4-28.テイムの責任
ナーガ君に馬車ではなく魔物に乗ることを提案し、クロウとナーガ君と一緒にテイマーギルドに向かうことになった。
テイマーギルドにて、貸出できる魔物がいる牧舎へと案内してもらう。乗れることが前提となると候補に挙がるのは、馬系、狼系、そしてキャロ達と同じメガダッシュプースだという。とりあえず、見せてもらってから決めることにする。
「一人一匹用意するか、馬車を用意するか……だが、明日出発だし、増やすしかないかぁ」
「クロウ。他人事だと思って簡単に言わないでよ……」
「テイマーが味方である魔物を増やすのは普通だろ」
「いや、そうだけどね」
「……この町で飼うのは厳しい事はわかっている」
ナーガ君の言葉に頷く。借家だし、モモを飼うことは大家さんも反対はしてないけど、やっぱり家が傷むのも早いと思うので、なんとかするべきだと思っている。
土地をもらうことにもなってるから、そこに行けば文句をいうつもりはない。
ナーガ君がきちんと世話をすることはわかっているから、飼うことができるだけのスペースがあればいいだけだ。
いや、でも、限度はあると思うんだよね。
あっさりとキャロとロットを進化させたとか聞いたときには、話についていけなかった。
あの兎たち、固有種とかいうレア進化させてしまったらしい。普通に大きくなるだけの進化でよかったんじゃないかなと思ったよ。
「ナーガ君……今回は、領都に行くだけの足だからね? テイムしなくていいからね」
「……ああ」
「俺としては、飛び跳ねる兎よりも馬とかの方が乗りやすいと思うんだがなぁ」
「ぷ~?」
クロウの言葉に対し、後ろから思わぬ返事が返ってきた。
牧舎から脱走してきたロットだった。その後ろにはキャロもいる。どうやら、ナーガ君の気配を感じて、こちらに勝手に抜け出して来たらしい。
「すまんな、不満が有るわけじゃない」
「いや、走り方が安定しないから、馬とかのが良いのは事実だと思うよ」
クロウが言葉を取り消したが、どう考えても、馬の方が安定した走りしてるのは間違いないと私は思う。そう、言葉にした途端に、二匹から反撃を受けた。
「ぷぷ!」
「ぷぅ!」
「あぅっ!」
「にゃぁ~!!」
キャロに体当たりされて、ロットに潰されて変な声が出てしまった。ついでに、モモもフードから押し出されて文句の鳴き声が聞こえる。
いや、まあ、全力で潰すのではなく、じゃれているとは思うのだけど。前よりも、力が強くなっている。色合いもよく見たら変わってるし、本当に進化したんだなと思う。
私を潰す二匹に対し、モモが抗議の声を上げてくれている。だが、いかんせんサイズが違い過ぎるので、モモの言うことは一切聞いていない。
「久しぶり、重いんだけど……」
「ぷっ!」
キャロとロットは人の話を聞かずに、なおも潰してくるので、なんとかそこから逃げる。シマオウがいれば、すぐにやめさせてくれるのに。モモがなんとか脱出した私の肩に戻ってくる。
「……キャロ、ロット。嬉しいのはわかるがそれくらいにしておけ。それと、一時的にクレインが乗る魔物を探しているんだが、いいやつはいないか?」
「ぷぷっ?」
明日から、5人で出掛ける。キャロとロットでは乗り切れないために、私が乗る魔物を探しているとナーガ君が説明すると、少し考えた様子を見せた後に二匹は走り出した。
「「PUPUUUUUU~!!」」
奥の方で、二匹はギルドの敷地内に響き渡るような大きな声で鳴く……いや、咆哮なのか?
