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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-26.千客万来


 昨日、何とか完成に漕ぎ着けた〈安らぎの花蜜〉の代替品。〈錬金蜂蜜〉とでもしておこうかな。


 今日はこれで、上級薬をいくつか試しで作成してみる。これできちんと作成できれば、成功ということになる。

 ナーガ君も出かけてしまったし、クロウも一緒に行ってしまったので一人で作業。


 いくつか作って成功したら、師匠に報告。ラズ様にも報告が必要かな。


「んふっ、精が出ますねぇ。一昨日、目を覚ました人とは思えませんね」

「ん? ネビアさん?」

「ええ。お久しぶりです。話をしてもよろしいですか?」

「いいですよ。ちょうど、できたところなので」


 上級薬の一つは、錬金蜂蜜での作成に成功した。

 そして、声をかけられて顔を上げるとネビアさんが作業場のソファーに腰かけて、優雅に座っている。

 いつ来たのか、全然わからなかった。


 調合に集中していたというのもあるけど、裏の人だからか、声をかけられるまで気配を感じなかった。ただ、部屋の外でモモが唸る声が聞こえるので、モモは気配を感じていたらしい。


 一度ドアを開けて、「大丈夫だよ」と伝えると「にゃあ~」と鳴いて、入口のドアの前で丸まって毛づくろいを始めた。


「んふふっ。お願いがありましてね。お持ちの水竜の肝、いただけませんか?」

「他の物であれば、考えます。でも、水竜の肝はだめです」

「おや、何故です?」

「メディシーアが毒をばら撒く。そんな評判は絶対いや。……そんなにおかしいですか?」


 私の答えに楽しそうに笑いだした。んふっ、んふっと笑っているけど、その笑い方が気になる。ツボに入ったのか、止まらないらしい。


 とりあえず、「どうぞ」とお茶を出しておく。笑っているだけなので、喉がつっかえたとかではないのだろうけど。


「失礼しました。本気ですか? そんな不良在庫を毎回抱えていては、破滅しますよ?」

「不良在庫にしなければいい。これでも、結構優秀な薬師ですよ」

「先ほどまで作っていた、それ。まさかと思いますが……」

「メディシーアは、工夫で、安い素材を使って薬を作れる技術をもつ家です。師匠の名を汚したりしない。水竜の肝は全て、薬の素材に作り替える……とりあえず、この錬金蜂蜜で上級薬が一つ、作れました」

「面白いですね。では、これならどうです?」


 私の喉に短剣が当てられている。ソファーからの距離は3メートル。瞬間移動? と思うほど、一瞬で制圧されてしまった。


 油断をしていたのは事実。ただ、やはり裏の人間の実力は高い。ただ、殺気は無い。こちらを試しているのだろう。


「殺して奪うとなると……どうしようもないかな」

「おや。死にたくなければ渡しなさいと言っても従わないと?」

「……死にたくないですよ? でも、この素材にかけてるんですよ。早急に、代替素材が必要になる、安らぎの花蜜。その代替素材として、闇と水属性をもつ、水竜の肝は要です」

「予想外でした。もっと怯えて、泣くかと思ったんですけどね」


 喉元に突き付けていた短剣を引いて、両手を上げてから離れ、ソファーにどさっと座る。何やら、試し行動は終わったらしい。


「う~ん。すごいですね?」

「おや、何がですか?」

「殺気も何もなく、殺せるんだなぁと。……約束しますよ、他の用途には使わないと」

「んふっ。面白い兄妹ですね。では、水竜の肝ではなく、出来上がった代替素材を分けてもらえますか?」

「いいですよ。量にもよりますけど……必要な方は多いと思いますから。でも、私が目を覚ましたって情報早くないですか? 目を覚ましてからも、家から一歩も出てないんですけど」

「ラーナは僕の目でもありますから。一昨日の騒ぎは気付いてますよ」


 ラーナちゃんには、一応、挨拶をしたからか。他にも、お見舞いに来てくれた人はいるけど。

 

 殺す気はなかったということは、今後、そう言ってくる人がいるから忠告ということなのかな。


「とりあえず、水竜の肝一つで作れる、代替素材をもらえます?」

「いいですけど……結構な量になりますよ?」

「おや、どれくらいですか?」

「えっと、錬金蜂蜜にすると4キロくらいですかね。さっき試した上級薬であれば、ほぼほぼ安らぎの花蜜と同じ分量で作れますよ」

「ん~、僕の記憶では安らぎの花蜜は30グラムで5000Gだったと思うのですがね?」

「私の記憶でもそうですよ? でも、今は10倍の値段もついたりするとか? 怖いですよね」

「僕はあなたが怖いですけどね」


 どういう意味かな? 

