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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第三章

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3-32.スタンピード3日目


 三日目は、日が昇る前から準備……雷壁〈サンダーウォール〉を最大範囲での展開を何十回か繰り返し、川の端から端まで、ダムの上を雷の壁で覆った。

 これで飛び跳ねても、ダムを超えて上流に行けない……まあ、ダムの高さを1メートル増やしたようなもので、それを超える場合には逃がしてしまうけど。


「器用なもんだなぁ」


 私が魔法を唱えているのを確認していたクロウが、言葉にした。


「クロウも出来ると思うけど。私も最初は、雷魔法を撃ち下ろすしか出来なかったけど……雷魔法のレベル、だいぶ上がってるでしょ? もう、自由に扱えない?」

「自分の前に壁として雷を出現させることは出来ても、その場にだし続けるのは無理だなぁ。MPがすぐに尽きる」


 なるほど。それはMPの使い方にもよると思うけど。

 ただ、今回については私もMP節約をしている。


「魔法発動した後は、これで保持してるよ」

「魔石か……いつから用意していたんだ?」

「正式に川のスタンピードに派遣されると聞いた時から……数は多めにね。クロウのコートで付与を練習したけど……まあ、色々あって……。雷壁〈サンダーウォール〉一つに魔石を一つ使ってる。クロウも出来るはずだよ? でも、もう少し魔法によってMPを送り込み続けるのか、固定させるかをイメージすると良いかも?」

「もう少しわかりやすく頼む」

「回復系なら治るまで魔力を送り続けるでしょ? でも、攻撃系とか、補助系は一度形を固定させた後は魔力を自分から断絶する、みたいな? 出しっぱなしだと、無駄に消費するよ」

「なるほどなぁ……まあ、俺には無理だな。地道に川に雷を撃ち込んで数減らしをしておこう」


 事前準備で、魔石・中に雷魔法を付与したものを沢山用意している。

 なので、魔法を発動させた後、そこに魔石を押し付けるとそのまま、魔石の方のMPを使う形で魔法が維持される。

 宝石もいくつかはあるけど、これは流石にバレるとまずいので奥の手。



「割と……暇?」


 

 魔法の雷の壁が消失したら張りなおすため、魔力は温存する。そのため早朝以外はほぼ仕事なしという休憩が与えられた。

 魔法は魔石で維持されている。魚が何度も当たると強度が減っていくので、張り直すことになるが……出番はほとんどなかった。


 聞いていた通り、飛び跳ねるようになったユニコキュプリーノス。

 最終日には、5mくらいの高さまで飛んでくるようになるらしいが、今日の所は2メートルを超えられずにダムに阻まれるのが9割くらい。残り1割が雷壁に捕まり、死んでいっている。

 まあ、飛び越えられない奴が何度もチャレンジしているので、時間経過とともに死んでいく魚は多い。


 飛べるようになっても2m超えられることも少ないので、雷の壁の張り直しもほぼなかった。


 ついでに、ため池にもしっかりバイコキュプリーノスが2匹かかった。クロウが確認したので、間違いない。これで、こちらのため池は、見張りを置きながら放置することになった。

 そこで、兄さん達も川に移動して、槍を使って討伐している。ただ、アルス君とレウスは魔法は覚えていないっぽい。兄さんは多分覚えているけど、槍を使っている。

 3人で交代交代で、何度も撃っているので、倒せないわけではないらしい。

 

「そもそもの素質の違いかな」


 魔法については、獣人は素質が低すぎるんだと思う。その分、フィジカルは強いようだけど……。レウスは竜人だけど、こちらも魔法を覚えない種族なのか、覚えていないみたいだ。

 ナーガ君は魔法を覚えはするけど、強くはない。ナーガ君は、種族は人なんだよね。異様にフィジカルが強いけど。



「少し、話をいいかな?」

「ティガさん。……いいですよ」


 ゆったりと魚の加工作業をしているとティガさんがやってきた。時間もあるし、ここで話をしたいという。後ろに延ばすこともできないので、覚悟を決めるべきだろう。

 そう思っていたら、シマオウがモモを乗せて近づいてきた。威嚇するほどではないけど、ティガさんを警戒している? 


