5-2.開拓着手
翌日からも開拓は進める。
私の仕事は地形を変えること。
池や川を作ったり、土地を平らにする一方で、魔物や他の人の侵入を拒んだりするためにも防衛拠点にもなるように土壁を作っていく。
それを出来る限り他の人には見せないように進める必要があるからね。今はファベクさんしか大工がいないので、今のうちに地形だけは完成させておきたい。
ティガさんの構想に沿って、土地の整地を進めていく。
東側は住む側とは高さを作って崖にして川を作れば、水を飲みに来る魔物は侵入できないはず。
北側には大きめの池を作って、水不足にならないようにしつつ、本流とはべつに用水路としての川を中央に作る。池の周囲に牧場を建設予定なので、出来る限り、草はそのまま残すよう気を付けておく。
今の時期は、山からの雪解け水もあるので水が増えている時期のはずだから、他の季節になると水が減る可能性があるので……二つに分けたことで夏に枯れたりしないか、少し心配ではあるけどね。
西側に大樹があり、セージの木やいくつかの素材になる木が自生していたので、多少は整備しつつも残していく形にする。そちら側は魔物が出てくる可能性は残っているけど、素材のためにはそのままにしたい。
一応、山脈の部分のところ、居住地のところに二段構えで石段の塀を作って侵入は拒むようにしておこうかな。
シマオウは飛び越えられちゃうから、他にもそういう魔物がいてもおかしくない。さらに、ギガントスネイクとかも塀なんか関係ないだろうからね……意味はないかもしれない。
魔物の侵入を防ぐのはこれからの課題かな。
だけど、そんなことよりもこの土地はとてもよい!
予想よりも、調合素材の宝庫だったので、ここを拠点にするのは良い感じ。
西側は踏み荒らさない程度に整備しつつ、仮宿としての小屋もファベクさんが急いで建ててくれている。数日で完成予定とのことで、とりあえずの寝泊りは出来るようになるはず。
南側については、ひょうたん型の窄まった部分で門を作り、侵入を阻む予定。
中央には田んぼや畑を作る予定なんだけど、まだ出来ていない。まあ、これはルナさん達が来てからでも十分かなと考えている。
開発を始めてから6日目。
兄さんがルナさん、リュンヌさん、そしてレオニスさんとマリィさんに師匠。ラーナちゃんもいるけど……。あと、4人の知らない異邦人が到着した。ついでに雌ライオン達も連れてる。
ナーガ君いないのに、なんでペットが増えてるんだか……。兎達が怯えてるが、ちゃんと話せばわかるとのこと。
スフィノ君はテイム出来ないながらも、しっかりと言い聞かせてるけど……まあ、これで魔物の脅威が少し減るならいいのかな。
だけど、そんなことより師匠はまだ早いよ。
宿泊できる場所は一応用意しているとはいえ……ちゃんとした屋敷が出来るまでは時間がかかる。
「師匠!? まだ、安全確保できてないですよ!?」
「心配ないさね……それに、その小屋でいいだろう?」
「いや、でも、まだ魔物出るんです」
レオニスさんもいるので、ちらっと見るけど、首を振っているので……説得は不可らしい。
ファベクさんに本格的な建築はいつになるか確認したら、親方さんももうすぐ到着するという。
う~ん。早く来てほしい。
「随分といい場所を見つけたな。ここなら、目立たずに色々出来そうだ」
「うん。ティガさんが立地を決めたんだよね。こっちの手前側に迎賓館とか、簡易宿泊施設を作って、奥は立ち入り不可にしようかなって言いだしてる」
「ああ。良いんじゃないか? 立派な家に拘るメンバーもいないだろう。貴族向けはそっちにしておけばいい。この地形なら奥を私有地にして、中に入れない方がいいだろう」
じゃあ、こっちのひょうたん型の小さい部分も整地をする必要があるかな。こっちは素材採る予定もないから、さくっと平地にしてしまえばいいよね。
「な~」
「……ねぇ、兄さん。どういうこと?」
「それがな……俺も予想外だったんだが」
兄さんと話しながらも私の足元でじゃれ付いている猫。
いや、モモだと思うけど、だいぶ大きい。この前まで、フードに入れるくらいの生まれたばかりの子猫サイズだったんだけど、今は50センチくらいある?
