ぷるんくんはテイムされる
ぷるんくんに触れただけで、なんだか俺の体に変化を感じる。
スキル移転。
つまり、ぷるんくんは俺にスキルを与えたということになるのか。
俺は実践すべくぷるんくんが倒したレッドドラゴンを見て鑑定をイメージしてみた。
すると文字が現れた。
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名前:レッドドラゴン(死亡)
レベル:246
属性:火
HP:0/100,000
MP:0/50,000
スキル:溶岩炎、鋼爪
称号:上級ドラゴン、溶岩より熱い火を操りし者
説明:SSランクのダンジョンに生息するレッドドラゴン。SSランクのダンジョンに生息するモンスターの中では弱い方で、牙や鱗で武器や防具を作れば強力な火耐性の効果が付与される。防御力は高い。肉は食べられる
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手が震えてきた。
「え?本当に鑑定できてる。ていうか、レベル246なのに弱い方!?しかも食べられるし……」
鑑定スキルが使える人は1000万に一人と言われているほどレアだ。
なので、日本ダンジョン協会から公認を受けた鑑定スキルが使える探索者は鑑定料だけでもかなりもらっていると聞く。
レッドドラゴンがオッケーなら自分にもかけられるはずだろう。
なので、俺は自分に鑑定をかけてみた。
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名前:臼倉大志
レベル:5
属性:なし
HP:200/200
MP:100/100
スキル:鑑定、収納、テイム
称号:最強スライムの寵愛を受けるもの
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「最強スライムってのはぷるんくんを指すのかな?何の効果があるんだろう」
不思議そうに言ってみると、称号の『最強スライムの寵愛を受けるもの』の詳細が現れてきた。
『あなたは最強スライムの寵愛を受けています。ゆえにレベル、属性、相性関係なく最強スライムをテイムできます』
「自分より強いモンスターはテイムできないはずなんだけど、ぷるんくんにならできるってことかな」
というと、ぷるんくんが俺の胸から降りてきて、目を潤ませて俺を上目遣いしてきた。
「ぷるん……」
「ぷるんくん……」
ぷるんくんがなにを望んでいるかはわかっている。
だが、申し訳ない。
俺は全然強くなれなかった。
約束を果たせなかった。
俺は弱いままだ。
俺がぷるんくんにあげられるもの。
それは……
俺はポケットから菓子パンを取り出して、それを開けてぷるんくんに差し出した。
昨日、俺の所持金を全部叩いて買った300円(50%セールだったので実質150円)の菓子パンだ。
ぷるんくんは目をうるうるさせて俺の菓子パンをぱくついた。
「ぷるるるるん……」
ぷるんくんは泣き始めた。
そういえば、6年前も菓子パンをぷるんくんにあげていたな。種類も同じやつだし。
葛西の連中にパシられパンをあげるより、ぷるんくんにあげた方が1億倍マシだ。
菓子パン食べ終えて感動するぷるんくん。
俺はそんなぷるんくんの頭の上に手をそっと乗せて唱える。
「テイム」
すると、俺の手とぷるんくんの体が光り出した。
数秒後に光が消えると、目の前に文字が表示される。
『最強スライムをテイムできました。名前をつけてください』
俺は迷いなく口を開ける。
「名前はぷるんくんだ」
すると、また文字が表示される。
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最強スライムの名前:ぷるんくん
称号が変更されました:最強スライムの寵愛を受けるもの→最強スライムの支配者
ぷるんくんのステータスを表示します
名前:ぷるんくん
レベル:777
年齢:6歳
HP:300,000/300,000
MP:680,000/700,000
属性:全属性(水、土、火、風、雷、闇、光、無)
スキル
攻撃系:溶かし(最上)、スライム弾丸、大砲(最上)、荒れ狂う裁きの稲妻、乾いた大地のマグマ、超音波カッティング……(もっと見る)
防御系:防御膜(最上)、クッション(最上)、防御力増加(最上)、ミスリル化……(もっと見る)
その他:自己修復(最上)、スキル封印(最上)、魔力封印(最上)、魔力吸収(最上)……(もっと見る)
称号
最強スライム、ダンジョンの女神・ノルンの加護を授かりしもの、ダンジョン破壊者、生きる伝説……(もっと見る)
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「……」
俺は開いた口が塞がらなかった。
日本に数少ない大人のエリート探索者たちがいっぱい集まってやっと倒せるようなレッドドラゴンよりもレベルが遥かに上で、スキルひとつひとつがとてつもなく強そうだ。
おそらくレッドドラゴンを倒したのは『荒れ狂う裁きの稲妻』だろう。
ダンジョンの女神・ノルンの加護がちょっと気になるが、今は昔の弱々なぷるんくんと現在のつよつよぷるんくんとのギャップがあまりにも大きすぎることからそれどころではなかった。
こんなすごいスライムを俺はテイムしたのか。
足が震えてきた。
やがて足に力が入らなくなり、尻餅をつく俺。
すると、ぷるんくんは俺のお腹の方へ登ってきては俺をじっと見つめた。
俺は微笑んでそんなぷるんくんをなでなでしてあげた。
「ぷるるん……」
ぷるんくんは嬉しそうに目を瞑って俺のなでなでを堪能する。
にしても、触り心地がいい。
巨大なマシュマロを触っているような気分だ。
ここはSSランクのダンジョンだが、なぜかとても心が落ち着く。
なので、落ち着いた俺は再び立ち上がり、ぷるんくんを俺の頭に乗せたのち、レッドドラゴンの前に行く。
まだ試してないスキルがある。
「収納……」
そう小さく唱えると、小さい光るゲートが現れ、20メートルを優に超えるであろう死んだレッドドラゴンを吸い込み始める。
「す、すげ……全部入るのか?」
やがて尻尾まで残すことなく吸い込んだゲートは姿を消した。
収納は100万人に一人が使えるほどレアなスキルだ。
収納ボックスの中は時間が流れないため、物流業界でとても重宝されると聞く。
本当にぷるんくんは俺にとんでもないものを与えてくれたな。
なのに俺は……
「ぷるんくん」
「ん?」
「ありがとう」
「ぷるるん!!」
俺の頭の上にいるぷるんくんは体を揺らしながら答える。
気のせいかもしれないが「どういたしまして!!」と言っている気がした。
昔は両親もいたし、ダンジョンやモンスターの知識もあまりなかったし、ぷるんくんをテイムできる能力もなかったが、今は違う。
少なくとも学校以外は俺を縛り付ける存在はない。
なので、俺はぷるんくんに言う。
「家に帰ろっか」
「ぷるん!」
俺はSSランクのダンジョンを出て、ぷるんくんを昭和時代を匂わせる古いママチャリの前かごに置いてそのまま家に向かった。
これが、俺とぷるんくんの再会である。
追記
ぷるんくんの称号は凄惨な過去を物語っています。