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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第四章

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4-1.クヴェレ家別邸


 スタンピードは終了した。昨日まで、川に大量にいたユニコキュプリーノスは、もはや影も形も無い。野営地を引き払い、ナーガ君達と別れて、馬車に乗ってクヴェレ領へと出立した。


 ナーガ君は兄さんから説明されていると言って、反対することなくマーレへの帰還を承諾した。

 それならと、ラズ様に報告後に冒険者ギルドへ行くようにと、報告書を一緒に渡しておく。ヒュドールオピスのおよそ5分の3はクヴェレ家に、残りは全てナーガ君からラズ様に渡す。


 シマオウはナーガ君が連れて帰るが、モモだけ、少し悩んだ後に私のフードに入ってきたので、そのまま私が連れていくことになった。


「にゃんこ~おいで~」

「ふにゃああ!」

「嫌だとさ。ほら、モモ。膝にきたらどうだ?」

「な~」


 スペルビア様に対し、私の肩から威嚇をしていたモモだが、兄さんの呼びかけに応えて、兄さんの膝の上に移動して、兄さんが喉を撫でてあげると気持ちよさそうにしている。


「ふふっ、可愛いね」

「それで、今からどこに行くんだ?」

「うむ。我らが拠点としている別邸だ。夕方には着くだろう。それから、使用人には父の手の者もいると思ってくれ。くれぐれも、食べ物を口にする時には気を付けてくれ」

「……はい」


 食事すら気を遣うのかと思ったが、基本的には大丈夫だが、敵が誰かわからないから警戒をしておくという点で、双子も同じらしい。腹心ばかりでないというのは大変そう。


「もう少し君たちの方で何とかしておいてくれないか? おちおち水も飲めないのは困るんだが」

「僕らも2週間不在にしていたからね。その間に父が何かしてもおかしくないんだよ。僕らより父のが立場上だしね」


 う~ん。

 つまり、使用人は家に仕えている立場のため、父親側に鞍替えもあり得る。いちいち調べても、きりがないのか。


「信頼できる家臣だけにはならないってことですよね? 薬に混ぜ物とかされると困るんですけど」

「そうなるね。薬とかは肌身離さず、と言いたいところだけどね。女性の着替えとかで隙は出来るかもしれないね……年配のメイド長以外は信用しないようにね」

「わかりました。調合の時、無防備になるので、兄さんに部屋にいてもらうつもりですけど、それは?」

「うん、構わないよ。別々に部屋は用意することになるけど、行き来を止めるつもりはないよ。薬は出来そうなのかな?」

「一応、お預かりした瓶に残っていた毒から成分を割り出し、ある程度の準備はできています。ただし、時間経過による本人の衰弱状態次第ではどうしようもないんですけど」


 毒を蓄積したまま、数年も経っていたらどうしようもないというのは調べてある。そもそも、クロウに調べてもらった毒の内容を見ると、1か月生きてるのが信じられないような毒だ。

 かなり悪質な毒に改良? 改悪? されているので、殺意が高いと思う。盛られてから5年も経過してて、どうなっているのだろう。


「そうだね。実は、母は特殊な棺に入れられている。君も教会で聞いたことはないかな? 本人の状態を留める手段があるが、金銭がかかるけどね」

「……あります」

「それを使っているよ。母を殺すわけにはいかなかったからね」


 つまり、毒と分かった時点でその棺に入ったとして……う~ん。どこまで毒がまわっているのかはわからないかな。

 ただ、早急に治療が必要なことに変わりはない。状況を聞いた限り、魔法や解毒薬の服薬などはせずに、まずは状態を留めたということかな。すぐに、解毒できないと判断したのは、多分、正しい。

 解毒薬作る時間を待っていれば、その分助かる確率が下がるくらいには、即効性もありそうな毒だった。


「背景を知らないが、君たちの両親はいがみ合っていたのか?」

「そうだね。父は結婚前から愛人がいたからね。母は政略結婚だと割り切っていたから、愛人に何かするようなことも無かったんだけどね。父は愛人の子に継がせたかった。そのために、愛人の子を正妻の子として小細工をした上で、母を殺そうとした。僕らを廃嫡してね」