「話とは、なんでしょうか?」

「うん。モモ達は私が話をするのは気に入らないらしいね。私は何かしたのかな?」

「……この子達は、私が治療して回復した後に、ナーガ君がテイムしたんです。だから、キャロ達に比べて、ナーガ君より私を優先してくれることもあります。心配してくれているのだと思います」


 ここに来てから、私のとこにくることがなかった2匹が突然こっちに来たのは、多分、そういうことだろう。

 まあ、私が話をするからと少し気合を入れたというか、戦闘モードの意識をしたのを感じ取ったのかなと思うけど。


「君の考えを聞きたい。仲間同士、同じ扱いをすることは出来ないかな? 君が良いと言ってくれれば……」

「出来ないです。無理です」


 食い気味に答えたことに、珍しく笑顔が固まった。

 この人は、本当にいつも笑顔で腹が読めない人だけど……私を丸め込みたいのはわかる。


「私は、この世界にきて、兄さんとナーガ君がいなければ……精神的に追い詰められてました。二人がいてくれて、救われたんです。その二人と同じ扱いは出来ない。はっきり言わなかっただけで、最初から、結論は決まってます」

「すぐに同じ扱いが出来ないのは仕方ないと思う。でも、よく考えて欲しい」

「考えましたよ? 私はティガさんに後ろめたさがありました。知識不足での治療……行き当たりばったりで、自分では気付けないことをクロウが教えてくれ、なんとかうまくいっただけでした。意識のない間に全てが決まっていたことも……もっと、何かできていたかなとか、考えてしまっていたんです。でも、だからって、私がその後の全てを負うことではないですよね?」


 助けたんだから、その後の生活基盤を全て面倒みるというのは違うよね。

 お金を返してもらえば、あとはご自由に。パーティーに入れてしまうと、つい、気になって色々準備してしまうのがいけなかった。


「……それはグラノスが?」

「いいえ。兄さんは私が決めたことには協力してくれますけど、意見を誘導したりはしないですよ?」


 兄さんは「君が決めたなら」と言って、基本的には何でも許してくれる。今まで、それに甘えてしまっていた。

 私が決めたことなら、私が責任を取ることが当たり前。


「マーレスタットに帰ったら、私がパーティーから離脱するか、私と兄さんとナーガ君が離脱するか……どちらにしろ、このスタンピードを終えたら、別パーティーになります。ティガさんがどうするかは、ご自身でお願いします」


 はっきりと言葉にすると、ティガさんも困ったように眉を下げた。


「ヒーラーは必須ではないかな?」

「別にいないパーティーもいますし、私は元々ソロ志望です。一人でなんでも対応できるようにしてきました。準備も……できること、し過ぎたんですよね? 調合も錬金も付与も回復魔法も……私が望んだ能力ですよ? ティガさんがその特別の耳を望んだように……だから、ご自身の力でお願いします」

「……そうだね。でも、君は自分の意志で使えるだろう?」


 そう。

 仲間のために、自分の意志で使っていた。別に、嫌なわけではなった。


 私がスタンピードに巻き込んでしまうからと……準備するのが当たり前だと思っていた。でも、全部……私だけがするの?


 仲間だから?


