4-23.新素材の開発
翌日、朝食を食べているとクロウがやってきた。「助手として手伝う」という言葉と一緒に、クロウが紙の束を大量に机に置いた。
ついでに、指示を聞くからあまり動き回るなと言われたんだけど……もう体は大丈夫なんだけどな。
私がいない間に頼まれていた薬の納品はクロウがやっていたらしい。シロップも含め、かなりの量だったらしく、使用した素材などの記録を渡された。ついでに、期限切れの廃棄した素材も別の紙にまとめられている。
「えっと、お疲れ様?」
「まったくだ。給料はずんでくれ」
「え? そういえば、依頼をどう受けてるの? 報酬受け取ってないの?」
「ナーガから聞いてないのか? グラノスからの手紙は?」
うん?
意識がない間に取り決めた感じかな? 兄さんの手紙にパーティーのことは書いてなかった。ルナさんやルストさんに会うな、無理をするなという内容だった。
「やれやれ、俺が説明するのか。グラノスの発案でクランが作られた。クランでは、パーティーを4つに分けている。クランリーダーはグラノス。第一パーティーリーダーもグラノス。第二にあんたがリーダー。第三はナーガがリーダー。第四にティガだ」
「細かく分けたんだ。なるほど……」
「俺は第二に所属。調合物の納品やらはすべて第二パーティーで受けている。報酬は第二パーティーの口座に入っているはずだ。ついでに、第三にレウスとアルスな」
兄さんと私も分けるってことは、貴族関連、兄さんのみで対処する布陣かな?
まあ、帝国に行くから一人にしたか……それとも、ドラゴンの件、私だけで行ってもよいということかな。その方が危険は……う~ん。いや、ちょっと危険そうだな、一人だと。
「まて。俺もあんたのパーティーに入ってるんだ、ドラゴンとか物騒なことは巻き込みなさんな」
「あ、聞こえてた?」
「ああ。調合のためのパーティーだからな。あんたが冒険行く場合は組みなおし。勝手に行けないように足手まといの俺を入れていったんだろう」
「……意外と信頼されてない?」
私が調合にしばらく専念するっていったことで、私達3人ともわけた。ティガさんもわけてるのは、別枠ってことだろうけど。私が勝手に行動しないようにクロウ入れたなら、実は信頼されてなかったとか? それは結構ショックなんだけど。
「信頼してるだろ。自分がいない時にはあんたが仕切る。次がナーガ。最後にティガだろう。俺への分配はあんたがすることになるからな、色を付けてくれよなぁ」
「つまり、クロウが引き受けた依頼の報酬は全部第二パーティーの口座に入っていて、クロウは一切受け取っていないってことでいい?」
「ああ。そうなるなぁ……あんたが倒れ、グラノスが帰ってくる前については、分配は終わってる。スタンピードについても、粗方分配はしたはずだ」
「え? 終わってるの?」
「あんた達のみが参加してるヒュドールオピスについては、別枠扱いだからなぁ。その報酬は入ってない。討伐としての記録はギルドに共有されてるが、金銭報酬については別だそうだ。スタンピードの褒賞を使って素材の納品依頼出してるがなぁ」
手に入れた報酬を使ったなら、私が補填しないと。私がやりたいと言い出したことだから、あとで収支を確認しておかないとだよね。
それもユニコキュプリーノスのお金が入ってないなら、結構かつかつになっているはず。
「ヒュドールオピスの討伐部位を提出してないから、ギルドから報酬はだせない。倒した数は曖昧にしておく……それから、水竜の肝は全てメディシーアがもらう交渉をする」
「は? まてまて、グラノスいないのに、まさかあんたがするのか?」
「……毒の部分を独占する。すでに昨夜、スペル様とラズ様に意思表示はしたから。明後日までに、ある程度成果を用意して交渉するから、手伝い、頼むね」
成果をだすには、クロウの協力が大事。
私が考えた代替素材の作成について、書いた紙を渡す。クロウが詳細に調べた素材の成分をもとに、出来る限り考えた。