 ネビアさんが1時間くらいなら構わないというので、水竜の肝を調合して、錬金蜂蜜を作成する。試作品作り用ということでラズ様に渡された水竜の肝。


 試作が結構順調に作れたので、一つ分くらいなら構わない。兄さんがお世話になっているし、これには毒としての効果はすでにない。


 裏の人たちにも、毒にさせないということを広めてくれるなら嬉しい。メディシーアの評判も上がるはず。

 これで苔を使い切ってしまったけど、持ち帰ってきてくれるはずだから、信じよう。


「なるほど……それでは、こちらの錬金蜂蜜はありがたくいただきます」

「はい。あ、試作品なんで正規品じゃないです。そうしておいてください。今度は兄さんもいるときに是非寄ってください。きっと会いたがってると思うので」

「んふっ、彼も忙しそうですね。こんなに早く開発されるなら、わざわざ採りに行かなくてもよかったでしょう」

「いえ。それはそれでデモンストレーションにはなるので? いきなり代替素材が出来ましたと言っても、信用がないので。兄さんが採ってきてくれた安らぎの花蜜と抱き合わせで同じだと証明できるのは助かります。山分けするので、メディシーアだけですむ話ではないですけど」

「ええ、そうでしょうとも。来客のようですし、僕は失礼しますよ。それでは」

「はい。またきてください」


 ネビアさんが作業場を出て行ってから、すぐにドアをノックする音があり、客を招き入れる。


 おそらく、ばったり会うようなことは無いと思うけど、彼も優秀な索敵能力もちらしい。

 私は、平面はそれなりに出来るけど、こうやって地下とか、高さが出ると途端に精度が落ちてしまう。


「すまないね。少し、話をいいかな?」

「はい。いいですよ、ティガさん。私も話があります」

「まず、すまなかったね。今までの態度や、あの時、君を助けることが出来なかったこと。申し訳ない、反省しているよ」

「あの場でティガさんが助けることは無理ですよ。私も、判断をミスしていましたから……話をするなら、上に行きましょう」


 作業場で話すことでも無いので、上に移動する。モモが肩に飛び乗ってきたので、そのまま受け止めて、お茶を淹れるためのお湯を沸かす。


「きみがいない間に話をしたんだが、わたしは新しい土地で、現場監督をすることになった」

「え? ああ、兄さんが貰う土地ということですね。わかりました」

「きみの見立てで、危険はあるかな?」

「え? う~ん。じゃあ、ちょっと……失礼して」


 SPを使って、直感を発動させる。うん。漸く、自分の意志でも使えるようになった。消費が激しいからやることは少ないと思うけど。


 ティガさんの危険は、無さそうかな。直感で気になることが何もないので、おそらくだけど。


「とりあえず、無いと思います」

「今、君は能力を使えている?」

「ええ。ギルドで刺されたときは、能力が使えてませんでしたけど。目が覚めた時点で、使えてます」

「何があったのか、きみの口から聞いてもいいだろうか?」


 うん?

 首を傾げると、にゃー! とモモに抗議をされた。肩から落ちそうになったらしい。ごめんねと謝って、フードに入ってもらう。


「難しいですね。まず、ルナさんとは?」

「うん。彼女から話を聞いたけど、ちょっと意味がわからなくてね。グラノスは勝手に出て行ってしまったし、きみは話しかけても答えが無かったからね」

「なるほど。彼女、髪の毛の下の方が白かったと思うのですけど……まあ、簡単に言うと、私のもつ白の力で彼女を封じ、黒の力が使えない状態にしました」

「そうだね。彼女も、ルストも毛先が白くなっているのは確認したよ。だが、一昨日聞いた話のなかでも、黒と白の神というのがよくわからないね」


 簡単にだけど、天使と悪魔、二柱の神について説明をする。とはいえ、わかっていることは少ない。

 

 あくまでも、天敵という関係というくらい? 私のことを狙ってくるのは確認している。


「まあ、とりあえず黒と白については、後ほど。ルストさんとルナさんにも話をしないといけないので」

「そうだね」


 まあ、ティガさんとしても詳しく聞きたいだろうけど、長くなるからね。あとにさせてもらう。


「クヴェレ家にて、ルナさんを封じたとき、結構、無茶をしました。SPとMPが無い状態でも力を行使し、生命力を削りました。その代償として、私もユニークスキルが使えない状態でした」

「……そんなことがあるのかな?」

「多分、ティガさんも疲労した状態が続くと聞こえ辛いな、くらいの感覚ならありますよね? それに近い、というか、私の場合発動してるかが、自分でもわかっていなかった。だから、油断していたんですよね。命の危険がない、そこをユニークスキルだよりにしていたのが原因です」


 他にも、とっさの判断にミスがあった。ただ、あの場でルストさんを止めることは不可能だったとも思う。結局、乱闘になって怪我をしていた気もする。


「力は戻っているのだね?」

「ええ。直感を意識的に使えるようになったので、そこは間違いないかと」

「それで危険がないというなら安心だね。ルストは私が連れて行こうと思うけど、どうかな?」

「しばらくはそれでいいと思います。ただ、彼には事情を話して協力をしてもらうつもりなのは変わらないです。異邦人が現れる次元の狭間を封じる。それができる可能性があるのが、ルナさんとルストさんなので……私がやろうと思ってたんですけど、どうも、力不足で死んでしまうらしいので?」


