3-17.狙い
レアボスを倒した後、さっさと逃げたつもりだったけど、夜営の準備をしているところで面倒な連中に捕まった。
苦戦をしていた訳でもない戦闘中に乱入されて、絡まれることになった。
「なあ、助けてもらった礼は必要だろう? そう思うよな?」
「いや? 助けてくれと頼んだわけでもなく、急に横入りされて迷惑だ。礼をするつもりはない」
「お前らのレベルじゃ辛いから助けたんだろ? いいじゃないか、レアを引いて金に余裕あるだろう」
「レベルねぇ? まあ、パーティー内でレベル差があることは事実だが、普通に戦えてるんでな。これ以上絡むならギルドを通して抗議するが?」
「そんなことしたら、そっちも困るんじゃね? 冒険者として実績ないくせに、こんなところにいるんだからな!」
兄さんが応対しているが、結構面倒なことになっている。
このダンジョンに入るには、冒険者としてD級が必要。そして、それを満たしていないのが4人。本来、入れないはずだという主張はわかる。
だけど……それって、冒険者ギルドしか把握していないこと。入口で中に入った人の記録は取っているけど、そこの記載内容はパーティー名と名前だけだからね? 条件を満たしているかなんて、外から見ると分からない。レベルも同じくわからないはず。
私達のことを勝手に鑑定でもしない限り、D級であることもレベルのこともわからない……そして、鑑定していれば、クロウ達が奴隷だってわかるから、条件が関係ないってわかるはず。問題となるのはレベルの低いアルス君のみ。
それだって、新人を研修としてダンジョンに連れていくなども稀にあるから、不自然というほどではない。
問題を起こすことが狙いなのか、どこからか情報を得てるのかとか……色々と気になるが、とにかく面倒事が起きている。
「このままダンジョンを出てギルドに行くか? 別にいいぜ? こっちは何の問題もない。そっちがどうなろうと知った事ではないしな」
「そんなわけっ」
「クレイン。後を頼んでいいか? 俺はこいつらとダンジョン抜けて、ギルドに報告してくる」
「そうすると兄さんだけ、ダンジョン踏破の功績が手に入らないよ?」
「まあ、仕方ない。そのうち入り直せばいいだけだしな」
あっけらかんと言うけど……この状況で、兄さんだけ一人にするのも、良くない気がするので賛成は出来ない。
でも、まだアルス君のレベルが20。スタンピードに連れていくのはちょっと心許ない……。
「グラノスさん! みんなで帰ろう!」
「そうだなぁ。ダンジョン内は、何故か見張られたり、絡まれたりで災難続きだ。スタンピード前にご主人様に箔付けと思ったが、これなら仕切り直したらどうだい」
私が判断に迷うが、レウスが速攻で返事をした。
レウスとクロウの発言に、ティガさんとアルス君も頷いている。
「……帰るぞ」
ナーガ君が兄さんを引っ張って、来た道を戻り始める。
うん。アルス君のレベルについては、後で考えればいい。クロウもちょっと低めだけど……。
「そういうことですので、ギルドに行きましょうか? ちゃんと判断してもらいましょう。お先にどうぞ? 逃げないでくださいね?」
絡んでいた冒険者に声をかけ、先頭を歩く兄さんとナーガ君の後ろについて行くように指示をする。私の横ではシマオウが唸っているので、相手も渋々だが兄さん達の後ろについていく。
「狙いがわからんなぁ……」
「クロウ?」
