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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第三章

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3-30.スタンピード2日目 予定確認


 翌朝。

 

 ティガさんとクロウが見張りしていた。他のメンバーは寝ているらしい。

 心配していたが、ため池にもきちんと水が溜まっていたので、魚がちゃんと移動するなら成功となる。


「流れもあるから大丈夫だといいんだけど」

「随分と大掛かりになったなぁ。そこまでする必要あったのか?」

「う~ん。いや、今日の成果次第では、ラズ様が来ることになってるし……多分、護衛はレオニスさんになりそうだし、情けないとこ見せたくない」

「貴族が参加する可能性あるとか、聞いてないんだがな?」

「そもそも、ラズ様の代打だったから……雷魔法の使い手がすぐに手配できないのと世話になってるから引き受けたんだけど」


 クロウが寝ている間に、予想より大きく作られていたため池を見て、呆れている。


 でも、昨日のままだと、討伐数が間に合わないと思ったんだよ。


 任された仕事が出来ないと、レオニスさんに半人前だと思われてしまう。

 ちゃんと出来るようになったと、一人前だと報告したいので、多少は無茶でも作業をやったわけで……ラズ様も手が離せないくらいに忙しいから任せてくれたとか……うん、でも、私の事情だ……。


「やれやれ……そんなに落ち着かないかねぇ。今のところ、危険があるようには思えんが……あんたはまだ何かあると思ってるのかい?」

「……」

「わたし達に話せることではないのかな?」

「ティガさん……クロウも…………危険がないなら、若い子達と引き離してまで、帰らせたりしません。わからないけど、何かある……そのために、準備は念入りにしておきたい」

「あんたが視界を狭めるなよ? 危険を感じ取れるのはあんただけだ。説明できないから相談しないで、全部背負うには重いぞ」


 クロウとティガさんの言葉に、一度息を吐いて……目を瞑り、考える。

 視野が狭まっている……確かに、その通りかもしれない。


 もっと、相談をしておくべきだったかもしれない。

 私がやるべきことは、私の事情で巻き込んだ全員の安全確保。


「……死なせない。必ず、無事に帰らせます」

「信じよう。ただ、きみだけに負わせて、責任を問うつもりは無いよ。わたしが言うことでもないだろうがね」

「まあ、俺らがいない方がいいなら判断は信じるがな」

「うん……焦っていたかもしれない。ありがとう、クロウ。ティガさんも、すみません」


 とりあえず、もう少しすると夜明けになり、活動を開始する前に食事の準備と……ちらりとテントの裏にある山を見る。


 討伐部位をはぎ取ったユニコキュプリーノスの山がすごいことになっている。魔石は取り出したので、そのうち消えるだろうけど……3,000匹以上。

 今日はそれ以上の数になる可能性があるので、大変そうだけど……それでも、二人はだいぶゆったりしていて、作業をしていなかったから、結構前に魔石の処理は終わっているっぽい。



 朝食の用意をして、全員が起きてきたところで、日も明けて……ユニコキュプリーノスが動き出し、ため池にもちゃんと移動していることを確認した。

 

「よし、大丈夫そうだね」

「そうだな。だが、ため池の方に何かあると困るから、クレインはこちらの岸だな。クロウは向こう側を頼んでもいいか?」

「ああ、出来る限りやってみようか。俺と誰があちらに行くんだ?」

「クロウが指定していいと思うけど……兄さんがため池担当のがいいのかな?」


 兄さんは私とクロウに続いて魔法適性が高いので、槍を使って、倒せるくらいには威力が出ると思う。

 まあ、無理なら交代で二回でも三回でも雷魔法を撃ち込むなりすればいいだろう。


「俺もやりたい! その槍で魔法使うんでしょ? 出来るかわかんないけど、やってみたい」

「おっ……じゃあ、レウスは俺と組むか」

「やった!」


 兄さんとレウスが組むことになるらしい。

 アルス君も兄さんと組みたそうな顔をしているので、ナーガ君をちらりと見るとこくりと頷かれた。


「……俺は心配だから、クレインにつく」

「ん?」

「やれやれ……じゃあ、ティガは俺についてくれ。流石にタンクがいないと安心できん」


 ナーガ君、心配ってなに? だけど、兄さんもこくりと頷いている。

 その組み合わせだと……向こう岸でトラブルがあったときに、対処が遅れる。ティガさんがこっちの岸にいれば、向こう側の様子がすぐに伝わるから、ナーガ君とティガさんは逆のがいいかな?



