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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第三章

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112/219

3-24.クヴェレ侯爵家



 数日間は、穏やかに過ぎた。


 いや、穏やかではないかもしれないけど……商業ギルドで登録出来た後、冒険者ギルドからスタンピード前に試させるということでスポドリの大量納品を頼まれたり、色々と付与を試しつつ、今まで通りの魔石の方を大量に用意しつつ、切り札も準備をした。


 そんな中で、朝からラズ様に呼び出されて、ナーガ君と兄さんの3人で領主の館へと向かうことになった。


 服装については、礼服……相手に失礼のない装いを指定されたため、兄さんはラズ様が着ていそうな高そうな服……ラズ様のお下がりだった。

 私とナーガ君については、フォルさんの方で用意した服に着替える。


「こちらで少々お待ちください」


 通された応接室にて、待たされることになる。

 わざわざ正装での呼び出しということは、スタンピード対応のための打合せだろう。


「やあ、君達がメディシーアの子かな? よろしくね」

「我らはクヴェレ侯爵家の者だ。此度のスタンピードにて、助力いただけること感謝する」


 明るくおっとりとした声と生真面目そうな声が聞こえ、そちらを向くと青年が二人、部屋に入ってきた。

 二人とも、ラズ様と同じくらいの20代半ばかなという年齢。ショートボブに左右どちらかに編み込みをしているアシンメトリーの髪型をしている青年達は、髪型が左右逆なだけで、そっくりな顔をしている。


「グラノス・メディシーアと申します。弟のナーガと妹のクレイン……どちらも今回の作戦に参加予定となります」

「うん、よろしくね。グラノスでいいかな? 僕の事はスペルって呼んでくれる?」

「クヴェレ侯爵家のスペルビア様ですね? スペルビア様とお呼びしてもよろしいですか?」

「ううん、スペル。呼び捨てでいいよ。ラズやカイアもそう呼んでるんでしょ? 言葉遣いも気にしないで」

「……わかった。スペル。ラズから何も聞いていないんだが、君達が突然現れたところから、説明をお願いしてもいいかい?」


 兄さんとしては、敬語で対応するつもりだったが、却下されてしまった。私の場合、基本丁寧な口調にしているつもりなので、文句は言われないだろう。

 ナーガ君はあまり話をしないだろう。無礼を咎められることはないと思いたい。


「おれから説明しよう。おれは、シュトルツ・クヴェレだ。兄君と同様に好きなように呼んでくれ。兄君共々よろしく頼む」

「ああ、よろしく」

「さて、説明だが、我らクヴェレ家の領地と王弟殿下の領地の境を流れる大河。今年は、そこでスタンピードが起きることが予測されている。だいたい、5年から10年のスパンで起きるのだが、今回は規模が大きいようだ」


 そう言って、弟・シュトルツ様(左側を編み込みしている方)が地図を取り出し、テーブルに置いて、説明を始めた。

 この地図……見せていいのかな。地図については、技術が未熟だと思っていたけど、かなり詳細な王国内の地図なんだけど? 流石、侯爵家ってことかな。



 そして、スタンピードについての説明。


 ユニコキュプリーノスという魔物の異常発生。

 普段は下流にて大人しくしている魚型の魔物だが、何年か置きに、下流から上流に向かって川を遡って泳いでくるらしい。


 対象となる川は、王国内では一番大きく長い川。下流付近は、帝国と王国の領域を流れている。

 本来であれば、ある程度は下流でも数を減らすなどの対応をしているのだが、今年は帝国側を刺激しないために、クヴェレの領地に入ってからしか狩らないことになっているらしい。


「本当なら、うちに入る前の家が担当しても良いんだけどね。毎回、うちと王弟家に任せる日和見の家なんだよね」

「うむ。兄君の言う通りだ。だが、対処をしなければ、民に被害が出てしまうからな。協力を頼む」


 ユニコキュプリーノスという魔物は、この時期に川を遡る中で突然に進化するらしい。魚から水竜……ヒュドールオピスという魔物になる。


 だいたい、ユニコキュプリーノスが50㎝~70㎝くらいの魚。魚拓を見せてもらったが、まるっとした魚が角をつけている。ポケ〇ンでみたことがありそうなシルエットをしている。


