3-25.対策会議
全員が集まったところで、スタンピードについて説明をする。
スタンピードの内容については、隠すことなく知っている情報を全て話して、資料も見せて話し合いをする。
「魔物退治っていうより、魚を獲るってこと? 進化しちゃったとき、俺らは危ないって認識でいいの?」
まあ、説明を聞いたレウスがそういうのもわかる。退治って感じではないよね。私もかなり警戒していたので、多少拍子抜けしたところはある。
でも、大事な間引きらしい。進化したら……10,000匹の水竜って国を脅かす大惨事だよね。
「……資料みたところ、進化すると長距離の水魔法を放ち、その被害で一帯の森が無くなった過去もある。他にも咬みつきにより毒攻撃もかな。大きさもあるし、強い事は間違いない……あの兄弟、かなり強いよね?」
兄さんに確認するように、あの二人のことを思い浮かべる。貴族の礼服を着ていたけど、引き締まった体に佇まいからして……この町の冒険者よりも強い気がする。どちらもアタッカーっぽいけど、レオニスさんと同等か、それ以上……タンクとアタッカーなので、比べにくいけど……。
「おそらくな。進化させた後にあれくらいの強さが必要だとすると……俺やナーガでも足りないな。場合によっては俺ら3人で行くことも考えている」
ナーガ君もこくりと頷いているので、やはりあのレベルだと危険認識らしい。ただ、どちらも魔法系ではないので、私は参加確定。ナーガ君も兄さんも私だけにはしないということで参加。
「え~っ!! 俺も行きたい!」
「レウス……危険があるのだから、やめなさい」
「よくわかんないけど、一斉に進化するようなことがあった時に危険ってだけでしょ? そいつを見付けて、優先的に倒せばいいだけじゃん」
まあ、レウスが言う通りではあるけど……見つけられるかという問題がある。
色とか違うらしいけど、そもそも水面下でそれをどうやって見つけ出すというのか……無理があるんだよね。
「……水の中にいるんだぞ……見分けつかないだろう」
「あっ……う~ん、確かに?」
ナーガ君の言葉にレウスが頷いている。川の中に入ったら危険と聞いているから、探し出すのは不可能だと思うんだよね。
だから、倒した中にバイコキュプリーノスがいればラッキーとか、そんな感じ……まず、進化させなければいいということを説明した。
「まあ、普通に考えて見つけ出すのは難しいだろうな。進化のラインが5日目以降らしいから、4日目で帰るということも出来る。どうしたいか、各自考えておいてくれ」
ラズ様は、他のメンバーについて口出すつもりはないので、各自の判断ということにした。途中で帰る場合については、すでにスタンピードに参加したということになるので、他に組み込まれることはない。
「僕はグラノスさん達と一緒にいたい。危険な事はわかったけど……最後まで一緒に行動するので、お願いします」
「えっと……それはいいけど、なんで私に?」
「先に伝えておかないと、その……4日目で返すとか決定しちゃいそうだから」
う~ん。
アルス君は一番レベルが低いのと……立場がかなり浮いてるからね。ある意味、奴隷になっている3人よりも人攫いに遭いそう。
いまいち、戦闘系ユニークスキル持ちという実力が見えてこないだけで、それなりに強くなってきているし、魚を狩るだけでも経験値はあるから大丈夫かな。
「兄さん」
「君に任せる」
「……わかった。じゃあ、アルス君は武器をなんとかしようか」
「……ダンジョンの稼ぎで足りるか?」
ナーガ君も武器については、考えていたらしい。
ナーガ君の持っている槍については、疑似雷魔法を撃つために使いたい。そうするとあのボロボロの剣でアルス君が戦うのは無理なので、何か用意した方が良い。
「あと、防具も出来れば見ておくといいかも」
防具も……動きやすい防具で、水を吸わないようなものがいいかもしれない。今回、川の中に入って、魔物の死体回収とかもするため、フルプレート装備は微妙。
その点では、ナーガ君の装備も考えた方が良いかもしれない。
「隣に相談に行った方が良いかもしれない。間に合わない可能性はあるけど……既製品で買うことも出来るから」
「……わかった。連れていく…………行くぞ」
ナーガ君がアルス君を連れて、出掛けていった。装備については、多分、なんとかするのだろう。予算はレアボスのおかげでそれなりに資金は潤沢なので、事前に伝えるようにと言ったので、大丈夫だと信じたい。
「アルスがいいなら、俺もいいじゃん」
「まあ、いいんだけど。3人で決めなくてもいいの?」
「うん? だって、各自で決めるなら、俺らだけ話し合いする必要ないでしょ?」
まあ、確かに?
