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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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花を見る

探協内に、ダンジョンが出現した事件から2ヶ月が経ち。

季節は巡り春となり、桜の咲く季節となった。ということで、今日は東雲君と一緒に花見をしに行く予定になっていた。


友達と花見なんて、生まれてこの方一度も経験はしたことがないので、いくら相手が東雲君とは言え少しばかり緊張する。


そのため、二度目となる持ち物確認をしながら、『東雲君。友達とか他にいないのかな?』と、失礼なことを考えていると、丁度よく玄関のチャイムが鳴った。


「よ! 準備はできてるか?」

「わざわざ家まで迎えに来なくても良かったのに」

「ドタキャンとかされたら困るだろうが」


そう聞いて、少し憤慨する。


失礼な話だ。そりゃ花見客がいる中、一人で花見ほど虚しいものは無いかもしれないけど、僕がそんなことするはずもない。


「で、場所取りとかは大丈夫なの? 何も気にするなって言ってたけど」

「大丈夫、大丈夫! 任せとけって!」


……なんだろう、この笑みは? よくわからないけど、不安になってくる。業者とかに頼んだのかな?



「おー! 満開じゃん! やっぱ見応えあるな、桜は!」

「……うん。そうだね」


咲き誇る桜に見惚れながら、上の空で東雲君の言葉に同意する。


近所でも有名な花見スポットということで、僕たちみたいに桜に感嘆しながら、食事を楽しんでいる人が沢山いた。

中には、他県から来る人もいるとかなんとか。この絶景を見れば、それもおかしく無いことのように思えてくる。


「で、場所取りはしてるんだよね?」

「おう! 勿論!」


夥しい花見客の数に不安になって、再度確認してみるも、またまた自信満々に答えられてしまった。


「こっちだ。こっち」


言われるがまま着いていく。しかし、結構良い場所取っているみたいだ。

公園の中央の、桜がよく見える所へと迷わず歩いていく東雲君を見ながら、場所を取るだけでも結構な出費になってそうだなと、申し訳なく思っていると、突然立ち止まった。


「おー、きたきた。こっちこっちー」

「すいません。先に始めてます」

「美味しい」


真横から、聞き慣れた声が聞こえてくる。ん?


