3-14.実力試し〈ナーガ視点〉
〈ナーガ視点〉
ミリエラ鉱山ダンジョンの10階。
魔物が出てこないので少し休憩を取ってからボスに挑むと考えていたが、前に4組ほど順番待ちをしていた。
クレインが顔見知りの冒険者に声をかけられて、中に入った冒険者が攻略が出来ない……死亡することになると説明を受けた。
その言葉に、動揺しているのがアルスだった。過呼吸を起こしそうになっているのをグラノスが気づいて、口を塞いで「落ち着け、大丈夫だ……ゆっくり息を吐き出せ。吸わなくていい」と指示をしている。
「……ナーガ」
「…………楽しいばかりじゃない。クレインが安全を見極めてるから大丈夫なだけだ……」
レウスに返事をしつつ、クレインが話し終えて戻ってきたところで、全員が複雑そうな顔をしている。
レウスが助からないのか、クレインに聞いているが……返事は期待したものではない。
意外だったのが、ティガの様子だった。クレインとグラノスが自分達とは関係ないと割り切っているのに、ティガはどうやら割り切れていない感じがする。
人の死を恐れている……俺らが平気であるわけじゃないが、焦りがわかるくらいに落ち着いていない。クロウはちらっと見たが肩を竦めていつものように「どっこいしょ」とおっさん臭く座り込んでいる。
重たい沈黙がその場に続いていた。
だいぶ経過した後、ボスと戦っている冒険者の救出のためのヒーラーにクレインへ声がかかった。クレインは積極的にヒーラーであることを言っているわけではないが、それなりに情報をやり取りしている冒険者達の間では知られているらしい。
この場には他に専業ヒーラーが3人いるようだが、ボス相手になると危険だと判断して、ソロでも戦えるクレインという流れだった。
それに対し、喜んだ様子なのはアルスとレウス。助かるなら……そんな期待した目でクレインを見ている。
ただ、クレイン本人が断った。
なんだかんだとお人よしで見捨てられないクレインが断った理由は、即席メンバーでは難しいという。
ただ、クレイン自身が命の危険を感じているわけでは無さそうだった。
積極的に動きたくない理由はわからないが……このままずっと待たされていても、結果は中の人間の死であり、俺も……他の奴らも……それを目の当たりにすることがいいとは思えなかった。
俺が悩みつつ、グラノスを見るとにんまりと笑いが返ってきた。
何か企んでいる。この顔は退屈だから、暴れたいという流れだろう。
案の定、救出のメンバーに俺とグラノスを加えろと交渉になった。
だが、ここでティガが不満を表明した。俺達3人……実力者が離れることで、ここにいることが危険ということだろうか。
他に何かあるのかもしれないが、明らかに不満と焦燥を感じさせる。
だが、クレインはティガに謝罪して、中に入ることを決めた。他は反対しなかった。
すぐに入るのかと思ったが……中に入るメンバーを決めるため、手合わせをすることになった。
ボス部屋に救出に入る前なので、「やり過ぎ注意」とクレインから言われたが……それは俺よりもグラノスに言うべきだと思った。
相手は4人。
クレインが知っている二人は実力がある。この二人に好きに動かれるとまずいので、一人は抑える必要がある。
アタッカーについては、俺が抑えた方がいいと判断して、そちらに向かう。
相手がクレインに向かうところの間に入って、大剣と大斧がぶつかる。体格が向こうの方が大きいせいで上から抑えられる形になるが、力負けすることはなかった。
「おっ、いい反応だが、人数差を考えなくていいのか?」
「……俺はあんたを抑える」
「ほう……理由は?」
「……あんたはあいつらを傷つけられるだけの実力がある。他の奴には出来ない」
一番強い奴は俺が抑えておけば、人数的には不利だろうがあいつらが何とかする。俺は俺が出来ることをする。攻撃力で押し切ることができるのは、この男だけだ。
スピードは相手の方が上のようだが、それでも斧よりも大剣が長いので、大剣を振り回して、クレインの方へ行くのを防ぐ。
通常攻撃のダメージはないが、技の攻撃が入ると防御していてもダメージが入る。だが、それでもこちらの攻撃も入っているので、やられっぱなしではない。
「やるなぁ、坊主。対人戦もちゃんとできてるじゃないか」
「……ふん」
