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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
8/82

誰かのため

「合格、おめでとう。これで君たちも、ようやくダンジョンへと潜れるようになったわけだ」


そう言って、拍手とともに祝われる。


試験を受け合格したのは、僕と遠藤君に天海さん。それと、中学生の男女と大人の人が一人。


「君たちに今配ったのは、仮探索者免許証と言って、それを持っていると魔物に対し戦闘をすることができる」


ただ戦うだけで免許が必要になる。その事実が魔物の危険性を示していた。


「大事なものなので、きちんと原本に挟んでおくように」


そう注意をすると、試験管は会場を出ていった。




「なあ、あの2人って付き合ってんのかな?」

「へ?」


先程の中学生の男女二人組に対して、そんな下衆の勘繰りをする遠藤君。実はこう見えて、ラブコメとかが好きだったりする。


「そういう恋愛脳は、現実世界に持ち込んだらダメだって」

「わかってるよ。でも、そう見えるだろ?」


そう言われ、二人組の方に視線と意識を向ける。


「怠い……なんで休日を返上してまでこんなことを」

「もう! 言ってるでしょ、免許は持ってた方が良いって」

「だからってこんなキツキツなスケジュールは」

「だーめ! あっくんはすぐダラけちゃうんだから!」


……悔しいけど遠藤君の言わんとしてることがわかってしまった。


無気力系主人公を叱る、お節介系幼馴染。

ラブコメではあまり見ない設定だけど、ラノベとかだったら結構見かけたりする設定だ。


いや、なんとか系とか、設定とか、失礼すぎるんだけど、そうとしか表現できない。


「……あの男の方が、実は……みたいな展開かもな」

「あはは。そんな、漫画みたいな」


渇いた笑いになる。否定しきれない自分がいた。


「ねー、ところでさー」

「あー、はい。後で後で」


どよんとした目で近づいてくる天海さんを軽くあしらう遠藤君。


この2人もなんだかんだで仲が良い気がする。


◇◇◇


「まずーい」

「……い、いえ。中々個性的な味だと思い……ます」


初めて料理というものをしてみたけど、2人からの感想は散々なものだった。おかしいな?


モミジちゃんはともかく、レインちゃんにまでボロクソに言われてしまい、僕のメンタルは少し傷ついた。


◇◇◇


「うん、服装は良いね。肌を出さない格好を心がけている」

「ありがとうございます」


教官による点検がダンジョンの前で行われる。


入念な確認だ。この人も言ってたけど、初めてが一番事故が起こりやすいらしい。過信による増長だとかで。


「じゃあダンジョンでは、あまり迂闊に動かないでね。あるところには一階からいきなりトラップが出てくることもあるから」


ここは教課で習ったところだ。特に四大ダンジョンではその傾向が強いらしい。


「一応ここはトラップのないフリーダンジョンだから、トラップを踏む心配はないんだけどね」


ラップに関係ありそうな名前だけど、全く関係はない。


フリーダンジョンとは簡単に言うと、攻略はできるけどあえて攻略をされていないダンジョンの総称。

練習用や、こんな風に養成所が利用する用で、自治体や個人が攻略するのを禁止している。


ここら辺だけでも20数個は存在している。


「じゃあ入るよ。着いてきて」


その言葉に従って、ダンジョンへと入って行く。


「ダンジョンに入るのは初めて?」

「いえ、漁りのバイトで何度か」

「ああ、あれね! 僕も何度かやったよ。コアとか落ちてたら嬉しかったりするんだよね。どこでやってたの?」

「第三です」

「そうなんだ。僕は第一でやってたよ」


バイト談義で花を咲かす。バイトの話を出来る人は少ないので、少し新鮮だった。


「じゃあ早速魔物を倒してもらおうかな」


丁度良いところにいた粘液の塊みたいなものを指差す。


「習ったとは思うけど、スライムって言ってね。血はでないし反撃してこないわで、初心者でも倒しやすい魔物なんだ」


そう説明すると、更にその中にある赤い球みたいなものが見えるかと聞いてきた。


「アレがコアって言ってね。スライムはそこを潰すと倒せるんだ。さっき渡したナイフで刺してみて」


言われた通りナイフを突き立てるも、表面で滑ったり、粘液で威力を弱められたりして、上手いこと刺せない。


「あの、これ」

「難しいでしょ。簡単とは言っても魔物だからね」


その言葉に頷く。


正直なところ舐めていた節はあった。6階で出会った敵と比べると、警戒する方が無理な気がするけど。


「もっと力強く、全身の体重を乗っけるようにして差し込むんだ」

「こ、こうですか?」


スライムの前に両膝をつき、脳天(?)から全身の力をかけて、手にしたナイフを突き刺す。


反発する力に苦労しながらも、なんとかコアを砕くことができた。


「お、おお?」

「変な感覚が身体を突き抜けたでしょ? それが俗に言うレベルアップってやつだよ」


シーカーをシーカーたらしめるシステム。


魔物を倒すことで成長し、人外に近づいていく。


「スライム1匹じゃ、雀の涙程度しか変わらないけど」

「そうみたいですね」


身体を適当に動かしてみるが、レベルアップした感はない。というか元よりレベルアップ感を感じれなかった。


僕が今疑問に思ったのは、敵を倒してはずなのにレベルアップしなかったためだ。


(気づかないほど鈍いのか……もしくは、レベルアップができないほどにあのスライムが弱かったか)


