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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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尾を引く。(2)

「おい、見ろよあれ。『覇界』と『鬼燈』だぜ」

「京都の化け物どもじゃねぇか。流石にA級ともなると、あいつらが出張ってくんのかよ」

「あー、おっかね。探協、壊れたりしないよな」


野次馬に混じって、話題の2人の姿を拝見する。


厳つい大男と、ホワホワした感じの美人さん。あまりにも対照的な二人はあまり仲良くないのか、会話することもなく職員の人の後を黙ってついて行っている。


僕はあまり知らなかったけど、知らないなりにでも『この人たち、やばいんだろなー』という威圧感をビンビンに感じ取れた。


二人の後ろにいる、高校生くらいの青年からも。


「あの後ろの人、誰なんだろ」


疑問の声が思わず上がる。


名前は上がってこそいないが、ここにいるということはつまり、そういうことなんだろう。想像することしかできないけど。


「………っ!!」


腕に走る痛みを抑えつつ、僕は負け犬みたいに、そそくさと家へと帰った。なんだか凄く、不甲斐ない。


◇◇◇


「よー、久しぶりだな。優吾」

「お久しぶりです九条さん。それに広瀬さんも」

「久しぶりですね。元気にしてましたか?」

「はい、それはもう」

「おい、良いって。こいつに敬語なんかは」

「……うふふ」


いつもあんなに適当な鳴神さんの変わりように、驚いたりなんてことはしない。

この人たちに会うのは初めてだけど、鳴神さんから色々話は聞いてたし、そうでなくてもこの人達のことはよく知っていた。


なんせ、全国に響き渡るほどのビッグネーム。私みたいな小娘が気軽に会っていいような人たちでは決してない。


「そっちの嬢ちゃんは初めましてだな」

「あなたがあの高名な、『麗姫』さんですか?」

「は、はい。恵南杏香です。は、初めまして」


緊張からか、上手に挨拶することができない。失礼なヤツって、思われなければ良いんだけど。


「おいおい。相手が若いからって皮肉かよ。大人気ねーな」

「……うふふ」


……なんとか、失礼なヤツとは思われなかったみたい。けど、なぜだか不穏な空気が流れている。


不仲っていう噂は、本当だったの?


「ま、でもここで嬢ちゃんに会えて良かったよ」

「本当ですね。前こちらに来てくださったときは、なんだかんだ会うことが出来ませんでしたから」

「すいません。あの時はバタバタしていて」

「いやいや、謝らんでくれ。むしろ俺たちが感謝しなくちゃいけねんだからさ」

「そう言えばお礼がまだでしたね。あの時は私たちに代わりに鎮めてくださって、ありがとうございます」

「いえ……本当に、勘弁してください……」


嫌がらせかってぐらい腰の低い二人の対応に苦慮していると、そんな二人を押し除けて、ある男が前に出てくる。


「久しぶり……恵南さん」

「あ、うん。久しぶり」


………こいつ、誰だっけ?


◇◇◇


「僕も恵南さんに憧れて、シーカーになったんだ」

「あ、うん。そう」

「シーカーになってわかったよ。恵南さんの凄さ」

「へー、うん」


(きょんちゃんってば、相変わらず塩対応だな……)


二人の会話を聞いて、そんなことを思いながら苦笑いする。


あの顔は多分、名前を思い出せていないんだろう。可哀想に、どこまでも一方通行なんだ。


湯川くんに同情してしまう。


「しかし、あれを忘れるかね……」

「へ? な、何が?」

「いや、なんでもないよ」


東雲君を軽くあしらいながら、返答が異様に淡白な私の親友に白い目を向ける。


ハッキリ言って彼は中々の美貌を誇っているんだけど、彼女にとってはあの時京都で助けた中のその他大勢でしかなかったみたいで。


ほんと、一途というかなんというか。


「はーーー」


そこで深いため息を吐く。


その親友の想いすら一方通行であることを知っているからこそのため息だった。


「ど、どした?」

「なんでもないよ」


不安そうな顔してこちらを覗いてく東雲君の手を引いて、探協から離れていく。



全く、みんな東雲君くらい素直だったら楽なのに。


◇◇◇


近藤さんに手を引かれながら考える。


あの二人、いったいどういう関係性なんだ?


片方の男は知らねーが、もう片方は俺もよく知っている人物。


恵南杏香。

『麗姫』の名を冠する有名人で、釘抜延壽の幼馴染。


俺はてっきり、あの二人は付き合っているもんなんだと思っていたんだが……もしかして、もしかするのか?


否定しようとするも、随分と距離感が近く仲良さそうに話していた男の顔がチラついてしまう。


……容姿という面においては、ハッキリ言って釘抜の完敗だろう。

いや、これは相手が悪いとしか言えないんだが。あいつは、アイドルとかモデルじゃなーんだよな?


シーカーにとっては不必要なほどの顔の良さは、『麗姫』と並んでいると美男美女のカップルにしか見えない。


あいつ以外に『麗姫』に釣り合う男はいないと、思ってしまう。


(いやいやいや。確実に『麗姫』は釘抜に惚れてたはずだ)


邪な思考に陥りかける自分の脳内を、必死に否定する。


さっき見た光景だって、確かに男の方は『麗姫』に必死に話しかけていたけど、当の『麗姫』はどこか冷静だった気がする。


会話は聞こえなかったから、なんとも言えないんだが。


(でも、もしかしたら……)


最悪ではあるが何よりも現実的な想像が、再び過ぎる。

それと同時に、悲しげな顔を浮かべる親友とも呼べる男の姿が、鮮明に脳裏に映った。


(このことは、黙っていた方が良いのか?)