後ろで保護者組が苦笑しているけどね。活動方針は各自となっているけど、保護者組はそこまで危険な冒険をする気がないのが見えるだけにね……。
「俺もずっと一緒に行動ってことで、よろしく~。装備は、俺は今のままでいいけど、ナーガ達と見てくるね」
「いってらっしゃい」
若者組は仲良くなったよね。若干、ナーガ君は面倒くさそうにしていることもあるのだけど……レウスが絡んでいくので、仲良く見える。
アルス君も私には緊張しているけど、二人と接している時は楽しそう。兄さんのことも大好きだけど。
「なんで、私に言うのかな……」
「あんたの意見ならグラノスは採用するのが分かっているからだろ。あいつらは危険よりもあんた達といたいとさ」
クロウはちらっと黙ったままの兄さんに視線を送るが、兄さんは何も言わない。
クロウがからかうように口にしているが、面倒ごとにするなよ、という圧力を感じる。
男女の恋愛感情が入ってくると、上手くいかなくなるということだろう。私もそう思うし、みんなもそう思ってそうだけど……。
だいたい、私とではなく、アルス君は兄さんと一緒がいいという理由だし、レウスも、ただ友達と一緒に行動したいようにしか見えない。
「二人はどうします?」
「わたしは悩ましいところだね……危険は少ないと考えていいのかな?」
「……魚狩りの間は大丈夫です。…………進化後は危ない気はしています。どちらかと言えば、二人は途中で帰ることを勧めます」
クヴェレ家の二人から説明を受けた時から、前半と後半で分けるなら、前半のみ参加がいい気がしている。〈直感〉のように、死ぬほどの危険は感じていないんだけど。なんか、ぞわってしている。
「あんたの勘でも危険ありか。ただ、お子様たちはやる気に満ちていると……どうするかねぇ?」
「最初からこの町に残った場合には、どうなるのかな?」
「時期的にはスタンピードの戦力に組み込まれることになるかなと……。ソロの場合、どこかのパーティに組み込まれる、または、大きなクランからの指示に従うなどがあり得ます。少々、町がきな臭い雰囲気ではあるので、注意は必要です。私としては、4日目までいてもらえるなら、助かります」
「本当にスタンピードに私達が必要なのかな?」
う~ん。クロウについては、私と一緒に雷魔法の撃ち込み要員。魔法系が私とクロウしかいないだけに、数減らしを手伝ってほしい。逆に、数が減った後なら……守るのが大変になりそうなので、お帰り願いたい。勝手だとは思うけど。
ティガさんが戦力として必要かと言えば、否。
ナーガ君にメインタンクを任せたいので……この前のジュエルクロコ戦のように、メインタンクをしたいと言われると困る。今回はそこまで余裕があるわけではない。
そして、町に残った場合で、スタンピードに参加しないとなると……冒険者として、今後、微妙な立場になる……かな?
そもそもが、冒険者として、まだ活動していないから参加しなくても、気にしなくてもいいかもしれない。資格はく奪まではいかないけど、昇級はできなくなるかな。
「正直、戦力としては不要です。情勢の関係で、一時的に町を出た方が良い……気がするだけです」
正直に言えば、帝国の現状を彼らにどこまで話せばいいかが……難しい。彼らと離れて行動した場合に、どこまで魔の手が迫るかは不明。
しかも、彼らに手を差し伸べてくれる人が……いるかな? ラズ様もレオニスさんも仕事に追われている。彼らに親身になってくれる人がいない可能性もある。
この町自体が、今は人が多いから……何かあった時に、自分達で解決することになる可能性がある。
「何か情報を得ているなら教えて欲しいんだけど、どうかな?」
「帝国の異邦人が大暴れして、帝国は壊滅状態。ついでに君とクロウは指名手配されている。後はクレインの勘だ」
「確か、なのかな?」
「俺は情報源を信じている。君が信じるか、それは知らん。君自身でもある程度知っているだろ」
情報を得ているだろうという、憶測でしか無いけど……知らない訳じゃないはず。
聞けば教えてくれることもあるけれど、ティガさんは聞かなければ自分から情報は晒さない。
クロウは必要そうなら報告してくれるので、違いがある。
「都合良く話をしてくれるわけじゃないからね。詳しい情報を得ていないよ、本当かもわからないしね」
クロウはやれやれという顔をしている。兄さんの反応もしらっとした顔をしている。
あ、嘘なんだなとわかってしまった。
ティガさんは独自に信頼できる情報を得ているけど、得てないって言ったのかな?
