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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-11 .帰還報告


 マーレスタットに帰ってきた。

 スタンピードにクヴェレの別邸の期間を合わせると二週間離れていた。すごく久しぶりに感じる。


 本当はすぐにでも師匠のところに顔を出したいところだけど、シュトルツ様も一緒にいるのでラズ様の屋敷へと向かった。馬車が直接、領主の館に乗り付けたため、町の中は確認していない。ただ、スタンピード前はバタバタした雰囲気だったのが、かなり落ち着いている様子だった。


「ようこそお越しいただきました、シュトルツ様。歓迎の宴を用意しておりますので、それまでごゆるりとお過ごしください。クレイン様もお帰りなさいませ」

「フォルさん」


 馬車から降りると、フォルさんが手を貸してくれたので、ゆっくりと降りる。


「歓迎、痛み入る。では、クレイン嬢。後ほど、また会おう」

「はい、ありがとうございました」


 シュトルツ様が屋敷に入っていくのを見送り、ふうっと溜め息をこぼす。

 何だかんだ、クヴェレ家の別宅を出発してから本日4日目の昼。会話もないため、許可を貰って、本を読んだり、色々とメモに考えを纏めたりして過ごしていた。

 スタンピードに行くときは、スペル様が話を振って、雰囲気を和ませてくれていたことに今更感謝した。シュトルツ様とはあまり会話が弾まなかった。


「お疲れでしょうか? そのまま、ラズ様の元へ案内しようと思ったのですが」

「大丈夫です。お願いします」


 馬車に乗り続けていたから、体が動かせなくて疲れているのは間違いないけど、ラズ様に報告する機会を逃すわけにはいかない。

 フォルさんが、「かしこまりました」と言って、ラズ様の執務室まで案内してくれた。


「ラズ様、戻りました」

「うん。グラノスはどうしたの?」

「キュアノエイデスに、異邦人の二人をつれて向かいました。その件で報告していいですか?」

「うん、お願い」


 ラズ様に促されて、来客用のソファーに移動する。目の前には、焼き菓子? なんだろう? 木の実やドライフルーツが入っているパン。美味しそうだけど、中途半端な時間に食べても大丈夫かな。


「食べないの?」

「いただきます」


 ラズ様に促されて、一口頬張る。

 なんだっけ、クリスマスの頃に食べるお菓子に似ている。シュトーレンだったかな。砂糖は塗されていないけど、美味しい。もう少し柔らかいとさらによい感じなのだけど。ちょっとパサついている。


「美味しいです」

「そう……君たちの口に合わないかなと思ったけどね」

「いえ、美味しいですよ?」

 

 なんだろう。この世界でケーキとか見たことないからかな? 異邦人が我儘言ったとかだろうか。生クリームたっぷりより、こういう素朴な味が好きだけどな。


「ラズ様は食べないんですか?」

「甘いのは苦手かな」

「じゃあ、こちらとかどうでしょう?」


 ユニコキュプリーノスの鰹節スライスを出しておく。沢山あるので、おつまみ用に加工している。クロウと兄さんお気に入りの品。お酒が欲しくなるらしい。


「なにこれ?」

「ユニコキュプリーノスの身を加工したおやつ? おつまみ? まあ、そんな感じです。兄さんが監修してるから美味しいですよ」

「へぇ…………美味しいね。これ、少しわけてくれない?」

「いいですよ。いっぱいあるんで」


 なにせ、大量に狩りつくしたからね。加工するのも大変だった。でも、おかげで出汁に苦労しないし、おやつも困らない。本当に気に入ったのか、少し顔が緩くなったので、多めに渡しておく。


「それで……どうだった?」

「色々ありました」


 スタンピードのことはさらっと流して、クヴェレ家での異邦人……悪魔族のルナさんと、ダークエルフのリュンヌさんについてわかったことを報告する。ついでに、クヴェレで知りえた情報。竜種に嫌われ、襲われることも報告しておく。


「つまり、君の命を狙う異邦人を保護したってこと?」

「ですね。しかも、ドラゴンとかにも狙われる可能性あり、厄介な感じです。一応、クヴェレ家での滞在費用や密入国に対する罰金なども払って、力を封じたことの金銭請求して、借金奴隷になってます」

「クヴェレ家に任せておけばいいのに」

「まあ……そう、ですよね。ただ、私が能力封じたのもあって、一応引き取りました」

「……使えないの?」

「悪魔の力を使おうとすれば私が施した封印が解けます。主な被害は周囲の魅了です。私と彼女では、血の濃さが違うので、レベル差があっても完全な封印などは無理ですね……あと、何度も封じてあげる気はないです」