「ん? どうしたんだ釘抜? 座れよ」

「いや、え? あれ?」


どういうこと? と、問いただすつもりがパニクリすぎて声がでなくなる。


近くで、近藤さん、夏目さん。そして斉藤さん(なんで?)の三人がレジャーシートを広げて花見をしており、東雲君は迷いなくそこに座った。


「ちょっと! なにしてんの!?」

「花見だけど」


悪びれることもなくそう言った東雲君の発言で、僕は全てを察した。前と、似たようなパターンか。


「で、座らないのか?」


その言葉に、東雲君だけでなく三人の視線も突き刺さる。ここで帰ったら、どこまでも嫌なヤツでしかない。


女子と食事するなんてただでさえ気が引けるのに、その相手が夏目さんを含んだトップレベルの美少女たち。

胃痛で死にそうになるので、できれば断りたいが、そんな気持ちを押し殺して僕はレジャーシートへと腰を下ろす。


できるだけ端っこの方に、むしろ土に尻をつけるぐらいの位置に。


それが今の僕にできる、精一杯の抵抗だった。


「悪いな。いきなり」

「ホントだよ。事前に伝えといてよ」


座るなり、東雲君が耳打ちで謝ってきたので、僕も耳打ちで怒りを示す。


「伝えたら、断ってただろ」

「そんなことは……」


できれば断りたいと思っていたことを、思い出した。


「2人だけで、なに喋ってんの」


そんな僕たちのコソコソ話を遮った近藤さんは、手にした紙コップをこっちに突き出して来た。


「みんな揃ったんだから、乾杯しよーよ。乾杯」


正直まだ東雲君には言いたいことがあったけど、言われるがまま、僕たちは乾杯する。

と、その時、ヒラヒラと舞っていた桜の花びらが一枚。僕の渡されたコップの中で、プカプカと浮かび始めた。


それだけで、さっきの怒りもどこかへ霧散するんだから不思議なもんだ。思った以上に、僕は単純な人間なんだろう。



「ん!? この弁当、異常に美味しくねぇか?」

「……うん。これ、どこで買ったの?」


綺麗な重箱に詰められた、見た目も味も殊更に豪華な弁当に、僕と東雲君は二人して驚きの声を上げる。


近藤さんはというと、その質問を待ってましたとばかりに不適な笑みを浮かべている。


「実はこれ、奏音の手作りなんだ」

「夏目さんの?」


そう言われて、林間合宿のときのカレーを思い出した。なるほど、納得の美味しさだった。


にしても、夏目さんの手作りを食べてるって………そこまで考えて、思考を止める。

変に意識したって、無駄なんだから。


「これ、夏目が作ったのか。驚いたわ、美味くて」

「うん。美味しい」

「へへ……そこまで言われると、照れるな……」


そう言って顔を赤らめる夏目さん。その嬉しさを耐えた表情に、不覚にもドキッとしてしまった。


「……………」

「ん?」


そんな夏目さんの一挙手一投足にドギマギしていると、しきりにこちらを見ていた斉藤さんと目が合ってしまう。


……さっきから感じていた視線は、気のせいじゃなかった。


「どうしたの、斉藤さん?」

「…………」


そう尋ねるも、返答は返ってこない。ただ、箸で摘んでいる卵焼きと僕の顔を交互に見ている。


そして何も言わず、その卵焼きを僕の口元へと突き出してくる。


「……………」

「……………」


お互い見合ったまま、1秒、2秒と時間が過ぎていく。


苦手だったんだろうか、あまり聞かないけど。だとしても、口元に突き出してくるのはどうなんだろう。


「ありがとう?」


差し出された卵焼きを手で掴んで、そのまま口に運ぶ。やっぱり美味しい。食べないのが、勿体無いと思うくらいに。


「え? あの二人って?」

「え? そうなのか?」

「ううん。違うと思うよ」


そんな僕たちのやり取りに、三者三様の視線が送られる。


暖かいものを見るような目と、驚いたものを見るような目。そして、ゴミを見るような目。


最後の一つは、的確に僕だけに送られていた。泣きたい。


斎藤さんは斎藤さんで不満げな表情を浮かべているし、どうすれば良かったんだろうか僕は。



「やっぱ、東京じゃね?」

「北海道や沖縄も気になるけどね」


花見中、話題は2年生になって訪れる一大イベント、修学旅行へと移っていた。


「サイちゃんも東京?」

「うん。ほぼ、そうだよ」

「釘抜もだよな?」

「うん。僕も、シーカーだからね」


その一言で、更に会話が盛り上がる。


東京と言えば、ダンジョンの量、質ともに国内で群を抜けて高く、世界五都市に選ばれるほどの迷宮都市(ラビュリンス)

日夜、シーカーが鎬を削るそこは、全シーカーにとって憧れの場所でもある。


そのため、皆んなが東京を選ぶのも、半ば当然のことだった。が一人、夏目さんだけが渋い表情を見せる。


「ごめん。私は東京には行けないかな」

「え? 嫌いなのか、東京?」

「いや、向こうにはお兄ちゃんもいるし、行きたいのは山々なんだけど……」


言い淀んでいる夏目さんを見て、ウォークラリーでのあの事件が頭をよぎった。


あの時狙われた理由が、僕の予想した通り夏目奏多の妹だからだったとしたら、お兄さんのいる東京に行くのは非常に危険だ。

ブラコンの気がある彼女が、こんところに住んでいるのも、それが原因なんだろう。


そのことを僕よりも先に理解していた近藤さんは、夏目さんの気持ちを尊重する。


「…….そうだよね。わかった、私も東京には行かないよ」

「うん。ありがと」

「じゃ、じゃあ俺もーー」

「三人は、東京楽しんで来てね」


そう言われたら、何も言い返せるはずもなく。

東雲君が夢にまで見ていた、近藤さんとの修学旅行は、まさしく夢へと消えてしまった。


◇◇◇


「わー……綺麗ですね」

「このライトアップ、クリスマスを思い出しますね」


満開の桜の前に、少女たちが感嘆の声を上げる。毎度のことながら、反応が良くて助かる。


時刻は19時。

既に他の4人は帰路へと着いており、僕は一人ここに残って、この子たちと一緒に桜の鑑賞をしていた。


「知ってた? 桜の種類って、100種類以上あるんですって」

「桜餅って、葉っぱは食べて良いの?」


一人を除いて、全員が目の前の桜に興味を示していた。紅葉という名前をつけたのは、間違いだったかも。


こんな夜に少女四人を連れ回すなんて、ハッキリ言ってただの不審者でしか無いけど、酒に酔ってたり桜に夢中だったりと、都合よく注目されてはいない。


桜の写真を一枚撮ると、バレていないうちにそそくさと、ライトアップのされていない薄暗い方向に移動する。


「さっきの写真、あれは資料用ですか?」

「ううん、恵南さんに見せる用だよ。まだ病院で療養しているみたいだし、見せたら喜ぶかなって」

「……大切に、思っているんですね」

「うん。勿論だよ」 


そう自信満々に答えると、アッシュちゃんはどこか沈んだ表情を見せる。まるで、後ろめたいことでもあるかのように。


「……それは……例え、人間じゃなくてもですか?」

「ん? 何か言った?」

「いえ、別に……」


あからさまに嘘だとわかる誤魔化し方。なんだろう、前に言ってた、4番目のタロットが関係してるのかな?


そんな、不穏な空気を残したまま、僕たちは家へ帰る。辺りはすっかりと、暗くなっていた。

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