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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-6.天使と悪魔と竜


 ルナさん達のこと、異邦人についての情報集めは、一旦、わきに置いておくことにして、与えられた部屋に戻って、奥方様に会いに行く準備をする。

 地下牢で多少汚れたため、顔を洗うだけでなく、お風呂に入るように勧められ、清潔な状態にしてから、奥方様の部屋へ向かうことになった。


「体調はいかがですか?」


 ベッドに寝ている奥方様の方へ近づく。ベッドの横にはスペルビア様とシュトルツ様がいて、他にもメイド長や執事が控えている。


「まだ、微熱があるが、だいぶ楽になったのう」

「診察をしてもよろしいでしょうか?」

「よいぞ」


 昨日はつっかえつっかえで、上手くしゃべれなかったが、だいぶ流暢な言葉使いになっている。


 〈診療〉を使った結果は、衰弱状態がまだ残っている。毒は完全に消えている。脈は問題がないし、本人の申告通りに微熱はある。


 魔法は使わずにMPとSPを体に流してみる。若干、胃とか内臓部分の通りが悪い。弱っているからかな? 遮断されたりはしていないし、弱くなるけど流れているのでおそらく時間経過で大丈夫かな。


 毒はきちんと解毒出来ている。微熱は毒薬・解毒薬と体に異物が入ったことによる拒否反応とか、負担がかかったことが原因かな。

 熱が続くようなら、医者に診てもらった方がいいかもしれないけど、とりあえず心配は無さそう。



「どうだえ?」

「毒はきちんと解毒出来ています。ただ、体に負担が残っているようですから、しばらくは安静にお願いします。滋養強壮に良い薬を渡してありますので、食後に飲んでください」


 薬はすでに渡してあるので、ちらっとシュトルツ様を見ると「うむ、任せてくれ」と言って、薬を奥方様に渡している。


 奥方様が重湯を食した後に薬を飲んでいる。

 水分補給用のスポドリも、兄さんに頼んで取り出しておく。いや、今からでも病人用のスポドリを新しく作った方が良いかもしれない。


「熱が数日続くようなら、医者に診察してもらった方がいいと思います。それから、こちらは水分補給用の飲み物になります。薬が苦いので多少、緩和できます……後ほど、新しいものを用意します」

「そうか。そなたは、妾の容体が落ち着くまではここに居るのか?」

「えっと……」


 どうしようかと、兄さんとスペル様を見ると双方頷いている。

 そんな話は聞いていなかったのだけど、まあ、数日間はここにいてもいいのかな。ルナさん達の件もあるし、今日出発ということにもならないか。


 ナーガ君がちょっと心配だけど、レウス達とダンジョン行くなら何日かかかるだろうし、しばらくは不在でも大丈夫か。


「えっと、しばらくは……滞在をします」

「そうかえ……妾からの褒美は要らぬと言うたな」

「お仕えする方を決めているので、他の方から直接褒美をいただくわけにはいきません」

「なら、礼として、そなたの屋敷内での自由を保証しよう」

「え?」

「スペルビア、シュトルツ……案内してやるがよい」

「じゃあ、案内するよ」


 奥様にお礼を言って、部屋を出る。スペル様に案内されたのは沢山の本が所蔵されている部屋。しかも、本自体がかなり古そうな……ちょっと埃っぽい部屋。


「ここは?」

「古い書物が置かれている倉庫かな。母上が出入りの許可をしたからね、好きに見ていいよ~」

「そう言われてもな?」


 色々調べたいと思っていたので、とても助かるけれどいいのかな? 兄さんも困惑している。


「君たちが必要としてる本もあるかもしれないよ? 例えば、ほら……『竜と悪魔』、こんな古い童話とかね?」

「うむ。我がクヴェレ家は大昔、水竜退治により当時の帝国で貴族となった家柄でな。竜やドラゴンについては、どの家よりも多くの資料を揃えている。参考になる資料もあるだろう」

「知りたいことが沢山あるでしょう? 母上も君に感謝しているから、許可出すようにお願いしておいたよ」


 スペル様が話をしながら、いくつか資料を机に置いてくれている。……タイトルには「悪魔」「竜」「聖女」という言葉が入っている本や紙ばかりだった。確かに、調べたいことではあるけれど……。

 しかし、悪魔と竜はともかく、聖女?