「嘘つきだな。信頼を失うぞ」
「嘘ではないんだけどね」
兄さんとティガさんのやり取りに困っていると、クロウがため息をつきつつ、話を進めた。
「俺は数減らしについては、参加した方がいいんだろう? 雷魔法は使えないが、槍を使わせてもらえるなら戦力にはなるだろう。様子を見ながら4日目で帰るかねぇ……後半は厳しいんだろう?」
「多分」
「わたしとしては最初から不参加としたいところだが、一人で残っても仕方ないからね。ただ、危険は無いように頼むよ」
「そうですね……では、4日目時点での状況報告ということで、二人には伝令をお願いし、離脱してもらってもいいですか?」
二人が帰るという理由を作っておく。状況によってはレウスとアルス君も帰ってもらおう。後は危険を感じたら、ナーガ君の後ろに隠れることを徹底してもらおう。
「こういうことを言うのもあれなのだけど……今後も、貴族の意向を受けることが続くのかな?」
「納得出来ないということであれば……次からは巻き込まない様にします」
ティガさんの苦言に対しては、次は無いと伝える。
実際、私とラズ様、兄さんとラズ様・王弟殿下の間でのやり取りに他の面子を巻き込む必要はない。貴族の意向は私と兄さんが対応するべきだろう。
そう考えていたら、黙っていた兄さんが私の前に立って、ティガさんから隠された。
「不満があるなら、パーティーから抜けてくれ。少なくとも、俺らは、現状で貴族の指示に従わないという選択はしない」
「それは君の事情だろう?」
「そうだが? 俺とクレインは納得して、貴族の指示に従っている。君がそれを不満なら構わない。パーティーから抜けてくれ」
兄さんの言葉に、ドキッとしたが……兄さんの背中でティガさんの顔は見えない。
クロウは横にいるので視線を送るが首を振られてしまった。
「わたし一人でかい?」
「君についていくという奴がいるなら連れて行ってくれて構わない」
「何が気に入らなくて、そういうことを言うのかな? 奴隷になった際に、君の事情を全て飲めとは言われていないよ」
「もちろんだ。好きにしていい、だが、自己責任。それと、クレインへの危険があるなら排除すると伝えた。俺はそのスタンスは変えてない」
私は兄さんと3人の話し合いの場にはいなかった。
だけど、私達が貴族の庇護を受けて、この町にいることが出来ていて、他の異邦人は王都であることは説明したはず。
代償という程でないけど、私達は意向を受けることが当たり前だと思っている。
「不満があるなら、仲間である必要はない。借金を定期的に払ってくれれば、一切干渉しない」
はっきりと、仲間から外す宣言に対し、ティガさんの様子が少し可怪しくなった。
顔は見えていないけど、焦りを感じる。
「随分と急だね。話が違うのでは?」
「……俺が帰ってからアルスと話すと言ったが、すでに受け入れるしかないように、共に行動をし始めたよな? クレインに対しても、素材提供の代わりに無料の薬、ポーション提供を求めた。俺がいない間にな」
「彼女の許可は取っているよ」
確かに、アルス君の件については、いつの間にか声をかけて一緒に行動していた。兄さんが戻ってからと言っていたけど、まあいいかと流してしまっていた。
また、兄さんとナーガ君には無償提供だったから、それを知ったティガさんに頼まれて、そのまま了承してしまった。
「ごめん……兄さん、私もちゃんと考えてなかった。最初、買い取りするって言ったんだけど、仲間である以上同じようにして欲しいって言われて、つい……」
「そうだな。だが、家族と仲間は違う。家族に対して無償提供をしていたとしても、パーティー内にも無償提供をしなくてはいけないわけじゃない。俺は言ったはずだ、今後も奴隷が増える可能性はあるとな。そいつらが同じように求めてくることもありえる」
「それとこれは別ではないかな。奴隷が増えたから仲間にするわけではないだろう? わたし達が異邦人という同じ背景をもつ仲間であるため、区別できるはずだ」
まずいと思って、私の事情を話して収めようと思ったけど、二人とも止めるつもりはなさそう。
「同じように求めてきた時に、それを説明するのは俺らだろう? 止めてくれ。だいたい、他に異邦人が増えた時にも同じにすることを強制されては困る。そもそも、クレインはSランククランへの移籍に対し、兄達や自分で材料取りに行けるから搾取されるクランには入らないという理由で断っている。実際は、パーティー内に無料で配っているでは話が違ってくる」
