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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-34.病と根源


「ところで、兄さん。王弟殿下に渡しに行けるの?」

「直接なんて無理に決まってるだろ。ラズに渡す」


 だよね。

 謁見したばかりで、もう一回なんて無理だし、簡単に会いに行くことは出来ない方だよね。そもそも、私は王弟殿下に会うなら遠慮したい。


 しかし、部屋を出てすぐに、執事が近づいてきて、兄さんはお呼び出しされた。王弟殿下とスペル様との話し合いに強制参加ということで連れ去られた。

 完成品は兄さんが渡しておくということで、私一人ラズ様の下へ行くことになった。


 でも、完成品を王弟殿下に渡すつもりだったから、兄さんがもっていくので、すでに私は用はないので部屋に戻るで良いのだけど。


「ラズ様のもとへ案内いたします」


 そのまま、私だけが庭のガゼボに案内された。用はないとも言い出せないのでついていくと、座っているのはラズ様ではなかった。


「おお、随分と早いな」

「カイアナイト様……」

「うむ。そのような顔をせずとも、ラズも呼んでいるので心配するな。それと、カイアでよいぞ」


 案内された場所にいたのはラズ様ではなく、その兄、カイアナイト様。

 正直、兄さんと一緒ならともかく、一人で相対することになるとは思わなかった。


「その、兄さんは王弟殿下とスペル様の話し合いに向かいましたけど」

「ああ。その間であれば、そなたと二人で話せると思ったのでな」

「……ラズ様を呼んでいるといいませんでしたか?」

「うむ、言ったな」


 うん。呼んだけど、来ないのかな? 

 こちらをじっと見てくるけど……うん。目が笑ってない。ちょっと尋問とか受ける感じなんだろうか? でも、危ない感じはしない。


「お話はなんでしょうか?」

「なぜ、大量に作れる素材で代替素材を生み出したのか、聞いておきたくてな」

「今、大量に作れるだけですよ? ヒュドールオピスの肝は今しかありません」

「そうだな。不足している一時的な今だからこそ必要だが……再び足りなくなったとき、必要になってもすぐには作り出せん」

「ですが、肝1個で作れる量は、安らぎの花蜜の100倍あります。まあ、肝はすぐ悪くなることを考えると、今、加工をしておく必要もありますけど……今回、狩りすぎたヒュドールオピスの有効活用としては悪くないはずです」

「ふふっ……わかっておるだろう? 悪くないどころか、良すぎるのだと。王弟派の力が強くなりすぎる」


 政治的なバランスが崩れるのは理解している。だけど、安らぎの花蜜は必要だった。今回、兄さんが持ち帰ってきた量だって、肝1つ使った量の半分くらい。

 まあ、数年分の在庫を王国が手に入れ、その分、帝国は利益を失っている。素材一つとはいえ、貴重な薬となるためのもの。高騰している価格を破壊することにもなる。


「数年分……長く見積もっても7,8年。10年分にはならないですよね? それだけの時間があれば、帝国のもつ土地を回復させる時間もあります。そして、この素材がないと、持病を持つ人達は死を待つことになります」

