4-17.衝撃 〈アルス視点〉
突然、何が起きたかわからないまま、クレインさんが重症を負った。
そこで浮き彫りになったのは、僕の存在意義だった。レウス君やナーガ君ほど、僕はクレインさんへの思い入れがなくて……どうすればいいかわからなかった。
もちろん、僕だって心配な気持ちはある。ただ、その熱量が違っていて、同じ場所に居づらい雰囲気だった。
彼らにとって、大事な人であっても……僕にとっては共に行動していた人であり、死なないで欲しいことは間違いないけど、身内ほどの感情ではなくて……。
「アルス。すまんが、ルストを見張っておいてくれないか?」
「え?」
「悪いなぁ。俺はやることがあってこの場にはいられない。話を聞いたが、あいつが他の奴を操れるなら見張りを置いても無駄だろうが……平気だったんだろう? なら、頼まれてくれないかねぇ……犯人がいないんじゃ、戻ってきたグラノスの怒りが怖いんでなぁ」
クロウさんはそう言って、僕が教会から離れる理由を作ってくれた。多分、僕がその場に居辛いことがわかっていたのだと思う。
この場を離れてもいい役目を与えてくれた。レウス君とナーガ君をちらっと見るが、僕に構っている余裕はなさそうだった。
「うん、僕にできるなら。その……あの……えっと?」
「なんだ? 何か、聞きたいなら遠慮するな。俺がわかるかは知らないがな」
「うん、その、グラノスさん、帰ってないの?」
「ああ、クレインとも別行動だったらしい。帰ってくるのは明後日以降だろう。それまで、逃がすわけにはいかないが……あいつが何か仕向けたという証拠でもあるなら別だが、何もないからなぁ。牢屋に入れるわけにはいかないはずだ。かといって、逃げられても困る」
逃げ出さないようにというが、ティガさんとレウス君の知り合いということはクロウさんにとっても知り合いだろう。
見張って、その結果はどうなるのだろう。操られてしまったりしたら……。
「どうして僕が無事だったのかもわからないのだけど……」
「ゆっくり話をしている時間もないんでなぁ。多分、大丈夫としか言ってやれない。もし、周囲の様子がおかしくなったら、鼻に布を当ててあいつの風上に立つようにな」
「う、うん。わかったよ……その、クロウさんは何をするつもりなの?」
「色々と準備をな」
クロウさんに頼まれてから、ずっと彼を見張っている。時折、マリィという受付嬢が食事をもってきたついでに、クレインさんの様子を教えてくれる。
だけど、基本的には僕と彼の二人きりで、個室にいる。クロウさんの話を聞いて、窓は開けてきちんと換気をした状態で過ごす。
何が起こったかわからないまま、1日経過して……。
冒険者ギルドもクレインさんを襲った人たちの事情聴取をしていて、本人達は何も覚えていない。そして、暗示などの形跡も見当たらない。何も進展がないままに、冒険者ギルドを閉める時間になった。
ただ、その場にいただけで、戦闘には一切参加していないルストさんについては持て余していた。冒険者ギルドに留め置かれた彼を僕は見張っていた。
彼は冒険者になるためにギルドを訪れた人。一応、冒険者として手続きをしたけど、それだってまだ一度もクエストをしていない。そして、ティガさんとレウス君の知り合い。
クレインさんが彼に向かって、何かをやっていたようだけど何をしたのかはわからない。彼はその後、気絶して……その後はみんな、どうすればいいかわからなくて放置だ。
「ねぇ……あの子は無事かな?」
「……あなたのせいでしょ?」
「僕のせい、なのかな?」
もう、何度かのやり取り。
ため息をついて、視線を外す。この人が何かしたのかは知らない。本人に自覚はないみたいだけど、この人のせいだと思う。
なんていうか、この人も掴みどころのない人。ポヤポヤしていて、ぼ~っと天井見ていたり、何を考えてるかわからない。
ただ、悪い人では無さそうで……なぜか、クレインさんのことを心配してたりもする。
毎回、「僕のせい?」と問うから、答えられなくて僕が黙って……。
でも、なぜか憎めないような、不思議な感情が湧く。この感覚を僕は知ってる。何だったかなと考えて、はっとした。