不安を抱えながらも、そう納得させる。


「取り敢えず敵を倒す感覚に慣れようか」



その後も指示に従って、湧いてきたスライムを端から潰していく。


反発される感覚は未だ健在だけど、コツみたいなものが少し掴めて、倒すスピードは上がっていた。


「うん、上手い! 筋が良いよ」

「あ、ありがとうございます」


スライムだけとは言え力を使って突き刺していたので、自然と息は上がっていた。


一般人に劣る程度の身体能力しかないから、当然だけど。


「じゃあ次は……あれ、行ってみようか?」


視線の先には緑色の人間の姿をした醜悪な魔物、ゴブリンと呼ばれる魔物がいた。


「ゴブリンは普通、群れで行動するんだけどね。ここのダンジョンの性質なのか、基本的に一体ずつしか出てこないんだよ。だからここがフリーダンジョンに選ばれたってのもあるね」


その説明の最中も、ゴブリンは辺りを仕切りに見回しては、デカく丸い鼻を動かしている。


確か、視力は悪いんだったよね。


「あれを倒すんですか?」

「いや、いきなり倒すのは流石に無理だよ。まずは攻撃を避けるところから学ぶんだ。ちょっと、見ててね」


そう言うと、ゴブリンの前まで悠々と歩いていく。


ゴブリンの方もここでやっと気づいたのか、教官の方へと顔を向け、醜悪な笑みを浮かべた。


「ゴブリンの攻撃は基本的に殴る、蹴る、掴むのみ。避けようと思えばシーカーじゃなくても簡単に避けれたりする」


そう言いながら、ひょいひょいと身体を動かして、ゴブリンからの攻撃をおちょくるようにギリギリでかわしている。


「だけど避けれると避けるってのは別物で。喧嘩慣れしてるならいざ知らず、大抵の人間は簡単に避けれたりしない」


その言葉を示すかのように、わざと拳を頬で受けて見せる。も、その部分が腫れ上がるどころか赤くなっている様子もない。


「今みたいに、身構えたり目を瞑ったりするせいでね」


そう聞いて不安になる。

日常的に喧嘩をするとかいう、ヤンキー漫画みたいな荒れ果てた青春は送っていなかった。


「大事なのは観察することだね。腕を引く動作や、足を曲げる動作。重心や目線にまで注目できたら、尚良いね」


読んでいたかのように、飛び込んできたゴブリンに裏拳を当てる。


その勢いのまま、ゴブリンは壁に激突した。


「そして更に上級者になっていくと」


そこで言葉を止め、くるっとこちらを向く。


まだゴブリンは死んでもいないし意識もある。それが好機とばかりに背後を向ける教官に飛びかかった。


「見ずとも、避けれるようになる」

「ええ……」


背後を向いたまま、ゴブリンの渾身の飛び蹴りを避けてみせた教官に言葉が出ない。


さっきまでの観察が大事という話はなんだったんだろう。


「目だけに頼ってると視野が狭くなるって話さ。漫画的な表現になるけど、気配みたいなもので敵を把握できるようになれるのがベストなんだ」

「それって、必須なんですか?」


チラリとも目で見ることもなく、見えているかのように避けてみせた光景が衝撃的で、思わず尋ねてしまう。


「いやいや! 免許を取得する上では必要ない技術だよ。あくまでも、シーカーで生計を立てるならって話」

「……やっぱり、シーカーって人間じゃないですね」

「……うん。僕もそう思うよ」


教官は、苦笑いしながらそう言った。


◇◇◇


結局、あの後はスライムを倒すだけで終わった。


僕の不安そうな顔を読み取ったのか、まずは動画でも見て、ちょっとずつ慣れていけば良いと言ってくださったのだ。


ということで、自室で2人と一緒に動画サイトで勉強をする。


フロンティアが出している動画の中に、『麗姫』と一緒に勉強シリーズがあったので、一から見始める。


というか、凄い再生回数だ。


強さは何よりその美しさもあってか、フロンティアのチャンネル登録者数に多大な貢献をしている。


思ったよりも、フロンティアは強かだった。



「ねぇ、ホルダーさん? 何でこんな動画見てるの? 戦闘なら、私たちがするよ?」

「そう言うわけにもいかないよ。君たちは強いかもしれないけど、僕が死んだら君たちも消えるでしょ? だから、少しでも闘えていた方が良いはずなんだ」

「そ、そんなことはさせませんよ!」


珍しく意志のこもった目で、レインちゃんが頼りになることを言ってくれる。


「そうだよ。大体ホルダーさんがダンジョンに潜らなくたって」

「いや、潜るよ。僕は君たちの保護者だから」


その言葉に2人揃って、わずかに嫌そうな顔をする。


ここの意見はお互い、ずっと平行線だった。


「あの、ハッキリ言って足手纏いなんだけど」

「モミジちゃん!!」


その発言を咎めようとするレインちゃんを止める。


モミジちゃんの言葉は最もだった。


でも、それをわかった上で、僕がダンジョンに潜ろうとしているのは、彼女たちにかけられた制約にあった。



人型の状態で一定以上のダメージを受けてしまうと、カードの状態に強制的に戻ってしまい、動けなくなるというもの。


彼女たちの実力があればありえないかもしれないけど、万が一にも起こるかもしれない。


その危険性がある限り、彼女たちだけで危険な場所に行かせるのはどうしても認められなかった。



「ホルダーさんのせいで、その万が一が、千が一になるかもしれないんだけど?」

「なら自力で万が一にまで戻すよ。同じ万が一なら、僕はそっちの方が良い」

「……ホルダーさんは、異常だよ」


もし頑張っても彼女たちに認められなければ、僕は彼女たちをダンジョンに送らない。

例え中退することになっても、働いて養ってみせる。


僕は、そっちの方が良い。

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