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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-43.新天地へ


 出立の朝。離宮には立派な馬車が用意されている。


 立派な馬車に乗るのは、ラズ様と師匠と兄さんとルナさんとリュンヌさん。ルナさん達は一度マーレに行って、冒険者登録をすることになった。兄さんが一通り面倒を見てくれることになっている。


 本人達が本気で冒険者となるかは不明。

 私以上にルナさんは冒険者に向かないとは思うけど、現状、一緒に行動をするため、身分証明のためにも冒険者として登録する。


 こちらに協力してもらった後、どうするかは本人達に決めてもらうことになる。ただ、開発地で隠れ住むということに意外と積極的なので、ずっと一緒の可能性もあるかな。


「マーレで色々雑用をすませたら俺もそっちに向かうが、無茶はしないようにな」

「大丈夫。師匠も、すぐに家を用意しますから待っててください」

「ああ。わたしも荷物を纏めておくよ。暖かくなってきたし、野宿でも構わないさね」

「いや。流石にそれは出来ないぞ、お師匠さん」


 兄さんも私も、師匠に野宿をさせることは考えてない。

 寝泊りするようの簡易な家なら、そんなに時間もかからないので、先にそちらを作って、その時点での移住ということになった。


 

「じゃあ、クレインのこと頼むぞ」

「早めに合流してくれ。俺ではこいつらを纏めることは出来ないからなぁ」


 そんなことをクロウはぼやきつつ、兄さん達は先に出立していった。


 見送った後、私、クロウ、ティガさん、ルストさんで街の出口に向かうことになる。


「クレインさん」

「はい、ルストさん」

「もう、話をしても大丈夫かな?」

「ああ、はい、いいですよ」


 ルストさんと私は直接会話する機会はなかったので、聞きたいことがあったらしい。

 ティガさんが苦笑しているので、何か困った内容なのかもしれない。


「あの力はもう勝手に発動しないのかな?」

「それが……怪しいんですよね。ルストさん、多分ですけど、無意識にでもずっと使ってたんじゃないですか?」

「どうして?」

「力を封じるときに、力が残ってなかったんじゃないかなって……封じる負担が全然違ったので……まあ、ルナさんの被害受けた人が少ないのもあるんですけど」


 本人が意識して力を使っていない状態、垂れ流し状態だったとしても……ルナさん、リュンヌさん以外だと数人しかその力使ってない。


 逆にルストさんは……帝国での反乱時に力を使って、その場にいた人達の多数を操ってるからね。1,000人近くいたのは間違いないっぽいんだよね、反乱が起きた現場。


 さらに、冒険者ギルドでも数十人だけど操っている。

 これだけやってれば、その能力を使い切っていて封印しやすかったのだと思う。


「どうすれば使わないようにできるかな?」


 いや、それは知らない。

 自分の力くらい、自分で何とかしてほしいのだけど……何故か、私ならわかると思われているらしい。


「はぁ……無意識で使わないように、ちゃんとコントロールできるようになるのがいいと思います」


 話を聞いたところ、やはり、今まで無意識に〈蠱惑〉という悪魔のアビリティを使っていたらしい。私も〈祝福〉を使えるようになったのは最近だったりするから、そういうこともあり得ると思うけど。