「リディ……ああ、そっか。彼女と同じだ」
この世界に来て、小さな村には僕とリディしかいなかった。それから、1か月以上、ずっと一緒にいた女の子。いつからか、僕は彼女の言うことを否定できなくなった。「そうだね」と彼女の意見を必ず後押しする。
彼女が僕の腕に絡みついてきて、何か言うと僕も彼女の援護をしてしまい……怪訝そうにナーガ君に見られた。なのに、彼女を疑うことすらなく受け入れて。
後から、僕は洗脳されていたと教えてもらった。
「リディ?」
「こっちのことだから気にしないで。……貴方から甘い嗅いだことのない不思議なにおいがした。あの場で、正気を失ってる人がいた。僕がわかったのはそれだけ……でも、貴方もあれがおかしな状況だってわかってるんでしょ」
「うん……これで3回目」
なぜか、周囲の人がおかしくなるらしい。
そして、レウス君とクロウさん、ティガさんは、以前、おかしくならなかったらしい。理由はわからないらしいけど、クロウさんは何か知ってそうだったらしい。だから、彼らならもしかしたらと探して、この町まで来たらしい。
こんなことになる理由も知っているという期待をもって……。
ただ、その前に最悪の事態が起きてしまった。
「あなたの事情はわからないけど……クレインさんに手を出した以上、この町にはいない方がいいと思うよ」
「町に?」
「そう。だって、この町に馴染むようにずっと努力していた人を操って襲わせた。冒険者ギルドを筆頭に、薬師ギルドや商人ギルドもそれなりに動くし、領主の知り合いでもある……打算とかもあるだろうけど、あなたより重要な人だもの」
「そう、なんだ……でも、それは関係ないのかな」
「……そう」
何が関係ないんだろう? そう思ったけど、多分、彼が彼女を襲わせた理由は、全然別のところだと言いたかったのかもしれない。
「少し、顔を洗ってくるから」
「うん、いってらっしゃい」
においに気をつけろとクロウさんが言っていた。僕は大丈夫とも言われたけど……用心のために、数時間おきに外の空気を吸っておく。
そのまま、深夜になってルストさんは寝てしまった。僕はどうしようかなと思うときに、僕を呼ぶ声がした。
「アルス~起きてる~?」
「レウス君? クレインさんは? 目、覚めたの?」
レウス君の声に驚きつつ、急いでドアを開ける。
クレインさんの側から離れそうもなかったレウス君に驚きつつ、もしものためにとハンカチで鼻を覆うようにと伝えた。
「まだ。でも、ちょっと希望は見えた感じ? グラノスさんが話がしたいけど、離れられないから呼んできて欲しいって……」
「ねぇ、僕も行っていいかな?」
寝ていたはずのルストさんが起き上がっていた。どうやら、今の会話で起きてしまったらしい。
「ルスト……いいけど。でも、次、クレイン狙ったら問答無用で殺されるかもよ? グラノスさん、圧倒的に強いし、アルスと同じでルストの力が効かないらしいし」
「本当? なら、どうすればいいか、わかるかな?」
「……無自覚って、クロウの言ってた通りか。俺、知らないし、聞きたければ聞けば? アルス、行こう」
明け方、もう少しで日が昇りそうな時間帯だったけど、ルストさんの連れ出しは許可が出た。むしろ、この時間なら人と会わずに教会に行けるので賛成だったらしい。
「レウス、私には声をかけてくれないのかな?」
「ティガ……やめといたら? だって、揉めてるでしょ?」
「大丈夫だよ。お互いに、大人同士だからね」
レウス君と部屋を出ると、ドアの前にティガさんが立っていた。
部屋にいないし、寝ているのかなとは思っていたけど、別の部屋で起きていたみたいだ。昨日の昼間も、交代して見張っていてもらったりはしていたけど……スタンピードの頃から、彼とクレインさんの間には不和が生じている。
それは、僕たちには言わなかったけど……みんな、わかっていた。
これから、どうなるのか……不安があった。
でも、クレインさんが倒れて……彼女を助けようとする人たちを見て、それだけの関係を彼女は必死に作っていたのを理解した。
僕らが何をしていいかもわからなくて、言われた通りにだけしていたとき、足場を作ってくれていた。
