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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-33 .薬師の力量


 師匠にも確認したが、レカルスト様とその父は私達の調合の腕を見せてほしいとのことだった。

 師匠も構わないらしいので、そのまま作業することになる。


「やれやれ。調合するところを見たいのは構わないが、こちらも出来る限り進めておきたい作業がある。そちらの希望のものを作るのかい?」

「いや。こちらのことは気にしないでくれて構わないよ。勝手に見学させてもらうのでね」

「そうかい。じゃあ、やるか」


 兄さんがささっと謁見用の服から普段着に着替え始めたので、慌てて、私も奥の部屋にて急いで着替える。ドレスとかではないから昨日よりはいいけど、肩がこってるし。


「グラ坊。謁見で話は進んだのかい?」

「ああ、お師匠さん。水竜の肝はこちらが全て加工することになった。とりあえず、肝だけでも加工するつもりだ」


 手持ちの水竜の肝を取り出しつつ、材料を用意する。

 しかし、調合するところを見たいということは、不用意に魔法は使えないよね。とりあえず、兄さんの調合を手伝いつつ、蜂蜜がある分だけでも錬金していこうかな。


「こちらが王弟殿下から用意するように命じられた品になります。急だったこともあり、少々質にばらつきがあるのは勘弁願いたいですね」


 レカルスト様も作業場にやってきて、一通り素材を魔法袋ごと渡された。たしかに数はあるけれど、品質はまちまちになっている。


「ふむ……どうだ、クレイン?」

「うん。もう少し使いやすいように下処理するね。兄さん、こっちの盥に聖水を張ったから、水竜の肝はこれで穢れを落としてからお願い」


 ラズ様から預かっていた水竜の肝はすべて下処理が終わっていたけど、たった今渡された素材は下処理が出来ていない。

 レカルスト様とレカルスト様の父以外は、師匠とクロウしかいないので、魔法以外は守秘義務とかは考えなくても構わないだろう。

 兄さんが聖水に浸けて穢れを落とす間に、預かったゼンゼロの根の傷んでいる部分をはぎ取り、洗っていく。


 きちんと丁寧に掘り起こして採取しなかったっぽい。ところどころ、傷がついてしまい、そこから傷んでしまっている。

 その部分を取り除くだけで、品質は上がるから手間が少し増えただけ。さくっと処理をしていこう。


 クロウもやれやれと言いながらも、下処理を手伝ってくれている。


 いや、なんかよくよく観察したら、クロウはめちゃくちゃ手際よくなっている気がする。じっと手つきを見ていたら、苦笑された。


「あんたがいなかったり、倒れていた期間の対応をさせられたんだがなぁ?」

「あ、うん。ちゃんと給料は臨時ボーナスだします」

「コートのツケに回してくれ」


 量がかなりあるため、手分けして他の素材も下処理をして、品質を一定化しておく。品質ばらばらなのが一番面倒になるからね。


「肝の大きさはほぼ変わらないようだな。悪くもなってないから穢れを落とすだけで良さそうだ……俺がやるんでいいのか?」

「うん。兄さんに任せる。やっぱり進化してすぐに狩りつくしてるからね……そういう点では品質安定してるから、扱いやすいよね。調合はクロウと交代でお願い。私は出来たものを錬金していくから」


 下処理が出来た素材で調合を開始する兄さん。失敗することも無いので、さくっと下準備だけ終わらせたら、錬金を始めよう。

 蜂蜜が大量に必要とはいっても、買い占めるわけにもいかないからね。こちらで不足していることがわかっているからなのか、蜂蜜も王弟殿下の方でも用意してくれている。


「すまないが、教えてくれないか? 何故、聖水に浸けているのかな?」

「品質を安定化させるためですけど……魔物素材は入手直後の場合、穢れが付いている可能性が高いです。穢れが消えるまで寝かせておくことが多いですが、肝は傷みやすいので、聖水で浄化か、もしくは中和剤による中和をして穢れを無くします。その方が成功率上がるので、その下処理です」

「ひよっこ。それはあんた達のやり方だよ。普通の薬師は、使えるようになるまで素材を寝かしておくんだよ。納入を急ぐ必要があるからと過程をすっ飛ばすのを当たり前のようにするんじゃないよ」

「えっと……すみません」


 師匠が苦笑しながら、レカルスト様達にメディシーアの秘訣だから外に漏らさないようにと伝えている。


 普段は聖水使わずに、魔法使っているなんて言ったら、どうなるんだろう。若干、兄さんとクロウがこちらをジト目で見ているけど、仕方ないよね。

 今回は急ぐし、これだけで成功率上がるのだから、悪いことじゃない。


「すまんねぇ。調合のやり方、素材が変われば手間が変わる、すべて工夫次第と教えたら……まったく…………予想外の方法で調合をするようになってしまってね」

「頼もしい次代ではないですか。まあ、新たな中和剤を広めたばかりですし、まだ公表は勧めませんがね」


 うん。レカルスト様が褒めてくれるのは嬉しいのだけど、なんか、レカルスト様の父君、目をかっぴらいて、顔を赤くしているのですが……怒られる感じかな。


 やり方が伝統から外れるとか、そういうことを言われてしまうと……でも、素材は無駄にしたくないから、この方が効率的だと思うのだけど。

 

