5-1.開拓地の決定
キュアノエイブスから出発して3日目の昼過ぎ。ティガさんが希望する山間の谷、だいたい、幅が700m、2キロくらいのひょうたん型になった平地がある場所を定めた。
ひょうたん型になっている奥の方をメインの土地として利用する。狭くなっている部分に門を作れば、侵入も容易ではない感じになる……はず。
「いや、ここは地形がなだらかな坂になっている上に岩盤も固いので家とかが建てにくいし、木々も多くて向かないすっよ?」
「土魔法で整地するので大丈夫だよ」
「いや、それやるのはあんたじゃないだろう」
ティガさんの言葉にクロウの突っ込みが入り、私もこくりと頷く。この広さで整地をするのは私だよね。
MPはだいぶ増えているので、出来ないとは思わないけどね。
ファベクさんが立地が良くないと進言するものの、ティガさんが譲らない。
ひょうたん型であるため、最初の入口のところに、門を一つ、狭くなった部分に二つ目の門を設けれる。手前側に防備を固めておけるので、理想的らしい。
正直、そこまで戦うことを想定しないでほしい。
ただ、あり得ないとは言わないし、部外者が侵入しにくい場所にしたいため、ティガさんの意見に従った。
多少の坂については、逆に整地するときに利用して、余った土を侵入を防ぐ土壁にするというプランを聞かされたが、熱弁してくれているけど、あまり地形とか詳しくないし、お任せしたい。
私としては、自然にセージの木とか、調合素材に使う木が生えているので、ここを立地にしてくれるなら嬉しい。
「なんで、そんな面倒なことするっすか? もっといい場所があるっすよ」
「蛇行した川も少し流れを変えておこう。川が増水した時に被害に遭わないようにね。普段の水面から2メートルほど高い位置を通常の高さにしておきたいからね」
ティガさんは奥の土地を平らにする際に、土地を高くし、手前の土地とは高低差をつけたいらしい。川は低くして、氾濫防ぐには有効……なのかな。
さくっとファベクさんを無視して構想を考えている。横で嘆いているのが聞こえているはずなんだけどね。
「えっと、川に橋とか作るなら、それも料金かかるっすよ?」
「あ、それはもちろん。お金は払うんで、大丈夫です。とりあえず、ティガさん。川の流れとか任せます。私はここら辺に生えている木を確認して、残したい木は紐をまいて印をつけておきますね。調合に使える木もあるので、残したい木もあるのはOKです?」
「構わないよ。手前側の土地とは高低差をつけるつもりだから、できればそちらの木は切ってしまいたいけれどね」
高低差があるなら、高い位置にある方が有利だからか……兄さんとティガさんの間でどんだけ交戦する予定で話し合ったんだろう。
まあ、いいんだけどさ……必要な木は植え替えることも考えればいい。
「まて。俺は反対だ。そんなに高低差なんてつけたら、出かけて、帰ってきたときに何段も長い階段を上りたくない。今は良くても、10年後にはつらい」
「……20年後くらいにしとけば? わりと若くなってるわけだし」
「今でも出来れば嫌だがなぁ」
まあ、長い階段が嫌だというのはわかるけどね。見た目年齢が20代なのだから、10年後は早い。
多分、そこまで長い階段にはならない。
坂といっても傾斜10%くらいだから、緩い感じだし、奥行きが2キロくらいなら、高低差って3mないくらいでは? 高低差はあっても、階段で20段程度しかないとおもうのだけど。
だいたい、ダンジョン内はもっと過酷な地形もあるのだから、その程度の問題は気にならないと思うのだけどな。
「クロウの意見はおいておくよ。まず、残す木はたのむよ」
「ティガ、おいておくな! いいか、歳を行くと腰にくるだろうが」
「きみはわたしよりも若かったはずだけどね。地下鉄の階段に比べれば大した段数ではないよ」