そうじゃなきゃ……この部屋を貸し与えられ、でも……放置されているはずがない。
だから……ティガさんが何かをすることがあれば…………。
「俺が決めることじゃないけどさ、クレインが倒れてる現状でかき回すことがあれば、黙ってないと思うよ?」
「わかっているよ……ただ、黙ってルストを差し出すわけにもいかないからね」
「グラノスさんはクレインみたいに優しくも甘くもないよ……俺、グラノスさんにつくからね」
「僕も……」
先に、どちらにつくのかははっきりと伝えておく。特に僕は、もしかしたら放逐されるかもしれないけど、それでもティガさん側にはつかないと意思表示しておく。
話し合いの場があるなら……それは、決別だろうなとは思っていたから。
リディの件で……僕は、何もわかってなかった。
成り行きで、グラノスさんとクレインさんは僕を認めてくれていたけど。
今も、一番わかってないのは僕で……仲間、なのかも……すごく中途半端だけど。僕は、グラノスさんの側にいたいと思う。
魔物に襲われ、グラノスさんに助けられた瞬間から……彼に憧れ、リディの支配から逃れられた瞬間から…………。
「なんだ、全員で来たのか」
「うん。ルストも来たいっていうし、話をする必要もあるかなって……ティガは誘ってないのに勝手に来た」
「レウス、余計な事は言わなくていい。だめだったかな?」
「構わない。ナーガ、クロウ。話している間、クレインを頼む。俺が呼ぶまでは、絶対にドアを開けるな」
「…………あとで、ちゃんと話せ」
「わかっている。クロウ、すまんがナーガとクレインを頼む」
「ああ、承知した」
クレインさんのいる部屋から出て、教会の聖堂側に戻る。
どうして二人を外したのかわからなかったけど、レウス君から、「これで操られるのは俺だけだからじゃない?」と言っていた。ルストさんが何かしたとき、止める手段を確保したということらしい。
「さてと……何から話すか。まずは、アルスと話したかったんだがな」
「あ、僕はその……」
いきなり、僕に話題を振られ、あわあわとしていると目の前でグラノスさんから頭を下げられた。
「すまなかったな。君には事情を一切知らせていなかった。俺らのことも、ティガ達のことも……仲間でありながら、何も言わなかった。不安だったろう? すまなかった」
「え? ううん、だって、僕は……その、グラノスさん達に不利益を与えた側で、なのに無理についてきたから」
グラノスさんが頭を下げているので、慌てて頭を上げてもらう。真剣な表情をして、もう一度「すまなかった」と謝罪をされた。
「君を信用できないと考えていた部分もある。今後について悩んでいた部分もな。だが、一番はちゃんと話をする時間を取らなかったせいだろう。フォローも足りなかった。ナーガやレウスも心配していたが、君を追い出すつもりは無い。これからも頼む……見張りもありがとうな」
「グラノスさん……でも、リディのことだって……」
「ああ。それだが、君が彼女に操られていた可能性があったこととか、詳しい事情を知ってな。君の意思ではなかったのは今更だが理解した……その男が、クレインを冒険者に襲わせたのと一緒だ」
ぽたぽたっと涙が出てしまった。僕をちゃんと受け入れてくれるらしい。安心したら、泣いてしまったけど、レウス君に頭をがしがしっと撫でられ、抱きしめられた。
「よかった! 一緒だな!」
「う、うん……一緒だね」
僕については仲間だと、ティガさんとルストさんに牽制したようにも思うけど。
苦笑をしているティガさんも分かっているんだろうなとは思う。
でも、そんなことよりも仲間だと認めてもらえたことが嬉しかった。
「さて、じゃあ、アルス。君には話していなかったことを話そう。今、帝国はほぼ壊滅した。領土としては、この大陸でも随一を誇る国が、第三皇子を殺した反乱から始まり、皇帝は殺害、皇太子が捕らわれ、第二皇子は亡命。他、貴族の多くも亡命し、王国と帝国の国境は難民で溢れている」
「え? 何それ? そんなこと起きてるの?」
「レウス……君も聞いてないのか。君達の情報処理はどうなってるんだ?」
「子供は知らなくていいってスタンスが多すぎなの!」
レウス君も驚いているけど、僕も驚いている。
