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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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発端

「ダンジョン部の顧問になれだー?」

「はい! 先生って今、どの部も受け持ってないんですよね! 職員室で肩身の狭い思いとかしてませんか? 名前だけ貸してくれればいいんで……おなしゃす!」

「やだよ、めんどくさい」


取りつく島もない態度でにべもなく断る僕たちの担任。わかっていたことだ、そういう答えが返ってくることも。


「そこをなんとか、お願いしますよー!」

「東雲……お前、ダンジョン部なんてくだらないことを考える前に、既存の部に所属しろよ。折角顔は良いんだからさ」


普通そこは運動神経が良いとかじゃないの?


東雲君は論点をずらされたからか、怒り心頭の様子で先生へと噛み付く。


「生徒の自主性を尊重するのが学校じゃないんですか?」

「と言ってもなー……そもそもダンジョン部って何する部活なんだよ」

「そりゃ、部活動してダンジョンに潜って、そこで得た経験や危機から、仲間との協調性を学ぶとともに成長を」

「そういうネットで聞き齧ったことを並べられてもな。そもそも、活動実績とか積めないだろ」

「積めますよ! 今度あるハイスコアに参加して」

「はー……やっぱりか」


そこで先生は聞き飽きた、とでも言うように首をやれやれと振る。


「部活動を立ち上げたところで、ハイスコアに参加申し込みできないぞ」

「なんでですか! 参加資格は満たしてますよ!」

「原則、一つの団体から参加できるのは一組のみ。高校も勿論団体になるから、お前らが出る枠はないってことだ」


突きつけられる非常な現実、そう言われれば諦めるしかない。なんせ、学校全体でもシーカーのかなりの数がいるし、なんならうちのクラスにもいる。


それをわけいってとなると、厳しいと言わざるを得ない。


「なら、熾烈な枠争いになるってことですよね」


でも、東雲君はそんなことで挫けたりはしない。何がそこまでさせてるんだろ。


「東雲。残念ながら、そうはならない」

「なんでですか」

「うちには絶対的なやつらがいるからだよ。釘抜、お前ならわかるんじゃないか?」


突然そう振られる。が、当然心当たりはあった。


去年の体育祭2日目。棒倒しに参加して、斎藤さんと同じくらいの目覚ましい活躍をしていた2人。それを棒の上で指示していたあの人。

そして何より、双子の妹という桜庭さんってかた。


シーカーがどうかは知らないけど、あの人たちが出るなら僕たちに出る幕はないように思える。


「諦めようよ、東雲君」

「あー、今年はしゃあねぇか……。ならせめて、個人で申し込みしようぜ、3人でも参加できるし丁度良いだろ」

「水を差すようで悪いが、それも無理だろうな」

「なんですか、先生。俺たちのこと嫌いなんですか?」

「いや、そうじゃなくて。個人参加には勿論枠数がある。それをお前らなんか即席のやつらに使うか? 全国には有名な高校生チームがいくつもあるし、普通はそん中から選ぶだろ」


そうだったのか。これは、僕自身初耳だ。確かに、団体に所属してないチームはどれも練度が高いと思ってたけど、そんな裏があったなんて。


「ま、そういうことだ。残念だったな。わかったら、もっと違う部を立ち上げろ。そして俺を顧問にしろ。東雲の言う通り、肩身が狭くてだな……」


そんな世迷言を聞き流しながら、東雲君は肩を落として残念そうにその場を去っていく。


そのちっぽけな背中は、どこか可哀想で……。


◇◇◇


「取り敢えず、その先輩たちとやらと話をしよう」


うん、全然諦めてないや。ちっぽけな背中ってなんだよ、見てわかるわけないだろ。


「会ってどうするの」

「勿論交渉するんだよ。俺たちに席を譲ってくれってな」


なんだろう、そういういざこざに飢えているのかな。だとしたら、僕を巻き込まないで欲しいんだけどな。


「お前は知り合いなんだろ」

「まさか、そんなわけないでしょ。こっちが一方的に知ってるってだけだよ」

「そうかもな? まあ、誤差だろ」


なんのだろう。時々東雲君はわけがわからなくなる。



「お、いたぜ。あれが桜庭先輩か」

「あ、うん。そうだと、思うけど……」

「んだよ、はっきりしねーな」


いやだって、僕の記憶の中のあの人と全然違うし。


クラスの窓際、友達と駄弁ることもなくただ一人、黙々と読書に耽る姿はとても絵になっていて。

女性的と言うより、イケメンという言葉がしっくりくるはずなのに、深窓の令嬢という言葉が浮かんでくる。


なんというか、畏敬の念を抱くというかある種のカリスマ性を感じてしまう。ただ読書してるだけなのに。


「……おい、話しかけてこいよ」

「無理に決まってるでしょ。バカなの」


と、二人揃って恐れ慄いてると、ガッと背後から手を肩に置かれる。


「こんなところに何のようだ。二年坊」

「「ひっ!!??」」

「おい、そんなに驚くことはねーだろ」


急いで後ろを振り返ると、そこにはさっきまで教室にいた人と同じ顔が。野生的な笑みを浮かべていた。


「桜庭……先輩」

「お、嬉しいね。後輩にも俺の名は轟いてたか」

「どう考えても私でしょーが。私の兄ってだけで、調子に乗んなよな」


その声に再度振り返る。そこには、さっきまで窓際で本を読んでいたその人が……え、瞬間移動?


