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スキル移転

 6年前


 小学生だった頃、俺はSSランクのダンジョンに行ったことがある。


 両親とはぐれ、道に迷って偶然SSランクのダンジョンに流れるように入った。


 その時はまだ幼い俺にダンジョンの知識があまりなかったから、ここがSSかAかFかの判断もできなかった。


 ダンジョンに入ったのは初めてだったので、俺は目をキラキラさせながらこのSSランクのダンジョンの奥深いところに行ってみた。


 そしたら


『ぷるん……』


 見るからに弱そうな黄色いスライムがいた。


 そのスライムの前には、ものすごく強そうで巨大な水牛に似たモンスターが前足で地面を引っ掻いている。


 このままだったらきっと弱すぎるスライムは踏み殺されてしまう。

 

 なので俺は全力ダッシュして、弱ったスライムを抱き抱えて逃げた。


 幸いなことに、俺はダンジョンの小さな穴の中に入ったりしながら当時の小さな体をフル活用してなんとか抜け出せたが、今思い返すと本当にとんでもないことをしたなと思う。


 本当に寿命が縮められる思いだった。


 俺はダンジョンの入り口の前にスライムを降ろした。


 すると、そのスライムはぷるんぷるんと怯えながらも、俺をじっと見つめてくれた。


『入り口の付近は多分安全だからな。他のモンスターに食べられないように注意してね』


 俺はそう言ってここを出ようとしたら


『ぷるん……』


 スライムくんは俺の足にくっついてきた。


『どうした?』

『ぷるん……ぷるん……』


 スライムは俺の膝まで登ってきて目を瞑った。


 体を震わせている。


 おそらくまだ怖がっているのだろう。


 俺はスライムをまた抱き抱えてなでなでしてあげた。


 するとスライムの震えは徐々に減り始める。


『一緒に俺の家に帰る?』

『ぷるん』


 おそらく帰りたいと言っているようだ。

  

『じゃ……うん……ぷるんくん!お前はぷるんくんだ!一緒に帰ろうね!』

『ぷるるん!!』


 ぷるんくんはとても喜んでいた。


 しかし、


『早くダンジョンに戻しておきなさい!』

『そう!テイムされてないモンスターを持っていたら、警察に捕まってしまうから!』


 SSランクのダンジョンから出た迷子の俺を見つけた両親にぷるんくんを飼いたいと言ったらダメ出しされた。


『で、でも……ぷるんくん可哀想だから……』

『そんな一番弱いスライムなんか気にする必要ないわよ』

『スライムは最も弱いモンスターだ。Fランクのダンジョンに行けばざらにいるから、元の場所に戻しておいで』


 いくら俺が言っても、両親は頑固だった。


 なので、俺は仕方なくぷるんくんをSSランクのダンジョンに戻しておいた。


『ぷるん?』

『ごめん。父さんと母さんが元の場所に戻してって言うから……俺、テイムもできないしめっちゃ弱い……悔しけど、ぷるんくんとお別れしないといけないんだ』

『ぷるん……』


 ぷるんくんは気落ちしたように俯いていた。


 俺はそんなぷるんくんに、しゃがんでなでなでしてあげた。


 そして、ポケットから持ってきた菓子パンを取り出してそれを開けてぷるんくんに与えた。


『食べてね』

『ぷるん……』

『俺、強くなってテイムできるようになったら、ぷるんくんに会いに行くから!』

『っ!?ぷるん!?』


 ぷるんくんは期待に満ちた目で俺を見てくれた。


『ぷるんくんも気をつけながら強いスライムになってね!じゃ、また会おう!』


 と、撫で終わって俺はぷるんくんに手を振った。


 すると、


『ぷるるるん!』


 菓子パンを咥えたぷるんくんが喜びながらぴょんぴょん跳んで俺にお別れの挨拶をしてくれた。


 あの時の俺は本当に馬鹿だった。

 

 俺が行った場所はSSランクのダンジョンだった。


 なのに両親はスライムを抱えている俺を見て、てっきりFランクのダンジョンに行ったと踏んで、元の場所に戻せと言ったのだ。


 俺がもうちょっとダンジョンのことが分かれば、ぷるんくんをSSじゃなくFランクのダンジョンに入れてやったのに……


 俺が迷いこんだ場所がSSランクのダンジョンで、ぷるんくんを狙っていた巨大な水牛っぽいモンスターの名前がSS級のモンスターであるキングバッファローだと知った時は、ぷるんくんにあまりにも申し訳なくて一晩中泣き崩れた。


 俺に再び会えると思って期待しながらぴょんぴょん跳んでいたぷるんくんの姿を思い出す度に心が痛い。

 

 ずっと罪悪感を感じながら高校生になった。


 俺はぷるんくんとの約束を守れなかった。


 俺はスキルの才能に恵まれてないらしく、スキルを使うための魔力はあるが、属性スキルが使えない。


 俺をいじめる葛西は雷スキルが使えるのに、俺は最弱スライムをテイムできるスキルも持ってないのだ。


 情けない。


 俺ってなんで生きているんだろう。


 だが、


 ぷるんくんとの思い出は否定されたくない。


 何があっても、なかったことにしてはならない。


 だから俺はここに再びやってきたのだ。


 そしたら、死んだと思っていたぷるんくんが、SSモンスターであるレッドドラゴンを一発で倒して俺を救ってくれた。

 

「ぷるん……」


 俺に飛び込んできたぷるんくんは俺の胸に自分の体を埋めていた。


 間違いない。


 この子は100%ぷるんくんだ。

 

 罪悪感を感じるのだが、一方嬉しい気持ちも湧いてくる。


 なので、俺はそんな雁字搦めになった感情の塊を捨てるように手を上げて、俺の胸にくっついて安らいでいるぷるんくんの頭に手をそっと乗せた。


 すると、


 俺の体とぷるんくんが光り出した。


「な、なに!?」


 あまりにも眩しい光は薄暗いSSランクのダンジョンを明るく照らす。


 数秒後、また薄暗くなったダンジョンだが、


 一つの変化が起きた。


「あれ?目の前に文字が」


 そう。


 言葉通り、目の前に文字ができたのだ


『スキル移転を開始します』


 やがて文字が消え、新たな文字がまた現れる。


ーーーー


鑑定を取得しました

収納を獲得しました

テイムを取得しました


ーーーー


「鑑定……収納……てっテイム!?」

「ぷるん!」


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