「好きに過ごしていいよ。この部屋から出る時には鍵をかける必要があるから、外にいる使用人に声をかけてね。部屋の中には誰もいないようにしておくから……本もいくらでも取り出して読んで構わないよ」

「悪いな、気を使ってもらって」

「うむ。他にも調べたい内容などがあれば言ってくれ。俺達でよければ協力する」


 使用人を使わないというのは私達への配慮かな。

 しかし……スペル様がぽいぽいっと適当に取り出して重ねている本……なんか気になるものが多い。


「こっちも助かったからね。あ、調合する時はこの部屋はやめてね」

「はい。それは、もちろん」

「好きに読んで、調べるといいよ。自分たちが何者なのか……この世界のこともね」


 にっこりと笑うスペル様に背筋がひんやりとした。私達が知っておくべきということだろうけど……この世界のこと。異邦人のこと。調べたいとは思っていたけど、それが知られていることにも、あっさりと提供される環境にも戸惑う。

 確かに、この世界の知識が足りていない部分をここで補えるのは大きい。


 兄さんと二人きりになり、取り出された本の表紙を見る。古い本だった。


「スペル様、なぜ、あんなこと言ったのかな?」

「さてな。気に入ったというだけではなく……俺らにやらせたいことがあると考えるべきだろう」

「資料を読めば、自発的に言い出す?」

「調べてみるしかない……俺はスペルが出した資料を片っ端から読んでいく。君は君が気になる物を探してくれ」

「そっちでなくていいの?」

「相手が読ませたい資料は俺でもいいが、他に隠された重要情報もあるかもしれないからな。君は棚から探し出してくれ」

「……わかった」


 用意された資料は兄さんに任せて、本棚を物色して気になるものから、手に取って読んでいく。自由にしていいというのなら、色々と調べよう。


「何から調べるんだ?」

「まずは悪魔の伝承と、逆の存在。神と言われる存在の伝承かな……黒が悪魔なら、白は神か、天使かな? 他に気になるところがあれば、兄さんに任せるけど」

「……地下牢の子らはどうだった?」

「う~ん。あの子は悪魔の見た目だよね? 瞳を隠しているけど。能力全般、使わせない方がいい。使いこなせる、こなせないとかの問題じゃない。精神面が弱すぎる。あの子、子どもだと思う。リュンヌさんはわからない。魅了状態で暴走してるのか、話が通じなかった。面倒だから、勝手に解呪〈ディスペル〉かけて…………その瞬間に、ルナさんから中身が出てきた」

「大丈夫だったのか!?」

「とりあえず、咄嗟に魔法をかけたら気絶した……。それで、もうちょっと、悪魔退治の情報が欲しいとこなんだけど……ルナさんのことは早めに対処するべきと思って」

「わかった。まずは調べよう」


 兄さんと手分けをして、悪魔について調べた。

 悪魔という存在自体は、教会で神話として伝わる神と悪魔の戦い以降も、度々存在している。

 そして、王国が出来て、クヴェレ家が王国の貴族になって、ぱたっと『悪魔』という表記が消える。そして、『異邦人』という言葉が出来ており、以降の記録には、『悪魔』の存在は神話のみとなり、過去の悪魔の記録も消されている。


「当然、ここの本の内容って知ってるよね?」

「スペル達か? これらの本をすぐに選べる時点で知ってるだろう」


 確かに。つまり、クヴェレ家では、悪魔、異邦人がどうして変わったのかを知っているということになる。


 そこで、クヴェレ家について調べた。

 クヴェレ家は古い家柄であり、この地が帝国領であった頃から存在している。シュトルツ様が言っていた通り、この地にいた水竜を討伐した恩賞により、貴族として代々この領地を治めてきた。

 そして、帝国から独立する際には王家を助け、共に帝国と戦ったらしい。


 まあ、王国内でもかなり歴史のある侯爵家……というか、王家とクヴェレ以外は王国になってから出来た貴族だった。

 古い記録には『悪魔』、王国になってからは『異邦人』。その置き換えがわかるように新旧の同じ内容のはずの物語も置いてある。一貴族が、言論統制されても、その記録を残している……。本邸ではなく、別邸で管理していることも怖いけど。


 この内容は、王国でどこまで知られた内容なんだろう?



