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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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尾を引く

「世界の滅亡か……」


そう呟いて、頭にハテナを浮かべている4人を見る。誰も、心当たりはないみたいだった。


「何度も聞いて悪いけど、本当にあの人のこと知らないの?」

「はい。前の持ち主の記憶は消えますので」


つまり今の時点でも、あの言葉の確証は取れないってこと。


「アッシュちゃんはどう思う?」

「滅亡云々はおいといて、前のホルダーという部分は正しいかと。あまりにも発言が的確でしたので」


となると、滅亡って話も案外嘘じゃないってことか。だとしたら、なんとしてでも21枚集めないと。


「カードを手に入れれる条件は?」

「力を示すこと。ただその一つですね」


前もそれっぽいことは聞いた気がする。

前までは意識したこととか無かったけど、改めてフワフワしていて意味不明だ。


今までの経験をなぞるとしたら、やっぱり危険に進んで飛び込むのか一番なのかな。


となるとますます、シーカーをやめられなくなる。


提示されたタイムリミットが心に重くのしかかってくる。後10年で世界が滅ぶと考えると、異様に短い。


「ま、色々考えたところで。今まで通りやるって結論に落ち着くだけなんだけどね」

「ふわー……あ、話終わった?」


世界のピンチだと言うのに、いつも通り呑気なモミジちゃんに思わず苦笑してしまう。


その能天気さに、なんだか救われた気がした。


◇◇◇


「? 今日はやけに騒がしいけど」


正月、三ヶ日を終え多くの人はいつも通りの日常へと帰っていく。


それは探協も同じで、昨日までしまっていたはずの扉は開け放たれ、前までの活気を取り戻していた。


いや開け放たれというか、人がいすぎて扉が閉まってないだけなんだけどね。インドの電車かな?


「あ、ごめんなさい。通ります」


今日はイベントでもやってるのかな、と思いつつ、人混みをかき分けて中へ中へと進んでいく。


もうちょっと整理とかして欲しいと思いながら進んでいると、人混みが途中で唐突に途切れた。


カウンターを囲むようにして、シーカーが屯している。


普通なら、何してんのこいつら? と疑問に思うところだろうけど、そんな当たり前の疑問は目の前に空いている大穴に、全て綺麗に吹っ飛ばされた。


何この穴?