うん。性格の違いかな。どうやら、クロウは車派だったらしく、公共交通機関はほぼ使わなかったらしい。
高低差については、低い状態で整地してもいいけど、川を深く掘らないといけなくなるから、大変だと思う。
「僕も手伝うよ」
「ルストさん。ありがとうございます」
ティガさんがファベクさんとクロウを連れて、全体を見るということになったので、ルストさんとスフィノ君、兎4体は私についてきてもらう。
魔物がちょこちょこ出るのだから戦えない二人と4匹は私が守る。
弱い魔物を倒しつつ、貴重な草とか実があれば採取する。
人が入ってない土地なので、雑草に混じって貴重な草もある。
いや、百々草もあるので、奥の方で百々草も栽培しよう。栽培というか、自生しているのを活かす方向でね。
一部の期限が短い薬草はせっかくなので、兎達に餌として与えておく。しばらくは調合する機会もないからね。
「ええっと、これ、食べさせて大丈夫ですか?」
「え? うちの仔達、私から奪う勢いで食べてくよ?」
スフィノ君が百々草を見て、与えることに少し戸惑っているけど、キャロとロットとは味覚が違ったりするのだろうか。
兎達もふんふんと匂いを嗅いでるけど、食べようとしない。
キャロとロットは初対面から奪ってきた覚えがあるだけに、反応に困る。
「少し普通の草と違いますよね」
「うん。これはここら辺では雑草扱いで普通に生えているけど、立派な調合素材だからね。優秀な素材と認識しているよ。これが栽培できるのであれば、ここに移り住む価値あり? いや、でも近場で採れるなら育てなくてもいいんだよね。もっと貴重な物を育てるかな」
少し迷ったあとに、兎達が食べ始める。
一口食べたら気に入ったのか、むしゃむしゃと渡した百々草を食べ始めた。
「美味しそうに食べてますね」
「根元に近い部分に大事な成分が溜まってる。掘り出して食べないとだから自分から食べないんだと思うよ」
餌をあげたら、兎達には懐かれた。キャロとロットと違い、こっちを慕ってくれている感じがして、撫でておく。可愛い。
探索をしながら、だいたい開発地の真ん中あたり、森状態になっている場所にて、木々を一気に切り倒していく。
「乱風鎌〈ウィンドスキャットサイズ〉」
風魔法を発動して、枝を伐採して、根元から切り倒す。無数の刃でまとめてやっているとルストさんが近づいてきた。
「ねぇ、どうやってるの?」
「風魔法です。いくつかの風の刃を広範囲に発生させています。細めの木だったら、枝と同じように根元も切断できますから。木は向こう側に倒れるようにしましたけど、一応、気を付けてくださいね」
「こういうのって、一本一本やらなくていいの?」
一本一本やっていたら、日が暮れる。
それに無数の刃とはいえ、枝を切り落としてから丸太にする必要もあるから、一気に何本もできるわけじゃない。
私一人だけでやるのは大変だし。そろそろ寝る場所を確保しないといけない。
「木を伐採して、空き地を作らないと川の近くしかテント建てられないですよ? 水場の魔物いるかもしれないですし、水を飲みに魔物が来る可能性もあるので、川から少し距離取った方がいいです」
私の言葉にうんうんと頷いているのはスフィノ君。ルストさんは「そっか~」とわかったのか、わからないのか……結構、のんびりとしていて掴めない人だ。
「枝、拾い集めますね」
「ありがとう、スフィノ君。ルストさんもお願いしていいですか?」
「うん、いいよ」
切り落とした枝を拾って集めてくれるので、私はまずは場所の確保と、周辺だけでも平らな状態にする
テントをいくつか建てられる広さを確保して、木の根っこの部分も魔法で取り出してから、土壁〈アースウォール〉で平らにする。地盤が固いと言っていたが、問題は無さそう。
あとは、根っこ、枝、丸太に分けてまとめて置いておく。
