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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-24.新素材完成


 クロウが戻ったところで、大家さんも含めて、案を出し合うことになった。問題は、鎮静効果をどうつけるか。そもそも、鎮静ポーションって、その素となる素材には鎮静効果ついてないんだよね。他に、まひ薬とかを混ぜることもできそうだけど。


「せやね~、鎮静ポーションを混ぜるのが現実的と思うわ。魔石の取り込みが気になるのわかるんやけど、ゆっくり開発してる余裕もないんやろ?」

「一番いいのは、オリジナルの薬を作っちまうのが良さそうさね。その肝と同じだよ……コホッ」

「なるほど……調合して出来た素材同士を錬金する。わかりました。師匠、その、座っててください。ちょっと、調べてみるので」

「そうさね、そうさせてもらうよ」


 師匠は体調が悪そう。昨日も顔色が少し悪かったし、少しせき込むことがある。ただ、心配すると「年寄り扱いするんじゃないよ、ひよっこ」と言われてしまうので、口に出せない。


「調合するにしても、麻酔薬みたいに体を動かせなくするのは違いますよね?」

「そうだねぇ。どちらかといえば、精神面に効く効果だろうね」


 今回は、肝が悪くなる前に大量に作る。そのためには、貴重な素材はNG。そうすると薬も限られてくるわけで……手詰まり感がある。


「婆様、温かいお茶を淹れたから飲んでくれ」

「クロ坊、気が利くじゃないか。さっきから参加していないが、あんたは意見は何かないのかい?」

「そうだなぁ……こいつなんて、どうだ?」

「おや、それは〈沈め石〉かい。珍しいものをもってるじゃないか」


 クロウが専ら素材袋に使っている、魔法袋から苔むした石を取り出した。

 師匠が言うには、珍しい石らしいけど? どこから、そんなものを手に入れたんだろう? 私は見たことが無い素材だ。濃い紫色の石……鑑定すると闇属性だ。石でも闇属性ついてる物あるんだ。


「ナーガが採取してきて、ここに入れていたようだな。どうやら、緑の沼で拾ってきたらしいな。石ではなく、この苔を見てくれ。鎮静効果、薬効効果がついている。良さそうだろう?」


 クロウは手持ちの素材について、単体で鎮静効果がついているものを探していたらしい。安らぎの花蜜が単体でもっているのだから、他にもあるはず。確かに、それはそう。

 そして、わずかについている苔の方に着目した。苔自体もないかと探したがそれは無かったらしい。


「確かに? でも、それって入手が限られるよね。大量生産に向かないんじゃ」

「緑の沼の沼底に〈沈め石〉も、この苔もあるらしいから、沼から入手できるんじゃないか?」

「いや、あの沼の水は、害もあるからね。深いから沼底まではいけないだろうし」

「オリーブでなんとかなるだろう」


 あ、なるほど?

 あの蛇なら、水竜だし、沼底まで行ってくるのもできそう。あの沼の水にも薬効があったから、沼の苔は悪くないかもしれない。入手手段があるのであれば、だけど……オリーブが水底から採ってこれるとすれば、問題は解決する。


「あんさん、いいとこもっていきはるわ~。まずは、錬金やね」

「ですね。やってみます。クロウ、ありがとね」

「ああ」

「そういえば、この助手さんは〈錬金〉は覚えんの?」


 大家さんの目がぎらっと光った。私もだけど、クロウにも覚えてもらうと便利だよね。知識を考えると中途半端になるとか言われてるけどさ……そもそも、素材の見極めが一級品すぎるので、勿体ないよね。素材開発させるなら覚えてもらった方がいい……いや、でも本人の意思が大事だよね。


「え、ああ……やる?」

「あんたの助手として、必要となりそうだしなぁ……お手柔らかに頼む」

「任せて欲しいわ~。どんどん錬金と調合による素材を増やして、発展に寄与するんや!」


 あ、クロウの目が若干淀んだ。

 錬金も覚えれば便利なんだよね。ただ、それも出来るようになると、本格的に便利屋になるんだよね。師匠と大家さんのタッグで作っているように見せて、私一人で作れる……それが、クロウも出来るようになるのか。


 大家さんが錬金講座を始めてしまったので、もう少し、この苔を観察してみる。〈緑の沼底の苔〉。うん、そのままの名前だ。

 この苔は、確かに良さそうだけど……。いくつか、沈め石が入っているので、石から苔を削いで作ってみて、ナーガ君が帰ってきたら、大量に採取可能か聞いてみよう。


「どうしよう。クロウや大家さんはしばらくかかるかな?」

「少し休憩にすればいいさね。クロ坊も休ませてやんな。疲れてるし、しばらくは調合できないさね」


 師匠が言うには、クロウ自身も会話には入ってこなかったが、師匠の持つ素材や、私の素材袋の中身を確認しながら、他に使える素材は無いかと調べていたらしい。それなりにSPを使っているのかもしれない。


 師匠はクロウがやっていることに気付けるほど、鑑定ができるってことだ。う~ん。私の鑑定はまだまだ実力不足。


「あんたとクロ坊は違うさね。見る目があることは良いことだけどね」

「え?」

「クロウもグラノスも一流になれる素質はあるさ。そこはわたしが保証しよう。だがねぇ……新規開発は、あんたの専売特許さね。だいたい、その勘の良さで分量も適格に作れるのは普通じゃないさ……コホッ……まあ、わたしも師として鼻が高い、誇らしいよ」


