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異世界に行ったので手に職を持って生き延びます【WEB版】  作者: 白露 鶺鴒
第三章

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3-19.スポドリ


 帝国の現状を聞いた後は、レオニスさんと一緒に楽しくお酒を飲んだが、だいぶお酒が消費された。師匠から貰った秘蔵のお酒だったのに空になった。


 師匠から教えてもらって、いくつか酒樽は仕込んでいるけれど、このペースで飲むなら量が少ない気がしてきた。

 だけど、熟成させる場所を考えると……そこまでスペースが確保出来ない。

 

「そういえば、うまくできたかな?」


 お酒と一緒に、熟成させている味噌を確認する。

 お米は手に入らなかったので、味噌を作ろうとして……まずは、麹からということで、作ってみている。

 麹については、麦麹は作れるようになった。


 室温や湿度については、魔法で調整可能なので、高温多湿な日本の環境も作れる。1階の物置の一部を実験室にして、環境を作って試していくうちに、麹は形になった。今は、ここから、味噌・醤油などを作り出そうとしている段階。


 さらに、仲間たちから素材を沢山もらったことで……素材の在庫が増えてきているので、家が少し手狭になってきている。



「何が出来たんだ?」

「味噌もどき? 麦味噌とか作れないか、試してる。これなんだけど……」


 兄さんとナーガ君はいつの間にか、実験室に来ていた。

 兄さんに麦麹と一緒に、仕込んでいる味噌を渡す。

 大豆に近い豆をつかって、麹で熟成させている。


「ふむ……まあ、少々とがっているというか、微妙だな。味噌は麦味噌のが甘いんじゃなかったか?」

「温度管理が甘いとかはあるんだと思うけどね……まろやかになるにはもっと時間がかかるのかな?」

「……麦でも味噌ができるのか?」

「あ、ナーガ君。うん、基本は豆なんだけど、味噌を発酵させる麹が麦麹ってこと。米麹のが基本的には多いけど……お米が手に入りにくいから。実験するなら、手軽に手に入る麦で試してる。豆のみでも作れるらしいけどね」



 そもそも、麹とかって、日本の風土に合わせて出来ている菌のはずだから、気温や湿度を高めにしてみたけど……。

 麦や豆は手に入りやすいんだよね……スパイス系がめっちゃ高い。共和国のダンジョンでスパイス取れると聞いて、行ってみたいと思っている。蜂蜜よりもまずはこっちに行きたいんだよね。



「記録とかは?」

「一応……取ってるけど」

「見せてくれ」


 兄さんに実験結果を渡しておく。解決できるなら解決したい。

 あと、お米が欲しい。共和国の一部で栽培されているらしいので、何とか手に入らないかと考えている。


 しかし、わざわざ二人でここに来るなんて珍しいような? 下の作業場とかには良く来るんだけどね。物置兼実験室がある1階は、お風呂くらいしか来ない気がする。

 ちなみに、作業場は最近、私が使ってないと兄さんが薬を調合してることもある。ナーガ君は、クラフトして食器とか作っている。なんだかんだと、作業場は共有スペースでみんなが使っている。


 だけど、ここに来るってことは、何か目的がありそうだけど、兄さんは実験資料を真剣に見ている。


「それで、どうしたの?」

「ああ。ヨーゼフのじいさんから頼まれたんだが、あの青汁スポドリ、売り物にする気はあるのか?」

「うん? マリィさんからも言われたから、師匠に相談して、レシピ登録するつもり」

「そうか……なら、味をどうにかしないか? どうせ、すぐに似たような物が売り出されるようになる。それなら、味を整えて、真似できない味にした方がいいだろう」

「……そんなにダメかな」


 いや、兄さんの言っていることはわかるけど。美味しい方が売れるだろうし、似たような物が売り出されるのもわかる。


 でも、蜂蜜や砂糖は手に入れにくい。調合しないとダメだけど、シロップという甘味は大きいアドバンテージだと思うのだけど……薬師じゃないと作れないからね。

 味付けを兄さんがするだけで、変わるかもしれないけど……。


「なあ、君。シロップ以外で甘味は手に入らないのか?」

「う~ん。全くないわけではないよ。ただ、砂糖は高価。女性冒険者は、ミツハニーが出るダンジョンとか森に行って蜂蜜取ってくるらしいよ。森系のダンジョンとかで、蜂型の魔物とか、その巣から蜂蜜を採取してくる……ちょっと分けてもらったのが置いてあったでしょ? あと、水あめみたいなのも売ってるよ」


 兄さんはキッチンを確認しているので、一通り見ているはずだ。ちなみに、ミツハニーは東の森でも出ることはあるらしい。ただ、基本的には春から夏……まだ時期的には早い。


 売っている水あめ、なんかこう……木の味? なんか、すっごく微妙。あれなら、調合でシロップのが絶対売れる。しかし、薬師の人たちはプライド高いせいか、全然売らないみたいなんだよね。

 あと、シロップは薬との相性がいい。一緒に飲んでも相互に干渉したりしない。薬師が作るものだからかな?


