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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
80/82

開幕

『……警察が『右目が奪われた』という通報のもと駆けつけたところ、路上で倒れている男性を発見しました。幸い命に別状はありませんでしたか、ショックからか男性の記憶は混濁しており……』


ニュースの音をBGMに、冷凍庫の焼きおにぎりをチンして、夢中で口の中に放り込む。


時刻は現在8時過ぎ。

ニュースからニュースへの、謎の番組変更を終わらせており、いつもなら今頃、朝の支度も終わらせている。


昨日までは起きれてたのに! と、呪詛を吐きながら、新年度初日から大慌てで家の中を駆け回る。


「行ってきます!」


そう言い残し、大急ぎで家を出ていく。それはあたかも、いつも通りの日常の風景だった。


◇◇◇


「部活発足?」

「そうだよ! 名付けてダンジョン部! な、良いだろ?」


2年生になって、クラスも別々になったのに、わざわざうちのクラスまで来て、東雲君はそんな話を持ちかけてきた。


「なんで急に」

「そりゃ勿論、ハイスコアに出場するからだよ」


ハイスコアとは、High school students Core attackの略であり、要するに高校生によるダンジョンのタイムアタックを指す。


毎年、どこかの大企業が主催しているこのイベントは、多くのドラマと伝説を生んでおり、今となっては甲子園と並ぶ夏の風物詩の一つとなっている。


去年なんて、決勝の様子を中継した放送は、視聴率が40%を超えていたらしいし。


「で? わざわざそれに参加するためだけに部活を?」

「おう」

「なんで?」


部活の体にして参加する意味ある? 個人で参加すれば? というニュアンスを込めて尋ねるも


「そっちの方が、カッコ良くね?」


と、自信満々に返されてしまった。何も言えない。


「部活にするにしたって、最低5人は必要だと思うけど?」

「そこはなんとかなるだろ。花見のときの3人を誘ったり」


最初からそっちが狙いだった?