 次、もし、前と同じ髪色になっていたら、敵対者として対応するとは伝えた。

 また、同じように封じるには、こっちが負担を負いすぎる。


「そう。相変わらず、甘いね」

「ですね……あ、これ。余った安らぎの花蜜と、作った解毒薬の余りとレシピの詳細になります」

「クヴェレ家には?」

「渡してないです。さらに質悪い毒作られても困るので」


 私の言葉に一瞬、眉間に皺がよった。毒については、ラズ様とかも大変そうだよね。それなりに身分ある人だし。だからこそ、解毒レシピは必要だろう。まあ、素材が手に入らないと厳しいけどね。


「うちには渡すのに?」

「だって、それも専属薬師の仕事でしょう? ラズ様には報告します。まあ、薬が余ったのはたまたま奥方様に耐性があって、少なくても良かっただけですけど。確認ですが、薬師として仕事をした場合の報告義務は無しで、いいんですか?」

「……元々のレシピにアレンジ加えたってことだよね?」

「レカルスト様からもらった素材追加してますね。他にも、素材追加……ちょっと成分調べて、中和させたりも……」


 そもそも、販売する薬と違って、毒も個体差あるし、耐性持ちで効かないと困るからだろう。クロウの成分表を確認して、効果を打ち消すための素材は複数入れて、かなり変えてある。成分表は既に焼却処分したから、私のレシピを見ると結構謎な素材が多数使われているように見えるはず。


「……預かっておくよ」

「はい。それで、安らぎの花蜜……クヴェレから提供されたのが10個、1つは解毒薬の作成に使いましたが、残り9個はラズ様に渡しました」

「そうだね。それで?」

「褒美として、1つください」

「……欲しいなら、失敗したことにして自分の懐にいれればいいのに」

「そんなことしません。でも、1つ、手元に置きたいんです」

「もう、さっさと加工しないと数日で使えなくなる。そこまでして、欲しい理由は?」


 加工して、使ってしまわないとただのゴミになる。その前に師匠に渡したいというのはわかる。ただ、私の方でも事情がある。


「クロウに頼んで、成分を調べます。途中でクロウを帰らせてしまったため、提供されたときにはいなくて、詳細な成分確認が出来ていません。成分を調べて……代替素材を作ります」

「……本気?」

「スペル様から聞いたんですけど……師匠、病気なんですよね? この素材、今後も必要になるのに、入手の見通しがついてない。違います?」

「いや、その通りだよ。でも、出来るの?」

「やってみないとわからないですよ。現物、その成分がわかるだけで、研究は進めやすいと思います。お願いします」


 ラズ様に頭を下げると「いいよ」と返ってきて、渡した安らぎの花蜜を一つ返された。


「ありがとうございます」

「もともと、君が調合に失敗する可能性もあると考えていたからね。一つくらいあげても問題ないよ」

「それで……その、師匠は?」

「僕に詳しい病状は教えてくれないよ。ただ、レオが引退したこともあって、他に当てがないから、素材の入手を頼まれていた。それが頼んでいた部下は異邦人に殺されたり、入手ができなくなってね。急遽、スペルに頼んだんだよ。ナーガが持ち帰ったのは、婆様にそのまま渡したよ。顔見せてきなよ……と言いたいとこだけど、シュトルツとの夕食会に出てもらわないとだしね」


 師匠に会いに行けると思ったけど、すぐには駄目らしい。

 晩餐会なんて、私が参加しなくても良いと思うのだけど、フォルさんに視線を送っても首を振られてしまった。


「どうしても?」

「そりゃあね。侯爵家の子息、スペルが当主となることが発表されたばかりの状態で、その補佐になる双子の弟がわざわざ出向いているのに、歓待しないなんて、スペルが当主となることに反感を持っているなんてことになりかねないでしょ」

「あ~、なるほど。特に、敵対派閥だったのもあって、上げ足取りする人が出てくるんですね。わかりました」


 貴族って本当に大変。まあ、スペル様よりは実直で、こちらを試したりからかったりはしない方だから、晩餐会くらいは参加する。お世話になったしね。


「そうでなくても、メイドがいるとはいえ、婚約者がいる身で二人きりで馬車に何日も乗ること自体に問題はあるけどね」

「……いや、兄さんがちょっと、色々とありまして」

「スペルとグラノスがキュアノエイブスに向かっているなら、言い訳できるからいいけど。気をつけなよ? シュトルツで前科あるから、他の家も同じように二人きりになって既成事実作ろうと狙うからね~」

「貴族って面倒……」


 正直、そんなことでやり取りしたくないので、気を付けるというより……ラズ様が貴族とのやり取りに私を巻き込まなければよいのでは?