窓側の席からここまでどれだけ距離があると? もはや、運動神経という一言では片付けられない気が。


「それで? あんたら、私に何の用?」

「な、なんのことでしょうか?」

「誤魔化さないでよ、私は視野が広いんだ。もしかして……私に告白でもしに来たとか?」

「おい、後輩を虐めてやんなよ」

「ぶっ飛ばすよ」


バチバチと視線が交わる男女の双子。その中に割り入るように、東雲君は本題に入る。


「あの、桜庭さん。今度のハイスコアなんですけど」

「……なんだ、あんたらも戦場(いくさば)の差金か。何度も言うようだけど、私はそんなものに一切興味はないから」


驚きから、東雲君と目を合わせる。


桜庭さんは間違いなく、この高校で一番の実力者だ。まず間違いなくこの人が出場すると踏んでたんだが。


「そもそも私、シーカーを名乗ったことなんてないんだけどねー……」

「嘘つけ。毎日のようにダンジョンに潜りやがって」

「うっさい、バカ兄貴。トレーニングのためって、いつも言ってんだろ」


何を言っているのか、一瞬理解できなかった。それほどまでに異常な話。

この人、気でも狂ってるのかな?



桜庭兄妹との邂逅も終え、次の人物と接触するために今度は隣の隣のクラスに移動する。


どうやらここに目的の人物はいるらしく……あ、いた。


教室の後ろの方、少し背は小さいものの短髪で日焼けした肌と綺麗な白い歯が眩しい、見るからにスポーツマンって感じの人がクラスメイトと談笑している。


矢澤鉄刀、あの人のことはよく覚えている。小さい体躯ながらも、その存在感はバッチリだったし。


「よし、俺が行くわ。お前はそこで見とけよ」


桜庭さんより話しやすそうと考えたのか、自信満々に意気揚々と多学年の教室へと入っていく。

それだけで女子たちがザワザワとしだすのだから、そのイケメンっぷりを遺憾無く発揮していた。


「あの、矢澤先輩良いですか」

「下級生? 何? 鉄刀の知り合い?」

「いや、知らないけど……何、何か用?」

「今度のハイスコアの件なんですけど」

「ああ、もしかして兄ちゃんに強引に誘われた口? だったら気にしない方が良いよ。どうせ本気じゃないから」


勧誘? もうすぐ予選も始まるのにメンバー集めなんて不思議な話だった。

でも確かに桜庭さんもしつこい勧誘だとかなんとか言ってたような。難航してるのかな?


「二年を勧誘なんてするわけないだろ」

「いや、二年も豊作だって兄ちゃん言ってたし。現に、近藤って人と斎藤って人に声をかけたって」


ああ……凄く納得する人選だなー。情けないようだけど、この学年は女子の方がおっかない。


「そういや、そっちのお前はなんか見たことあるな」

「あ、はい。僕ですか?」

「出てたよな、2日目」


お、覚えていてくれてたんですか。ハッキリ言って、あの棒倒しでは何もやってなかったし……なんだか、申し訳なくなってくる。


「一緒にいただろ、斎藤ってやつを」

「え! 何!? ってことはこの子が釘抜君って子!?」

「マジ!? 全然、噂と違うじゃん!!」


はい? 噂とは? というか、僕有名なんですか? なんか先輩方の僕を見る目がちょっと異常なような。


「斎藤ちゃんに近藤ちゃんに……九谷ちゃんだっけ? 全員に粉かけてるとかいう」

「なんなんですかその言い草は!?」

「あー、ごめんごめん。そういう噂が、噂がね」


知らない間に身に覚えのありすぎることで有名になっていた。というか、九谷さんの名前もあがっているのがヤバすぎる。本当僕のせいで、合わせる顔もない。


「なー、その手腕を俺にも教えてくれよ釘抜君!」

「やめろよ、困ってんだろ」

「そうそう、それにその噂も眉唾物だしな。近藤って子は既に彼氏いるし」

「はい?」


やめよ、やめよ東雲君。気持ちはわかるけど相手は先輩だから。いきなりそんな怖い顔されたら誰だってビビっちゃうから、ね?


「彼氏って何ですか? それ、誰から聞いたんですか?」


こちらの説得もやむなく先輩に食い掛る東雲君。幸いにも相手方の懐は広く、詰め寄られながらも怒りを表わすこともなく答えてくださった。


「誰って本人からだよ。お前らと同じ二年の江原。知ってる?」


その名前を聞いて二人揃って思い浮かべる。うちのクラスで、トップカーストのように振舞っているあの男子生徒のことを。


うわー……度々近藤さんに対して気のあるような素振りはしていたけど、まさかそんなすぐばれる噓までつくなんて。正直ドン引きだ、近藤さんに悪いとか思わないのかな。


と、心の中で酷評するも、まだ温情のあった反応だとは思う。隣で、普段は絶対に見せない表情をしている東雲君に比べたら。


「釘抜。悪いけど、俺行くわ」

「行かせないよ!? 絶対江原くんのところに行くじゃん!」


暴走気味の東雲君を落ち着かせようと、身体全体で必死にガードする。先輩方? 面白がってないで手伝ってください、僕では止めきれません。


「やっぱ噓だったか? 部活の後輩なんだけどそいつ、下手なくせに調子に乗って去年一年のリーダー気取ってたから、まあまあうぜーんだよな」

「大変だなサッカー部。その分、陸上部は安泰だぜ? 桜庭妹がいるのは勿論、下にも結構なバケモンが入ってきたからな」

「それってその、斎藤ってやつだろ。凄かったよな、去年の体育祭」


いや、和まないでください! 東雲君は真剣なんですよ!

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