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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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後に引く

「結局、戦力を動員して得た結果が死体が一つ。全部が全部、向こうの思惑通りってことね」

「……これって、始末書ものですよね」

「別に良いわよ。慣れてるし」

「そ、そういう問題なんですか?」


◇◇◇


「浅間健治? 聞いたことは無いわね」


恵南さんに聞かれたことを答えると率直な答えが返ってくる。


「それで? そのラグナロクってのは何?」

「詳しくは……犯罪組織ってことしか」

「犯罪組織……そう言えば、大阪のダンジョンのときもその名前を聞かれた気がする」


そのときのことを思い出すように、こめかみに指を当てる。


「で? 延壽はその浅間なんとかに、狙われてるの?」

「うん……僕自身は狙われてはないけど、そうみたいだね」


ギュッと頬をつねってくる。


別に痛くは無いけど、恵南さんの思いが強く込められていた。


「今度から、逐次私に報告して。わかった?」

「う、うん。悪かったって」


怖い顔でそう念を押される。相当、腹に据えかねてるみたいだ。


「……あと聞きたいことがあったんだけど」

「聞きたいこと?」

「その……斎藤さんって……えっと」


言いにくそうに、目線を逸らしている。


「斎藤さんがどうしたの?」

「……その、斎藤さんって……好きな人とかいるの?」

「へ?」


予想外の質問に疑問符で返してしまう。


冗談や揶揄っている様子はない。目を逸らして、更に耳まで真っ赤にしていて、嘘でしたはないと思う。


ただ、本気なら本気で色々とまずい気も。


幼馴染として10何年生きていて、初めて知った事実だった。いや、そんなプライベートなことは、例え幼馴染でも話さないか。


でも、恵南さんって彼氏が……やっぱり気のせいだったとか?


だとしたら今まで浮いた話の一つも、噂程度でも聞いたことがなかったのも頷ける。


「そんな話は聞いたことがないけど」

「……そ。それなら、良いんだけど」


◇◇◇


「うええーーーん!!! 健治君、右手が、右手がっ!!!」

「そんな泣かないでくださいよ。腕を一本失ったくらいで」

「大分、重症だと思うけどね……」


アジトに戻ると、いきなり抱きつかれる。


腕を失ったせいで、受け止めるのが大変だった。


「はん! ざまぁ無いわね。あれだけ私が忠告したことを、話半分にも聞いてなかったからよ!」

「ごめんって」

「目の腫れ、まだ治ってないよ」

「これはあれよ! あんたが哀れすぎて、笑い泣きしちゃっただけなんだから!! 勘違いすんな!!」

「典型的だね」


彼女の説教をいつも通り聞き流していると、痛みからかバランスを失って、よろけてしまう。


そんな倒れそうな僕を、後ろから支えてくれる。


「……………」

「あ、ボス。お帰りなさい」

「……………」

「りよーちゃん……健治君の腕がね……腕が…….」

「……………」

「ボスも、この馬鹿になんとか言ってくださいよ!!」

「……………」


全員の問いかけに無言で返すボス。この人はいつだって無口で、声を聞いたことも一度だって無かった。


そんな無言のままでいるボスが、僕に一枚の名刺を渡してくる。


「これは?」

「僕たちの知る限りの、最高の名医さ。無くなった腕の一本や二本、すぐに補填してくれるよ」

「義手……ですか」

「おおまかに言えばね」


どうやら、気にかけてくれてはいるみたいだ。


組織に入って日が浅いことに加え、ボスがボスだけに、好意的に見られているかは不明だったから、少し安心する。


「全く……ボスたちは甘いのよ。一人でろくに任務を達成できなかったんだから、罰ぐらい与えたら良いのに」

「任務は達成してるよ」

「知ってるわよ! そんなことぐらい!!」


胸ぐらを掴まれる。


今にも殺されそうなぐらい、目は怒りに満ちていた。


「知らないなら教えてあげるわ! ここのルールは一つ、『帰ってくるまでが遠足』!! 再教育よ! 再教育!!!」

「ごめんってば」


涙ながらにそう詰め寄られると、謝ることしかできない。


「でも、再教育は待った方が良いんじゃないかな」

「なんでよ!?」


ホオジロザメのように、出してくれた助け舟に噛み付く。


「集めた人たちの色々もまだ残ってるでしょ」

「そう言えば、そんなヤツらもいたわね」

「君が集めてって、言ったのに」

「あんたは黙ってて」


聞く耳を持たないとばかりに、僕の口を封じてくる。


「……速攻で終わらす。そして、あんたの再教育……それから、『麗姫』へのお礼も考えなくちゃ」


そう不穏なことを言い残すと、急足で部屋を出ていく。


後には、嵐が去ったような静けさだけが残った。


◇◇◇


「ここに、アジトがあるんですか?」

「可能性は一番高いと思います」


少女3人は、地図を見合わせて意見交換を続ける。


赤いペンで丸をつけられた場所は、主命によって跡を追ったラグナロクという組織の、アジトと思われる場所であった。


「追跡できなくなった付近で言うと、ここ以上に隠れるのに適した場所は、ダンジョンを除いてありません」

「で、ダンジョンの方は私が見張ってたけど、誰も来なかった」

「はい。他の入り口があった可能性は、否めませんが」


それ以上先の議論は無意味だと、切り捨てる。


話題は、この情報をどう扱うかという点に移っていた。


「私、個人の意見としては放置で良いと思います」

「えー? ほっとくのー?」

「はい。壊滅を望むなら、ここで行動を起こすのは愚策です。警察は勿論、ホルダー様にも報告はしない方が良いでしょう」

「なんか、裏切ってるみたいで嫌だなー」


その赤髪の少女の言葉に、3人して押し黙る。


彼女たちにとって、ホルダーという存在は絶対だった。


「それでもこの情報は、秘匿しておくべきでしょう。ホルダー様を思うなら、尚のことに」

「ま、仕方ないかー」

「そう言われたら、異論なんてでないわよね」


渋々ながら、4人の意見が揃う。


「……見張りとか、必要でしょうか?」

「それで気取られでもしたら、元も子もありません。完全放置で、良いのではないでしょうか」

「それでアジトを変えられたら?」

「その時はそのときです。素直に諦めましょう」


こうして、手に入れた情報は秘匿される運びとなった。


多くの犠牲を、伴う選択だった。


◇◇◇


「……ふむ。面白い見せ物だったな」

「そうか? 苦痛でしかなかったけど」


ゴマみたいな異能力を手に入れた自分とは違い、派手で有用な能力を手に入れたヤツらの自慢大会に顔を顰めていると、隣に座った少女に『小物が』と笑われる。


「………悪かったな、小物で」

「図星をつかれて癇に障ったか。そこら辺も小物らしい」


言いたい放題言われて、キレそうになるがなんとか抑える。



こんなくだらないことで、ヘソを曲げられても困る。



「そう、自分を卑下するな。余がいるだろ?」

「はいはい」


その自信満々の言葉に、頷かざるをえない。


この少女を手にした時点で、他の誰よりも勝ち組だった。

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