「心配しなくても、今回だけだよ。どうしても、安らぎの花蜜を入手したくてね。金を積んでも、厳しくてね~。共和国の方で売りに出されているから、そっちも手配をしている。ただ、上級薬を常備薬にしている者にとって、欠かせない素材だからね」

「ラズ様、師匠のこと好きですね」

「婆様は年齢が年齢だからね。病状を教えてくれないから、わからないけど……薬が切れることがあれば、一気に悪化することも考えられる。代替素材、期待してるからね~」

「一応、構想は考えてあるので……錬金で上手くいけばいいなと、ある程度の構想は馬車の移動中に書き溜めたので」

「僕は説明されてもわからないけどね。上手くいったら、報告はしてよね」

「ラズ様も、今後は師匠やレオニスさんのためならそう言ってください。やる気が変わるので」


 師匠のためであれば、先に言って欲しかった。まあ、それでも巻き込まれたとは思う。ラズ様の思惑と、ラズ様の兄、カイアナイト様の思惑は別であっても、重なる部分もある。


 竜種の件については、警戒はするようにしてくれるらしい。ただし、そんな簡単に襲ってくることは考えられないともいう。


「ギルド長に、竜種の情報は頼んでおいてあげる。君が問い合わせすると目立つから、勝手に動かないように。君の最優先は、代替素材ね。父と兄にも僕から言っておくから」

「はい……信用、無い感じです?」

「……言っておくけど、ナーガが君を襲った報告を受けてるからね? 解毒は報告したのに、そっちは報告しなくていいと誤魔化したでしょ?」

「うっ……いや、ナーガ君とのことは、まだ、私も時間なくて話せてないので……それで、調べた結果、私や悪魔の種族はドラゴンに狙われることがわかっただけで、ナーガ君の暴走は彼の意志じゃないので……」


 呆れた視線が返ってきた。

 いや、ナーガ君が私を狙う理由は、中にいる何かであって、十中八九、ドラゴンとかの魂な訳で……多分、ちゃんと和解できれば良いとか考えていた。


「ちゃんと話し合いなね? ナーガ、フォルにクレインを傷つけないように、もし、傷つけることをしようとしたら、自身が傷つくような縛りが出来ないか聞いてきたよ。兄妹全員で話し合って、それでも必要だと判断したら来るように伝えたけどね」

「いや、ダメです! そんなこと許すわけにはいかない!」

「ナーガにとっては、自分が君を傷つける方がショックなんだよ。君がナーガに傷ついて欲しくないように、ナーガも君に傷ついて欲しくない。グラノスがいない時だってあるんだからね」

「……はい」


 お叱りを受けてしまった。いや、まあ、その通りではある。


 一通り報告後、町での動きを教えてもらった。帝国からの冒険者は町から一掃。難民申請は、王都か、正規の国境付近の街でしかできないと説明して追い出したらしい。ただ、戻ってくる可能性はあるので、気を付けるように言われた。



 そして、シュトルツ様と夕食を共にした。

 面倒ごとにならないように、情報は出来る限り表ざたにはしないでくれるらしい。あくまでも、スタンピードの協力のお礼として、別館に立ち寄ったということで済ませるらしい。治療内容も別館でのことも、全て他言無用と言われた。


「機会があれば、本邸にも招待をしたいのだがな」

「機会は5年以上の期間が空くんじゃない?」

「そうか、次のスタンピードか……次は流石に兄君は参加できないだろうから、俺だけだろうな。その時にはまた、よろしく頼む」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」


 スペル様にドラゴンの件を頼んでいるので、会う機会はありそうだけど……口にする前に横に立っていたフォルさんから、非公式でも交流があることを言わないようにと釘をさされた。


 公式では、次のスタンピードまで会わないことになる。そして、この場は非公式ではなく、準公式な場として、スタンピードが無事に終わったことを互いに確認する場でもあるらしい。不用意な発言禁止。


 何を話していいかもわからず、頑張って口角を上げて、笑うふりをしながら、なんとか食事会を終えた。

 食後にフォルさんが胃薬を持ってきてくれたので、その場で飲んだら苦笑された。



 夕食会を終えて、屋敷から帰る時、ラズ様と一緒にシュトルツ様が近づいてきて、詫びられた。


「正式に感謝を伝えられず、すまない。だが、君には大きな借りがある」

「いえ、お気になさらず……」

「何かあれば、伝えてくれ。出来る限り協力しよう」

「ありがとうございます」

「息災で。グラノスには手紙を送ると伝えておいてくれ」

「え? あ、はい」


 うん?

 兄さんとはやり取りすんだ?


「君、僕の婚約者って自覚持ちなよ」

「うむ。婚約者のいる女性とやり取りするわけにはいかないからな」


 あ、そういう……自覚が足りない。

 でも、ラズ様としては、兄さんが他の貴族と連絡を取り合っても気にしないらしい。


 う~ん。色々と面倒くさい。




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