「しかし……薬師を殺害する理由はないだろう?」

「ああ。僕が愛人を殺しちゃったからかな。その腹いせ?」


 つまり……正妻を殺し損ねた上に、最愛の人は殺された。怒るのも分かるけど、そもそもが正妻に手を出す方が悪い。でも、薬師はとばっちり……というか、この領を通っただけで殺されるとか理不尽。


「兄君。それだけではないだろう。母に毒を盛ったのは父だ。母が証言すれば父は終わりだ。だからこそ、薬師が領に入ると疑心暗鬼で……殺させているようだ」

「国王陛下はなんと?」

「なにも? 当主が何かしたという証拠はないからね。家のごたごたに口を出すことは避けた。ただ、今回ヒュドールオピスを討伐することに成功すれば、僕の復権を認めるというお言葉をいただいているよ。まあ、そう言わせたんだけどね。……成果は十分、あとは君が母を救ってくれればいい」

「……わかりました」


 もう巻き込まれているので、ここで拒否も出来ない。

 腹をくくって、やれることをやるしかない。



 屋敷は貴族の別荘というのがよくわかる。目の前の湖とか、山々が見えて景色がとても良い。ちらっと植物とかを確認したが、マーレ近郊にはない植物だったので帰る前に持ち帰りたい。


「今日はゆっくりしてね。夕食は豪華な物を用意させるから」

「わかりました。兄さん、ちょっと外を散策しない?」

「いいな。スペル、構わないか?」

「うん。食事は二時間後くらいだから、それまで好きに過ごしてよ」


 部屋は兄さんと隣同士で用意されていて、おそらく世話係だと思われるメイドも配備させている。ただ、好意的でないことがわかった。

 

 それと、年配のきつめのメイドさんがこちらをじろじろ観察している。スペル様が言っていたのはこの人かな? 私のこと、めっちゃ不審そうに見てるけど。


 部屋にいるのも気まずいので、兄さんを誘って、屋敷の外に行く。


「兄さん。もう暗くなりそうだけど、まだ平気?」

「まあ、一応な。外で作るつもりか?」

「あの部屋で匂いが付くような調合したら、邪魔されそう。それに、見張られている状況で作れない。一応、ある程度は昨日のうちに作ってあるのだけど。確認作業するにも落ち着かないから」

「まあ、スペルたちも誰が敵かわからない状態だしな。しかし、ここで調合すると余計な成分入ったりしないか?」

「とりあえず、魔法で結界張るよ……あとは煮出しながら、混ぜ合わせるだけだから」


 兄さんに見張りを頼んで、さくさくと薬を確認しながら、作っていく。外で作るので、魔法で結界を作っていることもあり、他にバレないようにとは思うけど……。

 

 モモは兄さんに渡しておく。毛が入っても困るからね。兄さんもそれがわかっているのか、ある程度距離をとって、見張りをしてくれている。


 昨日のハプニングにより、7日目までスタンピードのために待機する予定が、2日早く引き上げてきた状態になっている。相手も予定外だと思うので、妨害準備が整っていない今日のうちに、さっさと治療をしてしまった方が良い。


「シュトルツが向かってきているが、どうする?」

「任せる。ちょっと手が離せないから」

「わかった」


 鍋をかき混ぜながら、薬を作っていると兄さんが遠くから近づいてくるシュトルツ様を見つけた。私の方の気配察知には入らない距離だった。

 多分、気配を消さないで近づいてきてくれているのだろう。お二人とも、その気になれば冒険者顔負けの強さをしている。

 