 ちなみに、先輩女性冒険者達には、蜂蜜のためだけに共和国付近のダンジョンや獣王国にあるダンジョンには行けないと言ったら、少し分けてくれた。

 お礼に果物のシロップ漬けをお返ししておいたら喜ばれた。他にも、シロップでつけた後に乾燥させたりしたものもある。


 こちらのドライフルーツよりは甘くておいしく出来たつもりなのだけど。


「シロップ漬け……これか」

「うん。蜂蜜を使えるならもっと美味しくなるとは思うけど……シロップって甘いだけじゃなくて、少ないけどSP回復効果もあるからね」

「わかった。じゃあ、HPとSP回復はそのままが希望だな」

「う~ん。まあ、実際は……回復効果は無くてもいい気がするけど」


 塩分補給を目的とするなら、回復はいらない。HPとかが削られてるなら、ポーションを飲めばいい。私が飲む分には回復があってもよいと思って混ぜただけでもある。

 


「甘味が少ないっていうなら、シロップを入れるのは確定として……ちなみに、冒険者相手なら傷薬でいいと思うが、風邪薬でも混ぜられるのか?」

「シロップは飲みにくい薬を飲みやすくするものだから、風邪薬とか胃薬みたいな普段使いの薬との飲み合わせには問題ないよ」

「ふむ……なら、冒険者用とは別にスポドリを作ったらどうだ?」


 そして、兄さんが私の試作品のレシピを見つつ、作り直していた。

 水、塩、シロップ、柑橘系の果物を混ぜていた。傷薬なしだけど、美味しい。


「どうだ?」

「うん。美味しい」

「じゃあ、これを基本にして、いくつか種類を作ろう」


 兄さんがさくさくとレシピを作成していく。

 傷薬入りも作ってくれたが、私のよりも美味しい。何が違うんだろう?


 塩? ダンジョンで入手した岩塩ではなく、購入した塩を使ってる。

 あとは、分量なのかな……う~ん。


 

「……おい。師匠、呼んできたぞ……」

「え? ナーガ君」


 いつの間にか出かけていたナーガ君が、師匠を呼びに行っていたらしい。師匠の登場で、味見をしてもらいつつ、意見をもらった。


「どれどれ」


 師匠に渡して確認してもらうが、「悪くないよ」と言ってもらえた。ついでに、シロップ漬けとか、ドライフルーツ(シロップ漬け)も渡すと、お茶を所望された。甘すぎたらしい。

 上の部屋に全員で移動し、お茶を飲みながらの意見交換になった。


「レシピについては、用途ごとに登録をしておきな。調合した物を混ぜるだけだから薬師じゃなくても問題ないよ。商業ギルドの方に登録した方がいいさね」

「商業ギルドに登録できます? 所属違うんですけど」

「推薦状は書いておくよ。商業ギルドは金になるなら、受け入れるさね」


 師匠にレシピ用の紙を渡されて書いていく。


「お師匠さんが登録したらだめなのか?」

「もう引退間際のわたしより、自分たちが登録しておきな」


 兄さんの問いに師匠は自分たちで登録した方がいいという。味付けは兄さんがやっているのであれば、共同にしておくようにも言われた。今後も改良とかを頼まれた時に、困るらしい。

 推薦状……兄さんからも渡されたのは冒険者ギルド長からの推薦状。中身は……冒険者の水分補給、今後のことを考え……なんか色々書いてあるけど、冒険者ギルドで販売するからってことらしい。


 素材は薬師でないと用意できないが、売り物は薬ではないので薬師ギルドでなく、商業ギルドで問題ないらしい。

 まあ、師匠は新薬出す場合も、王家に申請して許可貰って、商業ギルドに申請しているらしいけどね。



「これはあんたたちの世界であったものなのかい?」

「えっと……」

「別にあんたたちが誰でもいいんだよ。最初から知っていて、養子にしているよ。そんな不安そうな顔をしないでもいい。知識を活かすことはいいことだよ。より良い暮らしのために、薬師として必要な素養だよ……口外することは勧めないけどね」


 師匠にはっきりと異邦人であることは伝えていない。でも、知っていたらしい。

 ただ、師匠も異邦人であることを公にするのは良くないと言われた。



「お師匠さん、異邦人についてどう思っているんだ?」


 兄さんが思い切って、師匠の考えを聞いた。私とナーガ君がぎょっと兄さんの方を見るが、兄さんは真剣な顔で師匠を見ていた。


「異邦人なんか知らないさ。わたしはあんた達しか知らないからね…………わたしにとっては、あんた達は可愛い孫のようなもんさね」

「師匠」


 私、ナーガ君、その後に兄さんと一人ずつ頭を撫でられた。少しこそばゆくなってしまったが、兄さんも驚いた顔をした後、耳が少し赤くなっているので、似たような気持ちだろう。

