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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-37.情報操作


 全ての水竜の肝を加工した。王弟殿下に渡した物も、スペル様達が持っていた物も全て加工できて、あとは蜂蜜が手に入るのを待つだけ。

 討伐数と加工した数はちゃんと合っている。ようやく一段落、毒が広がるのを防ぎ、なんとかなった。


 他の場所で討伐されている可能性はあるので、絶対に流通しないということではないけど、メディシーアは持っている肝を全て加工したという記録が出来た。


「じゃあ、スペルと飲みに行ってくる」

「いってらっしゃい」


 兄さんは多少面倒臭そうに正装に着替えている。スペル様と飲むにはその恰好する必要ないから、多分、王弟殿下に呼ばれたとかで、その後にスペル様と飲むとかだろう。


 それを説明しない理由は、カイア様の呪いの案件かなと思う。とりあえず、クロウの計らいもあるので私は何も知らないスタンスでいく。



 兄さんを送り出してから、師匠とゆっくり過ごしていたら、ドアの方から気配を感じた。

 ドアに近づくと、ノックも無しに開けて入ってきたのはネビアさんだった。


「おや、気付くようになりましたか」

「ネビアさん。え? ここ、離宮ですよ」

「ええ。忍び込みました。少し話がありまして」

「おや、だれだい?」

「お世話になってる情報屋の方です。部屋に入れてもいいですか?」

「ああ。構わないよ」


 師匠に許可を取って部屋に招き入れるが、どうやって侵入したんだろう。ここの警備ってしっかりしているはずだけど。


「先日のお礼を。無事に薬を作れて、助かりました」

「あ、いえ……お役に立てて何よりです」


 うん。錬金蜂蜜を渡したけど、それで作成できたってことか。


 薬師は自分たちの中でも抱えているということだろう。こちらに近づいた理由として、調合が目的ではなかった……う~ん。目的がわからない。


「んふっ。きちんと情報は流しますので、毒についての心配はないかと」

「ありがとうございます」


 メディシーアが毒をばら撒くということが無くなったのは安心した。

 裏稼業は毒の扱いに長けているようで、事前に流してくれると助かる。賄賂の錬金蜂蜜も役に立ったようで安心した。


 お茶を用意していると、師匠が興味深そうにネビアさんを見ている。


「情報屋かい。頼んだ情報を入手する以外にも、こちらが流してほしい情報も流せるかい」

「ええ。もちろんですよ」

「わたしも依頼したいことがあるんだが頼めるかね?」

「依頼内容によりますが、お聞きしましょう」

「ああ。わたしの死後、広めてほしい話があってね」

「ふむ……依頼者が亡くなってからということですが、見届け人はどなたが?」

「この子に頼むつもりだよ」

「なるほど。広めてほしい話の内容をお聞きしましょう」


 師匠の話は、爵位の件だった。

 病気を理由に養子グラノスに爵位を譲ろうとしたが王家により許されなかったこと。その一点のみ、広めたいという。


「それだけでいいのですか?」

「ああ。メディシーアは名前が大きくなり過ぎたからね。貴族として断絶するのは構わないが、それをこの子に任せて、同じ苦労はさせたくないからね。王家が断絶させたことを広めて、無理矢理、重荷を背負わせないようにね」

「ふむ。しかし、薬師でない者が継ぐことを認めなかったということでは?」

「えっと、兄さん、薬師としてもそれなりの腕ですけど」

「おや、そうなのですか?」


 実際、兄さんが継ぐことに問題はないだけの調合の腕がある。いや、実際には、私よりも器用だから、短い時間で技術を習得しているので才能もある。


「誤解があるようだけどね。クレイン、グラノス、クロウ……弟子3人の中で一番私に近いのはグラノスさね……20歳そこそこであの腕なら、わたしを超えるだろうけどねぇ」

「え? 師匠、私は?」

「あんたとわたしは全く違うよ。まあ、この年で他の薬師の気持ちが漸くわかったがね」


 師匠は少し自嘲したように微笑んだ。どういうことだろう?