「こんなところで作っているのか?」

「部屋で作業をして、メイドたちに邪魔されても困るからな。そうでなくても、調合の仕方も機密事項だろう」

「うむ、失礼した。その通りだ……容体を見ずに作っても平気なものだろうか?」

「それこそ、診療してみないとわからないだろう。まずは、盛られた毒に対する解毒薬を作っておく。魔法による治療も認めてくれるんだろう?」

「無論だ」

「面倒ごとになりそうかい?」

「うむ。俺がこちらに来たのも、邪魔をさせないためでもある。流石に俺がいる場では嫌がらせも出来ないだろう」


 兄さんとシュトルツ様の会話を微妙に聞き流しつつ、解毒薬を完成させる。

 ついでに、レカルスト様からいただいた素材を元にした、滋養強壮によい薬。治療後にしばらく服用してもらうための薬を用意しておく。


 毒で弱った体に、さらに毒盛られても困るからね。毒への抵抗力も高める効果あり。スポドリも作りなおしたりと万全を期した状態にした。


「すみません。終わりました」


 一通り薬を作り終わった時にはあたりは真っ暗だった。

 ちらっと兄さんを見ると手を軽く振っているので、問題は無いらしい。


「そろそろいい時間だろう。食事は正装のがいいのか?」

「いや、そこまで堅苦しくする必要はない……が、一応、冒険者の服装では使用人が失礼な態度をとる可能性があるのでな」

「わかりました。着替えてから向かいますね」


 シュトルツ様を先頭に歩く中で、兄さんに薬や調合器具ごと、私の荷物を渡しておく。大丈夫だとは思うが、薬をすり替えとか、盗まれると困る。兄さんが持っていた方がまだ安全だろう。


 そして、部屋に戻ったところで、無理やり着替えをさせられた。荷物も奪われかねない勢いだったが、着替え以外は全部兄さんに渡して正解だった。


「……お荷物が少ないようですが、これだけでしょうか?」

「はい。何か問題がありますか?」

「いいえ……(お気を付けください……荷物が減っているだけでなく、増やされることもありますので)」


 年配のメイド長らしき人が着替えた私の服装をチェックしながら、小声で言われた。

 こちらが警戒しているのはわかっているらしい。


「先ほどは失礼いたしました。事情はスペルビア様よりお聞きしました」

「……この部屋に、他のメイドが入らないようにしてもらえます?」

「こちらで手配をします」


 う~ん。まあ、手伝ってくれた若いメイド達も好感持てる感じではなかったしね。気を付けているつもりだけど、盗人の疑いとかもかけられる感じ?


 危害を加えられる可能性があるのは、本当に嫌すぎる。



「おっ、綺麗に仕上がってるな」

「兄さん。兄さんもかっこいいよ。美人、二割増し」

「ありがとな。じゃあ、行くか」


 用意された正装に着替えが終わった頃、兄さんが呼びに来て、一緒に食事をする場まで案内してもらう。

 与えられた自分の部屋に人が残る時点で、荷物とか置いておきたくないが、流石にそうもいかない。兄さんはしっかりと大切な物は魔法袋・極小に入れた上で、ズボンの中に隠しているらしい。預けた薬も含め、大丈夫だと小声で伝えられた。



「散策はどうだった? いい景色だったでしょ」

「ああ。夕日で湖面が綺麗に染まっていて、絶景だったな」


 席について、他愛無い会話をしつつ、料理が運ばれてくる。

 すべての料理をテーブルに置いた後、使用人は全て下がらせた。護衛なども一切いない状態にして、料理を一応鑑定してから食べ始める。


「それで、敵味方の区別はついたのかい?」

「勝手に補充されたりはしてなかったね。そっちはどう?」

「俺は落ち着かないからと、使用人はさっさと追い出した」

「どういう説明を受けてるのかわかりませんが、不審がられて……まあ、多少の嫌がらせはありましたね。メイド長らしき人がかばってくれましたけど」


 着替えとか、無理やりコルセット巻こうとしたり、髪をきつく纏めようとしたりされた。そもそも、髪はそんなに長くないから無理なんだけどね。

 

 メイド達は笑いながら貶めるくらいで、たいしたことは言われていない。そもそも貴族じゃないのだから、そっちの常識を当てこすられても困る。


「ごめんね。僕らが女性を連れてきたのが初めてだからね。変に張り切ったのかもしれない。ちゃんとラズの婚約者だと伝えたから、嫌がらせは無くなると思うよ」

「そうですか」


 それで、メイド長の態度が散策前と後で変わったのかな。いや、でも婚約者とかいないの? 女性初めての方が問題ありそう。

 