大型の猫よりも大きいような気がするけど……私の肩にぶら下がろうとしている。
「モモ?」
「なぁ~」
うん。返事をしたね。やっぱりモモだったのか。ナーガ君いないのに、なんで大きくなってるのかな。進化したんだよね、多分。
「マーレに戻って、神父のとこに行ったんだが、何故か、そこで突然、進化してな。飼い主のナーガがいないんだが……元々、野生でも進化をして大きくなることは普通らしくてな。これでまだ幼体らしくて、成体にはなってない」
「まあ、ペットにしてから3か月近く経ってたから、あのサイズのままの方がおかしかったのかな。でも、このサイズで幼体なら……成体になったらシマオウみたいに乗れるかな」
「母豹のサイズになるなら乗れるだろうな」
「にゃあん」
モモが任せろというように鳴き声を上げたので、頭を撫でておく。だから、肩や背中に乗ろうとするのは止めてほしい。さすがに、重い。
「それで、えっと、マリィさんはどうしたんですか?」
「おい、俺は?」
「レオニスさんは師匠の護衛かなと思ったので」
「まあ、間違ってはないがな……クレイン。ばあさんは家を引き払ってこっちに住むそうだ」
「……必ず守ります」
「ああ。俺もこっちに顔出すつもりだ」
レオニスさんには頷きを返しておく。別に気にしないだろうし、私達の家に泊まれるように事前に用意しておこう。
いや、最初からレオニスさんの部屋作っておく? まあ、それでもいい気もするかな。後で兄さんに相談しておこう。
「では、私の番ですね」
「マリィさん。わざわざこんな場所に来ていただいてすみません」
「いえいえ。お仕事ですから。土魔法、水魔法が使える魔導士ということで、私が派遣されました」
「え?」
土魔法のレベルが高い魔導士冒険者は少ないらしい。土木関係に強いので、それなりにお仕事がもらえるらしく、余ってないとか。
「グラノスさんが日当もはずんでくれたので、来ちゃいました」
「えっと、ギルド大丈夫ですか?」
「スタンピードも終わったので、しばらくは大丈夫ですよ。それと、あまり他の冒険者達に素性を探られないようにとの配慮でもあります」
「あ、はい」
マリィさんは色々と知っているから派遣されたらしい。
お手伝いをしますと言ってくれるのはとても嬉しいけど、割と終わっている。こちらの南側の小さい方を整備するだけ。
あとは、マーレまでとは言わないけど、キノコの森とかまでの道を作るくらいかな。マリィさんも承知しているらしい。
「それと、今後についてですね~。調合については、今後もお願いしたいんですよね。レオニスさんが運ぶことになるのでお願いできます?」
「家で引き受けていいですか? 私だけでなく、兄さんやクロウでも構わないのなら」
「ええ。もちろんです」
マリィさんは明日から手伝ってくれるということ。さらに、ルナとリュンヌさんにも魔法の指導をしてくれるというので助かる。
「えっと……ルストさんもお願いできます?」
「いいですよ。とりあえず、期間は2週間の派遣中に一通り教えますね」
どうやら、他に増えた4人の異邦人も含め、魔法の指導をする予定らしい。おかしいな。魔法の講師はいないって話だったと思うのだけど。
「普段は魔法講師をしていないのですが、今回は特別です。グラノスさんにもお願いされていますからお任せください」
「ありがとうございます」
ギルドでは魔法の技能講習はあまりないと聞いていたのだけど、マリィさんが普通に魔法は使えるらしい。
「攻撃魔法が苦手であまり戦闘にむいていないので、講師は引き受けていないんですよね」
「勿体ないですね。ちょっと水や火を出せるくらいでもかなり楽になるのに」
別に攻撃なんて出来なくても便利なのにと思うのだけど、講習を受けたい人たちは攻撃できるくらいの威力を求めているらしい。
サポート系の魔法が得意なマリィさんはそれもあって講習はしていないという。
「でも、ギルドも大変なのでは?」
「クレインさん、私としか基本やりとりなかったから、探りたい方はみんな私のところに来るので……そこら辺の事情もあります」
本格的に私の情報を探られてるのか……。厄介だなと思う。
貴族に目を付けられたとなるとね。もう、面倒でしかない。
「グラノスさんがあの家も引き払ってマーレを出るというので、クレインさんとお話ししたいなというのもありまして」
「えっと……」