「古い頃の資料は悪魔、新しい方の資料は異邦人。同一の存在として……王国は、建国と同時に悪魔として扱うのを止めたってことだよね」

「実際、異邦人の中には、悪魔という種族を選べるからな。容姿として伝わる悪魔は、黒髪・紫瞳。悪魔の容姿をはっきりさせ、異邦人は区別した。その後、悪魔の記録は、ぱたりと消えたんだよな?」

「ううん……はっきりと悪魔としてないけど、一つだけあった。共和国が出来た時の立役者の一人が、黒髪・黒瞳で異邦人の記録がある。そして、『悪魔のような』……はっきりとは残していないけど、表現として悪魔を使ってる。これ……どうかな?」

「悪魔は、おとぎ話とか英雄伝では、全て黒髪・紫瞳だな。しかも、いくつかの話では、竜とともに悪魔を倒したことになっている」


 悪魔と竜種……特に竜種の中で最強であるドラゴンは仲が悪い。

 ドラゴンと人が戦う話も数多くあるのに、悪魔が出てくる話に限り、ドラゴンは人の味方になっている。


「これ、やっぱり、竜種は悪魔族を嫌っているってことだよね」

「だろうな。だが、全くと言っていいほど、神や天使の記録がないな」

「天使についてはないけど、聖教国の聖女、聖者、それと教皇の一部だけど……容姿が、輝く銀髪・黄金瞳かな。悪魔と同じで、容姿がみんな同じ。悪魔がいる頃の記録には、高確率で聖女とか聖者がいる……いない時もあるみたいだけど、結構な確率でいる。そして、聖女の死にドラゴンが関係しているのが多い。聖者がドラゴンに襲われて退治している童話もある」

「聖教国の異邦人の情報、一切ないんだよな?」

「ラズ様には情報下りてきてない可能性もあるけど……」


 この世界、勇者はいない。

 悪魔や魔王が世界を掌握することなく、討伐されていることが原因かもしれないし、ドラゴンが人里を襲うようなことも基本的にはないから、勇者という存在がいらない可能性もある。


 ただ、聖教国が竜種やドラゴンに襲われた話はいくつかある。ドラゴンに襲われる国はいつも聖教国で、他国を襲ったことはないらしい。そして、聖教国より認定された聖女・聖者が悪魔を倒す。その容姿は皆、髪は白銀、瞳は黄金色だと記録が残っている。

