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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第五章

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5-3.開拓人員の確保


 兄さんと師匠が到着した翌日には、大工集団が冒険者達に護衛されてやってきた。大工だけでも十数人いるけど、なぜか同じくらいの人数の冒険者もいる。


「声かけたら暇人どもが集まってな。細かい設計とかも可能な奴らがいるから、どんな要望でも応えられるぜ」


 棟梁のカーペンターさんが連れてきた人たちは、キュアノエイデスとマーレスタットで大工をしている他の棟梁さんとかだった。


 年配の大工さんが多いのはすでに若い人達が育っているので、本来の仕事は押し付けて駆けつけてきたという。



 全員が師匠に挨拶へ行き、お世話になった礼にと言っているあたり、流石の人徳としか言えない。

 師匠への好意によるところが大きく、貴族への守秘義務なども含め、こちらの要望を全面的に聞いてくれる形らしい。


 ただ、兄さんから二人ほど、貴族の受注専門の大工がいるということで、気を付けるようにと注意が入った。まあ、当然、調べるために紛れ込ませるよね。


 とりあえず、その人達を中心に迎賓館のデザインを任せるのがいいんじゃないかな。貴族の御用達ならそういうのもわかるはず。

 ティガさんと兄さんも賛成ということで、だいたいの構想を伝え、グループで建物を建ててくれることになった。


 冒険者はジュードさんが引きつれていた。私の目の前で腕を組み立っているジュードさんに一歩下がると、一歩近づいてくるという謎の圧迫を受けることになる。


「あの、どうして?」

「力自慢の人手が必要になるだろ。ちゃんと厳選した奴らだから、何があっても秘密は守る。何か問題あるか?」

「いや、でも、日当、安くなっちゃいますよ? 皆さんの稼ぎを保障するほどのお金は……」

「手持ちにないだけで、そのうち入るけどな」


 兄さんがさらっとすごいこと言った。

 たしかに、錬金蜂蜜の報酬はまだないだけで、それが入れば十分にお金はあるけど……。


「金じゃねぇさ。おチビが心配ってのもあるけどな、パメラ様に世話になった奴らは多い。冒険者ギルドの紐は付いてるが、貴族の紐付きの奴らはいない。たくっ、何かあれば声をかけろって言っただろ」

「言われましたけど……」


 ジュードさんを含め、来てくれた冒険者達はみんな可愛がってくれている冒険者ばかりだった。

 何かあれば声をかけるようにとは言われていたけど、流石に開発を手伝ってくれは難しいと思う。



「だいたい、倒れた後もほとんど顔出さないで引っ越しするな。挨拶をしろ、挨拶を」

「ジュード、そこまでにしておけ」


 他の人達が私へお説教しようとしたジュードさんを止めてくれ、レオニスさんもマリィさんも苦笑している。


 どうやら、ジュードさん達は噂なのか開発地のことを聞いて、有志を募って、手伝いに行くことを計画していたのに、マリィさんもレオニスさんも彼らに声をかけずこっちに来てしまった。