 ちょっと怖いので、そそくさっと錬金窯が置いてある奥へと逃げて、一人で錬金作業をすることにする。


 足りてなかった蜂蜜を入手したので、用意されていた蜂蜜をつかって製作していこう。

 たまに横目に確認をすると兄さんがちょこちょこと作業しながら質問攻めに合っている。



「……そんなに、ダメかな……」

「何を気にしてるんだい?」

「師匠……いえ、ちょっと色々と」

「ひよっこ。気にする必要はないよ。自分のできる技術を使って、作り出すのが仕事だよ。その工程は、それぞれの創意工夫があって当然なんだよ。そのやり方に気付いて、より失敗を少なくすることに何の問題があるんだい」


 問題は無い、と思う。

 その技術により、失敗が増えるとかなら問題になる。


「でも、あの方は権威のある方ですよね。こういうやり方は認められないのかなと思いまして」

「なに、あれはただ悔しいだけだよ。その技術が革新的であればそれだけ、そこに至らなかった自分に悔しさがある。あれも調合バカなところがあるさね。魔物素材の扱いの不便さを感じていても、それを改善することは思いつかなかった。昔、わたしも付きまとわれたことがあるよ。『なぜ、素材を変えても作れると考えたんだ!』とね」

「信頼してるんですね」


 師匠は懐かしそうに眼を細めて笑っている。多分、戦友とか、そんな感じなのだろうか。レオニスさんとはまた違った、信頼関係があるように感じる。


「わたしがいなくなったら、調合においては後ろ盾の一つになるさね。『実力のない薬師の後ろ盾はしない』と言ってたくせに、随分とグラ坊が気に入ったらしい。クロ坊もだけどね……心配はなさそうだ」

「えっと、私、逃げてきちゃいましたけど」

「あんたが一番腕がいい。大丈夫だよ」


 師匠は笑ったあと、こほっと小さく咳をした。やはり、昨日までの移動で疲れているのかもしれない。ゆっくり休んでもらった方がいい。


「師匠……」

「そんな顔をするんじゃないよ。大丈夫だよ」


 師匠に頭をぽんぽんと叩かれ、「がんばんな」と言って、兄さんの方へと戻った。


「ほら、こいつが中間素材だ。調合できたぜ?」


 兄さんが調合を終わらせ、完成品を渡している。うん、しっかりと出来ているらしい。兄さんの方をちらっと見ると、師匠もこくりと頷いている。


 う~ん。何度も作ってる間に上手くなるって話だったけど、1回でも成功させる兄さんって、やっぱりDEX値高いんだろうな。


「手際もよい。冒険者などさっさと辞めて、専念をしたらどうだね?」

「ははっ、まあいずれは薬師一本にするだろうがな。だいたい、俺より腕がいい奴がいるのに、専念しても仕方ないだろ。人手が足りないときに手伝うくらいでいい」


 兄さんはそのまま作業を進めている。クロウも面倒そうにしつつも助手として手伝っている。なんだか盛り上がってるのが気になるけど、ちょっと苦手なので避けておこう。

 

「そのまま作業を続けるのかね」

「ああ、まだSPが余ってるからな。足りなくなったら交代だな」

「ふむ……それほどになるのか」


 そのまま、クロウが下処理をして、兄さんが調合した素材を受け取って、私が錬金をする。


 さくさくと完成品を作っていく工程を見て、レカルスト様達が次第に顔が歪んできているが、何か変だろうか?


 師匠とたまに会話をしているが、師匠は楽しそうに見ている。作業場自体が少し寒いかと思っていたが、大丈夫だと言って見守っている。


「う~ん。蜂蜜切れちゃったから、ここまでかな」

「だろうなぁ。使う量が量だけに、仕方ない。出来た分だけでも、届けてきたらどうだ?」


 数時間後、蜂蜜が無くなった。ただ、不足していた安らぎの花蜜の代替品としては、しばらくは補えるくらいの量にはなったはず。


 あとはナーガ君達が帰ってきたときにまた作ることになるかな。まあ、何だかんだでダンジョンまでの移動とかも考えると1か月くらいは帰ってこないので、その間でも蜂蜜が手に入れば少しずつ作るか……。


 いや、まとめて作った方が良さそう。手元に残す形は良くない気がする。


「じゃあ、俺が届けてくるか。クロウ、交代だ」

「そんなに急いで加工しなくてもいいと思うがねぇ……どうせ完成しないなら、今日はもういいだろう」

「毒が欲しい人から狙われそうだから、さっさと加工しちゃったほうが良くない?」

「どちらにしろ、狙ってくる奴はまだ残っていると思ってやってくると思うがなぁ」

「たしかに?」


 まあ、加工が終わるまでは滞在することになっているのだから、急いで作る必要が無いか。

 すでに渡されたうちの70体くらいは調合が終わってるから、このペースなら、王弟殿下が持っている分は、明日には終わるかなと思ったんだけど……そこまで急ぐ必要はないかな。


 むしろ、明日には調合用の器材を3つ用意しておくといわれた。明日は3人同時に調合を進めることが可能となりそう。


「そうさねぇ、クロ坊の言う通り、今日は終わりにしたらどうだい? 代替素材を使って、薬を調合しないといけないだろう。場所を譲ってやりな」

「え? あ、そうなんです?」


 そうか。レカルスト様とか、そのお弟子さん達は代替素材を使って、調合をしないといけないのか。なら、確かにずっと占領しているのは悪いかも。


「じゃあ、とりあえず報告行くか」

「じゃあ、俺は帰るかねぇ……」

「そいつは残念だな。じゃあ、夜、宿でな?」

「ああ」


 クロウは片づけをして、師匠をエスコートして部屋まで送ってくれるというので任せて、私と兄さんはラズ様の部屋に向かった。




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