 ただ、使用人のことよりももっと重要な話があるらしい。



「僕らが大河にいる間にも、情勢が動いたみたいだよ。帝国からの亡命者が1000人を超えたらしいよ」

「貴族の一部って話だっただろ?」

「うん。それとは別に、国境近隣の町や村では、住む場所を捨てて亡命してきているそうだよ。公国や共和国の方へも流れているみたいだね」

「そんなにか?」

「スタンピードに巻き込まれる前に逃げ出したんだろうね。領主がいない、魔物に襲われることがわかっている土地に住み続けることは難しいよね」


 スペル様が食事までの間に調べた状況では、帝国上層部が機能していないことで、大混乱状態であり、自分たちの土地から逃げ出した民が増えているらしい。

 王国内の国境付近で、スタンピードの影響が無さそうな場所にいくつか難民キャンプのような物ができつつあるという。


「慈悲深い第二王子殿下は国王陛下に直訴し、帝国の民を受け入れ、住める場所を用意し、食事を分け与えたそうだよ」

「それは結構なことだな。確か、第一王子が異邦人を取りまとめているって話だったよな?」


 スペル様が楽しそうに語る言葉に、兄さんは唇の端を上げて笑うように答える。

 言葉の節々に馬鹿なことをしてないで、きちんと対応しろという声が聞こえてくる。


「異邦人の人数が多いから、第二王子も加わっているよ。能力によって区分けもしているらしいしね。亡命者の対応としては、どうやら、異邦人のために食材を集めていた分を放出して助けているみたいだけどね。難民と異邦人たちの食料はもって、3か月。夏ごろには用意していた食料は底をつく。水に関しては、このヒュドールオピスの逆鱗を提供すればなんとなるだろうけどね」

「各貴族の反応は?」

「冷ややかだよ。破綻が目に見えているからね。それから、国境山脈の関所にも亡命者が現れているが、こちらは王弟殿下により封鎖。全て追い返しているそうだよ」

「……関所以外からも行き来できるよな?」

「うん。それも含め、山狩りをして見つけ出しているらしいよ。他にも、何かの素材を採取しているという噂も聞くけどね」


 ロディオーラの水薬のせいかな……。採りすぎるようなことは無いと思うけど、でも……その状態では採取をしに行くのは難しそう。

 しかし……関所封鎖はいいけど、すでに来ていた帝国の冒険者とかはどうしたんだろう?


「冒険者については、第二王子殿下が移民を保護しているのでそちらに行き、手続きを取るように促しているね。帝国に戻るならいいが、戻らないなら手続きを受けておかないと身分が保証されないからね~。スタンピードへの参加も認められないので、しぶしぶ向かった冒険者が多いって報告だよ」