 ナーガ君は素直に頷いている。


「あんた達もわかっているだろうが、気を付けるんだよ。わたしのためと言いながら、したり顔で『弟子は異邦人だから騙されている』と言ってくる者もいるくらいだ。あんた達が考えているよりも、正体を探られていると考えておきな」

「……師匠」

「まあ、昔からの客には貴族関係の者もいるんでね。そっちから探られているのは私が悪いと思っているよ」

「……師匠のせいじゃない」


 ナーガ君の言葉に私も兄さんも頷く。

 むしろ、巻き込まれているのは師匠の方だと思うけど……。

 

「ああ。俺らの立場について、お師匠さんが気に病む必要はないさ。しかし……レシピ登録をするのはまずいか? 注目をさせるべきではないか」


 兄さんはレシピを見送るべきかと悩んでいるが、師匠は首を振って否定した。


「いや、便利なものは発表するべきさね。あんた達が他を気にして縮こまる必要はないよ。わざわざ言う必要はないが、異邦人の環境が悪いからこそ、役に立てる者もいるということを示しておけばいいんだよ」


 師匠としては、貴族たちは自分たちの都合の良いようにころころと態度を変え、勝手なものだから、そちらを気にしても意味はないと考えているようだ。

 まあ、師匠の場合、冒険者のためになるなら、優先してほしいというのもあるようだった。


「確かに、お師匠さんの言う通りだな。貴族の出方を気にしていても仕方ないか」

「ああ。あんた達も自由に好きに過ごせばいいさね。もし、どうしようもなくなったら逃げればいいんだよ。あんた達の能力なら何とでもなるだろう?」

「師匠、えっと……逃げるって無理では?」

「なに、何とかなるもんだよ。あんた達の成長を見てるとね、心配してないよ。別に今すぐじゃないよ。いつか、何かあったときにそういう選択肢があるということだけ覚えときな」


 う~ん。

 逃げるという選択肢は今のとこないんだよね……。でも、絶対にないとは言えない……かな。師匠の言う通りかもしれない。そういう選択肢があるってことだけ覚えておこう。


「こっちの調味料については、わたしが教えたことにしときな。調合のために発酵させる研究はしていたから、資料を渡すよ。あんたはそれを受け継いだことにしときな」

「ありがとうございます」

「似たような物は私も作ったことはあるが安定しなくてね。しかし……よく、短期間で作れたもんだね」

「その……いつも使っている調味料だったので、なんとか作れないかなと考えていまして。材料くらいは知っていたので、その……魔法で室温調整とか、やってみたりしまして……師匠からお酒の仕込み方も教わったので、わりと何とかなったというのもあります」

「そうかい」


 師匠は、味噌もどきが気に入ったらしい。少し分けて欲しいというので、まだ熟成期間が短いものも含め、作ってあるものを用意する。


 師匠は味見をしつつ、資料を見て、兄さんと話をしながら、改良について意見を出し合っている。


「……なあ、味噌があっても……なにか足りなくないか?」

「うん? 出汁がないからね。昆布も鰹節もないし、煮干し作ろうにも魚があまりね……そもそも、魚が干し魚しか売ってない。貝とかもない。あと、キノコは使えるんだけど……食事の材料より調合素材にしてる。あ、ちゃんと鑑定しているから毒キノコじゃないからね?」

「……そうか」


 ナーガ君の物足りない宣言は、まあ、出汁のせいです。いや、味噌の味もまだ改良の余地はあるんだけどね。

 コンソメとか西洋風の出汁って……コンソメキューブを使って楽してたから。肉とか、野菜でも出汁はとれるはず……私にはその技術がないだけで……。


 時間かけて出汁をとるくらいなら……調合していたいと思うからダメなんだろうか。


「……べつに、文句があるわけじゃない」

「うん……それより美味しい物を知っているから、なんとなく物足りないんだよね」

「……ああ」



 ナーガ君は作った食事を残したりはしない。でも、味付けに不満が有りそうなときはよくある。いや、私も料理上手じゃないからね。仕方ないんだけど。


 とりあえず、レシピの登録のために書いておく。


「……大丈夫か?」

「調合関係は私がやるよ。貴族関係は兄さんがね……戦闘でナーガ君が、身を挺して私達を魔物から守ってくれるようにね? 誰かひとりが盾になってるわけじゃないよ」

「…………守れてるか?」

「うん」

「……そうか」


 ナーガ君の頬に少し赤みがさした。そのあと、ぷいっと顔をそらしてしまったけど……。

 戦闘はね……いや、本当にナーガ君いるとすごく楽で助かってます。崩れることがないっていう安定感はすごい。


 前にレオニスさんがそうだったわけだが、最近はナーガ君が崩れるところも予想がつかなくなってきている。いや、それを崩している兄さんとの手合わせもすごいんだけどさ……。


「……師匠とグラノスは見ておく。あんたはそろそろ時間だろ……」

「あ、じゃあ準備してくる」


 そうだった。クロウと出かけるんだった。クロウが迎えに来る前に準備しよう。




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[一言] 麦芽糖にまで手を出すかと思いましたよ
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