「やれやれ。俺は何をすればいい?」
「最終的には錬金で出来た素材の鑑定・解析をお願いすることになるんだけど……。先に、毒を消した状態の薬作るから」
「やれやれ。闇の素材を手配したが、無駄だったかねぇ」
「まさか。ヒュドールオピスはもう狩り終えた。追加の素材は無い。使い切ったら終わりの代替素材は時間稼ぎにしかならない。時間がないからまずは水竜の肝で作るけど、研究して他の素材でも作り出せるようにしないと……クロウがまとめてくれた解析結果があるおかげで、かなり楽に進められるよ。ありがとうね」
本当に、これ……どうしたのって言うほど、立派な成分表が出来てる。見たことが無い素材も多く、全て闇属性のもの……必要になるだろうとまとめておいてくれたらしい。
「言っておくが、そのままだとまだ使えない素材多いぞ?」
「うん? これでいけるよ? 浄化〈プリフィケーション〉」
闇素材の魔物の牙に聖魔法をかけると、少し汚れが落ちる。いや、なんか黒ずんで見えるだけで、汚れではないのだけどね。魔石とかと同じで、これだけで使えるようになるはず。
「……それを使う意味は解ってるよな」
「調合技術、錬金技術以外に……聖魔法による浄化〈プリフィケーション〉を使う必要がある。私しか作れないってことでしょ? まあ、クロウがいないと私も作れないんだけどね」
「……穢れが残った状態を聖魔法で消せるというのは、一般的か?」
「ううん。私が思いついてやってみただけ。黙っておくように言われてる。クロウこそ、その穢れの状態ってどうやってわかるの?」
「さてなぁ……素材を鑑定・解析しているうちに、自然に見えるようになった。ちなみに穢れは素材によって減り方……通常の状態に戻る時間は違う。それを一瞬でできるのか」
「私も思うんだけどさ……これも、調合技術の発展を邪魔してる要素だと思うんだよね。私も穢れが見えるわけじゃないんだけど。穢れが残ってると失敗率上がるでしょ」
「……俺はそれが理由で使えない素材という認識をしていたんだがなぁ」
薬師の普及を妨げる一因。失敗率。これ、何で失敗するかを解明していないのが、一番まずいと思う。もちろん、DEX値が足りないことによる失敗もある。ただ、素材そのもので失敗があり得るんだよね。
中和剤の扱い方とかもだけど、素材を見極める目が大事。素材に失敗要因が残っていることがある……むしろ、ありすぎる。師匠も何となくわかっていたみたいだけど、クロウだとそれがはっきりと確認できちゃうんだよね。
「あんたなぁ……それが感覚でわかるのはあんたくらいだ」
「うん。それがちょっと悩みどころで……素材を中和して使わない場合、聖水につける。それだけでも失敗率下がると思うけどね。それを言うのがまずい気はしてる」
「まずいだろうなぁ。メディシーアの秘伝にでもしておくのがいいだろう。だが、王弟の方には調合の技術として情報を流した方が安寧を得られるか」
「だよね」
一応、師匠に伝えるだけ伝えて、相談しよう。うん。
師匠も穢れを見極めているっぽいから、何か知っているのかもしれないけど。私の判断で広げていい技術ではない気がする。あと、兄さんにも伝えておこう。
渡された水竜の肝を取り出して、状態を確認して魔法をかけていく。
「……考えていた以上に、肝がでかいな」
「でも、毒を消すのはそんなに難しくないよ」
水竜の肝は色々と素材を混ぜて複雑な毒にする前なら、安らぎの花蜜とか、高価な素材がなくても毒の効果は打ち消せる。そのための素材を袋から取り出す。
「まて……その木の実は知らないんだが?」
「あ、そっか。鑑定よろしく、こっちの根っこも」
「ああ……」
袋から取り出した素材は、レカルスト様からもらった素材。解毒に特化した素材でもある。使いやすいので、重宝する。もらったのは20個くらいだから、実際に大量生産するなら、もっと大量に購入しないとだけどね。
「王国の西部で採れる素材じゃないか。いいのか、ここら辺で採れないとなると採りに行く手間がかかる」