「そこまでわかっているのだな。ならば、小言は止めておこう」


 何も考えずに作っているなら、怒られるとこだったのか。

 代替素材は便利だけど、一時的にしないと、その地域の特産に大打撃を与えてしまう。今は無理でも、いずれ落ち着いた時には邪魔になるくらいはわかってるつもりだ。


「このまま、安らぎの花蜜がなくなれば……異邦人への敵意は留まるところを知らなかったであろう」

「いくつかの病には必須ですからね。その割には帝国を放置していますけど……」

「そうだな」


 否定ではなく肯定が返ってきた。

 つまり、異邦人を敵視させて、滅ぼすまでが既定路線。その間に出る犠牲者にも目を瞑る。


 カイアナイト様自身が薬を必要としている人なのに……犠牲になることを戸惑わなかったのだろうか。

 にこやかに笑っているように見えるけれど、何を考えているかが全然わからない。


「パメラ殿のためだけであれば、他の素材で作ることも出来たようだな」

「……もし、レカルスト様に協力をいただけないのであれば、解毒してでも肝を使うことは考えませんでした。ただ、毒以外で闇素材は……希少すぎる」

「であろうな。俺も、父上も作り出せるとは思っていなかった。こんな短期間ではな」

「……だから、兄さんにダンジョンに行くように命じたんですか?」

「知っておったのか」


 兄さんは私の負傷で、謁見をすっぽかしている。普通ならお咎めなしであるはずがない。なのに、午前中の謁見で責められなかった。そして、私が覚醒する前に、危険なはずの帝国に旅立っていた。

 師匠のためであることも、もちろんあると思う。でも、それならレオニスさんが行く理由にはならない。多分、師匠の分はレオニスさんが入手する必要があった。


 兄さんが入手した物は全て、王弟殿下に渡す予定だったのだろう。多分だけど。

 異邦人や他の貴族はともかく、自身の息子を犠牲にするつもりは王弟殿下にはなかった。


「なるほど。頭は切れる。ただ、致命的に甘いか……ラズの言う通りだな。グラノスが可愛がるのもわかるな」

「……」

「功績としては十分。お主の死はこちらも望まない。その上で、問おう。ドラゴンのことは忘れぬか?」


 それは、私は保護してもいいってことか。


 ドラゴンが攻めてこないようにできる術をもつのかな。


 功績……今後も、同じように素材を作り出せる可能性があるなら、死なせるわけにはいかない。


 では……悪魔の二人は?


 どちらが先に狙われるか……間違いなく、悪魔の純血種の二人。いや、ルストさんは純血かは知らないけど。彼女達に言及しないのは、見捨てるからか。


「スペル様の見解では、私に命じると聞いていました」

「そうだな。もし、今回の代替素材の件が無ければ命じておった。だが、その薬師としての腕は貴重すぎる。失う訳にはいかない」

「……無理です」

「共にいられないと伝えているのだろう? お主はマーレに、グラノスに渡す土地に匿っておけばいい。そちらがドラゴンに襲われてから、考えてはどうだ?」

「……悪い子じゃないんですよ」

「そなたの手に余るのだろう?」

「はい。元々の素質の部分なので、どうしようもないのはわかっています。……甘いのは承知で、でも……また、見捨てたら……」

「また?」

「いえ……知り合いを見捨てて、生き延びても…………笑えなくなるかなって……」


 もちろん、自分を犠牲にするつもりでドラゴンと交渉するつもりなんてない。

 世界のためにとか、そんな自己犠牲は私には無理。


 でも、出来る範囲で手は延ばしたい。いや、顔も知らない他人として扱うには、すでに出会って会話して……放り出せないかなと思うくらいには情が湧いている。どうしても心配になってしまう。