 私が一人でやると……逆に、ルストさんとルナさんの二人がかりなら可能性はある。

 ただ、私が死ぬと言う言葉の方にティガさんの方が驚いている。


「それは困るね……グラノスは知っているのかな?」

「次元の狭間を封じるために動くつもりなことは知ってます。ただ、それをすれば死ぬってことなら、絶対に止めるので言ってないですね。まあ、兄さんと別れてから知ったことなので、伝える機会もなかったのが正しいですけど」

「君は自分が死んでまで、この世界のために動くのかい?」

「少し違います。それをしないなら、ドラゴンが私やルストさんを襲います。これは民間に伝わる伝承、絵本などから間違いない……こちらの方が死亡するリスクが高い。死にたくないから、狭間を封じる。そして、協力できれば死なない……そう思ってます」


 問題は、二人が黒の力を使うと私の施した封印が解けるということで、あのルナさんの中にいる悪魔が出てきてしまうということ。

 疲労しているところで、命を狙われることになる。しかも、それをすると、兄さんがどう動くかわからない。


 しっかりとした相談が必要になるとは思っている。


「つまり、その後はルナ嬢もルストもきみの命を狙うことになる」

「まあ、そうなりますね。ただ、そんなことは後から考えます。最優先として、急ぎで代替素材の作成。次にドラゴンとの交渉、最終的には狭間を封じますが、あくまで最終的にです。今まで、おそらく1000年以上狭間が存在したのを考えれば、すぐに封じる必要はない。まずは、ドラゴンと話して、手段を整えます。その間、ルナさん、ルストさんは居場所を把握して、確保しておきますが、町にいるのも難しい」

「つまり、わたしが預かっても問題ない。グラノスはそこまで把握しているということだね」

「そうです。どこまで、私達に協力をしますか?」


 この世界のためでなく、ルストさんの命のために動くのかどうか。

 ティガさんがどう動くのか、それによってもこれからの動きは変わる。


「困ったね。人質にとるくらいに信頼がないとはね」

「もともと、ルナさんを使うつもりで、ルストさんは予定外です。だから、ティガさんが彼を連れて逃げるという選択肢はあります。しないと思いますけど」


 べつに、ルストさんが協力しないというならそれで構わない。

 ルナさんと私でやるだけだ。ただ、そうするとルストさんの立場というのは自然と厳しいものになる。


 同調圧力というか、出来る人がやらないとなると……ドラゴンに襲われると困るので、マーレにも、新しい土地にもいては困る存在になるだけだ。


「そうだね。きみはわたしがどう動くと思うのかな?」

「私達が帰る場所を作るために新しい土地で現場監督をするなら、そこに彼を連れていき行動する。そこで価値を示す……冒険者をしてもいいとは思いますけど……そこまで熱量がないのは自分でもわかっているでしょう? なんていうか、私ほど甘くないし、兄さんほど切り捨てられないティガさんは、私達と行動するのに不向きなんですよね。全てが中途半端。頭がいいからこそ、自分だけの行動に見えてしまう」


 私の言葉に意外そうに唇に指を当てて考える。兄さんが私を優先する動きをしてくれるからこそ、動きが乱れないため、ティガさんの方がちぐはぐに感じるんだよね。


 別に、悪いことしているわけじゃない。口がちょっと多いだけ。小言というほどでもない。

 確認作業であり、気にしない人もいるとは思う。


「わかったよ。わたしが邪魔をすることはないと約束しよう。それと、ルストにはわたしからは伝えない。変に伝えて誤解させてしまっては困るからね。ただ、出来れば、話し合いの場にはいさせて欲しいけどね」

「わかりました。でも、しばらくは放置になります。兄さんが会うなというなら会わないつもりですし……なにより、領都に行って、薬の素材についての交渉をする必要があるので」

「それは君の考えだろう? 今、こちらに向かっている人からの指示次第でも変わるんじゃないかな?」

「え?」


 下からラーナちゃんの声が聞こえる。来客は……ラズ様とフォルさんだった。


「参加、します?」

「いいのかな?」

「ラズ様が席外せって言ったら、外してもらいますけど」


 別に、困るような話にはならないだろう。多分、明日、領都に向かうための打ち合わせだろう。それに、また貴族関連でどうのという話にはなりたくないからね。


 


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― 新着の感想 ―
最適解を求める人が多い中で、現実にもいるいろんな尺度のキャラを作っていくのは大変だったと思います。読むのを楽しみにしています。
こういう能力的にも敵味方でも全部中途半端なティガみたいな中年おじさん的な思考のキャラが仲間に入ってる話ってあんまない気がする だからこそどういう話の展開になるのか分からんくて面白い
「全てが中途半端」で笑ったw 別に良い悪いじゃなくてほんと合わないだけなんでしょうね
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