「あの中の一人、工作兵となっているんでなぁ……やれやれ、面倒事が絶えないな」
「どの人?」
「ずっと黙っていた、盾を持ってる奴だ」
一番後ろをシマオウと歩く私に寄り添うようにクロウが告げる。う~ん。
絡んできた斥候やアタッカーではないのか。何の工作を目的としているんだか。
結局、今回もダンジョン踏破せず……13階で引き返すことになった。面倒なことになったが10階まで戻り、そこの転移陣でさらにダンジョンから町まで戻る……。
ほぼ徹夜で、朝8時になったと同時に冒険者ギルドに入り、事情説明となった。
まずは互いのリーダーから情報を聞くという事で、兄さんが先に事情聴取を受ける事になった。
ついでに、ティガさん、レウス、クロウについては、聞き取りしないので、帰っていいとギルドから通達された。彼らには発言権が無いらしい。「ゆっくり休んでください」と言って別れたが、相手も「え?」と戸惑っていた。
こちらの不正を叩ける根拠がなくなったので、当たり前だけど。
彼ら3人は、私達と行動している限り、奴隷として冒険者ランクを問われないということだからね。
アルス君は眠そうにしつつも、ナーガ君と一緒に座って、聴取が始まるまで待機。何だかんだと、徹夜してるから仕方ないのだけど……ねむい。
「ねむ……不規則な生活って良くないな」
待機と言われてもすることが無いので、二階でギルド所有の本を読んで待っていたら、マリィさんに呼ばれて私の番になった。
「お疲れ様です、クレインさん」
「マリィさん。えっと、たびたびご迷惑をお掛けして、すみません」
「クレインさんは悪くないので、お気になさらず。現在、色々と確認していますが……お兄さんのおかげでだいぶこちらも助かってますから」
どうやらうそ発見器ならぬアーティファクトを使って、兄さんが彼らを追い詰めて情報を引き出しているらしい。
冒険者ギルドとしても貴族が出てくると情報を聞きだしにくく困っていたらしい。兄さんが被害者という立場と子爵代理という立場で命令されているということにして、ギルドも口出せないふりをして任せているらしい。
そんなんでいいのだろうか……。
まあ、ギルド長が置物になっていて、兄さんの一人舞台になっているようなので任せた方がいいんだろう。
「現在、こちらが把握したのは、彼らが他のパーティーから、貴方方の情報を得ているという証言です。レベルが低いこと、D級とF級しかいないこと。レアボスを引いた直後、ボスを待っている者達の間で悪意をもって噂が広められていたようです。彼らはその話を聞いて、あなた方を脅して、討伐報酬などを奪いたかったと証言しました」
「そうですか……」
「他にも、クレインさんに対しては嫌がらせを推奨するような動きがあるようですね。一部の冒険者の目的が、クレインさん達をこの町から離れさせたいようです」
なんとなく、悪意をばらまかれていると思ったけど……別にそれでこの町を離れたりしない。師匠がいる限り……。
まあ、兄さんが拠点移す可能性は示唆してたけど、まだ先だ。放っておいて欲しいのだけど。
ただ、兄さんは私に対する嫌がらせか、メディシーアなのか、異邦人なのかを確認したが、私個人だと判断したらしい。
そこで理由も確認し、嘘はないことも確認した。マリィさんも心配そうにこちらを見ている。
「嫌がらせを様々な方向からしてクレインさんを孤立させたかったようですが……クレインさんを擁護する冒険者と少々揉めています」
え?
どういうこと?