 視線が合った。お互いに視線を反らさずに見つめ合う。

 兄さんからは「俺と似ている」と聞いていたけど、カイアナイト様は色々と雁字搦めになってる人だと思う。


 兄さんは大切なもののためなら、出来る限りを尽くしてくれる人だけど……この人、出来てしまうから背負い込んでしまう人じゃないかな。


 でも、体が弱い人だから、歯痒い思いもしている感じがする……。


「…………あい、わかった。お主が笑えないと煩そうだ。勝算もなく言っているわけではないな?」

「はい」


 にこりと笑って頷くと、同じように笑顔が返ってきた。うん、すごい。美人の本当の笑顔って破壊力あるな。圧を感じる。


 ドラゴンに関して、大丈夫だと絶対の自信があるわけではない。それでも、何とかなるとも思っている自分がいる。



「ところで、昨日も今日も、体調は大丈夫なんですか?」

「薬を飲み続けていればな。先日倒れていたのは、薬の備蓄がぎりぎりで頻度を減らしていたのでな」


 昨日も今日も化粧で顔色を隠している感じはするんだけど、体調が悪そうには見えなかった。たしかに、症状は安定しているのかもしれない。

 兄さんが私が倒れた結果、急いで帰ってきたときは体調が悪かったと聞いているので、おそらく、試作品で急いで薬を作成したのだろうな。


「お主のおかげだな」

「いえ……少し、診てもいいですか?」

「薬師ではあるが、病気の専門ではないのだろう?」

「あ、はい。病気に対しては本で読んだことあるくらいの素人知識です」

「ふむ……直にラズが来るだろう。その後なら良いぞ」


 あ、ちゃんとラズ様を呼んでいるのか。その前に話したいことだけ話をした感じかな。

 しばらくお茶を飲んで待っていると本当にラズ様が来た。


「兄上。その子、僕の婚約者なんだけど~」

「うむ。わかっておる。たとえ、本当に家族にならずとも今は義妹として扱っているぞ?」

「そう……それならいいけど。怖がらせてないよね?」


 ラズ様がこちらに確認を取ってきたので、こくりと頷く。昨日と違って、今日はそこまで圧を感じてはいない。さっき、勝算の確認をされたときくらいだったはず。


 兄さんと仲良いみたいなので、こちらにも気を使ってくれている感じがする。


「俺を診たいというのでな。待っておったのだ」

「兄上を? 何か気になるの?」

「その……今後の参考になるかなと……」


 魔力硬化症……高い魔力の人が起きやすいらしい。あと、SPとMPの差が激しかったりすると起きるとか、色々と調べている。

 私もバランスよくどちらも出来ればとか考えていたけど、現状ではどちらかというと魔力よりに育っている。自分が発症したりしないように、事前に知っておきたいというのは失礼だろうか。


「よいぞ。それで、どうすればよい?」

「あ、じゃあ手を握ってもいいですか? あと、ちょっと体にSPとMPを流しても?」


 二人の許可を取って、カイアナイト様の両手を握り、SPとMPを流す。ゆっくりと全身に回るように流していく。腕から肩、肩から胸、そこから全身へと思った瞬間、SPが消失した。


「え? なにこれ?」


 すぐに体に流すのを止めるが、カイアナイト様の顔色が悪くなり苦しみ始めた。

 今のは、送り込んだSPが吸収されたから? いや、違う。なんか、変な感じに変質している気がする。一瞬だけど、変質する瞬間に変な魔力が発動した気がする。


「……状態異常複数回復〈クリア〉、解呪〈ディスペル〉」

「ごほっ……っ……ごほっ……」

「クレイン、何が!?」


 カイアナイト様が咳き込み、吐血した。やばい、かなり体に負担がかかってしまったっぽい。


 唱えた魔法は、とっさに唱えたのは、今、送り込んだSPを打ち消すため。状態異常ではないので、効果はまったくなかったけど……。

 解呪〈ディスペル〉に手応えあった。ドキドキと胸の動悸が早くなる。


 これ、何かまずい……。

 自分に対して危険ではないけど……何かある。


 神父様に解呪〈ディスペル〉は魔法をかけ続けなくてもいいと聞いていたけど……完全に消してないことも感覚的にわかる。


「ラズ様……」

「ちょっとまって、兄上! 大丈夫!?」

「すまん……少し、休む」

「あっ、すみません……その……」

「……よい。俺が許可したのだ……胸の辺りが楽になった」


 今の感覚をラズ様に説明しようとしたが、それよりもラズ様は兄であるカイアナイト様の心配をしている。当然と言えば、当然だけれど。


 いや、でも、先ほどよりもかなり顔色悪くなっている。これ、絶対にまずいのでは?


 私が悪化させた犯人ってことで、最悪を考えると震えが止まらない。


「すまぬ。また、時間を作ろう」

「あ、いえ……」


 とりあえず……ちょっと、クロウに相談してみよう。何か知っているかもしれない。


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