 それで急いで追いかけてきたところ、大工の人達を見つけて一緒に来たらしい。


「おチビちゃんが襲われて怪我したって噂は聞いていたが、パメラ様も含めて町を出るって聞いてな。ごたごたに巻き込まれてるのは想像できたんでな」


 年配の冒険者もにこにこと笑って、説明をしてくれた。人選はきちんとしているというか、私の知っている人達しかいない。


 どちらかといえば、お菓子くれたり、情報くれたりと世話になっている人達ばかり。他に親しい冒険者というと女性の人達しかいないだろう。


「あいつらも来たいみたいだったけどな。力仕事になるのがわかってるからな。女が野宿で同じ場所で何週間も過ごすのもな」

「こっちにもいますけどね、女性。マリィさんも来てますよ」


 実際、男女別で部屋の確保は難しいから、わかるけどね。

 女性冒険者の人達もここに来る予定は立てているとか。ただ、泊まれる場所が出来たらということで、ジュードさんが取り持っているらしい。


 そんな感じで、人手も十分確保して、いよいよ建築など本格的な開発がスタートした。



「ルナさん。畑や田んぼの作り方、指示をお願いします」

「はい! でも、本当に田んぼ作って稲作するんですか?」

「一応、脱穀前のお米を購入してきたから、これを発芽させて、出来るなら植えたいとこなんだけど」

「私、家の手伝いくらいの知識でホントわかんないのに……」

「全く知らない素人よりはいいと思うけど」

「うう~。わかりました。でも、稲作の場合、5月くらいに田んぼに植えるので……苗は急いだほうがいいかなと思うので、今日はそっち優先かな……」


 ルナさんはうんうんと唸りながら、何をするべきかを考えている。


 考えがまとまらないようなので、ルナさんには紙を渡して、覚えている工程だけでも紙に書き出してもらうことにした。


 とりあえず、お米をぬるま湯につけて1日くらい放置して発芽させて、プランターとかで育ててから田んぼに植えるらしい。

 田植えできるくらいまで育つのに1か月ほどかかるから急いだ方がいいとのこと。


 ルナさんの指示でぬるま湯の温度を私が調整しつつ、発芽を促すことになった。

 ついでに、プランターなんて用意していなかったので木材を使って作成していたら1日が終わってしまった。

 形がいびつでも問題ないということで、リュンヌさんとルナさんも手伝ってくれたけど、クラフトに慣れていないし、力がないので削ったりが出来ないから戦力外だった。


 ついでに、師匠から畑に蒔く肥料とかも調合で作れるとレシピをもらい、作ろうとした。


 しかし、兄さんからストップをかけられてしまった。

 薬ほど繊細ではないから、外で調合しようとしていたが、信頼できる人ばかりであっても、調合については見せるべきではないという判断で、クロウがこっそり作ることになった。


 兄さんでもいい気はするけど、注目されてるという理由で、部外者がいる間は、調合禁止となってしまった。



 小屋では食事をするのと、師匠とかスフィノ君とかが寝泊りしている。そして、クロウがたまに調合作業をする。




 大工さん達に頼んで、最初に完成した建物は公衆浴場だった。

 見えないよう簡易的に作った建物で、いずれは建て替える予定だけどね。作業で汚れるからお風呂は必須。


 特に、大きいお風呂である程度人数が入れるようにしないとお湯が冷めたりするからね。それでも泥だらけになるから、1日に何度か湯を張り直したりする。


 お湯張り……なぜか、私が魔法で担当。

 いや、マリィさんも手伝ってくれるし、ぬるくなった場合の足し湯とかは兄さんやクロウも手伝ってくれるのだけどね。


 みんな土とかで汚れるから、洗濯とかもあるしね。

 水ではなく、お湯を出すだけで私の方がいいと言われてしまうのは納得がいくような、いかないような……温度調整するだけなのに、それが難しいとか言われるとね。


 何だか、こまごました仕事に私指定が多い気がする。そして、大工さんや冒険者側とはっきり接触しないようにされた。ついでに、新しい異邦人の4人も……一切の接触をしていない。