何が起きたかわからずにナーガ君を見るが、首を振っている。この二匹が何を考えているのかは、ナーガ君もわからないらしい。
ただ、そのまま、二匹が視線を向けている先から、ゆっくりと魔物が近づいてきている。
「……サンフジ、コウギョク?」
「ナーガ君、どういうこと?」
二匹の咆哮を聞いて、駆け付けたらしい猫型の魔物二匹。ナーガ君は名前で呼んでいるので、どうやらこの魔物を知っているらしい。
「……いや、怒られると思って、テイムを解除した二匹だ」
ナーガ君が簡単にだが説明をしてくれた。スタンピード後に帰るために一時的にテイムしていたらしい。
ギルド職員にも確認をとったところ、どうやら、この二匹はシマオウに従っている。私が倒れた日に、シマオウに獲物を捧げるためにギルド内に侵入してきた魔物だという。
その後、暴れないようにするため、ギルドでテイムをした。テイム自体は容易に出来たのだが、主人の言うことをあまり聞かない。ギルド所属にしても持て余している魔物だという。
「……知らなかった」
緑の沼に行くためにキャロとロットを迎えに来たときにも、二匹は顔を出さなかったらしい。その前の兄さんがシマオウを連れていくときも同様。
奥の方で二匹で過ごしているが、日に日に元気が無くなっていたとギルド職員に説明された。
「ぷぷ!」
「ぷっ!」
ナーガ君の背中をぐいぐいと押して、二匹の猫型の魔物の前に突き飛ばす。モモも私のフードから移動して、ナーガ君の頭の上でふみふみをするなど、何か抗議をしている。
「……すまない。また、力を貸してくれないか?」
「ぐるぅ……」
「……嫌なら、断ってくれてもいい」
ナーガ君が二匹の前に座って、目線を合わせた状態で話をするが、二匹ともどことなく戸惑っている。ナーガ君が嫌なら断るように言っているが、お互いの意思がかみ合っていない感じがする。
「ナーガ君。連れていくなら、テイムして、もう解除しないって約束したら? たぶん、解除されて怒ってるんじゃない?」
「……だが」
「増やすなって言ってる私が言うのもなんだけどさ……名前つけて、一緒に過ごしてたのに、いきなりもういらないって言われたら魔物でもショックだと思うよ? それでも、シマオウのとこに戻ってくるくらいには、思い入れがあったんだよ、きっと。今回も乗り捨てるのが前提なら、二匹は嫌なんじゃない?」
「……そう、なのか?」
「ぐる~」
二匹は頷いている。あまり懐いてくれなかったから、自由に生きた方がいいと思ってテイムを解除したとナーガ君は言っているけど。懐いていたんじゃないかな、二匹とも。不安そうな瞳はしているけど、ナーガ君が良いのだと思う。
「どっちがコウギョク?」
「ぐる~」
「私はナーガ君の仲間のクレイン。明日、乗せてもらっていいかな?」
私が近づくとぺろりと頬をなめられた。多分、いいと言うことだろう。「よろしくね」と伝えて、撫でると気持ちよさそうに目を細めている。
やっぱり、十分懐いていると思う。モモがコウギョクに乗っても怒らないでくれているので、気性も荒くない。
「俺はクロウ。サンフジ、いいか?」
「がぅ!」
「やれやれ……手続きしたら、ナーガがテイムをし直すから少し待ってくれ」
「……手続きしてくる」
クロウの言葉にナーガ君が背を翻して、手続きのために走っていく。また、二匹、テイムしている魔物が増えた。これもラズ様への報告が必要だろうか。
「キャロ、ロット。紹介してくれてありがとうね」
「ぷ!」
キャロとロットを撫でつつ、餌を与えておく。もしゃもしゃと食べている二匹を見ているとクロウが近づいてきた。
「なぁ……あんたは名前を付けるって、この世界では重要だと思うか?」
「うん? 何となく、そう思ったけど? 何かある?」
私がナーガ君に「名前を付けて……」と先ほど言ったからなのか、クロウから突然に聞かれた。
テイムでは必ず名前を付けることが求められているし、大事なことだと思ったけど、何かあるのだろうか?
「レウスとアルスもだが……やばい大きさの水竜の名付けをしてるぞ、ナーガ」
「え? なんで?」
「事情は聞いていない。俺もティガも、自主性に任せて、自由にさせてたんだがなぁ……今日、緑の沼で〈ヤトノカミ〉という老竜の体についた苔を採取してきた。人の言葉を話すような魔物だ」
「……聞いてないんだけど?」
「俺はいきなり3人が魔物を呼び出した方が驚きだったがな……爺さんのような魔物だ」
「あとで、確認とっておく」
クロウの話では、ティガさんには手を出さないように忠告した。そして、ティガさんとしても、ナーガ君と二人で話はしたらしいが、その後は好きにやらせていたらしい。
そして、3人だけでダンジョンに出かけて、踏破して帰ってきたということだった。しかし、今日、唐突に緑の沼にて魔物を呼び出すという暴挙……クロウは対処に困ったらしい。
テイムはしていないが、名付け親が3人の名前になっていたらしい。
「そんなことまで視えるんだ?」
「俺ら全員を一飲み出来そうな魔物だぞ? 気になって調べるだろう」