まずは、野営地周辺の視界を確保しておくのが大事。あとは、魔物避けのお香とか焚いてもいいのだけど……個人的にこの匂いは好きじゃないのと、兎達にも効果が出てしまうので可哀そうだったりする。
「とりあえず、食事の準備しますね」
人数は6人分。
買い置きの固いパンくらいしかないから、スープが必須かな。
今まで、購入で済ませてきたけれど、そろそろパンを自分で焼けるようになる必要があるかな……。
お米は残しておきたいし、パスタは買い込んであるけれど……マーレに買い出しに行くにしても、頻繁に行けない分、主食をもう少し考えないといけないな。
今日は面倒だから、固いパンに野菜スープと……卵があるからオムレツ? いや、朝食っぽいメニューになっちゃうから、肉系を用意しようかな。
あ、前に失敗したけど材料あるからシチューにしよう。ヤコッコ狩ってあるから、鶏肉もあるから、いけるいける。
「ティガ達は大丈夫かな?」
「戦闘能力としては、ファベクさんも戦えるので大丈夫だと思いますよ? これで煮込むだけなので、たまに鍋をかき回してください。私はもう少し、木を伐ってますので」
「気を付けてね~」
うん。気を付けるのはそっちなんだけどな。
周囲に魔物が出ないように警戒はしているけど、魔物が出てこないわけではない。
返事が何かズレている気もしたのだけど、かき回すくらいなら大丈夫だろう。作ったのはクリームシチューもどき。バターとミルクを購入できたので、再挑戦。
前回の失敗については兄さんにアドバイスをもらって改良したので、美味しく出来ている。焦がさなければいいので、スフィノ君にも危なかったら鍋を降ろすようにお願いしておく。
その間にもう少し採取と木々の伐採をしておこう。
「え? 何っすか、ここ!?」
「あ、お帰りなさい」
「え? なんっすか、ここ!?」
「随分とすっきりさせたなぁ」
ファベクさんが私が作り出した空き地を見て、驚きながら同じ事を繰り返している。テントを張るに十分な土地は確保した。
ファベクさんは新しく作られた空き地に驚いているようだけど、こんな感じで木は伐採して空き地を作っていかないと、この土地に建物どころか、畑も作れないからね。
「うん。とりあえず、寝る場所確保と安全地帯作った方がいいかなと思って。ティガさんの方はどうですか?」
「そうだね。食後にでも、話をしようか」
明日から広範囲で土地整理を進めるので、食後には打合せをすることになった。
「川の本流を東側に作ろうと思う。そちらは高低差を作って、川は低く。山の裾、ぎりぎりでお願いしたいのだけど頼めるかな?」
「わかりました。高低差を付けた上で、そちら側には塀を作る感じです? 明日はそちらの作業を優先します」
「そうだね。魔物の侵入を防ぐためにもね。そして、北側の部分を大きな池にして、そこから支流として小さな川を作り、そちらを農業用として使おうと考えている」
大きな池にするのはオリーブが住めるようにとのことだった。
確かに、今は蛇に擬態しているけど、連れ歩くよりもこの土地を守護してもらっていた方が安全そう。
「わかりました。池の中にオリーブ放っておけば、池から侵入もしないと思うのでいいと思います。東側の方が国境山脈に繋がるので、強い敵出ると思いますし」
「うん。それから、南の入口付近にも同じように空き地を作ってもらってもいいかな? まずは、そこに簡易な家を作っておこうと思うんだ」
「高さの調整が難しくなりますよ?」
真ん中で平らな場所を作ったのは仮のキャンプ地として修正がしやすい。
入口付近で平らにしてしまうと、低くなってしまい、全体をその高さに合わせると土が余る。余った土は門のところの土壁とかにして対処可能。
整備しつつ、高低差を調整するなら、最初は真ん中からのがやりやすい。
「全体が見えないうちにここに一時的な家を作ってしまうのもね」