 食事すら別で、私はルナさん達とで、兄さんとはほぼ接触無しになった。



 次の日からは田んぼと畑を魔法で区切っていく。田んぼ側は肥料をまいてから水を張っておく。畑は魔法で土を盛り上がらせたり、植える前の準備。


 ただ、土魔法って、今までは固くするために使うことが主だったので、固めないようにするのはちょっと難しかった。手作業でやると大変だし……機械……重機が欲しい。


 一応、地面を平らにする工程のときに根っこや石は排除してあるから、魔法でやらなくても出来るので、リュンヌさんは手作業で頑張っていた。


 ルナさんは「手作業はいや!」と必死に土魔法を取得していた。ちなみに、ルストさんも途中からこちらの畑チームに加わった。


 本人は、のんびりしている性質のせいで、大工さん達から扱いにくい判定を受け、戦力外通告。こちらを手伝いに来たという。


 いや、あちらも猫の手を借りたいくらいな状況なのにとは思うけどね。

 クロウも魔法係だけどあちらに取られたくらいだから……多分、他に事情があるんだろうな。


 ただ、こっちでも口論が始まっていて、困ったりするのだけどね。


「ぼくのこと、お兄ちゃんって呼んでもいいよ?」

「いやに決まってるでしょ!」

「どうして?」

「ルナの姉はわたしだ」


 リュンヌさんとルストさんがルナさんを妹として希望しているけど、ルナさんは拒否している。

 そもそも、ルストさんがなぜ兄妹設定を作ろうとしているのかと思ったら、私と兄さんを見て羨ましくなったらしい。

 まあ、見た目は似ているので好きにすればいい。本人達同士の問題だから、関わらない方が良さそうと判断している。


「リュンヌまで参加しないで! クレインさん、助けて!」

「とりあえず、ルナさんはあっちで続きお願いしていい? ルストさんは私と話をしませんか?」


 収拾がつかないので、ルナさんには他の作業をお願いして離れてもらい、リュンヌさんも一緒に行ってしまったのでルストさんと二人きりになる。


「ごめんね?」

「いえ。……あっち、居辛い感じです?」

「う~ん。セティコ達も帝国で一緒だったらしいんだよね。覚えていないのだけど……あっちは嫌みたいだね。落ち着くまではティガがこっちに行くようにってね」

「ああ……」


 う~ん。不和が生じるとなると面倒ではあるけどね。折り合いがつかないほどではないのか、そもそも人数が増えれば色々とある。

 異邦人同士で仲良くしましょう、なんて出来ないことはわかっている。


 はっきり言って、彼ら4人とは最初の挨拶以外に接点ないし、兄さんが拾ってきた扱いだけど、あまりいい印象がない。


 帝国の反乱で死にかけた人達からすると、上手くやっているのを妬む気持ちはわかるのだけど。ナーガ君達がいなくてよかったよ、荒んでる人と若い子を接触させたくない。



「ぼくがきっかけで反乱になったと思ってるね。……そうなのかもしれない。ぼくの自覚がないだけで、責められても仕方ないのかもね。彼らは不満を隠さない」

「それぞれ事情はあるのだと思いますけどね……」


 実際、異邦人同士の方がトラブル多いんだよね。この世界の現地人の方が程よい距離感で接してくれている。まとめ役が私と兄さんというのでさらに……ティガさんが一歩引いたことでこっちの胃がキリキリしてきそう。


 クロウからさらっと聞いた話だと、ルストさんが原因で反乱が起きたことは間違いなくて……でも、彼はその力をどう使うか、まったくわかっていなかった。


 責められても困るというのはわからないわけではないけど、彼らはその後に、一度殺されたりとか、理不尽な目にもあっている。

 納得できないのかもしれないけれど、そこを受け流せないなら……いずれ、ここから追い出すことになる。


「ルストさん。彼らが何か言うのであれば、私が保護します。ルストさんの力が必要なのは私で、彼らを保護したのは兄さんですから。だから、ティガさん達と一緒にいられなくて寂しいかもしれませんが、しばらくはこっちでお願いします。それと、ルナさんを困らせるのはできれば無しで」

「困らせてるのかな。ぼくは折角だから、仲良くしたいなと思うんだけど」


 仲良くしたいなら、突然「お兄ちゃんと呼んで」はないと思うのだけど。

 いや、私と兄さんは互いに必要だし、すぐ疑似兄妹になったけど。


「容姿が似ているから親近感ですか?」

「それもだけど、あの子は気にするみたいだから。ぼくは頭の中で変なこといったりする奴いるな~って、話聞いてみたり、流したりで、取り合わなかったし……気にしなかった。でも、あの子は流せなかったんでしょ?」


 あれ?