 ただ、白髪とか、私や兄さんみたいなはちみつ色の瞳の人は少ないけど、いないわけじゃない。悪魔のように特別視もされてない。


「兄さん。たしか、『聖女』を名乗っている異邦人が、マーレにいたんだよね?」

「ああ。だが、神父のおっさんは冷ややかだったな。髪は金髪だった。むしろ、営業妨害に腹を立てていた……それと、あまり素養がないという話だったな」


 つまり、ユニークスキルで〈聖女〉を持っていても、聖教国の基準では『聖女』にはならないってことか。聖女の条件が、私達が考えるものと違う可能性。


「私の選べる国には、聖教国は無かった……帝国・王国・共和国」

「俺は帝国と王国の二つだったな。そこも何が違うからわからないな……君はおそらく、混血だよな」

「ポイントから考えると混血しかないと思う。つまり、聖教国を選べるとしたら、純血、ハーフ、クォーター……なんかしっくりこない」

「純血に近くなればなるほど、容姿に元々の種族が色濃く反映されるだろ? 銀髪・黄金瞳が条件な可能性もあるな」

「……あるかも?」

「だが、悪魔族については調べられても、天使族は難しそうだな」


 聖教国について調べるのは難しそうだからね。神父様から聞き出すこともできるだろうけど……それで怪しまれて、教会の資料を自由に読めるという立場は失いたくない。

 教会にある資料がほとんど魔法関連、経典もあるけど……こういう歴史の記録は置いてなかった。


 この部屋にある資料は、聖教国の内部の詳細がわかるような資料は無さそう。


「異邦人が現れたという記録はあるだけで、実際に何かしたような記録が無いのも気になるかな。唯一、何かをなした異邦人が、共和国の設立時にいた悪魔のような異邦人」

「設立後2年で死んでいるみたいだけどな……俺がラズから借りた共和国設立の書物には、この悪魔の異邦人という存在が消されていたな」

「異邦人という言葉があるくらいだから、民間にも認識されている。その割には何かを成した功績がない……何十年かに一度、1人または4~5人くらいで現れる異邦人が、これまでの歴史で、全く何もしてないとか……ないよね」

「……歴史から抹消されているってことだろうな」


 兄さんの言葉にこくりと頷く。

 聖女も表舞台に立っている期間は短い。10年いないんじゃないだろうか。


「まあ、クヴェレ家の記録では、代々の当主が『○○に異邦人が現れた』という記録は残している。記録を信じるなら、帝国の土地に現れることが多いようだが……」


 王国内での記録は残していないという可能性もあるけど……。

 まあ、兄さんの言う通り、歴史から抹消が正しそう。それらが齎した功績は一切なかったことにする。


 聖教国に聖女・聖者が現れた時も記録を取っているけど、異邦人とは言ってない。ただ、時期がかぶっていることが多い。聖女もまた異邦人ということだろう。



「兄さん。子爵にはならない方がいい」

「……続けてくれ」

「異邦人であることは、隠そうとしても隠しきれない。貴族になってしまえば、消される可能性が上がりそう。聖女とかも、在位期間が短い。名前が残るような、爵位を持つ異邦人は認めない、消されると思う」

「わかった。お師匠さんと俺で爵位譲渡の希望はしているが、取り下げるか。あまり進んでいないようだし、様子を見つつ、このまま生前の譲渡がされなかった場合には、メディシーア家が貴族ではなくなる形だな。今は、王家が渋っているだけだが、命が狙われるなら割に合わないしな。君はどうする? 公式の立場を残さない方がいいなら、君の薬師としての地位も微妙になる可能性がある」

「……考えるけど……薬師としては、必要とされる可能性もある。そもそも、師匠に数年は旅をして来いって言われてるから……その間に状況見極めつつ、かな」


 貴族となるなら疎ましいと思われる可能性があるけど、師匠の薬は貴族でも使っている人がいるから、兄さんほど危険なことにはならないと思う。

 ただ、現在の状況が目まぐるしく変わっているから、落ち着くまで様子見、逃亡を視野に入れておきたい。


「まあ、君の場合はお師匠さんの指示だし、それがいいだろうな……スペルの方が終わったら、キュアノエイデスに行ってきていいか?」

「う~ん。確かに、方針転換を伝えた方がいいかな」


 なんか気になる気もするけど……必要なことだし、必要かな。王弟殿下から貴族として仕えて欲しいと言われているわけではないだろうけど。

 ただ、スタンスとしては、王家が認めなかったことにしておいた方がいいんだろうな。


「問題は、ルナさんをどうするか」

「君の命を狙うにしても……俺から見ると弱いんだが」

「……ステータスでは負けてないよ。それこそ、圧倒していると思う。だけど、直感が発動するってことは、相性が悪いのか、一撃必殺みたいな何かがあるのか……悪魔に対する戦い方が参考になるような資料ないかな。悪魔対ドラゴン、聖女対ドラゴンの本はあるんだけど……悪魔対聖女の話が無いんだよね。目下、一番必要そうなんだけど」


 シュトルツ様の言っていた通り、竜種、ドラゴン種についてはすごく色んな資料があるけどね。

 聖女・聖者の話を読む限り……ヒーラーとしての能力しか書かれてない。蘇生魔法が出来るとか、欠損回復魔法も使っているので、かなりレベルの高いヒーラーであることはわかるけれど……。