「うん。薬師ギルド長の治める土地で採れる素材だから。利益の一部が、薬師ギルド長には流れる」
「婆様は敵対してるんだろう?」
「薬師ギルド本体とはね。マーレの新しい薬師ギルド長は、王弟殿下のお抱え薬師であり、男爵。古くからの知り合いっぽいしね。この代替素材が上手くいったとしても、薬師ギルドは五月蠅いと思う。彼に盾になってもらうためにも、そこでしか取れない素材を入れて利益があるようにする……兄さんが言ってた」
開発には、王弟派の薬師が協力体制で行ったようにも見えるようにしておくようにアドバイスされた。師匠が必要なだけでなく、王弟殿下の第二子であるカイアナイト様もこの素材をつかう薬が必要となるはずだから、嫌とは言わないはずとも言われた。
「グラノスの発案か。確かに、目を付けられるのは変わらないだろうが、巻き込むのはいいかもしれんなぁ。だが、発注してないだろう」
「あっ……」
そういえば、この素材の発注はかかってない。というか、今、発注がかかっているのは、闇素材と蜂蜜でいいんだよね? そうすると、いくつか薬草も必要になる。そっちも急いで発注をかけないとだ。
う~ん。とりあえず、他の素材を使ってでも、何とかするしかない。師匠のレシピを確認しながら、置き換えできる素材は置き換えて解毒するのがいいかな。
「どこまで話すんだ?」
「う~ん。正直、薬師ギルドの他の人には聞かせたくない情報なんだよね。ただ、ギルド長には全て話してもいい。素材開発のため、今、王弟殿下にお伺いたてる前段階だから、許可が出た時点で提供をお願いしたい……それに、こちらの技術をレカルスト様の方には渡しても問題ないよ」
「やれやれ。俺の出番はまだなんだろ? 俺の方で頼みにいってくるかねぇ。あんたは作業を続けてくれ」
「え? うん?」
「俺が戻るまでに魔法での処理は終わらせておくようにな」
「……呼んでくるつもり?」
「あんたは漸く目覚めたんだ。見舞いに来るくらいには顔見知りだろう?」
まあ、確かに?
でも、あちらのが上の立場なのに来てもらうの? そう思ったけど、まだ家から出るなと言われたので、頷いておく。
「あんたのそれ、出来るまでは内密に進めたいんじゃないのか? 逆に、許可が出れば量産体制に入るんだろう」
「多分……」
「領地から送ってもらうにも、それなりに時間がかかるだろうしなぁ。直接頼むなら、大丈夫なんだろ?」
「そうだね。え、でも、大丈夫?」
「さてな。やるだけやっておいた方がいいだろ。こっちも少々話があってな」
「色々ごめん、ありがとね」
クロウが片手で手を上げて気にするなという仕草をしてから薬師ギルドへ出掛けて行ってしまった。
こちらはこちらで準備をしておこう。下処理として、使う予定の魔石と水竜の肝に浄化〈プリフィケーション〉を唱える。この魔法、掃除とかにも使えるし、万能だよね。各属性の最初に覚える魔法って、基本だからこそ使いやすい。MP消費が少なくすむのも良い。
次に肝と毒を打ち消す素材をまぜて、錬金に混ぜるための素材を調合で作る。解毒という強い効果ではなく、単体では毒にも薬にもならない素材。ただし、毒を打ち消した後も、薬効は残っている状態がベスト。
闇属性、水属性はそのままで、解毒用素材のもつ、薬の材料という性質も引き継いだ。ただし、この素材自体には、単独での効果はなし。うん、ちゃんとできている。
「よし、これを蜂蜜と合わせて錬金して……足りない部分の確認かな」
問題は、蜂蜜とこの素材の割合。
安らぎの花蜜、蜂蜜が主成分であることは変わらないから、8割か9割は蜂蜜でも良さそう? とりあえず、2:8で混ぜてみよう。
調合で出来た素材が、450グラムくらいあるから……このうちの、50グラムと200グラムで合わせてみよう。
「出来た……と、言っても使い物にならないかな」
闇と水属性を含めた錬金蜂蜜。
う~ん。素材としては、もう少し蜂蜜多めのがいいかな?