 そして、ヒュドールオピスは絵があったので、それを見せてもらう。……蛇? 蛟? なんだろう……手足のない龍といった印象。

 

 進化した瞬間は5~6mくらいの大きさだが、1日1m位は成長する上に鱗がどんどん硬くなるらしく、早く討伐しないと危険。最大は20mまで大きくなるらしい。討ち漏らすと大惨事確定……。

 スタンピードの時には、大河にて狩りつくすらしい。


 なお、スタンピード以外でもまったく進化しないわけではない。普段は海に生息しているので、海にて進化する個体もいるらしい。ただし、数は少ないという。



「えっと……その、ユニコキュプリーノスはどれくらいいるんですか?」

「前回は規模が少なくてね~。え~っと、300くらいだっけ?」

「兄君、3,000匹だ。桁がまちがっている」

「あれ、そうだっけ。まあ、300も3,000も大して変わらないよ、進化してなければね」

「予測でいい、今回の規模は?」

「10,000匹。規模としては最大だ……これは下流で狩れていないせいでもあるがな」


 兄さんが規模の確認をすると、簡潔に返された数字は一万!? 

 そんなにいるの!? マーレスタットから派遣予定って、私達7人だけだったよね?

 

「そんなに怖がらなくても、数に比べ、脅威は少ないと思ってくれていい。あくまでも、魚であるうちに駆除するなら雷魔法を落として、倒していくだけで難しいことはない」

「そうそう。まあ、たまに進化しちゃうこともあるんだけど、それは僕らですぱすぱっと切っちゃうから心配ないよ」

「兄君。怖がらせるような発言は慎んでくれ」


 私が怖がったのがわかったのか、優し気に不安を解消しようとしてくれた弟さんが兄のフォロー? いや、フォローでもないような……。


 ……やっぱり、たまに進化しちゃうんだ? それって危険なのでは?


「すまない。俺の方でも調べたんだが、稀に一体が進化すると周囲も同時に進化するケースがあると聞いたんだが、そこら辺はどうなっているんだ?」


 兄さん? 何それ?

 一体だけでなく、まとめて進化することあるの? ちらっと二人を見ると、感心したように頷いている。


「よく調べてるね。最近はないけど、随分と前にあったやつだね」

「ああ、150年前だ。それについては……実は、ユニコキュプリーノスの群れに紛れ、バイコキュプリーノスという魔物が紛れていることがある。このバイコキュプリーノスが進化すると、周囲にいるユニコキュプリーノスを一斉に進化させるという言い伝えがある。実際にはそのようなことが起きないように魚のうちに狩りつくしているわけだが」


 言い伝え……本当かどうかはわからないやつかな。

 ただ、そのバイコキュプリーノスを進化させると危険。


「見た目は、ユニコキュプリーノスの角が1本で銀色に輝く身体に対して、バイコキュプリーノスは角が2本で黒銀という話だ。俺達兄弟は前回も参加しているが、狩れていない」

「前回は、だいたい何体くらいヒュドールオピスと戦ったんだ?」

「え~っと、何体だっだっけ?」

「俺達が仕留めたのが3体。それと、上流で1体だったはずだ。上流というのは、この町から西、ヴァルト伯爵領との境にある大橋の辺りで仕留めているはずだ」                                               


 だいたい1,000体に1体くらいは進化。普通に考えても、そのままだと10体くらいは戦うことになったりする?

 さらにバイコなんとかを倒していないと危険になるのかな。兄さんをちらりと見ると「あとで資料を渡す」と言われたので、後ほど見せてもらおう。


「基本的にはヒュドールオピスでも、進化から数日以内なら、僕ら兄弟で討伐可能だから危険はないよ。討伐もすぐ終わるよ」


 兄の方の言葉に「その通りだ、流石だ」と言っているが、危険なのは私達であって、貴方方ではないのだけど……。


「こちらは最大で7人のパーティーだが、そっちはどれくらいの規模になるんだ?」

「僕ら兄弟のみだね」

「は?」


 兄さんが規模を聞いたところ、合わせて9人で、10,000体を倒すとかいう無茶なことするの?