 ただ、師匠は兄さんがふさわしいと判断した。それは、貴族としてだけでなく……薬師としても、自分の能力に近いのはグラノスで、だから後継ぎはグラノスだと判断した。

 それを広めてほしいという。


 ……なんだか、それは少し寂しい。


「一番才能が近いのがグラノスというだけだよ。あんたが最愛の弟子なのは変わらないさ……あんたがいたから、他の二人も弟子にした」

「はい」


 頭をぽんぽんと元気づけるように叩かれて、気にしていない風に笑う。うん。私は私だ。


「煩わしい身分に囚われる必要はない。あんたのやりたいことをするんだよ。まあ、貴族には向いていないというのもあるけどね」

「なるほど。では、それも含めて広めておきましょう。出来ましたら、死後ではなく事前に少しずつ用意をさせていただいても?」

「すまないね。任せるよ」


 師匠の依頼を引き受けたネビアさんは楽しそうに契約を結んでいる。何か文章を渡しているので、それを後ほど教えてもらおう。


「それで、私に何か用があった感じです?」

「ええ。彼からの依頼のついでにあなたの方にも顔を出したんですよ」

「わざわざありがとうございます。師匠の依頼も、助かります」


 う~ん。

 何か企んでる? いや、この人はこの人の目的があって、兄さんと手を組んでいる人だからね。


「んふふ。ラーナを雇っていただいているのに恐縮ですが、新しい土地の開発にも雇ってもらえませんか?」

「ああ、そういうことであれば構わないですけど。何もない土地なのと、その……奴隷が多いのを気にしない方です? 奴隷に対してひどい扱いはできないので」

「ええ、もちろんです。連絡係も置きたいのでね。助かります」

「人手が足りないので、助かります。家が用意出来てからにしますか?」

「そうですね。出来ましたら、労働力に使って構わないので、早めに合流させていただけると助かりますね。他に、必要な人材などがあれば紹介しますよ」

「じゃあ、農業や酪農に詳しい方を紹介していただけると助かります」


 農業について、こちらの世界で詳しい人がいるのであれば紹介して欲しいところではある。ルナさんにも期待したいけど。

 酪農については、ちょっと違うかもしれないけど。ナーガ君がテイムした魔物とは別に、ミルクや卵を手に入れるために酪農するのもありかなとは思っている。


「んふふっ、ええ。ちなみに、酪農の手助けをする者は子どもでも構いませんか?」

「毎日世話することになるんですけど……」

「大丈夫ですよ。責任感はあるので仕事に問題はないかと……テイマー能力がありまして。お渡ししたダッシュプースなど、何体か飼っております。可能なら、一緒にお願いできませんかね?」

「わかりました。兄さんにも話をしておきます」


 子どもというのが気になるけど。でも、キャロとロットの元の飼い主さん。町中で飼うわけにもいかないから、里子に出していたとか?

 開拓地だから、子どもだと大変かなと思ったけど、それでも推薦するなら大丈夫かな。もう、ペットについてはナーガ君に任せて、口出しはしない。


「ちなみに、いつ頃になりますかね?」

「とりあえず、明後日にはここを発ってマーレに戻ります。マーレで買い出しした後には開拓地に向かうことになります」

「おや、随分と早いね……本当にじっとしてられん子だね」

「師匠……いや、建物を用意するのとは別で、今年の作付けの準備をしないとですから。初期さえ乗り越えれば、マーレとは定期的に行ったり来たりするつもりなので、大丈夫です」


 う~ん。ただ、歩いて半日程度というのは大きい。そういう点では、やっぱり馬とか必要な気がする。シマオウだけでも残してもらうべきだったかな。兄さんに相談しよう。


「わかりました。あと、こちらの資料も差し上げます。宜しければ、ご確認ください。それでは、また」

 

 渡された資料。

 う~ん。何かなと思ったけど、大量の毒薬に関する資料だった。毒薬を作るためのものではなく、どんな症状が出る毒なのか、副作用や魔法治療での対処などがわかる。


「どうしたんだい?」

「いえ……あの人が何を考えてるかわからなくて」

「見せてみな」


 微妙な顔が伝わってしまったのか、師匠が資料を確認する。


「なるほどね……裏の情報屋かい」

「ええっと……すみません」

「別に構わないよ。普通ではないことはわかっていたさ。それに、この資料は役に立つ……毒薬の治療は難しいからね。魔物からの毒の治療とは同じようで全く違う。たいていが魔法による解毒をした後にも残った痺れやらの治療だけど、魔物の毒よりもひどくなるような加工がされている……どんな毒かわからずに解毒を頼まれる。こういう症状の資料でも助かるさね」

「……関わりたくないですよ」

「そうさね。だけど、あんたに解毒の依頼があったとき、これだけでもだいぶ楽になる。持っていて損になるもんじゃないさ」


 師匠がページをめくりながら、少し悲しそうに見ている。だけど、首を振って、未練を振り切るようにして顔を上げた。


「師匠?」

「これを貸してくれるかい?」

「構いませんけど……」

「いくつか身に覚えのある薬があるからね。書き加えさせておくれ。あんたに残せるものだ」

「師匠。え、別に解毒専門の薬師になるつもりはないですよ?」

「当たり前さ。だがね、解毒はあんたが一番いいんだよ。魔法もあるしね……人を助けられるんだ、伸ばしておきな」

「はい。師匠からもらったメディシーアの名前、汚すようなことはしませんから」

「わかってるさ。あんたはずっと期待以上だよ、心配してない」



 師匠は机に座って、ペンを握り書物に書き込みをしていく。

 う~ん。私はどうしようかな。


「暇ならラズ坊のとこにでも行ってきな。忙しそうだったからね」

「え? それって邪魔になるんじゃ……」

「気分転換だよ。大丈夫さ」

「わかりました」


 師匠に言われて、部屋を出る。う~ん、ラズ様の部屋って私は知らないのだけど。

 とりあえず、誰かいたら聞いてみようかな。

 



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― 新着の感想 ―
お師匠様が着々とお別れの準備をしている感じがして悲しくて怖い 亡くなってしまうとダメージが大きすぎる〜
普通に教えてたはずなのになんか光って進化して別ルート開拓し出したのを後継とは呼べないからね……
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