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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
77/82

尾を引く3

血まみれの視界を拭ってなんとか距離を取るも、額に付けられた傷は思ったよりも深く、止めどなく溢れてくる血を鬱陶しく思う。


「はー、はー」


自分の体温を上げるためだけの荒い呼吸。目の前の、豪華なローブを羽織った骸骨は、そんな私の様子にケタケタ笑っていた。


「ミズカラノチカラデ、オノレノクビヲシメルトハ」

「……黙れポンコツ」


凍った足場を無視して、すーっとこちらに浮かんでいるかのように移動してくる骸骨。


無造作に振り下ろされた大剣の一撃は、地面を割り壁にまで亀裂を入れる。

あの骨だけの腕のどこに、そんな力があるのか。


「マダ、ヨケルキリョクガノコッテイタトハ」


その言葉とは裏腹に、変態的な笑みを浮かべる。嗜虐心に塗れた、吐き気がするほどの笑みを。


ただ悔しいことに、その余裕が慢心ではないくらいの状況に陥ってしまっているのも事実。

死霊系の敵とは、壊滅的に相性が悪い。


「ホラホラ、オドレオドレ」

「………ちっ」


調子に乗っている骸骨を尻目に、攻撃を避けながら出口のようなところを探すが、やはり見つからない。


油断していた。

ボス戦の後の隙をつかれて、こんなところに連れ込まれるなんて。


「ヨソミトハ、ズイブントヨユウダナ!!」

「誰、がっ!!」


私めがけて振るわれた一撃を、なんとか剣で受け止めれた。

骨が軋み、内臓に著しいダメージ。予想の数倍はする威力を込められた一撃に、顔を思いっきり顰める。


前戦った、鬼とか言う化け物よりも数段強い。もう二、三度受け止めたら、多分立てなくなるな。これ。


「……ナゼ、ウケトメタノダ?」

「聞きたいことが……あったから。あんた、誰の差金?」


その言葉に一層笑みを浮かべ、更にこちらに体重をかけてくる。


なんとか引くと、力の行き場を失った大剣は地面へと突き刺さり、その凍った地面を綺麗に割ってみせた。



……その反応的に、多分さっきの質問は確信をついている。


元から考えていた、この騒ぎは作為的なものであると。つまりこれは、誰かが私を殺すために仕組んだもの。


問題は、犯人が誰なのかってことだけど……多分先日、腕を切り飛ばしたやつの仲間だろう。確か、ラグナロクとかいうヤツら。


もっと警戒すべきだった? 五人じゃ足りなかった? と、こうなった原因を思い浮かべてみるも、無駄なことだと断じる。


相手はダンジョンを生成できるほどの化け物。例え人を集めたところで、今の状況は避けれなかったはずだから。



そんなこと、後悔しても仕方ない。仕方ないから、生き残る方へと考えをシフトする。


試してみたけど、ここの壁や床、並びに天井は壊せない。いつの間にか連れて来られていた入口も出口もないこの部屋は、まさしくダンジョンの一部なんだろう。


そして肝心の本体の方も、倒すことはほぼ不可能に近い。ただの死霊系ならいざ知らず、あいつのあのローブには、多分冷気への耐性が入っている。


完全に対策されていた。


(今の現状じゃ、ここから出るのは無理か)


骸骨の攻撃を避けながら、冷静にそう判断する。かと言って、泣き出したりとかはしないけど。


(後、1時間くらい粘れば、助けとか来るかな?)


わずかな可能性にかけて、柄を持つ手を強く握りしめる。そんな私の様子に、ヤツは心底不思議そうな顔を浮かべた。



「………ナゼ、オレヌ?」

「は?」

「ワカッテオルノダロ? ワレニハ、カテナイト」


動きを止めてまで野暮な質問を投げかけてくる骸骨に、思わず失笑してしまう。


「骨には、一生かかっても理解できないよ」

「クチダケハ、ヨクマワル!!」


第二ラウンド開始というみたいに、歯を噛み合わせて、カチカチカチカチと、けたたましい音を鳴らす骸骨。


それだけで、脇腹や脛といった身体の各部分に、違和感を覚える。


「………っ!!」


思わぬ激痛に、顔を顰める。自分の骨に触っただけで、その部分の骨がポキリと折れた。


ヤツが何かをしたのは確実で、その分ここから生き残れる可能性が絶望的になったのもまた、事実だった。


◇◇◇


「恵南がいなくなった……だと」


そんな冗談みたいな報告が来たのは、奴らがダンジョンへと潜ってから1時間もしないうちで。


命からがらといった様相のガキは、今にも泣き出しそうな顔をしながらことの次第を伝えに来た。


「ですから、速く助けを!!」

「まあ、落ち着け。まずは正確に何が起こったか」

「だから!! ダンジョンのボスを倒したと思ったのに、ダンジョンが消滅せずに、いつの間にか恵南さんが!!」

「落ち着けったってんだろ!!」


馬鹿みたいに喚き始めるガキを殴って落ち着かせる。相手がシーカーなら、気を使うこともない。


「……な!? なに、するんですか!?」

「まあ、落ち着け。焦る気持ちもわかる。けどよ、急いだって事態は好転しない。むしろ悪くなる一方だ。な?」


そう言いながら、グッと胸ぐらでも掴もうかと考えてみるも、その必要はなかったみたいで。

さっきよりも幾分か冷静になった頭で、自分たちにダンジョン内で何が起こったのかを事細かに伝え始めた。


正論を言われ、逆上せるほど馬鹿じゃなかったか。流石に、あいつらが選んだだけはあるわな。



「で、その消えたってのはどんな具合にだ?」

「それが……さっぱりで。彼女から目を逸らしたりはしてなかったはずなんですけど、気づいたらいなくなっていたので……」


ずっとってこいつ、自分でメチャクチャ気持ち悪いこと言ってんの自覚してんのか?