「あ、釘抜さーん!」


見知った顔の受付嬢さんが、床に空いた大穴の向こうでこっちこっちと手招きしてくる。


「これ、何事ですか?」

「どうやらダンジョンができてしまったみたいで……」

「え? ダンジョンが!?」


こくこくと、真剣な表情で頷く受付嬢さん。その態度は、冗談でもなんでもないとものがだっていた。


ダンジョンが生まれること自体は不思議なことではない。

最近も、偶発的に生まれたダンジョンに恵南さんが駆り出されたという話を聞いた。


ただ生まれるにしても、生まれやすい場所や生まれにくい場所などハッキリと分かれているらしい。


僕も詳しくは知らないけど、統計や計算などで、ダンジョンの出来うる場所というのは細かく求められているとかなんとか。


そのため危険度の高い場所に建てられているため、潰されることになった学校や駅があったと言う話も聞いたことがある。


で、話は戻すけど基本的に探協みたいなダンジョンができた後に造られた建造物は、比較的安全な場所に建てられている。


ここの立地は危険度Dだったかな。


一番古い岐阜県にある探索者協会でも、その理論が提唱されてから数年後に建てられている。

よって、それに関しては例外が無い。


事実、探協にダンジョンができたなんて事件は殆ど聞かない。


だからこそ、ここにいる奴らは僕を含めて、ただの野次馬ってことか。写真なんて、撮ってるやつもいるし。


「よっと」


なんて受付嬢さんと話していると、大穴に垂らされたロープを伝って、恵南さんが現れた。肩に見知らぬ人を担いで。


恵南さんは地上に降り立つと、その男を床に滑らすように投げ捨てる。それを集団の前方にいた鳴神さんが足で踏みつけて止めた。


扱いが酷い。見てられない。


「お疲れー。どうだったよ」

「A級の上位ですね」


何気なく返した返答に、野次馬たちから一斉にドヨメキの声が上がる。


四大ダンジョンがどれもB級の低位なのだから、その凄さは否が応でもわかる。

ここにいる人たちじゃ、恵南さんと鳴神さんを除いて、手も足も出ないはずだ。


ちなみに、ここで言うA級やB級はダンジョンに現れるモンスターの強さのみを現している。


「なら俺たちだけじゃ無理だな。応援呼ぶか」

「そうするしか無いだろうな」


鳴神さんの横に立っていた男が、その言葉に同意する。


誰だろう、初めて見るけど。


「あっ」


カウンターの方にいた僕に気づいて、小さく手を振ってくる恵南さん。口パクで、後でって言っている。


「散れ散れ、お前ら。暫くここは立ち入り禁止だ」


偉そうな人の偉そうな一声で、ここに詰めていた人たちは不満を垂らしながらも、そそくさと出ていく。

誰も、こんな危険なところにいたくはない。


中には無意味に抵抗する人たちもいたけど、偉そうな人の高圧的な睨みに逃げるように去っていった。


僕もその列に混じって、出て行こうとするも唐突に腕を掴まれる。


「ちょっと良いか?」


意外なことに僕の腕を掴んだのは、鳴神優吾、その人だった。


「何か用ですか?」

「ちょっと、恵南さん」


僕と鳴神さんを引き離すように、ずいっと前に出る。


「いや気になっただけだよ。嬢ちゃんがよく話題に出すからさ」

「お、ならそいつが例の……」


そう言って、僕たちの会話の中に偉そうな人も加わってくる。僕の知らないとこで僕の話題が出るって、なんか嫌だな。


「もう良いですか?」


鬱陶しいって感じに冷たく言い放つ。事実、冷たい。恵南さんの身体から冷気が漏れ出ていた。


「………大層なボディガードだな」

「何か?」

「いや、なんでも無い。坊主、またの機会にな」

「またの機会?」


2人が睨み合う中、僕はいそいそとその場を離れる。


あの穴から出てくる魔物よりも、あの2人の方がよっぽどおっかないことを、僕は知っていた。


◇◇◇


「あ、魔石です」

「上物ですね。また匿名で売り捌きましょう」

「お肉! お肉!」

「あらあら。モミジちゃんは子供ねー」


和気藹々とした声が、無機質なダンジョンに響き渡る。


ここはまあまあ下層で、危険度としては大分なんだけど、この4人にとっては特段気をつかう場所でも無いみたいだ。


それを示すみたいに、後方には無惨な死体が転がっているし。


ま、あの死体たちも土に還るみたいに、時間が経てばダンジョンの中に消えていくんだけど。


しかし、この4人。

ガーデンちゃんが加わったことで、盤石になった気がする。


さっきだって、


『何あれ? スライム? でかいけど』

『ただのスライムではありませんね。アシッドスライムです。コアを覆う液体は強い酸性を示しているという厄介な相手です』

『なら攻撃できないじゃん。レイン、お願い』

『行きます。《爆ぜろ》』

『お、サンキュー! とりゃっ! っし! コア破壊! でも、ちょっと火傷しちゃった』

『はいはーい。お任せー』


みたいな感じで、それぞれ役割分担して強力な敵倒してたし。ここぐらいのレベルだったら、万能感すら感じてしまう。


戦ってきた相手が相手だっただけに、少女たちの強さを、ここに来て改めて実感した。


この子たちなら、探協にできたダンジョンにもいけるんじゃ?


流石にそんな危険な真似はさせないけどさ。


こうなってくるとやっぱり、僕という存在が邪魔になってくる。世界滅亡の件も合って、ダンジョンに潜らないという選択肢は取れないんだけどね。


そう自嘲気味に思っていると、甲高い悲鳴が聞こえてくる。


少年の声だ。

決してこんなところで、聞いて良いような声じゃ無い。


「行かなきゃ!!」

「どこに?」

「助けにだよ!!」


察しの悪い返答に、イラついてしまう。この子たちには、あの叫び声が聞こえなかったのか!?


「ホルダー様! 危険です!!」


アッシュちゃんの叫び声を後ろに、僕は走り出した。



「来るな! 来るなよ!!」


曲がり角を急いで曲がると、コモドオオトカゲみたいな魔物相手に、心許ないオモチャの剣を必死に振るっている少年の姿がそこにあった。


そんなもので対処できるはずはないけど、コモドオオトカゲがそれ以上近づこうとする様子はない。


基本的にダンジョン産の魔物は、ダンジョンの空間に馴染んだものしか食べない。

ダンジョンに群生している苔や、取れる鉱物、愚かにもノコノコとやってきたシーカーなどを主に食べるため、ダンジョンに馴染んでいない一般人は、比較的襲われにくい傾向にある。


とはいえ普通に一般人を襲う魔物もいるので、この少年は案外運が良いのかもしれない。


そうとは知らず上から下から大量に水を垂れ流す少年を抱き上げながら、そんなことを考える。


「だ、誰?」

「君の味方だよ」


そう雑に答えながら、油断なくコモドオオトカゲの方を見る。向こうも向こうで、首を傾げながらこちらを見ていた。


……今すぐに襲ってくるような素振りは見えない。シーカーとしてまだまだだと、突きつけられたみたいだ。


「ゆっくり、ゆっくり。警戒させないように」


自分にもそう言い聞かせながら、後退りをして距離を取る。


も、なんの気無しに放たれた唾液を、後ろの少年を庇うために右腕にまともに受けてしまった。


「うっ!? 皮膚がっ!!」


相手の攻撃を分析する暇もなく、痛みがダイレクトに脳内を侵食してくる。


身につけていた防具は嘲笑うかのように溶かされ、その下の皮膚には、目も覆いたくなるような光景が広がっていた。


「このトカゲがっ!!」


そこになって漸く、駆けつけたモミジちゃんが一瞬のうちにトカゲの頭部を破壊する。


流石に魔物とは言え、脳漿をぶち撒けたら終わりなんだろう。数度ピクピクと動いたかと思うと、その後完全に沈黙した。


「大丈夫ですか!? 怪我は!?」

「ああ、うん。俺は大丈夫だから。この子をダンジョンの外へ」


爛れた皮膚を隠しながら、そう強がった。


モミジちゃん自身、納得のいかないって顔をしていたが、ホルダーの命令には逆らえないんだろう。


渋々と言った様子で、少年を連れて去っていく。



それを見送ることもできず、僕はその場にへたれこむのだった。

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