「聖女の能力で何か、対悪魔に使えそうなのが有るといいんだけど」

「俺やクロウの目みたいに、何か、種族独自のアビリティとかはないのか?」

「……ある。いつの間にか、選んだつもりがないのに持ってたアビリティ……ただ、使い方がわからない」


 確かに……〈祝福〉って、天使っぽいし、なんかありそうだけど……いまだに使い方がわからない。

 ただ、祝福のレベルは2になっているので、使ったことがあるっぽいんだよね。覚えがないのだけど。


「もう少し、資料を探るか……ナーガのことを考えるとドラゴンや竜も調べておいた方がいいだろう」

「……戦いたくないんだけど?」

「ああ。俺も危険に近づきたいわけじゃない。避ける意味でも、知っておいた方がいい」


 確かに? 聖女を倒しに来るとか、ドラゴンの方も悪魔や天使を見分けることが出来るみたいだし……いや、ほんのちょっと血が入ってるだけだから、見逃してくれないかな。



「ところで、彼女らを助ける方向でいいのか?」

「う~ん……正直、可哀そうという気持ちもあるよ。でも、それよりも……命を狙われてるわけで……放置して、どこから狙われているかわからなくなるくらいなら、どこにいるか把握できるだけでも……私の精神的な負担は少ないんだよね」

「わかった。少なくとも、悪魔は彼女以外にも二人、か?」

「多分。兄さんが見かけた人と、帝国の反乱のきっかけになった人……この二人は間違いないと思う。他にもいる可能性はあるけどね」

「あと……アルスが魅了を受けてた、あの女は黒髪ではなく焦げ茶だったんだが、どうだろうな。瞳は赤紫だ」

「純血ではないけど、可能性あり?」

「神父に確認をとるべきだろうな」


 厄介ごとだ。それでも、事前に狙われているということがわかっただけでも、良かったかなとは思う。彼女達はもう少し自分の状況を理解してくれればいいんだけどね。


「ふむ……聖者の奇跡、祈りを捧げると起きてるな」

「祈り……そういえば、ティガさんの治療の時、神父様と話をして、祈ったかも? あれに効果があったのかはわからないけど……アビリティ名も〈祝福〉だし」

「俺は当時いなかったが、ティガが助かる見込みってあったのか?」

「いや……一応、助かる見込みはあったよ……まあ、思ったよりも後遺症とかなかったけど」


 あれは別に奇跡とかではなかったと思う。

 ただ、あの時、結構MPとSPを消費したんだった……その後、神父様に説明もしてもらえてなかった。


「〈祝福〉か……なるほどな。試してみるか」

「もうちょっと資料探してからね」


 聖女や聖者の奇跡について調べ、祈りを捧げる奇跡が可能性があると判断して、試すことにした。


 あの時は、像の前に立ったけど……とりあえず、兄さんの前に膝立ちで立って、合掌して祈ろう。兄さんの無事を祈ればいいかな。


「……グラノスに危険が起きませんように守ってください」


 言葉に出すのと一緒に、死なないように、彼らしく生きれるように、操られることがないように祈る。

 SPとMPがガクッと減った。ティガさんのときに比べても多い。SPもMPも半分くらいもっていかれた。兄さんを見ると一瞬だけ光ったような気がしたけど、見間違いにも感じるくらいわずかな時間だった。


 たぶん、兄さんに〈祝福〉が発動できた、よね? 減ってるのに、何もないってことはないはず。


「兄さん、何か変化はある?」

「いや、わからん。特にステータスに変化もない」

「う~ん。どうしよう……。ルナさんの様子が変わったときに、浄化〈プリフィケーション〉で気絶していたくらいだし、試す価値はあると思うけど……。祝福の方が、消費が激しい。まあ、あの中身が出てきたときの切り札だけどね」

「ああ。話してみてだな。こっちが譲歩し過ぎるのは良くない。あくまでも、こちらの条件を飲んでからだ」

「うん、わかった」

「君の直感では、二人で行くのは?」

「うん、今は大丈夫みたい」


 直感は発動していない。これなら大丈夫だろう。

 SPとMPが減ってしまったので、翌日にして万全な状態にしてから……もう一度、会いに行こう。



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