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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-36.不調の原因


 翌日。師匠はラズ様と出かけて行った。この町で何かやることがあるらしい。

 私とクロウと兄さんの3人で手分けして加工作業をしているが……ここである事実が発覚した。


 調合のスピードが兄さんだけ違う。たぶん、私が2個作る間に、3個は作っている気がする。クロウは私と同じくらいなので、兄さんだけ速い。


「え? どうやって? コツは?」

「単純にDEXとSTRの違いじゃないか? かき混ぜるのにもそれなりに力を使うからな」

「あるだろうなぁ」


 確かに、STRだけは兄さんが群を抜いて高い。魔法系のクロウと私とは違う。

 素材の磨り潰しとかも力がいるから納得? 

 クロウに確認すると、どうやら、3人の中ではDEX値が一番高いのは兄さんというのもあるらしい。


 いつの間にか兄さんとクロウにDEX値を逆転されていた。そもそも鳥人種は上がりやすいらしい。

 単純に作業が早いのもあるけど、SPも兄さんが一番高いので、調合には向いているんだよね。私とクロウは魔法系だからステータスの伸びは仕方ないけど。


 作業は思ったよりも早く終わりそう。今日中に終わるなら明日は買い物に行けるかなと考えていたら来客が告げられる。



 現れたのはカイアナイト様だった。後ろを確認したが、ラズ様はいない。いや、むしろ護衛とかも連れていない。本当に一人で来ている。


「すまんな、邪魔をするぞ」

「おっ、カイアじゃないか。どうした?」

「うむ。内密に話しておきたいことがあってな」

「ああ。昨日、うちの妹がやらかした件なら、悪かったな」


 兄さん。私が好奇心でやらかしたことだけど、そんな軽い謝罪でいいの? まずくない?

 ただ、昨日は咳き込んでいたけど、今日は顔色が良い感じがする。


「うむ。その件だがな……俺に何をしたのか、聞こうと思ってな」

「……えっと」


 少し困ったように視線を反らすが、「不敬を問うことはしないと約束しよう」と言われた。いや、分からなかった場合にも責めないという約束もほしいかな。


「えっと……すみません。その、勝手に鑑定をしたんですけど」

「うむ。そうであろうな。本来なら、色々とまずいことはわかっているようだな」

「……はい」


 勝手に調べること。身分次第では、かなり大きな問題になる。奴隷相手なら問題ないが、平民同士であってもいざこざが起きる。相手が貴族であれば……かなりまずい。


 それに、大抵の場合は勝手に鑑定をしたりするとよほどのレベル差が無い限り違和感でバレる。クロウは例外。それがユニークスキルの恩恵でもある。


 私はあの時に勝手にカイア様を鑑定したことは追及されると、色々と問題行動になってしまう。


「もう一度聞こう。何をした?」

「SPを送り、何かが発動しました。それが何か、私にはわかりません。ただ、まずいと思ったので、回復魔法を唱え、手応えを感じ……その時に、つい、鑑定しています」

「そうか、それで?」

「それだけです。何か起きた、それが何かわからなかった。魔法は発動しました。……その後、鑑定して見たステータスにて、SPとMPの差が異常なほどあるのは見ました……そこまで違う人は…………他に知りません」

「そうだな。俺はSPが全く成長しないそうだ。魔力硬化症もそれが原因でないかと言われている」


 魔力硬化症は、SPとMPが大きく違うと発症しやすいとは聞いている。カイア様が頷いたということは、やはり何かあるのかな。貴族のあれこれに関わり合いたくはないのだけど。