「ルナの話とちょっと違うんだよね。彼女の場合、ちょっとずつ依存していく感じなんだけど、僕の方は、う~ん。急に爆発する?」

「ええっと……発動のさせ方が違う可能性がある。無意識でも、使い方が違うからじゃないかな」

「どういうこと?」


 ルナさんの場合、視覚封じることで使えなくしてたけど……多分、嗅覚なんだよね。何か、突然、匂いがして……人を操ってるんだよね。


 ただ、自分で使えてないのであれば、他のアビリティとかで感覚を覚えてからのがいいか。


「まず、アビリティの使い方ってわかってる? 多分、蠱惑はパッシブスキルではなく、アクティブスキルなんだけど……」

「パッシブ?」

「パッシブは常時発動しているもの、アクティブは使うという意識をもって、発動させる……魔法とかと同じなんだけど」

「ごめんね。魔法もうまく使えないんだ」


 うまく使えない? でも、魔法自体は覚えてはいるのかな。悪魔だし、闇魔法とか邪魔法かな。

 確かに、使いにくそうかも? どんな魔法なんだろう。


「それは……練習してみるしかないかな。それで魔法の感覚が掴めたら、〈蠱惑〉もわかるようになるといいけど……」

「ルナは使い熟せてるの?」

「ルナさんは最悪目隠しで封じられるから……多分、ルストさんはきちんと使えるように魔法とかを練習してコツを掴んだ方がいいとは思う……ただ、練習するにしても、流石に私は相手出来ないです」


 ティガさんがこちらをちらっと見てきた。

 魔法の扱いなら私と思ってるかもしれないけど、難しい。


 兄さんがルストさんを危険人物としないためには、さっさと出来るようになってもらわないといけないので協力したいけど……闇魔法の素質は私にない。


「魔法は使っているうちに感覚は掴めると思うから、練習するしかないので……クロウ」

「クロウ、頼めるかい」

「俺かぁ……まあ、グラノスが怖いから俺が教えるしかないだろうな」

「よろしくね、クロウ」

「とりあえず、移動中は時間があるので、無茶しない程度でお願い」


 クロウがやれやれとため息をしながら、ルストさんを見る目を細めたので、多分、彼のステータスを調べてるのかな。

 まあ、任せておけば大丈夫かな。



 会話をしているうちに、街の入口にたどり着いた。

 入口には荷馬車が二台用意されていて、そこにはファベクさんがいた。

 

「荷馬車が二台あるようだけど、どうするのかな?」

「知り合いの紹介で、テイマーが一緒に同行します。その子がテイムしている魔物に荷馬車を引いてもらいます。あと、こちらが大工のファベクさん。同行してくれます。大工の棟梁たちは後ほど開発地に来る予定です」


 荷馬車には、色々と大工道具やら素材袋などが積み込まれている。

 ティガさんがそれを確認しつつ、こちらに確認を取ってきたので答える。


「ちゃんと準備してたんだなぁ」

「何もないのに、開発地に向かっても仕方ないから、最低限だけど準備はしたよ。あと、一緒に荷馬車に建築資材とかを詰め込んだ袋と苗木を積み込むので気を付けてください」

「ああ、承知したよ」


 開発地に着いたら、薬の素材になる木も植えていく予定だけど、場所によっては最初から生えている可能性があるので、お試しということで苗木はそんなに多くはない。

 他にもティガさんの方でも色々と用意はしてくれていたらしい。


「すみません、遅くなりました。ネビア様の紹介で参りましたスフィノと言います」


 声をかけてきたのは、少年。後ろには、キャロとロットより少し小柄なメガダッシュプースを4匹も連れている。


「クレインです。よろしくお願いします」


 凄く丁寧な口調で声をかけてきたスフィノ君はラーナちゃんに似てる。だけど、ラーナちゃんよりさらに幼くて、10歳くらいに見える。


 子どもでもいいかという確認はされていたけど、大丈夫だろうか?

 でも、しっかりした子みたいだから大丈夫かな。


「えっと、一人で大丈夫? その、しばらくは野宿とかになってしまうのだけど……その……」

「はい、ネビア様から聞いています。親代わりはネビア様ですから、心配もないかと。それに、この4匹はまだ僕の言うことしか聞かないので、一緒にいかないとです。よろしくお願いします」


 そう言って、荷馬車に2匹ずつ繋いで、牽引できるように準備をしている。


「あ~、えっと、クレインさん、いいっすか?」

「あの、別に、昨日のように接していただいていいですよ?」


 ファベクさんにさん付けで呼ばれると少し驚く。


「いえ。一応、仕事の客で、親方にも色々と言われたんで……失礼なことしてすんませんっした」


 多分、客への失礼な態度を怒られたようで、丁寧な接し方になっている。


「気にしないですけど……クロウ、ティガさん、ルストさん、スフィノ君。大工のファベクさん。現地で、基礎工事の指示をくれる人ね。で、こちらが運んでくれるスフィノ君ね。開拓地で魔物牧場を作るので、そちらの助言とか管理を手伝ってくれます」