 ティガさんがそれを当然のように考えているのを知った時に……ちゃんと後から考えたら、「あ、無理だな」と思った。

 感謝もされずに、当然のように搾取されるのは無理だった。


「今後、私はティガさんよりナーガ君を優先して回復しますよ? 兄さんの意見を尊重して、ティガさんの意見はスルーしますよ? ……無理ですよね? 上手くいかなくなります。もう、破綻は見えていますよね?」

「決意は固いのかな?」

「私が正式に抜けます。私が貴族に庇護を求め、代わりに手足となって働くことを決めた。他の人にまでそれを背負わすこともない……ティガさんの望みどおりですね?」

「……わたしが望んでいないことはわかっているだろう? わたしはきみの能力を、異邦人の仲間のために使うことが、皆の地位向上になると考えている。出来ればきみには協力して欲しい」

「……嫌です。ティガさんが異邦人=仲間と考えているかもしれないですけど、私はそうは考えられない。目の前にいる人が、異邦人だろうとこの世界の人だろうと……いい人なら協力もできると思ってます。でも、異邦人って異常者ばかりですよね? そんな人たちの地位向上に私を使われても困ります。私は私が大切な人を優先する。ティガさん達が嫌いなわけではないです。でも、同じじゃない」



 ティガさんが、こちらの世界の人間よりは異邦人を優先したいようだけど、それはない。あの町でどれだけやらかしたのか……関わりたくないと心の底から思う。

 べつに、レウスやアルス君については、構わないと思っている。仲間だよ? でも、兄さんとナーガ君とは違う。それを納得しないのだから、別れるべきだと結論づけた。


「そうか。残念だよ」

「借金はクロウにつけときます?」

「いや。わたしが払うよ。すまなかったね」



 う~ん。

 あっさりと帰っていった。いや、納得したのかな?


 わからないけど……同じ道を歩めないとは伝えた。今後、全員でどうするかを話し合う機会は必要だろうけどね。


「にゃ~」


 モモが肩に乗ってきて、頬をぺろぺろと舐めてきた。


「モモ?」

「ぷぅぷぅ」

「ん? なに、キャロ?」


 鼻面でぐいぐいと背中を押されて振り返ると、ぽとっと咥えていた草を手の平に置かれた。

 ここ数日、キャロ達の餌になっていた露白草……。ロットからも、手の上に置かれた。


「ぷぅ~」

「ありがとう?」


 なんだか、「これでも食べて、元気出せよ」みたいに言われている気がする。なんだろう、落ち込んでいるわけじゃないんだけど。

 ちょっと思う通りに行かないだけで……必要なことだと分かってる。


 前からシマオウが、横から兎たちに押されて、おしくらまんじゅうのように潰されている。何故か知らないけど、慰められているようだけど……草は食べないよ? 調合に使うんだよ? 



 何だかんだと、キャロとロットもナーガ君が言い聞かせたのか、餌であってもちゃんと一部は残すようになった。

 ただし、私が30個用意したら、20個は自分達で消費する。私が全て総取りしようとすると二匹が鼻を背中やお腹に当てて抗議してくる。おそらく、3分の1ずつにするルールらしい。


 私が押し潰されながらも、もらった露白草をしまうと、「ふんす」と鼻息を出してから、離れて、もしゃもしゃとそこら辺の草を食べ始めた。そんな姿は可愛くて癒されはする……サイズはとても大きいけど。


「……ありがとう」


 なんだか、動物たちに心配されてしまった。

 たぶん、兄さんとかも遠くから様子は見ているのだろうけど……。


 ティガさんと話す必要があったことも、なんだかすっきりしないことも、落ち込んでいるように見えているのかな。


「モモとシマオウは、肉焼いてあげる。キャロとロットはこれあげるね」


 キャロの頭を撫でて、ペタジット草を取り出して、二匹に渡すと嬉しそうに食べている。


 この二匹の好物……やっぱり、調合素材でも重宝するような草が好きなんだよね。まあ、採取してから日にちも経つので、全部あげてしまう。どうせ、自宅に帰るころには、素材としては使えなくなっている。