 師匠の言葉に振り返って、まじまじと師匠を見る。

 私を弟子としたのが誇らしいと言ったのは聞き間違いではないはず。むずむずと嬉しさがこみ上げてきて、頬が緩むのが止まらない。


「え? 師匠、ほんとです? 師匠の後継ぎ、なれます?」

「超級薬師になっておいて、今更かい。あんたは薬師として誇らしい弟子だけどね、後継ぎはグラノスだよ。……貴族としても、グラ坊に渡したかったんだがねぇ……」


 師匠は、後継者は兄さんだという。それは悪い意味ではなく、やりたいことをするべきだと思うからこそ、枷としたくないと言ってくれた。他に弟子がいても私に期待していることは変わらない。そう言ってくれた。だからこそ、狭いこの町ではなく、世界を見て、もっと広い知識を得るべきだと言う。その間代わりをこなせる代役も出来たから……うん。まあ、確かに?



「師匠。あの……私は、兄さんは貴族にならなくてもいいかなって考えてます」

「そうかい?」

「なんとなく、兄さんが危ないかなと思うので」

「あんたが言うなら、そうかもしれんね……どちらにしろ、グラノスが継がなければ、家は断絶だ。いいね?」


 つまり、師匠の死後。

 私が家を興し、爵位を授かる。それはするべきじゃないという注意。その言葉にしっかりと頷く。


「……はい。師匠の名前は汚させません。メディシーアは貴族でなくても、薬師としての矜持をもって、職務に励むと……お約束します。だから、師匠……」

「……泣くんじゃないよ。まだ、大丈夫さね…………あんたのおかげで、次は薬が切れる前に補充できる。そうだろう?」

「はい。絶対に……」


 必ず、素材開発をする。すでに、上手くいく手ごたえもある。

 だけど……それでも…………。


「年だからね。次に発作があれば、長くないのはわかってたんだよ」

「……いつ?」

「あんたたちが出掛けて、しばらくしてからかね。軽い発作だったんだよ。命に別状はないと診断も受けた……だけど、一気に疲れがでるようになって……その後も、漸く帰ってきた愛弟子が死にかけてるしね」

「すみません」

「心配ばかりさせる弟子さね」


 師匠に「座りな」と言われて、隣に座ると頭を撫でられた。

 やさしい手つきで、何度も。師匠は嬉しそうに微笑んでいる。


「もう、調合をするのも厳しいからね。これが最後の開発になる。次の開発からは、あんたの名前で作るんだよ。いいね? 見守ってやるくらいはしてやれるがね」

「……はい」

「どうしても、薬師として行き詰ったならレカルストの坊やか、その父親に力添えを頼めばいい。王弟殿下も悪いようにはしないはずだ。あんたはあんたらしくね」


 そう言って、魔法袋を渡された。中身は師匠の調合器具。本も、図鑑も……素材も。


「あんたが倒れてる間に、薬を作ろうとしたんだがねぇ……クロ坊に手伝ってもらったが、もう、わたしには細かい作業が出来なかった。あんたが目覚めたら、こいつを渡して、引退しようと決めたんだよ。あんたが受け継ぎな」

「師匠……はい。絶対に、無駄にしません」

「なに、素材はダメになりそうなら、ペットの餌にすればええ。あの兎たちなら食べるだろう」

「え? キャロとロットですか? あの子達、すぐに人の素材を奪うんですけど」

「そうかい? 行儀が良い子たちだったよ」


 どうやら、師匠は私が覚醒する前から、荷物整理をしていて、使えない素材はキャロ達に餌で与えたらしい。大喜びで食べただろう。私よりも大量にいい素材を沢山持っている師匠だ。

 いい子を装って、沢山もらったのだろう。現金な兎たちだからね。

 


「シマオウのがずっといい子ですよ? ちゃんと言うこと聞くし、キャロ達がやらかすと叱ってくれるし、モモの面倒も見てくれます」

「あははっ……あの猛獣の王がかい。グラ坊とレオ坊が乗って出かけて行ったが、ずいぶんと懐いていたね。ナー坊も将来性があるよ。良いテイマーになれるさね」


 師匠は楽しそうに笑っている。本当に優しい瞳をこちらに向けて……でも、そこに寂しさを少しだけ、滲ませて。



「さあ、完成させるところを見せておくれ。弟子の成長が見たいからね」

「はい!」


 休憩は終わりということで、クロウと大家さんも呼んで、作業を再開する。夕方近くになって、ナーガ君がレウス達と一緒に帰ってきた。3人が仲良く食事の用意をして、それが出来上がった頃に漸く、試作品の完全版が完成。


 クロウに鑑定を頼むが、受け取ってすぐに師匠の方へと渡している。


「どうだい、婆様」

「そうさね……これなら、代替品としては十分だろう。まあ、多少の違いはあるさね。十分、これでレシピを変えることなく薬が作れるよ」

「やった!」

「錬金と調合のどちらの技術も必要だからね。アストリッド、悪いが一筆書いてもらっていいかい」

「ええ、もちろんや。用意しておきます。正式に錬金ギルドにレシピを上げるのは、あんさんが戻ってからやろ?」

「はい。すみませんが、お願いします。協力ありがとうございます」


 調合した新素材のレシピについては、私と師匠の連名、その後の錬金レシピについては、私と大家さんの連名。全ての工程については、3人で作ったことにして、準備をした。


 まずはこれをもって、王弟殿下のところに行く。

 その前に、ナーガ君に緑の沼の苔が入手できるか、危険があるようなら無理にとは言わないけど……入手できないなら、このレシピも考え直さないといけないからね。



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