「ここから西側の奥の大樹付近はどうですか? あの大樹から葉や樹液を採取することが確定しています。近くにセージの木もあったので仮の家を建てて、後々は倉庫とするのはありだと思います」
「では、そうしようか。家は明日から建ててもらえるのかな?」
「そうっすね……簡易な住まいがないと親方たちも困ると思うんで、準備するっす。木造でいいんっすか?」
「是非、木造で」
むしろ、そこがそのうち醸造庫とかになる可能性大なので、木造でお願いしたい。住まいの近くで匂いがきつい物を作るわけにはいかないというのもある。
仮住まいとして大きく作っても、その後も活用できる算段が出来ているので是非お願いする。
では、とりあえず、そちらまでの道を作って、平地にしてからはティガさんに任せる。その間に、おおよそのティガさんの設計を確認させてもらい、図にしておく。
本流になる川の前に池を広げるかな……。ティガさんの計画だと、今、土地のど真ん中で流れてる川は多少は埋め立て、細くした上で用水路と田んぼに活用するっぽい。
「あの~、結構、魔法使ったと思うんですけど、大丈夫っすか? 明日もあるのに魔法使えるんっすか?」
「え? もちろん。伐採は明日からはクロウがメインになって、私は土魔法で整備になると思いますけど」
「俺かぁ……まあ、やるしかないだろうがなぁ。ティガではどうしようもないしな」
「すまないね。多少は使えるようになったけれど……MPが足りなくてね。君たちのように乱発は出来ない」
「ぼくも覚えたけど、まだ無理そうかな~」
ルストさんは魔法の素質は予想通りというか、それなりに高そう。
天使が魔法得意な種族だから、悪魔もそれなりに使えるとは考えていたからね。
この短時間で私が使ってるのを見て、簡単に説明しただけで風だけでなく土魔法を覚えたようだから、他もやれば出来そう。
たぶん、魔法のレベルが上がればそれなりに使えそう。ただ、そもそも役割として魔導士なのだろうか?
う~ん。ぽやっとしてるけど、道中とかも盾でガードとか出来ていたので、前線もそれなりに出来そうだし……体つきはがっしりしているんだよね。
「ルストさんは魔法をメインにするんですか?」
「え? う~ん、どうだろうね。あまり考えていないかな」
うん。まあ、ティガさんが面倒を見るなら、冒険者ではないだろうし、どういう成長をしても良いのだけど。
「やめとけ。前衛に置いた方がぼ~っとしているから不安になるだろう」
「ああ、確かに?」
クロウの言葉に頷いておく。戦闘中に余所見とかしないとも言い切れないくらいにはぽやっとしてるからね。
「えっと、すんませんっす。パーティーの役割を確認してもいいっすか?」
「ティガさんがタンク兼斥候、クロウが魔法アタッカー、私がヒーラー兼斥候です」
「いや、おかしいっすよ。ここまでの道中、アタッカーしてたっすよね? というか、ヒーラー?」
「だって、他に前衛出来る人いないんで。一応、ソロで一通りできるようにレオニスさんから仕込まれてますよ」
「ああ、そういえばフィンの子だって? あれ?」
「そのうちアタッカーの兄さんが合流するんで、それまでは戦闘は無理せず、危なくないようにお願いします」
細かいことを気にしては駄目だよ。
私はフィンの子どもってことなんだよ。レオニスさんから色々指導されたんだよ。そもそも、初対面で異邦人って知ってたでしょうに。
だいたい、ファベクさん。現役時代に斥候担当を名乗るには能力低いよ。ティガさんと私の方がしっかり魔物を見つけている。
元冒険者だからね。現役ではないから仕方ないとは思うけど、期待できない。
テントについては、二つ。私とスフィノ君と兎達で一つ。男4人で一つになった。
兎達に懐かれたのか、私から離れなくなった。守ってあげるのは構わない。夜営の当番については、私とティガさんとクロウの3人で交代することになったけど、何事もなく朝になった。
さあ、どんどん開発していこう。