「よろしくっす」

「よろしくお願いします」


 全員で自己紹介をして、開拓地へと向かう。荷馬車の運転は、スフィノ君とファベクさんがやってくれているので、ここで開拓地に向かうまでの作戦会議を行う。


 この開拓地について、実際の場所が決まってない。

おおよその位置は決まっているけど、こちらが提案したのが、採取が出来て、栽培などを試すということだったので、好きな場所を選ぶ許可を貰っている。


 当初は交通の要所か元々は村があった場所とか、関所に近い場所を予定していたが、こちらの希望を優先するようにと許可が出てどこでも良くなったらしい。


 ただし、道を繋げるくらいはして欲しいとはラズ様には言われた。

 

「場所と言っても、そんな簡単に決められるものじゃないと思うけど……そもそもどんな土地がいいかもわかってない」

「わたしの方から意見を出してもいいかな?」

「はい、ティガさんは何か考えあります?」

「まず、水は必ず必要になる点を考慮すると、川の近くがいいと思っているよ。君が水魔法である程度は作れるとはいえ、絶対ではないかならね」


 確かに、川の近くであるのは大事かな。ただ、川の氾濫で台無しにならないように気を付ける必要はあるだろうけど。


「治水をきちんとしないと豪雨の氾濫とかもありますよね」

「そうだね。そこはきちんと考えているよ。土地についても、理想は一乗谷のような川の谷あいで、山によってある程度侵入経路が特定できる場所を探したいね」

「一乗谷?」


 えっと? 

 何か、聞いたことあるような、ないような?


 クロウをちらっと見るが、首を振られた。ルストさんはへぇ~と口にしているがわかっているのかな。「続けてください」とお願いするとティガさんがこくりと頷いた。


「簡単に言うと川と山の谷あいにある土地かな。この利点は狭くなっている入口を塞いでおけば、余所からの侵入をかなり防ぎやすい。最初から住む人数を増やせないことが目に見えてわかる土地にしたいんだよ」


 なんで?

 狭い土地だと、畑だけでなく田んぼも作るとなると土地がなくて困ると思うんだけど。

 

「開拓できる土地があれば、広げていくと考えることが一般的だからね。そうして移り住む人が増えれば、困るだろう? きみ達を探るために信頼できない人間が増えていけば、わたし達も巻き込まれて窮屈な思いをするのは勘弁してほしいからね」


 ティガさんの言葉にクロウが頷いている。

 確かに、人が増えるのは困る。



「最初から土地を広げられない場所。入口さえ押さえれば他から人が入ってくることが難しい場所……グラノスには伝えているのだけど、素材の研究のための土地であり、門戸を開かないのを基本にしたいと思っているよ」

「なるほど?」

「いいんじゃないかぁ……それ以上、広くしませんと目に見えてわかるのはいい。村の規模にするほど広くすることもないんだろう。山に囲まれていた場所の方が、人も来ない」


 ティガさんとしては、開発する土地を広げられないという足かせを利用して、人が来ないようにするつもりだった。

 確かに、その方がいいかも。山に近いのは薬師としては利点もあるから反対はない。クロウも賛成している。


 最初から土地が決まっていれば、人が増えることもないかな? いや、そこはきっちりと線引きするように気を付けておこう。


「ねぇ、僕は何をすればいいかな」


 ルストさんがすること……。なんだろう?

 ドラゴンのとこに行くまで、特に何もない。というか、何が出来るのだろうか?