「じゃあ、そっちに弟をつけるよ~」

「兄君!?」

「お前はそっちで助けてあげるんだよ、いいね? 何かあっても、弟がいればすぐにこちらに知らせることができるからね~」

「わ、わかった。では、クロウとティガ。俺もそちらに行こう」


 私が提案する前に、双子も別々で行動するらしい。弟の方が向こう岸に行くらしい。……それなら、危険はないかな。



 3組に別れて、ユニコキュプリーノスを狩ることになった。


 ため池の方も問題なく稼働をして、昼過ぎまで、順調に狩り続けた。

 昨日の倍以上のペースで狩っている。ものすごく順調だった。MP切れも心配ないくらいには、レベルも上がっているし、MPポーションと魔丸薬で何とかなっている。



「お疲れ、順調だね」

「スペル様、お疲れ様です。何かありました?」

「うん、ちょっと話があってね」

「お昼休憩ってことでいいですか? ナーガ君も」

「……俺は、席は外さない」

「もちろん、居ていいよ」


 双子兄、スペル様の方が、近づいてきた。

 双子弟の方は、クロウ達側から離れないが、スペル様は持ち回りもなく、ずっとふらふらとしている。人数的には私とナーガ君の班になるとは思うけど、かなり自由。むしろ、ペットのキャロ達やモモと遊んでいるくらいに好き勝手にしている。

 基本的にはやる事がないからだろう……まだ、二日目。彼の出番は基本的には5日目からのはずだ。


『君とゆっくり話がしたいんだけどいいかな?』


 にこにこ笑いながら見せられたメモにこくりと頷いて、魔法袋に入っている宝石を握りしめ、魔力を込める。兄さんに渡したのと同じ、聖結界〈バリア〉が展開する。


「スペルビア様。結界を張ったので、ここにいる会話は聞き取れません。お好きなことをお話しください」


 結界内にいれば、攻撃を受けないようにするための物だけど……中と外の音を遮断する効果もある。

 兄さんに渡したところ、自分用にも用意するように言われ、ナーガ君にも渡そうとしたけど、「俺はいい」と拒否された。


「スペルでいいよ。聖魔法かな? ヒーラーでも使える人は少ないよね」

「魔法は個人の資質ですから……薬師なので、普通の魔導士よりは器用ですから。わざわざ会話を聞かせたくない話って何ですか?」


 ナーガ君がすごく警戒しているけど首を振って、作業をしている振りを続けるようにお願いする。


「ラズからはどこまで聞いてるかな?」

「忙しくて、説明を放棄してますね。動くならスペルビア様達が説明するだろうと思っていますよ、多分ですけど」

「人任せだな~。まあいいんだけどね……お願いがあるんだよね、君に」

「なんでしょうか?」

「いくつかあるんだけど、いい?」


 可愛く首を傾げているような仕草だけど薄ら寒く感じてしまう。でも、ナーガ君の手前、気にしないふりをして話を聞く。


「出来ないこともあると思うので……一つ一つお聞きします」

「じゃあ、一つ目だよ。獣人の彼がいると自由に話が出来ないけど、いつまでいるのかな? ずっといるのであれば、無理やりにでも帰らせてくれる?」

「4日目の時点で、ラズ様への報告のために離れてもらいますよ。仲間を危険に晒したくないので、彼とクロウはラズ様に伝言のためにマーレスタットに帰る予定になっています」


 しかも、さくっとティガさん邪魔だから外せって一つ目のお願いとしてるけど、彼の能力がバレているよね? その上で、邪魔になるということは……解毒治療の際に彼を傍に置くなということだろうけど……。


