4-4.状況確認
翌朝。
兄さんの部屋で朝食を取りながら、昨夜の状況を教えてもらった。二人の異邦人の少女。特に、黒髪の方の話については、なかなか面倒だなという感想しかない。
「君はどう思う?」
「う~ん。まず、昨日の直感が正しかったとするなら、一緒に行っていれば、兄さんかスペル様が操られて、私を殺していたというあたりを想像するかな。とりあえず、兄さん。解呪〈ディスペル〉」
兄さんから、昨夜の話を聞いた。内容を聞いた。目隠しをして力を封じていたというが、それだって絶対ではないのだろう。そして、兄さんが少し様子がおかしい様な気がする。
鑑定とかしてないけど、念のために魔法を唱えておく。
「っ……」
「アルス君のときも魅了状態が把握できなかったし、念のためにかけてみたんだけど、どう?」
兄さんは額に手を当てて、驚いた表情をしている。やはり、何らかの影響を受けてたのかな。
「……まずいな。思ったより、強い能力か?」
「影響あった?」
「ああ、頭がすっきりしたな。昨夜は頭が働いてない違和感を持ってたが、今日は全く感じてなかった……いや、そのことも忘れていたのか? 接触を続けてると危ないかもな」
兄さんの話で距離を取っていたと聞いたから、接触はしていない。それでも、わずかであろうが兄さんは思考の一部が鈍っていたという。
やはり、私が死ぬとしたらスペル様か兄さんが操られてという予想で間違いは無さそう。
二人が同時に敵に回ったら、死ぬ。同時でなくても、狭い場所でどちらかに狙われたら死ぬと思う。兄さんとしては、操られるということはないと思っていたらしい。今、顔が少し青ざめている。
「なるほど……操られることはあり得なくもないのか?」
「うん。二人を相手にするのは、私は無理だよ」
「しかし、本人にそんな意図があるように見えなかったんだがな」
「人の身に、中に何かいる。それが私を狙うっていうのは、直近であったばかりだし……本人が自覚なくってあり得ない話じゃないよ」
「……ナーガか」
兄さんは少し困ったようにナーガ君の名前を出す。そう。ナーガ君も一切自覚なかったけど、そもそものステータスとか、最初から竜の影響受けてる。この世界に来たときにはいたんだよね。
中に何かいる場合、本人の意思に関係なく、何かのきっかけで出てきてもおかしくないんだよね。
「うん。ナーガ君の中にいた何かの言うことを信じるなら、『黒と白はいらない』、そして、『私は白』。その子が私を消したいというなら黒はあると思う……」
「黒が悪魔というのはあり得る話だな。黒は白を消したいという理由がわからないが」
「あの、一度だけ接触した高次元体、あれが私の中にいる何かだとしたら、悪魔族のその異邦人に何かいるのもあり得ない話じゃない」
あくまでも想像だけど。
高次元体が『依り代を見つけた』という、あの言葉が、悪魔族の異邦人の体を乗っ取ることが出来るという趣旨なら、本人の意志がどうであれ、体を乗っ取られることが有りそう。ただ、他に操る人がいるならともかく、その悪魔の少女と戦う場合は能力的に負けないと思うのだけどね……。
「君も乗っ取られそうなことあるのか?」
「ない。そもそも、混血だからね。……多分、依り代にするには種族の能力が足りてないんじゃないかな。ナーガ君は種族というよりも、ユニークスキルで竜の魂を取り込んでしまう。……最初から、竜の魂が取り込まれて、あの咆哮が呼び覚ましたんだと思う。で、悪魔の子の場合だけど……」
「ああ、君の予想は?」
「神が現れるときに宿るのが依り代。そして、私が接触した何かは、私達を転移させた存在はすでに依り代がいると言っていた。なら、その子が依り代なのもあり得ない話じゃない」
私達をこの世界に転移させる力があるのだから、兄さんやスペル様を操るくらいは出来そう。そうでなくても、何か影響受けてたわけだし……。強ち間違った推論でもないと思う。ただ、そうすると私自身、そんな厄介な存在に命狙われてるということで……正直、遠慮したい。
「しかし……悪魔は下僕を作るというのも厄介だしな」
「そこの部分、伝承だからね。信じすぎるのも良くないとは思う。ただ、例のアルス君を依存させていた子も、長期間一緒にいるうちに魅了したみたいだし? 魅力の値が高いと好感度が上がりやすいって話からすると……悪魔族は魅力値が高いことで、そういう洗脳系アビリティがあるのかもね」
「君、鑑定でアビリティまで見破れるか?」
「無理……鑑定のレベルは結構高くなったけど、そこまで出来るのは……」
「クロウか……あいつ、本当に使える人材だな」
「どちらも情報収集に強いという点で似てるようで、ティガさんよりずっと使いやすいとは思う。それもあって、なんだかティガさんに余裕なくなったかな」