「わたしはその話は知らなかったんだけどね」
「すみません……」
これは、私が悪い。
ティガさんに提案されてつい頷いてしまった。やり返して、満足していたから、あのナルシストクランの件は頭からすっぽりと抜けていた。
断った理由を考えると、仲間に無償提供するのは良くない……。
「まあ、俺だって無一文で冒険者になったばかりの奴らに、傷薬とかも無しに活動しろというつもりは無かった。だから、しばらくは見逃すつもりで何も言わなかったがな」
「それでは、問題ないんじゃないかな?」
「俺が君を不信に思うきっかけにはなるだろう? 君も鉱山ダンジョンのボス救援の時にも、こちらの決定に不満を持っていた。今回のスタンピードについても、今後貴族の依頼を受けることについても不満がある。お互いに不信・不満があるのに仲間である必要はあるかい?」
「わたしはそんなつもりではなかったんだけどね? アルスに対しては、長期間放置しておくのは良くないと考えての行動だ。無償提供についても、ナーガは無償で、アルスとレウスには有償というのは仲たがいするかと思ってね。ダンジョンや先ほどの話はあくまで、その行動で正しいのかを確認するつもりだった」
「そうか。なら、そういうことにしておこう」
兄さんもティガさんも互いににっこり笑って、会話を終了したけど。
これ……いや、私が考え無しだったのも悪いのだけど。大丈夫?? 駄目だよね?
「今回のスタンピードについては、全員参加。俺とティガが途中で帰る。その後については、改めて話し合いの機会を作るべきだな。それでいいか?」
「この話は終わったんじゃないのかな?」
「ティガ、止めとけ。あんたとグラノスの考えが一致してない。少なくとも、きちんと互いの意見を言って、すり合わせも必要だろう。若者を除け者にするわけにもいかんしなぁ…………スタンピードに参加するなら、今じゃない。違うか?」
兄さんは終始、私を背にかばっていたけど……私が悪い部分も多い。兄さんとしては、いない間に決められたことだけど、私の意見を尊重した形を取ってくれていた。
ただ、不満は持っていたらしい。そして、行動方針に苦言を呈すティガさんに爆発した?
いや、多分、若者組がいないから、兄さんとしては狙って言ったかもしれない。この先を考えて、ずるずると続けるのは良くないってことかな。
結局、兄さんとティガさんは休戦。二人は帰っていった。
まだ、今後については不透明だけど、どうするべきか、悩んでしまう。
「すまんな」
「私がいけない部分も多いと思う」
「ああ。迂闊な部分はあったな。……君が俺らと同じよう彼らを扱うと決めたなら言うつもりは無かったんだ。ただ、君の態度が俺らと違っていたし、まだまだ警戒を解いていなかったのも見えていたからな」
「……うん」
実際に、兄さんとナーガ君の時とは状況が違うこともあるけど。
家族として受け入れているし、一蓮托生だとも思っている。
他のメンバーに対して、そこまでの覚悟が無かった。そもそも、こういう状況が嫌で、ソロ希望だったのに……つい、私は不参加でいいとか、意見を受け入れてくれることもあって、そのままにしていた。
「君は彼に対して、勝手に治して、高額請求して奴隷にしたという引け目から、無償提供を断れなかった。多分、レウスやクロウが言い出したなら、きちんと払わせていただろう?」
「あの二人はそれでも納得すると思うから……でも…………引け目があることは、うん」
最初から、ティガさんとは距離が詰まっていない。苦手意識が残っている。
「君は仲間たちの行動について、引けないところは断れるが……逆に違うところで譲歩しようと考えるだろう。相手の思うつぼだ。君の権利を阻害するだけでなく、その身を危険にする。覚えておいてくれ……俺が言うのもどうかと思うが、口調が優し気なだけで、性格悪いぞ」
「それは、うん……子供組と違って、表面上を繕えるだけで拗らせてるくらいはわかってる」
兄さんはぽんぽんと頭を軽くたたいて、この話は終わりになった。
ティガさんと私達、お互いに出していない手札……情報が多い。
全て曝け出して巻き込むのと、受け入れない部分を指摘して、離れるのと……。どっちがいいんだろう。信頼関係がしっかりと築けていない……互いに踏み込めないでいたけど、ここで亀裂が入った。
修復するのか、切り離すのか……終わったら、きちんと話し合いをしなきゃいけない。




