ?」


 レオニスさんは潰れてないけど、兄さんにお酒を飲ませたのはレオニスさんとジュードさんだったのは確認している。


 でも、レオニスさんは大丈夫だと思ってるから助けに来ない。自分でなんとかできるはずだから、そこまで甘やかさない。


「兄貴、酒弱いよな」

「いや、レオニスさんとジュードさんが飲ませすぎたんですよ。他の人なら、飲もうとしないですからね?」

「酒を奢られたことは何度かあるが、頑なに飲まないからな。あれは外で飲んだら帰れなくなる」


 お酒は好きみたいだけどね。冒険者の人達はザルやワクばかりだからいけないのだと思う。兄さんは話を聞きに酒場とか顔出してるけど、飲んでないから。

 

「ジュードさん達が高位のヒーラーを必要なら声かけてください。たまになら助っ人します」

「おまっ……高位のヒーラーとか、言っていいのか?」

「だって、噂流れてますよね? いいですよ、ジュードさん達とかお姉様達なら」

「あいつら、お姉様ってガラか?」

「そう呼んでほしいと言われてますね。あまり呼ばないですけど……これでも、ディアナさんお墨付きのヒーラーですよ。ソロもいけます。アタッカーなら兄さん貸し出しも検討します」

「ギルド長には?」

「言って構わないですよ。ジュードさんとか、今来てくれてる人達のパーティーになら駆り出されても良いです。他は嫌なんで、ギルドは通さないです」


 ここに住み始めてもギルドの所属は変わらないし、ギルドの方で人手が足りないなら手伝う。それくらいの恩義は感じてる。

 ただ、パーティーの助っ人をするなら一部だけ。どこにでも助っ人はしない。


「てっきり、薬師に絞るのかと思ってたけどな」

「いや、そうすると薬師ギルドに所属変えなきゃいけないんです。私の場合、あと20年くらいは冒険者兼業ですかね。それと、奇行じゃなく調合素材の採取って、噂を訂正しといてください」

「わかった、わかった」


 ジュードさんにお願いして、彼らはマーレに連れ帰ってもらう。面倒なことになりそうというのもあって、翌日には冒険者達は一旦、引き上げ。レオニスさんも一緒に帰ることとなった。

 



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― 新着の感想 ―
4人、バラバラに管理した方がいいだろうなあとは思っていました。 ジュードさんたちがちゃんと御せるといいのだけど。 初心者向きの野菜、個人的にはサニーレタスが最強でした。 次点は大葉(青紫蘇)、青ネギ…
レオニスさん変えるのは寂しいですなあ。 でも仕方ないですよねーあの4人のあれのために来た?わけですし。
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