「にゃん!」


 火を用意して、鶏肉を焼いて、モモ達にも用意する。



 その後は、何事もなく……特に仕事もなく、一人で鰹節を作成したりしていた。

 ユニコキュプリーノスを捌いて、焼き目を付けて、台に乗せて乾かす作業をした。



 その日は何だかんだで、夕方までにクロウや兄さんが川岸からも狩り続けていたので、今回のスタンピードのおおよそ9割は討伐できたという。


 まあ、昨日の時点で7割狩れていたらしいのだけど、今日もしっかりと数は減らせており、順調となった。



「じゃあ、俺とティガは出発させてもらうぞ」


 旅支度をしていたティガさんとクロウが近づいてきた。

 明日の朝だとばたばたするのと、キャロ達は夜目もきくので、夕食後に準備をしてティガさんとクロウは帰ることになった。


 キャロとロットは、本来は主人であるナーガ君と引き離すべきではないかもしれない。ただ、元々家畜化されているキャロとロットなら、多少は主人と離れても平気だと信じる。

 それでも、万が一を考えて、キャロとロットは一緒に行動させる。主人とも相棒とも引き離すとストレスがかかってしまうかもしれない。戦闘能力が低いので、もしもに備えて、ここに置くことも出来ないという事情もある。


「うん。これをラズ様に直接渡してもらっていい? 領主の館に行くことになるけど、よろしくお願いします」

「やれやれ……領主の館か。まあいい、キャロとロット、どちらもいいのか?」

「……ああ。頼む」


 ティガさんと何を言っていいかわからないけど、クロウも察しているのか、私の相手はクロウがしている。ただ、私との会話内容を他の面子に話しているとは思わないけど。


 ここから、マーレに向かうまでの道にはスタンピードは起きていないはずなので、問題なく帰れる。ただ、絶対ではない。

 町に帰ってからは、一応、ラズ様にもお願いする旨、手紙に書いてはある。それができるだけの余裕があるかはわからないけど。レオニスさんも忙しいだろうけど。



「やれやれ。……こいつを渡しておくが、気をつけろよ」


 クロウから渡されたのは毒の成分表。

 ちゃんとヒュドールオピスの変異種の毒薬について、成分を解析してくれていたようだ。これだけでも、かなり助かる。

 何が入っているか分からないと、打ち消すのも難しい……薬で出来ないなら、魔法でとは思っているけど、それだって素材が分かる方がいいはずだ。


 だけど……思っていたよりも多くの素材を混ぜて調合している。おそらく、上級の薬師でないとここまで調合できないだろう毒薬。

 クロウもそれが分かったんだろう。「気をつけろ」は、スタンピードに対してじゃなさそう。



「働き詰めだったんでな、俺らはゆっくりと待たせてもらう」

「あ、ついでだから……師匠にもお土産お願い」

「あんたなぁ……わかった、渡しておく」


 クロウに師匠に持って行ってもらう、近辺で採れる調合素材を渡すついでに、宝石を一つ渡しておく。ラズ様には渡すなと言われていたが、クロウには存在を明かしているのと、必要になる可能性がある……そんな気がして、結界魔法を込めてある宝石を渡した。

 すぐにそれに気づいたらしいクロウは、やれやれといった仕草だが受け取った。


 夜の移動は危険かなとも思うけど、この場に留まるよりはさっさとマーレに帰って報告することにしたらしい。若干、ティガさんをこの場から引き離すためにクロウがさっさと帰りたいと言っているようにも感じる。


 そうして、ティガさんとクロウは先にマーレスタットへと帰っていった。

 



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― 新着の感想 ―
「仲間同士、同じ扱いをすることは出来ないかな?」 この発言でわかりました。言動・態度が違和感しかなかったティガですが、前世は女性だったのでしょう。良い悪いではなく、男は縦社会、女は横社会なので。
ティガは帝国での異邦人の反乱見ても異邦人はみんな仲間って意識なのか 帝国で異邦人同士でも合わんからクロウとレウスとつるんでたんだろうにそこまで助ける仲間ってなんで思うんだろな
前回までティガを理解出来なかったがこいつと某兵庫県知事重ねたらしっくり来た こいつ自分は人を使うのが当たり前、人に使われるなんて以ての外って生き方してた輩だ そりゃ絶対我は通すし他人の意見には突っかか…
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