 貴族の騒動に巻き込まれ確定で、こちらには情報渡したくないってことだよね。


「そっか、そっか。ありがとう、助かるよ。じゃあ、二つ目のユニコキュプリーノスを進化させて倒すのは……了承しているってことだね」


 一瞬溜めを置かれた言葉に頷くと、了承の意味に取ったらしい。

 ニコニコと笑って、「よかったよ」と言っているので、やはり既定路線は進化させる方向だったらしい。


「念のためお聞きしますが、進化させる理由はなんですか? 素材として必要とかです?」

「前回、不漁で進化が少なかったということで素材不足だね~。水竜の逆鱗には水を生み出す使い方があるって知ってる?」

「いえ……あの?」


 詳しく聞いてみると、ヒュドールオピスに進化すると、一枚だけ、水の魔力が込められた鱗……逆鱗があるとのこと。

 この逆鱗は一つで大量の水を生み出せるらしい。もちろん、無限にという訳ではないらしいが、一枚あれば、砂漠地帯にあのため池と同じくらいのオアシスを1年は作り出せるとか。


 うん。申し訳ないのだけど、砂漠になじみがないから、それがどれだけすごいのかがよくわからないけど、まあ、ずっとその水を確保できるなら便利そう。

 井戸に入れておけば、1年は枯れないってことだろう、多分。 

 

 薬の素材とは違う部分でも役に立つらしい。


「共和国側から打診が来ているんだよ。あの国の南側は砂漠地帯だからね。お金がある国だから、食料とかは買い込んでるけど……今年は世界中で食糧危機が予想されている。自国でも生産能力を少しでも高めたいが水が足りないのは致命的。だから、ヒュドールオピスの逆鱗が欲しいんだって、国王陛下からもお願いされちゃってね~」

「……それで、何体分必要なんだ?」


 ナーガ君が呆れたように尋ねる。国同士の思惑があるとか、だいぶ大事になってる。

 ただ、これをラズ様から説明受けてないっておかしい気もする。


 う~ん。ヒュドールオピスの討伐については、双子のみに栄誉を与えるという形なのかな? 進化前の討伐を任されているだけで、進化後ははっきりとは言われていない。私達には倒せないってことで、最初から打診されてないとか?


「最低20体だね~。出来れば、水魔法を撃たせる前に倒して逆鱗を手に入れたいんだよね。ちなみに、国王派の功績にするために、ラズ達に逆鱗のことは伝えていないと思うよ。動きには気付いていると思うけどね~」

「言っている事が無茶苦茶なんですけど? 20体?」

「あはは。情勢が複雑だからね。水不足にはならないだろうけど、食料不足は深刻になる可能性があるなら……重宝するんだよ。国王派にも王弟派にも恩を売れるよ」

「……はい」


 私が頷いたことににんまりと笑顔が返ってきた。薬になる部分と毒になる部分は別なので、毒を破棄してもいいらしい。


「それで、3つ目のお願い……僕らの母の解毒のために、バイコキュプリーノスを進化させたいんだよね」


 提案されたのが、ため池の方にバイコキュプリーノスがかかったら、その時点でため池はそのまま放置して、進化させたいという打診。

 まあ、川の方で進化させるくらいなら……ため池の方がまだ戦いやすいとは思うけど……。


「……ため池で進化させるとして、もし川の方でも進化した場合に戦う術はあるんですか?」

「一体が進化すると他も共鳴して進化するのが本当だと考えてる?」

「……はい」


 スタンピードに参加して思ったのは、整備がされているなということ。

 幅が0.5キロもある大河に2mの高さのダム……段差を作って先へ行かせない様にしたり、災害にならないように対応している。


 何年か置きに起こるスタンピードをしっかりと対策して、苦労せずに倒せるようにしている。放置すれば危険なため、きちんと引継ぎ、昔から対策しているとしか考えられない。

 それなら、記述が古い内容であっても、真実であると考えた方がいい。



 でも……進化することを考えると、2m程度の高さでは全く意味をなさないはず。これを止める手段はあるのだろうか?