そんな葛藤を抱えながら、遠ざかる探協の方をじっと見つめる。


近藤さんに手を引かれているというのに、気持ちは晴れるようなことはなかった。


◇◇◇


「じっとしててもしょうがねぇ。取り敢えず潜るか」

「またそんな適当な……」

「あ? ここで止まってるより、遥かにマシだろうが」


そう言って直ぐに、バチバチと火花を散らし出す九条さんと広瀬さん。能力とかそれ以前に、この人選には問題あったんじゃ? と思ってしまう。


「まあまあ。俺的にも取り敢えず潜ってみるのには賛成ですよ。一階や二階で苦戦することは無いでしょうし。問題はどこまで潜るのか、その一点じゃないですか?」


そんな二人の諍いを、鳴神さんが落ち着かせる。この人がいるから、この人選になったに違いない。


そして湯川……君? は、そんなの関係ないとばかりにずっとこっちを見ているだけだし。私は良いから、二人をなんとかしてと思ってしまう。


「取り敢えず五階だな。俺たちなら、3時間で回れるだろう」


随分と強気な発言だ。

並のパーティーの、一階における平均階層探索時間は1時間と言われている。

それを30分〜40分の間でいけると豪語した。


が、誰も意義を唱える人はいない。勿論私も。


湯浅君は知らないけど、鳴神さんたちがいるなら、連携や協力など意識しなくても、全員が思い思いやるだけでダンジョンなんて十分攻略できる。


二つ名というのは、それだけ凄い。


「それじゃ、とっとと行きますかね」


何の躊躇いもなく飛び込んだ九条さんに続いて、私たちも次々とダンジョンの穴の中へと飛び込んでいく。



「寒いですけど、我慢してください」


最初に一言断ってから、冷気で辺りの床や壁を凍らせていく。こうすることで、感圧式のトラップなんかは無意味になる。


凄く手っ取り早くはあるけれど、仲間のことを考えると普段は絶対に取れない強引な手段なんだけど。


「この範囲を丸ごと凍らせれるんですね」

「相変わらず嬢ちゃんの能力は恐ろしいわ」

「うおっ、滑る。けど耐えられるぐらいか」


気にしている様子は全くない。須く、ここにいる人は超人だ。


「で、前と後ろどっちに進む」

「後ろですね。こっちに階段がある気がします」

「なら前だな。やっぱり感謝するよ、お前がいてくれて」

「うふふ……」


剣呑な空気が流れる二人の間に、鳴神さんが割り込む。


「仲違いしてる場合じゃないですよ。どうやら、派手にやり過ぎたみたいですから」


音を聞きつけたのか、魔物が何体か寄ってくるのが見える。が、凍った足場に警戒しているのか、近づいてくる気配はない。


「……あっちは俺たちで片付けるから、向こうは頼んだぞ」

「なんでそんな勝手に……あ、引っ張らないでください!」


「なんだかんだ、仲良いんだよな。あの二人」


言い合いをしながら離れていく二人を見ながら、鳴神さんがポツリと呟く。

その言葉には、どこか哀愁のようなものが感じられた。



その後も、何事もなく階層を淡々と攻略していく。例えA級とは言え、二つ名もち4人は間違いなく過剰戦力だった。


それに湯浅とかいう男。口だけじゃない、確かな実力を感じる。


九条さんたちが連れてきたのも納得だし、これでまだ新人というのだからとんでもない才能を持っている。


階段運も良く、予定よりも速いペースで攻略できており、気づけば目的の五階まで到着していた。


そして……


「案外、浅いダンジョンだったな」


九条さんの言葉に頷く。


この階層の奥から感じてくる、強いプレッシャー。言うなれば、ボスの気配とでも言うべきものを強く感じる。


感覚的なものではあるけど、ここにいるほぼ全員が感じ取れているのだからまず間違いない。


「流石A級ですね。なんだか、ピリピリする感じがします」

「ビビってんのか? 湯浅」

「……はい、すいません」

「なんで謝るんだよ。正直であることは、シーカーにとって一番の美徳なんだぜ。かくいう俺だって怖い」


その言葉に、口には出さないが驚いた顔を向ける湯浅。そんな彼に、広瀬さんは優しい目を向けていた。


「思ったより小物でビックリしましたか?」

「あ!?」


再びバチバチといった火花が、お互いの間で上がる。口ではそんなことを言っておきながら、この二人はどこまでも余裕だった。


「ま、行こうぜ。なるようにしかならないんだから」


そう言いながら、軽い足取りで先へと進む九条さん。

その姿をどこか呆れた様子で見つめながら、仕方ないとばかりにその後ろを着いていく広瀬さん。


側から見れば、完全に熟年夫婦だった。歩んできた経験が、そうさせるんだろうか。


(……私もいつか、延壽と……なんて)


油断すれば頭の中に浮かんでくる、鮮明な妄想を振り払いながら、二人の跡を着いていく。




(いつか……そう、いつか)

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