「それで?」
「数千年生きたヒュドールオピスとなっていたから、あんた達がスタンピードで倒した魔物と同じだろう」
「う~ん。あれかな……ナーガ君なりに、調べてくれるつもりだったとか」
「また、厄介ごとか。話してもらえるのか?」
「うん。私と行動するなら、巻き込まれるからね。話すよ」
「巻き込んでくれるな」
いや。仕事上、クロウは巻き込むしかないと思う。分量とかは勘でできても、そもそもの素材の性質とか、解析において、クロウの能力が飛びぬけている。
仕事で必須なので、私も〈解析〉のレベルを上げていきたいとは思っているけど。
「私一人では開発が厳しいのもあるけど、これで貴族たちでも安易に手が出せないくらいまで持っていけると思うんだよね」
「……貴族ねぇ。まあ、出来ることはしよう」
「助かってるよ。いつもありがとう……ただ、胃が痛くなるから、できれば年少組について、もうちょっと野放しにしないで見ておいて」
「俺の胃が痛くなるからなぁ」
クロウとしても、色々と調合作業の依頼が入っていたらしく、そこまで見ている余裕はなかったらしい。ティガさんが口出ししないようにしておけば、問題ないと考えていた。
結果、やばいもんと知り合いになっているので、私に報告したらしい。
そのおかげで、〈緑の沼の苔〉が入手できるのであれば、私としてはありがたいとしか言えないのが、叱り辛いんだよね。
「……手続きが終わった。すまなかった、もう一度、俺と〈テイム〉を結んでくれ」
「「ぐる~」」
ナーガ君が戻ってきて、二匹の前に座り、謝罪をする。うん、ナーガ君としても二匹のために解放したつもりだったらしいから、悪いわけじゃないのだろうけど。
二匹も頷いて、テイム契約をしたので、ナーガ君の魔物が増えた。
「ナーガ君。次、進化させるなら、新しい土地行ってからにしてね?」
「ああ……モモ、そういうわけだから、我慢な」
「みゅ?」
ああ、モモも進化できるんだ?
いや、でも……今のサイズならいいけど、進化したら家で飼えないから困るかも。いや、でも作業場には進入禁止していたりと、家でもつまらないかもしれない。それなら、シマオウ達と一緒にいた方がいいかな。
「移住した先の庭で飼うにしても……かなり広くする必要ありそうだよね」
「庭ねぇ……まあ、これほどではなくても、それなりに必要だろうなぁ」
「……ああ。すまない、しばらくはここに預けることもあるだろうが、きちんと居場所は確保する」
コウギョク達だけでなく、キャロ達もその言葉に頷いているけど……キャロとロットについては、ここでの暮らしも満喫しているような? わざわざ、ここで支給される餌ではない餌を用意していると聞いた。なぜか知らないけど、特別扱いを受けている。
「……明日、迎えに来る」
ナーガ君の言葉に頷いた魔物たちと別れ、明日の準備もあるだろうから一人で大丈夫だと伝えて、ナーガ君たちとも別れて冒険者ギルドに向かう。
「クレインさん! 良かった!!」
ギルドの入口を開けた途端に、マリィさんが飛び込んできた。
「えっと、ご心配おかけしました」
「はい! 本当に……心配しました!」
ぎゅっと抱きしめられながら、少し涙目になっているマリィさんに至近距離で怒られる。いや、でも、一昨日もお見舞いに来てくれたから会ってるよね? ベッドからだったから心配だったとか? あ、でも他のメンバーに見せつけるのが目的かもしれない。
「本当に、良かった! 何があったのかもわからず、心配したんですよ」
それに、私が刺されたとき、見ていただけにショックも受けているのはわかっている。マリィさんは何度かお見舞いに来てくれている。エルルさん達他の受付嬢にもよかったと頭を撫でられた。心配させてしまったらしい。
「もう、大丈夫です」
「そうですか。しばらくは、無理しないでくださいね?」
「えっと、ちょっと領都の方に行くことになったので……しばらく冒険者として活動しないかもです」
「そうですか……でも、いいかもしれませんね。スタンピードでお金もあるでしょうし、ゆっくり観光するといいですよ」
うん。観光するかどうかはわからないけど……。
しばらく、出かけることについては賛成された。他の冒険者メンバーからは、事情が伏せられていることもあり、「怪我したんだって?」と声をかけられた。
ただ、一部は素材についての交渉をしようとしてきたので、そちらは断っておく。そもそも、水竜の素材は一切合切渡してしまい、持ってない。
皮や牙、角であろうと持ってないのは事実。肝が欲しいというなら、絶対お断り。他の人たちも話を聞いていて、「そうか」と納得してくれたようなので安心。
「クレインさん。あまり無理が無いようにお願いしますね」
「はい。その……色々すみませんでした」
マリィさんはにっこりと笑って、許してくれた。心配させて申し訳ない。
そして、キュアノエイデスに行くならと色々とおすすめのお店を書いたメモを渡された。ありがたくもらって、お土産を買ってこよう。