 ルストさん、色々と言われて、話聞いたりもしてたの? その情報は聞いていないのだけど?


「ぼく、この世界にきたとき、最初はマーレスタットに降り立ってるからね」

「え? そうなんです?」

「うん。そのとき、グラノス君のこと色々言ってたんだよね。容姿が白のと、どうのって……それで、頭の声が鬱陶しいからすぐにその場を離れたんだ」


 兄さんが言っていた、悪魔ってルストさんだったのか! もう一人は確実に悪魔がいると思っていたけど、いない可能性が高まったな。

 よくよく話を聞いたら、悪魔の話を割とスルーしているルストさんが手駒として使いにくいから、ルナさんに移っている感じがしてきた。


「だから、気持ちはわかるかなって」

「それ、丁寧に説明しないと、ルナさんに通じてないです」


 悪魔の声を聞いていてからの親近感とか、ちゃんと話をすればもう少し通じるのではないだろうか。

意図が分からないとどう扱っていいか、わからないよ。言葉足らずというか、本当につかみにくい人なんだ。


「それで、ぼくはいまいちわからないのだけど……ドラゴンと会いに行くんだよね?」

「……はい。ドラゴンと交渉して、うまくいった場合にはご協力をお願いしたいと思っています」

「あれ? ぼくは行かないの?」

「正直、迷っています。交渉するつもりですけど、決裂もあり得る。そして、そうなったときにあなたやルナさんを守り切るのは厳しい可能性がある」

「でも、そういう危険もわかるんでしょ?」


 わかるとは思う。多分ね。


 でも、正直に言えば……7人行動でも色々と面倒だったのに、10人で行動するとか。しかも、その間はこの開発地をどうするの?

 師匠一人では不安だけど、魔導士ビルドしているクロウでは置いていっても何かあったとき対処できないし……。


 話をしに行くのは、私と兄さんとナーガ君でさくっと行った方が面倒事が少ないとも思う。


「私としては、話がついてからの方がいいと思っているところはあります。ただ、すぐに決められることでもないのと、正直、その時点までに二人がどこまで育つかなというのもありまして」


 ここにきて、魔物がちらほら出ていたときには倒してレベルも上がっていたけど、川の流れを弄ったり、土地を整地してからは極端に魔物も減ったからね。

 このままだと20レベルくらいの状態でドラゴンのところに行くことになる。せめて、50くらいまであげたいけど……パワーレベリングする場所がない。


「ぼくは自分がやることを何も知らされないままというのは嫌だな」

「……わかりました。ただ、人選は考えます」


 当事者である以上、知りたいということはわかる。一緒に付いてきたいというのであれば、考えないといけないか。


 ルナさんの意向としては、農業を手伝うことに否やはないらしいけど、あとで一応確認しておこう。


「しばらくはこの地の開拓に力をいれます。ドラゴンの件は口に出さないようお願いします」

「しばらくとはどれくらい?」

「……少なくとも、ナーガ君達が戻ってくるまでは一切進まないと考えてください」

「そう……じゃあ、レベル上げておけばいい?」

「そうですね……とりあえず、一人でレベル上げをするくらいなら、クロウかティガさんを連れて行動をお願いします。あと、不用意にドラゴンのことは口に出さないでください」



 だけど、とりあえず……ティガさんにでも、ルストさんの扱い方を教えてもらおうかな。

 

 兄さんは新しい4人の方とか、色々忙しそうだしね。

 なんだか、すでに人間関係が不穏になりつつある。ナーガ君達が帰る前になんとかしておきたいな。




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― 新着の感想 ―
グラノスが見かけた悪魔はルストだったんですね。 読み返してみたら、東門から森に入ったようだったし、帝国でも途中で合流したと言われてました。 生活力なさそうなのに、よく生き延びたなあ。 新しい4人は不穏…
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