対人戦はトリッキーな動きをするグラノスとの手合わせをしている。あいつほど戦いにくい奴はいない。そのおかげで相手の動きを見た後でも、防御体勢を取れるし、ダメージが少なくすんでいる。
魔物相手であれば盾でいいが、人相手に盾を構えたところで、向かってきてくれるわけではない。だが、隙をつくような動きなら、グラノスのが上だった。
「何でおチビを守ることに拘る? ノトスだって、優秀なタンクだぞ? わざわざ危険なボスに挑む必要があるのか?」
「……べつに。あいつを守るのは俺でありたい。…………レオニスだろうと、ティガだろうと……譲る気はない!」
一人危険な場所に行こうとするクレインを快く送り出すことはしたくない。
俺がタンクとして優秀だとは思っていない。ステータスで向いているだけで、盾の扱いはティガのが上手いと思う。
レオニスには、まったく勝てそうもない。そんなことはわかっているが、だから譲るなんてお断りだ。
大剣を振りかぶって、技を繰り出すが、あっさりと避けられた。
「レオさんにすら、譲らないね……なら、こいつはどうだ」
淡い光を斧に纏わせ、大技を仕掛けてくる。
グラノスが何度かやっているところをみたが、攻撃力がかなり上がるはずだが……ここで避けるわけにはいかない。
「おらぁ!!」
「ぐっ……」
一撃でHPが2割も削れるダメージが入るが、すぐにHPが回復した。クレインがこちらの様子も見ていたらしい。きっちりと4割削れたHPが満タンになっている。
「マジか……ノトス相手にしながら、瞬時に回復か。おチビもやるな……それに、レオさんが『俺の後継者』って言ってたが、事実だったか」
「……なんだそれ?」
「坊主のこと、褒めてるんだよ。確かに、あっちで兄貴の方に振り回されてる二人より実力は上だ。認めてやる」
「…………そうか」
腕試しが終わったらしく、相手が武器を下したので、こちらも構えをといてあちらの様子を見る。
クレインが最初に話をしてきたタンクの奴とやりあっているらしい。グラノスは全然やる気が無かった。手の内を見せる必要を感じなかったらしい。
「坊主もおチビもやるじゃないか」
「……あいつはチビじゃない」
何故か知らんが、冒険者の多くはクレインのことをおチビと呼ぶ。あれだけ可愛がっていて、名前を知らないわけではないだろうに……そう思って、口に出した。
「ん? ああ、そうか。知らないのか」
「……なんだ?」
「冒険者はな、一人前と認めるまでは名前を呼ばない決め事がある。お前らの場合はレオさんが一人前と認めるまでだな……まあ、レオさん達二人に世話になった奴らはみんな名前を呼ばないようにしてるんだよ」
クレインが他の冒険者に「おチビ」と言われている。可愛がられている反面、名前を呼ばれていることはない。だが、それが決め事だとは知らなかったが、何かあるらしい。
「まあ、ジンクスみたいなもんだな。冒険者は新人の死亡率が高い。すぐに調子に乗っちまう……だから、周りからまだまだ認められてないと振舞うんだよ。本当に一人前になって、油断なんかしなくなるまでな」
「……それ、言っていいのか?」
「おチビには言うなよ? スタンピードを終えたら、宴会で呼んでやる予定なんだからな」
「……ああ」
手合わせを終え、俺とグラノスが一緒に入ることは認めて貰えた。「俺の一撃に耐えられるならタンクとしては一人前、優秀だ」と嬉しそうに言うディーロは悪い奴では無さそうだ。
だが……クレインは命を落とすような、油断はしないだろう。危険が無い時には迂闊な行動もするが、危険には人一倍敏感で、決断力もある。
それこそ、危険が無くてもボスの部屋に行くのを断っていたように、自分の危険ではなく、結果が良く無さそうな場合にも回避している。
「おつかれさん」
「……グラノス」
俺に肩を組んで、笑顔で労わってきたのはグラノスだった。こいつは確認しなくても分かる。
無傷……攻撃はくらっていないらしい。刀装備時は、俺やクレインとの手合わせでも一撃入れることも出来ないことはあるので、初対面の奴が攻撃できるとは思わない。
クレインの方を見ると、あちらも終わった。グラノスがぼこぼこにした二人にクレインが回復魔法を唱えていた。クレインが相手をしていたタンクの男は頭を掻いて困った顔をしていた。
「連戦でもいけるよな?」
「……ああ」
クレインと合流して、ボス部屋に入る。
部屋に入れば、ボスがクレインを攻撃してくるだろう……絶対に守り切って見せる。