ダンジョンに、私情持ち込んでんじゃねぇよ。


いや、そこは今はどうでもいい。


二つ名持ちが3人もいたのに、その全員に気づかれぬまま、あの『麗姫』を攫ったってのか?

しかも、こいつの言い分じゃ認識阻害までかけたみたいだし。


これは……結構ヤバいのか?


俺が今冷静でいられるのは、消えたのがあの『麗姫』だからだ。


ただ、あの『麗姫』でも敵わないような敵だったりしたら? と、あり得ない想像が頭の中をチラついている。


いや、やはり有り得ない。あいつに限って、そんなこと。


「分かった。とにかく、こっちからも人を回す。お前はダンジョンに戻って、あいつの捜索を続けてくれ」

「わかりました!!」


慌ててダンジョンへと戻るガキを見送ることなく、側で控えていた職員へ指示を飛ばす。


「緊急招集だ。危険だとかゴタゴタ抜かす奴らも、残らず呼び出せ。今まで安穏としてた分、危険を冒してもらうぞ」


◇◇◇


「杏香ちゃん!!」


息を切らして探協に着くと、次から次へとシーカーたちを穴の中に蹴飛ばしている偉そうな人と目が合った。


「お前は、『麗姫』の……」

「あの! 杏香ちゃん! 杏香ちゃんは!?」

「大丈夫だ。あいつの強さはお前自身、知ってんだろ」


こちらを安心させたいのか、そんな綺麗事を述べてくるが、僕が聞きたかったのはそんなことじゃなかった。


「まだ、見つかってないんですね!」


その返答からそう判断して、穴の中へと飛び込もうとするも、後ろからの衝撃に床へと倒れ込んでしまう。


振り向けば偉い人が、タックルの要領で僕を押し倒していた。


「な、何するんですか!?」

「わかれよ。こっちとしても、なるべく死者は出したくねんだ」


今の状況はあくまで例外。

本来なら二つ名持ちでも無ければ、決してシーカーをこの穴の中に入れさせないが、今は幸い先行隊のおかげで、中の魔物はあらかた倒されている。

湧き直すまでの間なら、低レベルのシーカーでもなるとかやっていけるってだけ。そして俺の見立てでは、お前はそれ以下だ。


と、掴まれた状態で聞いてもないことをベラベラと語ってくる。


その間、なんとか穴へと近づこうと這いずるも、やはりこの人もシーカーだったのだろう。万力のような力で抑えられ、中々前へと進めない。


それでも後ちょっと、後ちょっとなんだ。もう少しで、穴に。


「いい加減にしろっての」


というところで、遊びは終わりだって具合に、立ち上がって思いっきり抱き上げられる。

肩に担がれ、ハッキリとした力の差がそこにはあった。


「ここは任せた。こいつ連れてくわ」

「はい」


もはや抵抗は無意味だと感じ取り、僕はなされるままになる。


そして連れてこられたのは応接間のような場所。机に椅子、そして絵画一つが飾られた寂しい部屋だった。


「……『麗姫』のことは悪いと思ってる。けど、俺たちはシーカーだ。頭を冷やして、そこんとこよく考えとけ」


それだけ言うと、その偉い人は部屋から出ていった。見張りも何もない、それだけ僕のことを舐めてるってことなのか?


けど、どうでも良い。もう既に、目的は達成されていた。


ポケットに手を入れて、無くなったタロットカード3枚の行方を、一人きりになった部屋でただ祈る。


その祈りに応えるが如く、残った最後の一枚は、僕の服のポケットの中で強く光った。


◇◇◇


目が……霞む。


さっきまで支えにしていた剣は、どこか遠くの方へと転がり。粉々に砕け切った足腰は、これ以上の継戦の不可能さを訴える。


「フム……マダイシキハアルカ。カワイソウニ」


なすすべもなく床に倒れ伏す私に、憐憫の眼差し突き刺さる。が、最早そんなことも気にならない。


ただ、消えゆく運命をマジマジと受け止めるのみだ。


「ヒトノミデ、ヨクヤッタ」

(……死後の世界は、どんなのだろう……)


「ワレガ、オワラシテヤロウ」

(……痛いのも……寂しいのも……嫌だな……)


「ノコスコトバハ、アルカ?」

(………………のこ……す? のこす……)




「延壽………」




霞む視界が最後に捉えたのは、私の心臓へと、正確に突き刺せられた、錆びた大剣だった。

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