ただ、いまいち。安らぎの花蜜にある、〈鎮静〉の効果がついてないから、このままでは代替品としては使えない。
「やっぱり、二つの物質を錬金するだけじゃ、作れないか……ネムリダケとナルシス草を一緒に錬金? できれば、錬金物質は3つに抑えたい。う~ん、どうしよう?」
「何に悩んでるんだい?」
「師匠。おはようございます」
「ああ、おはよう。昨日の今日で、もう作業をはじめたのかい」
作業を中断して考えていると、作業部屋に師匠が入ってきた。後ろにはレカルスト様とクロウもいる。
どうやら、クロウがギルドに向かう途中で師匠にあって、師匠が話をしてくれたらしい。師匠の招きなので、すぐにでもここに来ることが出来たようだ。
「安らぎの花蜜の鎮静効果の付け方に迷ってまして……。物質5つの錬金はちょっと荷が重いかなと思いまして」
「それはそうでしょう。5つともなれば、上級錬金術師の領分、手に余るのでは?」
錬金の技術は、物質を二つ掛け合わせるなら初級、三つから四つなら中級、それ以上なら上級となる。私の場合、技術としては出来るようになっているけどね。
でも、大家さんの弟子扱いになっているけど、対外的には薬師が本分であり、あくまで真似事の範囲……ということになってる。
薬師もだけど、上級の錬金術師も少ないから……量産するなら、中級錬金術師でも出来るようにはしておきたい。そもそもの水竜の肝は私が全て加工するにしても……その後のほかの素材で作れるようになったとき、全部私がやると……他のことに手が回らなくなる。水竜はこちらで責任をもつが、以降は開発はするけど、作成を全て受けるつもりは無い。
「まったく、しょうがない弟子さね。クロ坊。アストリッドを呼んできな。弟子の一人が漸く目覚めたんだ。見舞いにきたいはずだよ」
「やれやれ。婆様まで、人使い荒いのは勘弁してくれないか。だいたい、大家さんの住いは知らないんだがなぁ」
「この時間なら、中央二区の店にいるはずさね。いないなら、そこから使いを頼めばいい。行っといで」
師匠の指示で、クロウがまた出かけていく。
うん。解析頼みたかったけど。鎮静効果について考えてからでもいいか。
「クレイン嬢。怪我をされたと聞き、心配しておりましたが、後遺症も無いようで安心しました」
「ありがとうございます。ご心配をおかけいたしました。本来、こちらから出向くところを、わざわざ来ていただき、申し訳ありません」
「お気になさらず。まだ、本調子ではないのであればゆっくりと養生をする……予定はないようですな」
「そんなに生き急がなくても、十分な成果を上げてるんだがね。さて、これが試作品かい……なるほどね」
「こちらが錬金蜂蜜ですか……錬金に関しては素人ですが、こちらの薬と錬金するとこのように素材ができるとは。いや、面白いですな」
師匠に工程の確認をされたので、紙に書き出していく。水竜の肝の加工については、そこまで難しくない……はず。師匠なら「あんたなら出来ても問題ないさ」と言われたので、間違っていないらしい。
「なるほど。中級薬師であれば、作れそうですな」
「いえ。水竜の肝については、私の方で全てやります。メディシーアが責任をもって、毒ではない素材にします。ただ、量が多いため、出来れば素材について割引価格で買わせていただけないかと思いまして……」
「条件にもよるでしょうな。たとえば、出来た素材の優先的な購入権などをいただきたい」
「レカルストの坊や。勘弁してやって欲しいね。その子は、開発には向いているが、商売のことや貴族の儀礼はさっぱりなんだよ。まだ、水竜の肝を全て、メディシーアがもつというのも決まったわけじゃない。そうだろ?」
「は、はい! ラズ様にお願いしているだけです」
まだ、ラズ様に頼んで謁見する予定があるだけで、「素材を作れますよ」という成果を用意する段階。王弟殿下の許可がでたとき、大量に素材を売ってほしい。できれば、安くって言ったのがいけなかったのかな。
いきなり優先購入権とか言われても、どうすればいいのかわからない。
「それはまた……そっくりなお弟子さんですな」
「生意気になったもんだね。この子は補ってくれる兄がいる分、わたしよりマシさね。さっきみたいな交渉は、子爵代理にしておくれ。わたしらは薬師として、素材の入手しか興味はないよ」
「えっと……とりあえず、許可が出たら購入させてください」
「承知いたしました。準備をしておきましょう。お値段などは、後ほど、お兄様に持ち掛けましょう」
はい、そうしていただけると助かります。