「そういう顔をせずとも、ここだけの話だ。俺の体は呪われておるのか?」


 あの時、手応えがあったのは解呪〈ディスペル〉。誰かが、本人が気づかないころに呪いをかけたことになる。


「正直に言います。わかりません」

「ふむ?」

「魅了状態を解呪〈ディスペル〉で解除したことはあります。呪いを見たことはありません。そして……鑑定しても、呪いという状態異常はなかった」


 ちらっとクロウをも見ると頷いている。クロウでも、やはり見えないらしい。


「えっと、より詳しいことを見るために、鑑定とかをしても?」

「構わん」

「あ~、俺もあんたのことを見てもいいだろうか?」


 勝手に見るわけにもいかないので、許可をとる。クロウの能力を使ってもわからない場合にはどうしようもない。


「うん? おお、そうだな。よいぞ、わかるのであれば見てくれ」


 あっさり許可が出た。まあ、それも分かって一人できたのかなとは思う。何かあったとき、家族が心配するとかだろうか。


「じゃあ、失礼して……あんたが、昨日変だと感じた場所は?」

「え? あ~、SPとMPを送り込んで、だいたい肩から胸に向かうときだったかな。いきなりSPが掻き消えた。そのとき変な魔力を感じた気がする」

「……少しだが、心臓のあたりに淀みがあるなぁ。だが、呪いなどの症状は確認できないが…………聞いていた話と違う」

「え?」

「クロウ、何が違う?」

「虚弱体質であって、病弱ではないなぁ……今、病気に罹っていない」


 ばっと振り返ってクロウを見ると頷かれた。

 病気による衰弱ではない。虚弱体質は病気ではなく体の状態に不調が続く、病気にかかりやすい状態のはず。


 魔力硬化症は、発症したら一生患うことになる。完治することはない病のはず。その場合、病弱とか病気という表示になるはずだ。


「そなたの瞳はそんなことも見れるのか」

「大切な助手です。彼がいないと代替素材の作成なんて、私にはできないですよ。取らないでくださいね」

「ふむ……グラノス、事実か?」

「意地の悪いことを聞くな。……俺はクレインは作れると思うぜ、代替素材。まあ、それが1週間になるか、数年になるかの違いはあるだろうがな」


 兄さんはにっと笑った。クロウもくくっと笑っている。

 作れないという言葉は私にとっては真実だったのだけど、二人は作れると確信しているらしい。ただ、作るための研究の年数は異なってくるという。


「いや、無理だよ。そこまで高い解析能力を私は持てないと思う」

「それを補う能力持ちだろうが、あんたは」

「カイア。出会いは偶然だが……優秀なのは事実でな。帝国に譲ることも、王弟殿下に譲ることも無い。一番平和的に能力を扱えるのはクレインの助手だ」

「……わかっておる。取り上げるつもりはない。そのような顔をせずとも、大丈夫だ」


 不安そうな顔でもしていたのだろうか? 自覚はないけど、全員がこちらを見ているので、多分、顔に出ていたのだろう。


「俺に命の危険はあるか?」


 問いはカイア様。真剣な瞳でこちらを見ている。


「いいえ。あり得ません」


 たぶん、だけど。

 カイア様が死ぬようなことが起きれば、私達が許されることはない。そのせいで危険となるなら……直感を自分の意志で使い、確認するがやはり危険は感じない。

 それなら、カイア様にも危険は、ない。


 私達に危険が降りかからない、そう直感が告げる。


「根拠は?」

「言えません」

「根拠がないではなく、言えないか」

「カイア。この子の危険察知能力の高さは調合の腕を超えるぞ。君を殺せば危険な状態になるのがわかっている。だいたい、ラズからある程度聞いてるだろ」

「その割には、先日、死にかけておったがな」

「ははっ、本当にな。俺にも黙ってたとか、一蓮托生の意味がない」

「いや、まって。あれは自分でも使えないのに気付いてなかっただけだから。でも、そのおかげか、ちょっとは自分の意志でも発動できるようになったし……あ、いや……」


 コホンっと、カイア様が咳払いをする。クロウも呆れた顔をしている。兄さんは笑っている。言わなくていいことを言ってしまったらしい。


「一度、言わぬと決めたなら隠し通すように気をつけよ」

「……はい、気を付けます」

「では、再現を……俺の体のことは気にせずとも良い。もちろん、責任を問うこともしない……クレイン・メディシーア子爵令嬢、並びに奴隷・クロウ。俺がそなたらに手出しをさせぬことを約束しよう」