「うん。僕としては、共鳴進化があったとしても、そこまで大規模に……全てが進化するとは考えてない。まあ、川で進化しても、数体相手でも戦えるつもりではいるけどね。気になるようなら、作戦は君に任せるよ。でも、ラズに怒られるから無理はしないようにね」

「はい……」

「……大丈夫だ。ちゃんと守る」


 ナーガ君が心配そうに私に守ると伝えてくれている。うん……でも、ナーガ君なら任せられる。双子兄弟よりも防御高いと思うので、守ってもらえるのはありがたい。

 ため池のみならいいけど、最悪、川の上でも戦えるようにか……何か方法を考えておこう。

 


「話を続けるよ。次に解毒について必要になる素材ね。〈安らぎの花蜜〉を10個ほど用意している。その個数内で解毒薬を作成してくれれば、余った分はあげる。パメラ薬師に渡すといいよ」

「……〈安らぎの花蜜〉」

「……何かあるのか?」


 帝国産の素材。帝国のダンジョンでしか手に入らない……上級薬の中で、必要となることが多い素材。今、帝国産の素材は高騰し始めている。

 そして……レオニスさんが現役時代、帝国のダンジョンにも定期的に行っているのが確認が取れている。


「ラズから個別で譲って欲しいと言われていてね。カイアのためには王弟殿下がきっちり確保しているから、他の誰かのためだろうね~」

「……師匠が必要としている素材」


 成功報酬として、手に入り辛い素材をそのまま貰える。その素材を持ち帰るように言われている。

 師匠が私に渡してくれるレシピの多くは、素材が近場にあり、作れるものばかり。だけど、一つだけ足りてない素材があり、それが必要なレシピは手が付けられない……その素材が、〈安らぎの花蜜〉だった。


 ラズ様が持ち帰れといった素材……師匠に渡せということも気になるけど。

 私が俯くと私の前にナーガ君が立った。


「……この話、グラノスは?」

「話せてないね」

「……なら、先にあいつにも通せ。それが決まりだ……」

「おや、そうなのかい? なら、返事は彼がいなくなってからでいいから」


 ナーガ君が兄さんを通す様にというとあっさりと引き下がったので安心したら、ぽ~んと小さな小瓶がこちらに投げ渡された。


「渡しておくから、よろしくね~」


 ぽいっと投げられたのは……先日見た毒の小瓶。いや、中身はほぼない……おそらく、すでに使用されたあとの瓶。


 鑑定すると、ヒュドールオピス(変異種)を用いた毒薬。うん、知ってたよ……。今、兄さんを通すという話になったはずなんだけどな?



 渡した後もニコニコとその場に残っているので、何とも言えない沈黙が流れる。


「……大丈夫か?」

「うん……まあ、解毒については不安はないから大丈夫。バイコキュプリーノスを進化させるなら、4日目以降のために、川の足場を増やすか、戦いやすいのを検討したいと伝えてくれる?」

「……わかった」

「いってらっしゃい。その間、手伝っておくね~」


 ナーガ君の目が険しくなっているが、急いで兄さんの元へ向かった。

 心配させてしまっているのは申し訳ない。わざわざ兄さんを通すように言ってくれたのもすごく有難いと思っている。


「元気だね~」

「解毒って時間が命なんで、今更、何年も前の毒を解毒するのは厳しいと思いますよ?」

「ふふっ、大丈夫だよ。まあ、スタンピード終わったら、僕の別邸に寄ってくれればいいからさ。お願いね」


 屋敷に行くの? それはちょっと……いや、でも、患者をこんな野戦地域に連れてこれないか。

 しかし、この毒……かなり面倒そうなんだけど。それを解析する時間も欲しいけど……夜の空き時間にするしかないかな。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] クレインは自分の命も身内の命も脅かされるの恐れてるからそりゃ海千山千の貴族からしたらカモだよね そのままだと貴族に良いように使われるだけだからシンドい クレイン一派を殺すのはもちろん不興を買…
[良い点] 搦め手で断れない話の流れで来るの、貴族って嫌ですねえ。 人によってどんな風にしたら言うこと聞いてくれるかわかってる感じ。
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