なんだか、だいぶ大事になっている。
「まず、ジュードさん達が報告した件です。魔物を嗾けたことも含め、処罰対象として事情聴取する予定ですが……まだ当事者が戻ってきていないので、出来ていません。ただ、ジュードさん達以外のパーティーからもクレインさんを付け回していたようだという報告があります。この方たちが少々喧嘩っ早くて……いえ、それは置いておきましょう」
私の味方をしてくれる人がジュードさん達以外にもいるのは嬉しいけど……何をしたんだろう。いや、聞かない方がいい気がする。
「低層で見つけて、付け回していた理由は?」
「……はい。クレインさんの問題行動を報告して、ギルドに処罰させたかったようですね。ただ、魔物を倒すだけで魔石回収はせず、ジュードさん達が対応したことで免れたというか……その後、ジュードさん達が直接話をして、相手方がクレインさんを嵌めるつもりだったと言っていたことは報告がきてます」
まあ、そんな気はしてたけど。冒険者の人は脳筋が多いけど、それだけでは生きていけない。
参謀役みたいなのがどのパーティーにもいるし、スポンサーみたいに貴族や商家と繋がっていることもある。そこから依頼されて動いていたとか、なのかな。
あの時、たまたまジュードさん達が通りかかってくれて良かった。しかも、結構いい感じに報告してくれた上に他からも報告がある。
彼らは戻った後処分を受けることは確定した。
「あの……何でそんなことを? 先ほど言っていた、私を他の町に移すというのもわからないのですが……」
「冒険者は処分を受けると、他の町の冒険者ギルドへ移るということはよくあります。今回の彼らのように今後、一定期間は町への立ち入りをさせないという処分もありますから。クレインさんはこちらも大切にしてますし、この町では手が出しにくいということもあって、クレインさんがこの町から去るように動いていたのかと。それが、一組だけじゃないんですよね」
一組じゃないという。
具体的にどのパーティーかも含め、兄さんが聴取しているらしい。
ただ、その話に、ノトスさんが頭によぎる。あの救出について、思うところがある。
「……ノトスさんのパーティーも?」
「いえ。彼自身は本当に親しい友人を助けたかっただけですし、ディーロさんもそれに乗っただけです。ただ、救出されたパーティーおよび最初に入ろうとしていたメンバーは……おそらくですが。こちらとしては、お兄さんとナーガ君が代わりに入っていて良かったです」
ノトスさんは昨日のうちに帰ってきて、報告していたらしい。ただ、救出した側とノトスさんの証言では少々行き違いがあるらしい。
そして、兄さん達が一緒ではなかった場合……最初予定した組み合わせ。手合わせで兄さんが戦った二人、あの人達は私を嵌める予定だった……。
でも、彼らは前からマーレスタットの冒険者だったはず。関わりがあったわけではないけど、顔は知っていた。そこまで嫌がらせされる覚えもない。
「兄さんがボコった二人に、私は恨まれています?」
「いえ。ただ、彼らは割とお金で動く方たちでして……。Dランクのヒーラーのせいで危険に晒されたなどの証言はされた可能性がありますね。先ほど、お兄さんから羽振りが良くなってないか確認するようにと指示が入ってます」
前金でもらっていれば、羽振りが良くなる。そして、そうでない場合はボコられたことも含め、不満が溜まっているため事情を聞きやすい……う~ん。
兄さんが味方でよかった。手配が早い上に、私よりもこういうことに気付いてるってすごい。
「救出されたパーティーについては、すでにペナルティが課されています。また、そのせいでボス戦の遅延に巻き込まれたパーティーについては、ダンジョンから戻れば話を聞く予定です」
「……救出されたパーティーも仕込みだったりします?」
「調査中ですが……」
言葉を濁しているが、その可能性をギルドは疑っているらしい。
ただし、今回の件で倒されたヒーラーだけでなく、他のメンバーも精神的ショックと数時間の戦闘による疲労で宿屋で倒れているということで、聴取が後日になったらしい。
よっぽどの素人が先走って動かない限り、ノトスさんの友人、あのタンクがいれば機能不全にはならない。そもそも、死亡もなく、数時間耐えている時点でもおかしいというのがギルドの見解。
まあ、ちょっとおかしいとは思ってた。ヒーラーがやられたとか、薬持ってないとか、久しぶりにこのダンジョンをチャレンジするにしても不自然かなって。
4時間もボスと戦い続けていたわりに、死者なし。