帝国がそこまで壊滅とか、初めて知った。多少、きな臭いくらいしか聞いていない。
「そして、その第三皇子を殺害するきっかけになった主犯が、ティガとクロウだ」
「は!?」
「待ってくれ、誤解があるようだが、わたしたちが主犯というのは……」
「もちろん、本当にきっかけになったのは、君だな、ルスト」
「……ぼく、なのかな?」
目まぐるしい情報の提示に驚いている。クロウさんとティガさんが反乱の主犯? 思わず距離を取ってしまったが、レウス君とぶつかり、苦笑された。
「俺は現場は見ていないが、冒険者を暴走させてクレインを襲ったのは君……いや、君の中にいる悪魔だろう。天使族であるクレインにとって、悪魔は敵対している。君以外の悪魔とも会っているから間違いないだろう……まさかな……」
その「まさか」は何を表しているのだろう。何か含みがあるようだけど、ルストさんの方はきょとんとしている。この人、たまにこんな風に何を言われてるかわからないみたいな顔するんだよね。
「? ……僕を知ってるの?」
「さて……君が引き起こした反乱については聞いている。帝国にいるとばかり思っていたんだがな」
ルストさんが本気で首を傾げているのがわかったのか、グラノスさんは苦笑をしている。反乱を起こした首謀者が町にいることはまずいのかな。
「この町に集まってるとなると話が変わりそうだ」
グラノスさんとしては、知っている情報を僕とレウス君にも話しているつもりなのだろうけど、ティガさんの笑顔が消えている。
「あの……クロウさんとティガさんが主犯って……?」
「それについては帝国側に何か思惑があったと思われる。王国の貴族が掴んだ情報では、4人組から3人組になり、黒髪の男とは別れたという情報を得ていた。これは、アルス、君と出会う前で俺が得ていた情報だ。しかし、現状、帝国側はティガとクロウを主犯格として布告、懸賞金をかけている」
「それは真実なのかい? 貴族の言葉に翻弄されている可能性は?」
「ほら、これが証拠だ。手配書と似顔絵から、間違いはないだろう。これを知ったのはミリエラ鉱山ダンジョンの後のことだがな……手配書は2枚、だが、君たち4人の中に悪魔がいることは早いうちに聞いていた」
手配書を渡されたのを確認すると、確かに二人の似顔絵……でも、クロウさんは髪型を変えてるから、気付かれない可能性もありそう。ティガさんはそのまま、本人だとわかる。
この情報を知っていたのに、教えなかったのは……スタンピード前に混乱させたくないのと、ティガさんを信用できなかったからだと教えられた。
「借金奴隷となっているため、帝国に連れ去るには俺らに金を払う必要がある。おそらく、そんな手間を取らずに殺していくだろうけどな」
「俺は? 俺、ずっと二人と行動してたんだけど?」
「手配されていないな。おそらく、二人の能力を帝国は確保しておきたかったから手配した。その後は情勢が悪化し過ぎて、修正も利かない状態だという予想をしている……現状、君達が帝国の反乱軍の幹部とみる動きがあるかは不明だ」
混乱した帝国内で、異邦人の集団が反乱軍となって活動している。その幹部として、懸賞金がかかっている二人には嫌疑があるらしい。
「流石にそれはないよ。わたし達は混乱に乗じて、逃げ出しただけだ」
「まあ、タイミングとしてはそうなんだろうが……帝国側の混乱で、撤回もされてないからな。反乱の首謀者=反乱軍の幹部、という線は消えてない」
むしろ、その状態でよく一緒に行動することを許してたなと思うのは僕だけなのかな。話を聞く限り、明らかに危険人物。
しかも、僕も……話を聞いていて、ティガさんならあり得そうとか思えてしまう。なんだろう、タイプは違うけど、グラノスさんとティガさんってそういう軍を率いるとかも出来そうで、否定するだけの何かがない。
「まあ、ティガの話は後だ。俺らは王国の貴族の手先、ティガとクロウは反乱軍の指揮者という危険な組み合わせで、アルス、君は伯爵家の切り札だった異邦人。まあ、伯爵家からはこれ以上メディシーアと敵対しないために、見逃された宙ぶらりんの状態だけどな」
「え? 切り札?」