「しばらくは、周囲の魔物を倒してレベル上げだろうなぁ」

「それがいいだろうね。国境山脈の魔物と戦えるようになっておいた方がいいからね」


 ルストさんは強くなりすぎると私では抑えられなくなるので、ほどほどにしておいてほしいというのは私の都合だしな。


 国境山脈にはそれなりに強い魔物がいるから、強くなるなとは言えない。ギガントスネイクとか、シマオウみたいな個体もいるし、山脈の先にドラゴンいるらしいしね。

 何だかんだで、魔物への警戒は必要……ただし、ナーガ君のペットも負けてないからね。


 魔物の縄張り争いがどうなるか……でも、何とかなりそうな気がしている。


 なぜなら、現在、スフィノ君の連れている兎4匹、私の匂いを嗅いだあとに土下座状態で動かなくなった。


 何で? と思ったら、クロウから、シマオウやキャロとロットが私達にマーキングしているので、それより弱い兎系の魔物は逆らわないらしい。


 兎はキャロとロットがいれば逆らわない、猫はシマオウが同じ様にしているらしい。ついでに、オリーブもいれば、魔物たちは避けるだろう。


「そういえば、キャロとロットは進化して強くなってるから」

「え? そ、そのせいですか」


 スフィノ君にも譲ってもらった二匹が立派になったことは伝える。

 キャロとロットはなぜか、私には当りが強いけれど、それでも仲間認識はしてくれていたらしい。私に対してだけ、兎達は別格で怯えている。


「便利だね」

「……しっかりと鑑定しないと出てこない情報だがなぁ。お気に入りらしいぞ」

「いやいや、いつもどつかれてるんだけど?」

「じゃれてるんだろうなぁ」


 餌を奪われているだけなんだけど?

 なぜか、他の人の前ではいい仔達なのも納得いかない。


「場所は決めておくにしても、どう連絡すればいいかな?」

「モモが私のいる位置をわかるので、兄さん達を案内してくれます。……とりあえず、川沿いで、谷あいになっている場所なら川まで案内します」

「先日の人工池を見ると、ある程度の整地や治水は出来ると思うけど。負担はかかると思うからよろしく頼むよ」


 キノコの森付近に川がある。川の下流も特に村とかはなく、そのまま大河に繋がったはずだから、上流に住み始めても水による争いとかは起きないはず。


 あとは谷あいで外から確認出来ない場所にするのであれば、ちょっとした隠れ里みたいになるのかな。


 ティガさんはティガさんなりに兄さんに任されたことからも、立地とかをしっかりと考えているようなので任せよう。

 基本はメディシーア家の私有地で、そこに住むのもメディシーアの関係者かペットだからね。



「衣食住を開発地で用意できるようにするには……服とか、身の回りの物をどうするかだよね。簡単なものならクラフトするけど」

「無理だろうなぁ。マーレで買ってくるにしても、自作はできない」

「とりあえず、住まいと食べ物だけかな。給料は出すにしても、食べ物もマーレに買い出しにいくのは大変だろうし」

「グラノスがいないから、食事も不安だしなぁ……」


 それを料理する人が言うならともかく、作ろうとしない人が言っていい台詞ではないと思うのだけど。兄さんの方が料理が上手なことは認めるけどね。

 私の料理に文句があるというなら、その喧嘩を買うよ。


「僕が作ろうか?」

「えっと、作れるんですか?」

「できるよ~」

「やめろ」

「やめてくれるかな?」


 ルストさんが作ろうかという提案をしてきたが、クロウとティガさんが速攻で却下した。


 私も大丈夫なのかなとは思ったけど、どうやら二人が真剣な顔をしているのでルストさんに任せるのは止めよう。


 ネビアさんから預かっているスフィノ君がいなければ、面倒だから任せるのだけど。さすがに、子どもに変なものは食べさせられないので私が作る。

 

 手伝ってくれるなら助かるので、色々頼んだりもしたけど……なんていうか、ルストさんはマイペースな人だなという印象しかなかった。



 そんなこんなで、出発の翌々日。キノコの森付近の川にて夜営をした。

 明日から、この川を遡って、開発地になる場所を探していくことになる。


 早くいい場所が見つかるといいのだけどね。


 さあ、これから、新しい生活が始まる。


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― 新着の感想 ―
メディシーアの私有地?あれ?借地じゃなかったっけ?結局もらったの?
なんかルストはやらかしの規模が大きい割に、口調のせいかもしれないが他人事というか必死さが感じられないから気味が悪い子だよ
祝福で奇跡が起きて師匠の体調が発作前くらいには良くなってくれないかなぁ…
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