家を引き払う予定ではなかったのだけど、何だかんだで面倒事が増えているからかな。ラーナちゃんに留守を任せていたけど、それも危ないような事情があったのかもしれない。
「騒ぎになってるんですね?」
「クレインさんがいなかったことで悪意が広まった感じですね。でも、心配している冒険者達もいますよ。ただ、風潮として異邦人への批判がかなり高まっていて……クレインさんにも及んでいるとしか」
「そうですか……キュアノエイデスでも広がっていたので、だいぶ、冒険者と貴族に対して広まってるのは聞いてます。多分、私が何しても気に入らないとも思うので、しばらくこっちでゆっくり開発しようかなと思ってます」
「田舎でのんびりするのもいいですよね~。元気そうですし、大怪我したあとはそういう冒険者もいるのでいいと思います。私も久しぶりの休暇のつもりで過ごせそうです」
マリィさんとしては、マーレに帰れないくらい落ち込んでいるのではないかと心配したそう。私が元気そうに土地開発しているならいいとのこと。
ついでに、ずっと休めてなかったので長めの休暇。その間に兄さんからの依頼を引き受けたということになっている。
「それにしても、クレインさん。ここの開発……早すぎませんか?」
「え? いや、人が少ない間にやっておけば、秘密を持つ人も少なくすむので」
スフィノ君は良い子だし、今後もここに住むからね。秘密を漏らすことも無い。棟梁さんたちが来る前にやっておけば、ファベクさんだけだからね。
「まあ、そのうち探りに来る人も増えると思うので。さっさと家が出来るといいですよね」
「そうですね」
家が出来るのはそれなりに時間もかかると思うけどね。
マリィさんと話し終えたあと、とりあえず、拠点となっている小屋に案内する。
師匠は目を輝かしていた。うん、素材の宝庫だもんね。わかります。私もうっきうきだった。
その後、全員が挨拶と自己紹介をする。
兄さんが連れてきた4人の名前は、セティコさん、ピュール君、プリスク君、ラウネンさん。
全員男で、ピュール君とプリスク君は私やナーガ君より少し幼い。逆にラウネンさんは30過ぎっぽくって、異邦人の中では年上かなと思う。セティコさんは兄さんと同じくらい20代前半だろう。
自己紹介を聞いた限り、何となく、中身は擦れているというか、ダメじゃないかなという印象。話を聞いた時も思ったけど、うまくいかない気がする。
何か起きないといいんだけど。
ラーナちゃんもマーレを引き払ったので、こっちで暮らすことになった。やはり、スフィノ君とは姉弟だったらしい。
仲良さそうにやり取りしているとほのぼのする。
先に住居を建てる。次に調合などの作業を行う建物兼倉庫、牧場の飼育小屋。その後、迎賓館とお店を作ることになるかな。
「住居の数、どうしようか?」
「シェアを前提に4~5人住める家をいくつか用意だろうな。俺ら、ティガ達、セティコ達にも用意するか。ルナ達とラーナ達は後から分けるにしても、最初は4人用で我慢してもらう方がいいだろう。どうしても一人用の家が欲しい奴がいれば、あとから考えよう」
「そうだね。あと、大工さん達の寝泊りする用の家は、宿屋を手前側に作ってもらう?」
「ああ。迎賓館側に宿を用意しておくくらいはしておこう。大工連中がずっと野宿は厳しいしな」
余った部屋とか家があっても、それなりに活用できるだろうしね。
5人っていうのは、レオニスさんの部屋も私達の家に用意するのかな? 行き来するのであれば、レオニスさんの部屋も必要とはわかるけど……ディアナさんをどうするつもりなんだろう。
「しかし、ティガは随分と面白い場所を選んだもんだな」
「引きこもりやすい地形だよね。でも、貴族に探られてウンザリして引きこもるという意図は伝わるからいいんじゃないかな? 薬師としての稼ぎが無くなると今後きついのかもしれないけど……」
「錬金蜂蜜による収入だけで、俺らが死ぬまで金に困らないと思うが……安らぎの花蜜が一つ5,000Gだろ? それを100個×500体分作るなら、開発費や作成費だけでも、この人数を食わせていく十分な資金になる」
「まあ、人数をこれ以上増やすことがなければ十分か。あとは自給自足しつつ、自由に?」
「だな」
建物とかを建ててもらう分の必要経費はあるにしても……今のところは十分すぎる資金がある。師匠もお金持ちだしね。
今後も冒険者ギルドには薬をおろすことになりそうだし、問題はないのかな。うん。ナーガ君達が帰ってくるまでにもっと開拓を進めていこう。