「王都に召集されるはずなのに、匿われていた。しかも、君ではないが、伯爵家の影とやり取りしていたんだからな。言っておくが、他家から見たら相当危険な連中という認識だ」
僕なんて大したことないと思っていたけど、こちらの世界の人から見たら違うらしい。確かに、レベルがかなり上がったことから、足手まといにはならなくなったのだけど……でも、圧倒的にグラノスさんとナーガ君が強い。
クレインさんはなんかおかしい。薬師として生きたいといい、冒険者は魔法系を自称しているのに、僕よりも前衛で強いという……斥候も出来るし、出来ないことあるのだろうかと思う。
「とりあえず、町からは帝国関係者は追い出されてるから、しばらくは安全だが……他に知っておきたい情報はあるかい?」
「……混乱してて、また、聞きたくなったら聞きます」
これからは、ちゃんと聞けば教えてくれるらしい。今までの情報すらも爆弾だけど。
「ねぇ……ぼくは手配されてない?」
「ああ。君については、一切情報はない。いや、黒髪紫瞳の男がきっかけだと、王国の人間の一部は知っているのに、手配はされてないというのが怖いとこだがな。言っておくが、黒髪紫瞳はこの世界で嫌われる悪魔の特徴だ。人を惑わしたり、操る悪魔という言い伝えがあり……色々とあるから手元に置くのを忌避したとかはあるんだろうな」
ルストさんの問に対し、あっさりと回答している。僕自身も知らないことばかりだけど、いきなり悪魔と言われてもピンとこない。
「ぼくが操るかもしれないのに、余裕だね」
「君の毛先がその白い状態である限りは悪魔の力は使えない。クレインが君の力を封印したからな。君も自分がどういう存在か知りたいだろう?」
「……知っているの?」
「情報は集めている。悪魔という種族は妹にとって天敵なんでな」
「あの子……無事?」
「ああ。殺したいかい?」
「ううん。無事でよかった」
剣呑な輝きを瞳に映し威圧するグラノスさんとは対照的に、嬉しそうに安堵して笑うルストさんも変な人だなと思った。
毒気が抜かれたように、「やれやれ」と言って、グラノスさんは威圧を解いてくれた。
「君は、自分の中に何かいる自覚はあるかい?」
「今は無いよ……3人と別れた後……ううん、あの混乱の時からかな? 消えていなくなったよ。
その前は何かいた。なんで知ってるの?」
あれ? 普通に何かいるんだ?
ちらっと他のメンバーを確認するけど、レウス君は首を振っている。知らないってことだよね。
「こちらで、もう一人、悪魔種族を確保している。そいつは、視覚により人を操ることが出来た。君は嗅覚だ」
「嗅覚?」
「甘い匂いがしたという証言が冒険者達から出ている。君は無意識に操ったんだろう。もしくは、君の中にいる悪魔がしているのかもしれんが」
「……なぜ、僕にそこまでおしえてくれるの?」
「先ほど言った通り、君は現状は悪魔の力を封じられている。先に言っておく、もし、その髪の毛の色が黒一色に戻ったとき、俺は問答無用で君を消させてもらう。妹に危険を及ぼすのを許容する気はない……だが、出来れば君の動向は把握しておきたい。どこにいるか把握するだけでも、今回のような危険が減る」
グラノスさんは、封印されている状態なら居場所を特定しておけば、干渉しないつもりらしい。ただし、解ければ敵対者。
たぶん、本当に数分前まで仲良くしていても、やり遂げるのだろうなとは思う……それほど、大事な存在なのだろう。
「うん。わかったよ……もう一人の悪魔の子にも会ってみたいのだけど」
「今は他の町に居る。まだ、どうするかが決まっていない状態だったが、おそらくこの町に連れてくるだろう。話し合いについては、好きにしてくれていいが、妹と会うことはしばらく止めてくれ。君がまた命を狙う可能性が捨てきれない」
「うん、わかったよ。また、聞きたい事あったらいいかな?」
「構わない」
ルストさんは、とりあえず納得したらしい。
そして、ティガさんとグラノスさんの視線が交わると、周囲の気温が下がった気がした。
僕とレウス君が一歩後ろに下がると……ルストさんも僕の後ろに身を隠した。ちょっと、僕の後ろに隠れるのは止めて欲しいのだけど……。