「じゃあ、部員の方は良いとしても。顧問はどうするの?」

「そうなんだよ。俺もそこで悩んでんだよなー」


うんうんと、頭を捻るようなわざとらしいポーズをする。


「ま、そこは追々ってことで。部活動のこと、よろしくな!」


それだけ一方的に言うと、返答も待たずに教室を出ていく。なにをよろしくしたら良いんだろ。


「…………」


東雲君が出て行った後、僕は一人教室に取り残されてしまった。


周りを見れば、新しいクラスの顔ぶれに浮かれているクラスメイトがチラホラ。

全員が全員、誰かと親しげに話していたりする。


当然、部活やクラブに入っていなかった僕には、そんな交友関係なんてあるはずもなく。


ポツーンという効果音が、侘しく心の中に響いている。


……いや? これじゃ今までと同じじゃないか。


新しいクラスになって心機一転……というわけでもないが、話し相手のいない今の状況を打開すべきだという思いが、強く広がる。


「だとしたら、まずはあの人たちか……」


最初に目をつけたのは、クラスの端っこに集まっている男子3人組のグループ。というか、それ以外選ぶつもりはない。


失礼だけど、彼らからは仲良くなれそうなシンパシーを感じる。


思い立ったが吉日と、椅子から立ちあがろうとすると、謎の力に肩を抑えられそのまま椅子に固定される。


「また、よろしくだね」


その聞き覚えのある声に反応して後ろを向くと、斎藤さんがいつもの、なに考えているかわからない顔で立っていた。


「斎藤さんも、このクラス?」

「うん。偶然だよ、偶然」


なぜ、そこを強調するのかはわからない。

が、取り敢えず今は、と斎藤さんに声をかけようとしたところで、彼女のその視線の鋭さに思わずたじろいでしまう。


その視線の先には件の三人組が、萎縮したように固まっていた。


なにか、僕の陰口でも言われてたんだろうか……この距離じゃ、聞こえなかったけど。


結局、あの輪の中に入るのは不可能だったってことか、残念。


「ありがとう、斎藤さん。もう十分だよ」

「本当に? 私はまだ足りてないけど、良いの?」


どこに疑問を抱いているんだろうか。


「十分十分。でさ、斎藤さんってどこか部活入ってるの?」

「入ってない」

「なら、もし部活を立ち上げたら」

「入る」


食い気味で答えられることに若干の恐怖を感じるも、取り敢えずこれで部活動計画も一歩進んだことになる。


部活動の方はあまり関心は無いけど、ハイスコアは若干の興味を寄せていたりする。賞金も出るし。


「それじゃ、また後でね」


そう言って、スタスタとうちのクラスのイケてる女子グループの輪に入る斎藤さん。


完全なる敗北だった。悔しさすら湧かない。


◇◇◇


「で、断られたと?」

「……おう」


珍しくションボリとしてる東雲君に、少し同情してしまう。


どうやら近藤さんと夏目さんに声をかけて、近藤さんの方は恵南さんと桐谷さんに悪いからという理由で、夏目さんの方はシンプルに断られてしまったらしい。


「ということで、お前の方でもめぼしいヤツがいたら声かけといてくれよ。俺も勿論、探すけどさ」

「めぼしいヤツ……難しい注文だね」


思わず呆れてしまうけど、斎藤さんを誘ってしまった手前、ここで諦めることもできない。

なんだか、めんどくさいことに首を突っ込んでしまった。


「それじゃ俺、行くわ」

「行くってどこに?」

「職員室。なんか、色々と手続きとか……あと顧問のこととか」


東雲君も東雲君も本気で頑張っているらしい。少なくとも、いつもみたいに冗談で済ませる気はないみたいだ。


何が、彼をそうさせているかはわからないけど。


「……仕方ない。東雲君には、なんだかんだお世話になってるし」


取り敢えず、帰ったら勧誘のプリントでも作ってみるか。



「え? 君、メチャクチャ可愛いじゃん」

「LINEとかやってる? 交換しよーよ」

「………あの、困ります」


家への帰り道にあるコンビニの前で、一人のウチの制服を着た女子高生が二人の男に絡まれている場面に遭遇した。


自分でも文章に起こして驚いている。こんな、漫画みたいな展開が現実で起こっているなんて。

いや、そんなことを言っている場合じゃない。


「あの、本当に迷惑なので」


身長差も相まってか、かなりの大ピンチに見える。いや、事実として大ピンチだった。


「あの、ちょっと!」


ここは先輩として助けるべきかと謎の正義感を働かせて、そのナンパしていた二人組に声をかける。も、


「あ? 何? 今、忙しいんだけど?」


振り向いた二人の、厳ついオーラに思わずたじろいでしまう。さっきまでの雰囲気はどこへやら、邪魔されて随分とキレていた。


身長も余裕で僕より高い。例え僕が一般人より少し動けるからと言って、シーカー基準で見ると僕は雑魚でしかない。


(もしこの二人がシーカーだったらどうしよう。純粋な殴り合いで、勝てるはずも無いし。取り敢えずあの子を逃さないと。こんなことなら、先に警察に電話しておくんだった)


恐怖からか、色々な思考が頭の中をぐるぐる回る。


それでも圧をかけてくる二人に対して、なんとか話し合いを持ちかけようとするも、声が出ないことに気づく。


というより出せない。喉の奥が締め付けられたような、窮屈感。


(この人たち、まさか異能を!?)


気づいたときには既に遅く、地面に膝から崩れ落ちる。


街中で異能力を使うとかいう、正気を疑う行為。それを平然とやってのけているこたから、多分これが初めてじゃない。


例え魔素が薄く、異能の力も軽減されているとは言え、余裕で人を殺せるだけの力はある。完全なる犯罪だった。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あ? ……っち」


そんな二人の間を通って、さっき絡まれていた女生徒が蹲った僕の元へと駆け寄ってくる。


……どこかで見たような顔だ。どこだっけ?


いや、それよりまだこの子逃げてなかったのか。


彼女が近づいたせいか、僕にかけられていた異能は解かれたので僕的には助かったけどなんとも情けない。


なけなしの意地を張って立ち上がろうとするも、止められる。


「私に、任せてください」


というより抑えられる。とても、一般的な女子高生が出し得るとは思えない、万力みたいな凄い力で。


「え? そいつ庇うの?」

「もしかして知り合いとか。そっちの雑魚」

「……………」


挑発するような発言に構うことなく、その女生徒は淡々とそいつらに圧をかけ続けている。


見てるこっちが冷や汗をかくほどのプレッシャー。圧をかけられている本人たちは、それも一入だろう、


「お、おい。あれ使え、速く!」

「わかってる。焦んな」


危機感を感じたのか、異能を立て続けに乱用する。しかし、女生徒の方は効いている様子もない。


変わらず冷めた目で、彼らのことを見下していた。


「は……弾かれた」

「お、おい! 行くぞ!!」


敵わないと悟ったのか、彼らは尻尾を巻いて逃げた。


精神や身体に直接干渉する能力は、その強力さゆえか、自己より強力な存在にはかけにくくなるという縛りがある。


そしてその強弱は、一般的には倒した魔物の質と量によって決められていると言われている。

要するに、RPGにおけるレベルアップと同じ原理。



この子……この若さで、どれほどの死線を潜ってきたのか。先程の圧倒的な実力差を見せつけられると、今向けられている笑顔すら、恐ろしいものに感じる。



「あの、大丈夫ですか?」

「あ、うん。ありがと」


人は見かけに寄らないと思いながら、差し出された手を掴んでよろよろと立ち上がった。


「ごめん。力になれなくて」

「いえいえ! そんなことは」

「にしても君……強いんだね。ビックリしたよ」

「まあ……はい。護身用程度には」


想定している敵が強大すぎる。と、思わずツッコミを入れたくなるほどの謙遜だった。


「それじゃ、僕はもう行くから。えーっと」


暴漢には気をつけてね。と、言おうとしたけど、途中で彼女には必要ないかと思い直す。


「ちょ、ちょっと待ってください。なにかお礼を」

「いやいやいやいや、要らない要らない。僕、何もしてないし」

「そうだ! そこの、コンビニで何か買ってきますね」

「良いって気にしなくて、お願いだから。僕が恥ずかしい」

「なら、現金なら……あ、手持ちに五千円しか無い……」

「余計悪い……というか、現金は普通にお礼として駄目だと思う」


そう言いながら、財布が入っているらしい制服のポケットに、手を伸ばそうとする彼女の腕を必死に掴む。


どちらも意固地になって、膠着状態が続く。続いてしまった。




「何してんだよ、テメェ」


コンビニから出てきた青年は、目に怒りを宿したまま、助走をつけてこちらに飛び込んでくる。

そして、手が塞がっている僕は、勿論避ける暇もなくその飛び蹴りを綺麗にくらってしまった。

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