 なるほど。まあ、ダンジョンとかで稼ぐにしても、ギルド発行の依頼が受けられないと困るだろうしね。ラズ様の方もしっかりと追い出しに成功したらしい。


「あとは、王弟派の中では、今年の作付けは出来る限り多く、また、魔物の肉に関しても加工して保存するようにとお達しが出ているみたいだね」

「焼け石に水のような気もするがな」

「あはは、面白いこと言うね。でも、その通りだろうね。すでに食糧不足は確定したようなものだからね。帝国内での食料は期待できない」


 兄さんの言葉にスペル様もシュトルツ様も頷いている。

 王国の食料自給率はそれなりに高いが、異邦人に加え、帝国の難民までとなると食料不足が見えているらしい。

 いや、そもそもある程度は帝国から小麦を仕入れていたらしく、それを見込めない時点でもかなり厳しい可能性があるらしい。


「そこまでですか?」

「亡命せずに、スタンピードのために私兵を集め、対策していた真っ当な貴族が殺されている。そこの領地が帝国の麦の4割を担っていたからね」

「……殺されたのは異邦人に?」

「そう。異邦人からすれば、自分たちを捕らえるための軍に見えたんだろうね。だまし討ちで強襲され、亡くなった。僕も会ったことのある人だけどね、立派な人だったよ」

「うむ。惜しい方を亡くした。しかし……すでに、帝国内でのスタンピードによる被害は始まっている。次に危険なのは、陸続きである公国と言われているが……」


 帝国では、魔物が跋扈する危険地帯になりつつある。しかも……魔物の数が増えれば、異邦人を強くしてしまう。手に負えなくなりそうだよね……。

 すでに状況が厳しい……その割に、王国での動きが微妙。最初の頃に比べて、対処が遅い。


「スタンピードは各地で起き始めている。今のところ、問題なく処理はされているよ。帝国以外だけどね」

「帝国のスタンピードの種類によっては、色々とまずいことになるんだが。まだ、情報が入っていなくてな」

「何がまずいんだ?」

「スタンピードは大量発生とともに、ボスとなる魔物の進化を引き起こす。最悪と言われるのは、帝国内にある火山周辺でサラマンダーがスタンピードを起こす。これが起きると大変なことになる」


 帝国の東に火山があることは知っている。でも、その周辺にいるサラマンダーか。王国では見かけないらしいけど炎を纏う大きめのトカゲの魔物。


「まさかと思うが……」

「今回の魚が水竜になったように、トカゲが火竜になるね。言い伝えでは、火山が噴火するとかそういう話もあるね。過去にも火山が噴火した記録はあるけど……作物が厳しくなるからね。前兆があれば、王国側から有志を募っても阻止に動くよ」

「……放置できないだろうね」

「うむ。まだ、余裕があるはずだ。サラマンダーのスタンピードは起きる場合は秋と言われているからな。今回、国境付近はフングスマムートやオークの数が多そうという話だ」


 当然であるが、貴族の中でも戦力として数えられる可能性があるため、情報は集めてるらしい。とはいえ、全域を調べているわけではないらしい。あくまでも、異邦人の動向を探りつつ、帝国内を調べている状態であり、村や町を救うことが出来るわけではないらしい。


「魔物に荒らされた土地に人は住めるのか? 帝国の領土が潰れれば、対岸の火事ですまないだろう」


 兄さんの問にはシュトルツ様が渋い顔をしている。つまり、荒廃した場合には最初から作り直し。畑とかも使えないため、今後数年の食料問題がついてくる。ただ、


「それがわかる王家ならよかったんだけどね」

「それで、君のところは鞍替えをするということかい?」

「そう。色々と手土産も用意してね……父を断罪すれば、派閥の変更もおかしいことじゃないからね。母の治療もその一環だよ」

「……頑張ります」


 そのために、母親の治療が必須。まあ、これはやるしかないので頷いておく。


「俺が聞いた話だと、君たちが動かない選択もあり得たんじゃないのか?」

「帝国が残っていたら別だったけどね。流石にこの状況では無理だね……だから、君は気を付けなよ? この短期間で、国王派を3家潰したのはメディシーアであって、王弟殿下ではないからね」

「忠告、感謝する」


 王弟殿下は味方を増やし、敵を減らした……その結果は、いいことばかりではない。

 貴族側から見れば、子爵ですらない養子が引っ搔き回しているように見えるのだろう。所詮、下級貴族。しかも、代理・次期当主を名乗っているけれど、当主移譲の許可が出ないのは明らかに国王派が嫌がっているからだろう。


「そんな顔をするな。大丈夫だ。別に貴族の地位が欲しかったわけじゃないからな。話の分かる御仁でもある、死にはしない……君も安全が欲しいだけで、地位が欲しいわけじゃないだろう?」

「……うん。でも、兄さんを危なくしたいわけじゃない」

「初期投資ってのは、大事だぜ? 少なくとも、使える駒である認識は得られただろう。あの人がずっと同じ駒を使って陽動することもないだろうしな。しばらくは自由にできると思うぜ? その間に政情を見極める必要はあるだろうがな」

「う~ん」


 対立構造はあれど、王位に執着していない王弟か。

 兄さんは、不満はないみたいだけど……いまいち、分からないんだよね。目的が見えてこない……。


 情報は適宜もらっているはずなのに……。

 本当に……何が起きてるか、分からないことだらけで、正解が分からない。


 目に見える範囲ですら、理解できない。それでも、足掻かないと危険ばっかりだからやるしかない。




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― 新着の感想 ―
「当然であるが、戦力として数えられる可能性があるため、情報は」で行が終わっていますが、何か末尾が欠けてしまっているように思えます。
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