 つい、「は?」という言葉が漏れてしまったが、相手は何も問題ないという顔をしている。


 当たり前のような顔をしているので、こちらとしても反応に困る。そこに、部屋にノックが響き、そちらに振り向く。


「ごめんね~ちょっと遅くなった~」


 ラズ様が微妙な空気になったところで、部屋に入ってきた。

 数日前に会った時よりもさらにやつれているような? 目の下に隈が出来ているのが確認できた。ここ2,3日は兄さんがここに通ってお手伝いをしていると聞いていたけど……だいぶ疲れてそう。


「やあ。先に話はしておいたよ。ただ、10,000体って教えたら、ちょっと委縮しちゃったみたいで、ごめんね」

「僕言ったよね? ビビらせると困ったことになるから、怖がらせない様にしてねって……言ったよね?」

「ごめんごめん~。でも、ちゃんと大丈夫だよ~って説明しておいたから」


 説明されたっけ?

 ナーガ君と兄さんに視線を送るといやいやと二人とも首を振っているので、説明はされていないで間違いはない。


「皆さま。お茶をご用意いたしましたので……」


 フォルさんが人数分のお茶を用意して、テーブルについて改めて会議……そこまで堅苦しくないので……お茶を飲みながらの話し合いとなった。



「こっちで確保出来た雷魔法の使い手がクレインしかいないんだから、丁重に扱ってよね。怖がってるじゃん」

「怖くないよ、おいでおいで」


 いや、スペルビア様が手を拱くようにしているけど、行かないから。それに怖がっているのは、9対10,000の戦いであって……いや、でも、貴族は怖いかな……あまり身分にうるさく無さそうだけど。


「ラズ。危険が無いと言う認識で間違いないな?」

「ああ、そこね。基本的には、川を泳いでいるだけでこちらに対する攻撃手段はないし、雷魔法を撃つと一撃で倒せるくらいに弱い魔物だから問題はないよ。ただ、日にちが経過していくと魔物も経験を積むのか強くなっていくから、初日・二日目で半数の5,000匹が狩れないようなら、ライチを飛ばしてくれる? 急いで応援に駆け付けるから」


 ラズ様の方で、危険そうなら応援を用意する手はずは整っているらしい。

 基本的には私が魔法を撃って倒す。兄さん達は倒された魔物を、川下で網を張っておいて回収する。進化しないと相手からの攻撃はない……それまでは魚認識で怖くはないってことでいいのかな。


「まあ、狩り始めてから3日くらいすると勢いよく突進するようになるけど……川に入らなければ問題は無いよ。ただ、川の中では結構狂暴だから、川に落ちない様にね」

「進化して危険になるのはいつからだ?」

「5日目以降かな。その資料はフォルがまとめているから、持っていっていいよ。だいたい7~8日経つと一斉に海に引いていくから、上流に向かわせないのが仕事だと思って」

「わかった。彼らは進化した場合の戦力という認識でいいのか?」

「そういうことになるね~。強さは保証するよ」


 兄さんにフォルさんから追加資料が渡された。クヴェレ侯爵家とは別に、ちゃんと資料が残されているらしい。こちらも確認した。



 最初の二日で出来るだけ多くの、その後も進化しないうちに討伐か……。

 出立は二日後ということになった。説明された内容をレウス達に伝えるため、家に集まってもらった。



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― 新着の感想 ―
えっと、招くはおいでおいですることだけど、拱くは傍観することだよ? 手を、とつけるなら腕組みして眺めてるような意味だけど、多分招くの方だよね。
[一言] うーん…毎度貴族やらの思惑渦巻いてるからこの説明も文面通りとはいかないのかな? 王弟に無茶振りしてる日和見家と一万対9(笑)な状況とか辺りに色々裏が隠れてそう 今回呼んだ三人迄が王弟派閥の庇…
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