 ああ。なるほど……ちょっと兄さんに似ているという意味がようやくわかった。覚悟が決まっている。


 自分の決めたことを成す、揺るがない意志が垣間見える。本当に、何か起きても、責任を問うことは無い。上からの妨害もさせないのだろうとわかる。


「わかりました。じゃあ、兄さんにSPをゆっくり流してもらってもいいですか?」

「うん? グラノスがするのか?」

「その方がいいかなと……私はもしもの場合に備えて、いつでも魔法唱えるようにしたいので」

「まあ、いいんだが……カイア、いいかい?」

「うむ、任せよう」


 カイア様が座る椅子の前に、兄さんが膝をついた状態で手を取る。


「注意することはあるかい?」

「多分、胸に届く前に異変が起きる……かな? ゆっくりと送ってほしい。それとクロウが見極めるまでは送り続けて」

「だそうだが、いいかい?」

「もちろんだ。俺の体調は気にせずともよい。原因を調べることを優先してくれ」


 クロウも鑑定用の専用の紙をもって、スタンバイする。鑑定した内容はそのまま紙に残すつもりのようだ。


「始めるぞ」


 兄さんの一声で、ゆっくりとSPを流し始める。私は人が流しているのを見る能力はない。ただ、クロウはしっかりとそれが見えているらしい。


 肩に差し掛かったところで合図され、胸……心臓に近づいた瞬間にカイア様が咽て、咳き込む。

 だが、クロウはそのまま見極めるために、兄さんに止めるための合図はしない。


「見えた! 止めるな、そのまま流してくれ。ディスペルを! 呪いが発動している間にだ!」

「わかった、解呪〈ディスペル〉!」


 昨日は呪いが発動した瞬間にSPを送るのを止め、その後の解呪〈ディスペル〉だった。今は、兄さんが送り続けているので、発動した状態。昨日とは手応えが段違いだった。


「失礼します」


 魔法を発動したまま、カイアナイト様の胸の辺りに手を当てる。そのまま、10秒くらい経つと手応えが無くなったので、魔法を止めてクロウを見る。


「ああ。もう、呪いは消えている。鑑定した呪いの詳細はこちらの紙だ」

「なあ、俺はいつまでSPを送り続けるんだ?」

「しばらく続けてくれ。呪いは無くなったから、胸から全身へ巡るようになったと思うが、一応確認したい」


 クロウは兄さんが送っているSPの流れを確認し、全身を巡らせてから止めた。


「さて……俺が鑑定した内容をあんた達に知らせずに、この人に渡す許可をくれ」


 じっと兄さんがクロウを見ているが、首を振った。私達に見せるつもりはないらしい。


「わかった。許可をしよう。カイア、受け取ってくれ」


 しばし、沈黙が流れた後、兄さんが許可をした。

 その後、私の方にも視線が来たので「許可します」と言葉にする。


 クロウはその言葉を確認してから、鑑定の結果を私や兄さんに見せることなく、カイアナイト様に渡した。


「それがお主の考えか」

「あんたを呪った相手をメディシーアが知る必要はない。これ以上、巻き込んでくれるな」

「いいだろう。この鑑定の内容について、口に出すことを禁ずる。主たちにもな」

「おい、カイア」

「すまぬな。それで、SPは巡るようになったのか?」

「ああ、問題は無いはずだぁ。……巻き込んでくれるなよ?」

「うむ。約束しよう……今後について、気を付けることはあるか?」


 うん? なに?

 クロウが私を見てきたので、首を傾げる。兄さんもこちらを見てくる。

 私が何かを言うべきなのだろうか?


 今後について、健康のためにやっておくべきこと……。


「えっと……じゃあ、SPを使う様にしてください。それと、SPを使い切ったらこれを飲んで、休憩を。1日最大3錠で。ゆっくり鍛えてください」

「そうだな。呪いで今まで使えなかったのであれば、今からでも鍛えるのはいいだろうな。その薬はSPの回復を早める効果だ。俺やクレインも結構使っているが、お師匠さんから制限されているんでな。しばらくはそれを使って体を鍛えたらどうだい?」


 私の言葉を兄さんが引き継ぐように説明をしてくれた。

 呪いがSPを使えないようにしていたせいで、魔力の流れもおかしいことになっていたなら、魔力硬化症ではないのだと思う。


 ただ、これから発症する可能性がないとも言えない。それなら、今からでも鍛えてリスクを減らした方がいい気がする。



「カイア。俺らがこの街を離れて、1週間経ってからにしてくれ。少しでもリスクは減らしたい」

「病が治ったとするにしても、不自然ではないように振舞う。お主たちが献上した薬で治癒したとするが、他の要因だったことがバレぬよう、1か月は様子をみよう」

「そうしてくれ。それと、顔色が悪いうちに部屋に帰れ」

「そうしよう……だが、帰る前に顔を出せ、グラノス」

「俺だけならな」


 そのまま、私達に礼を言って、カイアナイト様は帰っていった。

 ここに来たときより、顔色が悪くなっているけど、多分、回復したはずなので、これから体調は改善するはず。


「やれやれ。クロウ、お疲れさん」

「ああ。さて、続きをするかぁ」

「あ、うん。切り替え早くない?」


 二人はさっさと作業台に戻り、先ほどまでの作業に戻る。私はすでにどっと疲れが出てるのだけどな。


「さっさとこの街から離れるべきだろう? なら、作業をさっさと進めるべきだ」

「クロウの言う通りだな。ほら、君もやるぞ」


 二人に急かされ、私も作業を再開する。夕方には、無事にすべての肝の加工を終わらせることができた。


 あとはナーガ君が蜂蜜を持って帰ってからしか作業が出来ない。予定通り、明後日にはここを出発できそうかな。



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― 新着の感想 ―
クロウの面倒臭がりが発動した!効果は絶大だ!
カイア様に呪いをかけたものが王族の誰かか、もしくはそれに近い身分の者であったなら、その相手を知ってしまった者がいると知られたら、王位継承権争いに巻き込まれるし、王家の醜聞を知ってしまった以上、知った者…
覚悟が足りない者が余計な情報を知ることは破滅に繋がる。 逆に覚悟が十分な者は情報が足りない方が破滅に繋がる。 どんな情報であれ、知らぬ方が本当に良かったのか? 知ってて知らないフリもできるんだがなぁ。…
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