まあ、救出の際に生気に欠ける瞳はしていたけど……聞いていたのと話が違うとかがあったのかもしれない。
「クレインさんが綺麗に罠を掻い潜っているので、こちらも処分できないんですよね。被害が無くて……」
「なんでそんなことに……」
「クレインさん。あなたは注目され、狙われています。気を付けてください……冒険者ギルドからは現状では気を付けてくださいとしか言えません」
調査はするし、兄さんが積極的に言質を取ってくれているが、それでも第二・第三の事件が起こる可能性はあるという。
「はい……でも、ダンジョンに不正で入ったわけではないと認めてもらえるんですよね?」
「そこは大丈夫ですよ。ただ、クレインさんの周囲はかなりきな臭いです。スタンピードでどこに配置されるかも、探りを入れる冒険者が後を絶ちません! 絶対に一人で行動しないでください!」
マリィさんは、かなり心配してくれている。
ずっとお世話になっているけど……手のかかる冒険者で申し訳ない。
「……わかりました」
一人で行動は……出来る限り避けることにしよう。予定ではあと4日間はダンジョンに潜っているはずだったので、その期間は町に引き籠って、作業しよう。
それなら、問題もないはず。調合や錬金は在庫に問題がないから、やるなら〈付与〉かな。
今まで魔石に付与をしていたけど……手に入れた宝石類。あれに付与できると今まで以上の効果が見込める気がするんだよね。
折角できた時間を有効に活用したい。
「では、次の話に進みますね」
「え? まだ、なにかあるんですか?」
「ジュードさん、ノトスさんからご報告のあった手作りドリンクの件です。まだお持ちですか?」
「ああ……えっと、これです」
水筒を取り出し、マリィさんに渡す。最後の1本。何だかんだと、ジュードさんやノトスさん、ディーロさんにも分けて、私も飲んだりしていたので、ラストになる。
「いただいてもいいですか?」
「どうぞ」
マリィさんが水筒からグラスに注いで、しばらく外側から確認をした後に、飲んで、ふむふむと頷いている。
「なるほど……このドリンクの目的ですが……」
「水分と塩分補給ですね。ついでに多少の回復効果。運動後は汗を掻いて塩分失うので、必要かなと……仲間うちでは不評ですけど」
「そうなんです? 甘くしてあって、飲みやすいですよ」
「まあ、味がまだえぐみというか、苦みがあるので……これからもう少し改良して、味も調えます。……ただ、この甘味を出しているシロップは薬師がレシピを使わないと作れないです」
「ギルドで簡単に販売は難しいですかね?」
「どうでしょう? 薬ではないですけど、これもレシピ登録してしまえば、他の薬師に作ってもらうこともできるはずです」
師匠に相談してみよう。正直、水筒の水に塩入れて飲むくらいなら、このスポドリがいい。だが、そもそも冒険者がそんなことしてるって知らない仲間内からは不評というね……。
兄さんに味付けをちょっと相談する予定。
「ジュードさんから、おチビに販売するように頼んでくれと依頼されているので、是非、前向きに検討をお願いします」
「わかりました……師匠にも相談してみます。これは薬扱いにはならないと思うのですが、調合した素材を元に作っているので、どうなるか確認してみます」
「はい、お願いしますね。あと、レオニスさんからもお話があるそうですけど……立て込んでるので、すぐにとはいかなくて……」
「こちらも徹夜なんで……夕食、兄さんが手料理を作って待ってるので、お仕事終わったら顔出してくださいと伝えてもらえますか?」
「わかりました」
レオニスさんからは……何だろう?
お説教かな……まあ、プライベートの事だと思うから、仕事帰りにでも寄ってくれればと思う。
結局、一週間ダンジョンに籠るはずが、3日で帰ってきてしまった。スタンビードまでの対策……どうしようかな。
まあ、レオニスさんから話があるっていうのも、スタンピード関連だと思うので、話を聞いてから対策を考えようかな。
アルス君のレベルは低いけど……彼には近場で魔物を狩ってもらうとか、少しでもレベルが上がるようにお願いしよう。
クロウの防御の無さについては……お隣さんにお願いして、紹介状書いてもらってローブ専門店に行ってみようかな。防具で補強しておこう。
実は、私も新調するのもアリかなとは思っていた。
胸当てとかの装備は父の形見で、性能も良いのでそのまま。ただ、ローブは最初の頃にギルドに用意してもらったものだからね。もっと良い物に変えるのも有りだと思う。
よし、明日にでもクロウを誘ってみよう。