いないので、どうしようもないけど……クロウはいるとすごく便利ではある。
兄さんも鑑定はもっているけど……詳細は私より劣るという。ただ、兄さんの視力が良いから、遠くから鑑定で色々見つける能力高いけどね。採取とかは、すごく目の付け所がいいのか、貴重な物を採ってこれる。
アビリティであることが確認できれば、そのアビリティを封印するような処置が教会でできる可能性があるんだけどね。流石に教会に頼むのは危険かな。なにせ、悪魔だし。教会の戒律的にアウトな気がするけど、神父様は意外とこちらに寄り添ってくれてるから……どうなるか、予想が出来ない。
「もし、アビリティが関係なかったとしたら、その方が厄介かな。一目で恋に落ちるではないけど、好感を一気に上げ、その人のやることに疑問を持たなくする」
「いや、そんなことあり得るのか?」
「ないかな? ありそうな気がするんだけど」
「……まじか」
アビリティに関係なく、魅了をしてしまう何かを持っている可能性。
これが、自分の器に他の『何か』が入っているとそういう特性もってしまうとかだと……どうしようもない気がする。
兄さんとしても否定はしたいけど、自分でも少し思考がおかしくなっていた自覚があるだけに否定できないみたいだ。
「君の思いつく可能性は二つかい?」
「うん……とりあえず、その女の子二人に私一人で会いに行くことが出来るかな」
「君を狙っているのに、それは危険だろう」
「うん? でも、兄さんやスペル様、シュトルツ様が一緒にいる方が危険。それに本人見てきた方が対策取れるよ」
「それもそうだが……とりあえず、この後、もう一度奥方殿の診療するんだろう? 後でいいんじゃないか?」
「そんなに会わせたくないの?」
「……話が通じないからな」
兄さんからさらに具体的に話を聞いた。むしろ、さっきまで掻い摘んで話をしていただけで、やらかしがひどい。
現状の異邦人の待遇を考えると……貴族に保護を求める気持ちはわかる。
偉い人に助けを求めるのは間違ってないと思う。でも、感情論だけで助けてもらうのは無理がある。
なんだろう?
二人とも、交渉に向いていないのかな。
一人は、予知で自分の死とかも見ているらしいから、精神的に追い詰められている可能性があるし、もう一人は魅了受けていて、まともな思考をしてない可能性もあるけど。
共和国側から逃げてきたというなら、そちらの情報も聞きたいので、交渉する余地はあるとは思うのだけど……兄さんの言う通り、私や兄さんでは彼女らを助けてあげることはできないんだよね。
「おはよう~。よく寝れたかな? 疲れはどう?」
「おはようございます、スペル様。その、ベッドがふかふか過ぎて落ち着かなかったのですが、疲れは取れています」
「それはよかったよ」
食事を終えて、とりあえずスペル様の部屋に顔を出す。う~ん。スペル様も様子は変わらないのだけど、ちょっと気になるような気がする。
「スペル様、ちょっと魔法かけていいですか?」
「うん? いいよ~」
「兄君! いや、クレイン嬢は平気だろうが、そんなあっさりと!」
「では、失礼して……解呪〈ディスペル〉」
「ありがとう。やっぱり、何か精神影響受けてる?」
「俺の方は少しな……君は平気みたいだな」
兄さんと違って、特に影響はなかったかな。ただ、一瞬、目が光ったようにも感じた。なんだろう? あ、聖魔法出来るってことかな? でも、知っていたような気がするんだけど。
「一応、耐性がつくアクセサリーを身に着けていたからね~」
「うむ。流石兄君だ!」
「うんうん、でも、ありがとうね。とりあえず、母の話をしていいかな?」
「はい。その、容体はいかがですか?」
「うん、落ち着いているみたいだね。ただ、それなりに体に負担もあったから、起きるまで待ってくれるかな」
「はい。わかりました」
結局、今朝はまだ目が覚めていないらしい。夜に目覚めたりもしていたらしいけど。ただ、寝かせておきたいので起きたら呼びに行くと言われた。容体は落ち着いているのと、薬も明け方には飲んでいるから問題はないらしい。
そういうことなら、起きるまで待つのであれば、一人で会ってきたい。兄さん達がいないなら、大丈夫そうな気がする。
「彼女達と一人で?」
「ああ……クレインが一人で会いたいらしいが、許可でるか?」
「僕らと別にか……まあ、事情としては僕らが操られるのを懸念だとね。う~ん、メイド一人つけてもいい?」
「はい。ただ、事情がある程度……」
「信頼できる人を付けるから、外に漏れることはないよ。僕らには報告させるけど」
「わかりました」
時間があるということもあり、すぐに会いに行く許可がでた。
まずは、私も会いに行って……どうするかを決めないとね。