値段交渉にも、貴族としての色々が入ってくるとか、面倒でしかない。兄さんに巻き込むように言われたけど、やっぱり慣れてる素材で作った方がよかったかな。
「それで、この素材で足りないものを、何で補うかが問題なのかい?」
「そうですね。手っ取り早いのは、一緒に鎮静ポーションを入れることなんですけど」
「どれ、それを作ってみな」
「え? わ、わかりました」
師匠に言われた通り、鎮静ポーション、加工済みの肝、蜂蜜を、1:1:8で投入して、錬金する。
「出来ました」
「どれ……うん、鎮静の効果がついたようだね。それで、これだと何が問題なんだい?」
師匠に新しくできた錬金蜂蜜を渡す。レカルスト様も楽しそうにそれを鑑定している。解析もしてるのかな? 二人とも興味深そうにそれを確認している。
「一番大きいのは魔石の量ですね。鎮静ポーションでも魔石・中が使われていて、この蜂蜜と錬金する時のも同じ、魔石・中を使っています。魔石・中を2個とはいえ、薬にして一度に摂取するくらいなら……人体に影響はないと思いますが、常備薬として定期的に薬を飲む場合、この量だと……数年経つと影響が出そうかな」
「ほぉ……それは、どのような考えに基づいていますかな?」
「え? 魔石自体が、魔物の持つ物質であり、差はあれど、人にとっては害がある物質だと思ってます。冒険者が飲むポーションも錬金で作られるものなので、魔石が入ってますし、短時間で多量摂取すると中毒を起こします。これって、微量であれば人の体から排出ができるため、通常の人なら問題が無いのだと思います」
そう。健康的な普通の人なら、多少の魔石を摂取しても問題にはならない。
でも、病人だったら? 摂取した後に排出できる量が少ない可能性がある。そうすれば、体に蓄積されていく。何年も薬を飲んでいたら、それだけでも体に負担がかかる。
そんなことをしどろもどろになりながら、説明すると師匠もレカルスト様も黙ってしまった。変なことを言っただろうか?
それ以外にも、このままでは代替素材として使うことは出来ない。成分の違いがあるから今までのレシピに置き換えた場合、調整をしないと正しい薬が出来ない状態でもある。
「それだと、錬金で素材を作り出すのは意味がないということかい?」
「まあ、できれば自然由来の素材で作った方が、人体への影響は少ないとは思います。だから、廃れた技術なのかなって、考察もしています……ただ、素材が手に入らない以上、代替素材を考えておくのは悪くないのかなと……要は、魔石が入っててもそれを排出できるように促す、血行促進の効果が高い、ゼンゼロの根を肝と一緒にして調合してあるので多少マシになっていますけど」
ゼンゼロの根は、レカルスト様が治めることになった土地で採れる、サツマイモみたいな芋。これが、血行促進効果がすごく良い。これに代わる素材を探すのも大変になるから、できれば使いたい。
錬金したものを錬金すると、魔石が2回分投与されるため、防ぎたいところではあるけど……鎮静ポーションを作るための素材と肝と蜂蜜を入れると5種類になってしまう。しかも、それで鎮静効果を付けるなら、結構な技術がいる。
「なかなか、難しいですな。いや、しかし、不可能な話ではないことは理解致しました。ゼンゼロの根を含め、依頼の品は手配しておこう。こちらの薬草も薬師ギルドで持っている物を提供しましょう」
「あ、ありがとうございます」
「いや。こちらも頼みたいことが……暁のハーブ、幽世の花などの代替素材も、急ぎませんので開発をお願いしたい」
「えっと……」
その素材を知らないのだけど……師匠に助けを求めるように視線を送る。
見たことの無い素材だと、それが可能かどうかも判断できない。
「実物がないと、流石に代替素材は難しいさね。どちらも、帝国のダンジョン産の貴重な薬につかう素材だよ。幽世の花は、運が良ければグラ坊達が持ち帰るだろうが……暁のハーブは違うダンジョンだからね。流石に無理さ」
「なるほど。では、手に入りましたら持ってきましょう。急ぎではありませんが、替えがききませんのでね」
「使用頻度も少なく、それなりに日持ちするからね。まだ、使えるんだろう?」
「ええ。ですから、急ぎではないお願いですよ。それでは、クレイン嬢。お邪魔しました」
「え? あ、はい。こちらもお構いしませんで」
他の素材の作成依頼をして、レカルスト様は帰っていった。
いや、いいんだけどね。師匠からも、患者のためにも必要となるのだと聞いたら、やるしかないのだけど。
まずは、安らぎの花蜜からかな。う~ん。鎮静効果か。何かいい案はないかな。




