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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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道を切り開く

「攻めろ攻めろ攻めろ!」

「突破口をこじ開けろ!!」


優勢になって調子に乗った彼らは、列をなしてこっちの自陣に襲いかかってくる。


防衛を無視した波状攻撃。


相手の防御が薄いのは間違いなく今なんだけど、敵の攻撃が激しくてなかなか攻めに転じられずにいる。


攻撃は最大の防御って、よく言ったよ。ほんと。


斎藤さんと、さっき飛んできた大男を押さえ込んでいた小柄な男子が、率先して対応しているからなんとかなってるものの、圧倒的に人手が足りず撃ち漏らしも生まれてしまう。


そうなると、それ以外の人たちで対応する羽目になり、そうなると心許ない防波堤で頑張らざるをおえなくなる。


それに加えて、


「お前ら何やってんだよ!! 敵、来てるだろうが!! どうにかしろよ速く!!」


頭上から誰かもわからない人の抽象的な命令が、煩く響く。


さっきからずっとこの調子だった。


自分から棒の上に昇る役を立候補していたくせに、蓋を開けてみればお粗末。人の上に立つ資格なんて、持っていなかった。


あの人を推薦していたお仲間の人たちも、心なしか複雑そうな表情をしている。


それも気にせず、傲慢で高慢な指示を飛ばす。

他校の生徒にも高圧的なあの態度。自分の高校でのカーストが、他所でも通用すると本気で信じている顔だった。


そんな彼に、不満も勿論たまっていって。


「お前がしっかり、指示しないからだろうが。無能」


そんな意見も、飛び出してくる。飛び出してくる?


「あ? てめー、今なんつった?」


全員の心の声を、わざわざ口に出して代弁してくれた男子生徒のもとへ威圧的な目線を向ける。


それも意に介さず、顔も体型も何から何まで平凡な、どこか親近感の湧く彼は、見た目とは裏腹にハッキリとした口調で断言した。


「今すぐそこから降りろよクズ。あんたのせいで、ウチの可愛い鉄刀(てっと)が大変な目にあってんだよ」


そう言って、斎藤さんとともに相手の攻撃を受け止めている小柄な男子生徒の方を指差した。


というか、結構口が悪い。親近感が一気に消えた。


「誰にものを言ってんだ!!」

「知らねーよ、お前なんて。良いから、降りろや!!!」


そう叫んで、聳え立つ棒を思い切り蹴り付ける。


一切の容赦も躊躇もなく、思い切り。当然だけど、そんなことをしたら棒も倒れてしまうわけで。


一つの予兆もなく、競技とは関係のないところで競技が終わりを迎えようとしていることに、観客間から悲鳴が上がる。


無茶苦茶だ。

僕は倒れゆく棒をなす術もなく見届けながら、そんな凶行を犯した彼のことをぼんやりと考えていた。


蹴り一つで倒すとか、どんな脚力してるんだろ。



「もう少し、考えて行動すれば」

「考えてんだろ。ちゃんと」


がしかし、あわや倒れるかと思われた棒は、僕たちの予想に反して倒れる直前でしっかりと受け止められた。


これまた、一人の生徒の手によって。


「てか重い。起こすの手伝ってよ」

「わかってるから、そんな怖い顔すんなって」


当の本人たちは、僕たちの呆然たした視線や誰にも受け止められずそのまま地面に落ちた、乗っていた彼を無視して、何事もなかったように棒をもとのように立った状態に戻していく。


蹴り倒したのも、それを受け止めたのも、それを更にもとの状態に戻したことも全てが信じられない。何キロあると思ってるのか。


「……上に乗ってた荷物は落としたみたいだけど、これってルール的にどうなるの? やっぱり、失格とか?」

「わかんねー。もう一回乗っときゃ、大丈夫だろ」


野蛮な彼の言葉に一度ため息をつくと、納得したのか、中性的な見た目の好青年はスルスルと棒を登っていく。


「お、ラッキー! 良い感じに気絶してんじゃん。これで、なんの憂いもなくなったし……後は倒すだけだな」


相当な自信があるのか、指をポキポキと鳴らしながら斎藤さんと鉄刀さんのいる前線へと、一人歩いていく。



その急すぎる展開に、僕は勿論他の生徒たちもついていけずに、一言も声を出せずにいた。


「ごめんね、ウチの馬鹿が勝ちたいって言っててさ。悪いけど、君たちにも手伝ってもらうから」


棒の上を陣取りながら、中性的な方が混乱している僕たちに、頭上からそう指示を飛ばしてくる。


「取り敢えず退くのはなし。押し返せなくても良いけど、圧力はかけよう。棒の周りにもこんなに人材はいらない。半分はバラバラに向こうへの陣地へと攻めて、少しでも注意を分散させよう」


高圧的なわけでも怒鳴ってるわけでもなかったんだけど、不思議とその命令には逆らえなかった。


なんというか圧がある。


的確さという面でも、カリスマ性という面でも、さっきの荷物と呼ばれた男子生徒とは、比べものにすらならなかった。


◇◇◇


「やばいやばいやばい! 押されてる!」

「どうしよう! 速く対策練らないと!」


さっきまで余裕だと笑い合って相手を馬鹿にしていたはずなのに、いざピンチになると揃いも揃って間抜けヅラを晒す彼らに、呆れさえ出てこない。


『勝ち確〜』とか騒ぎ立てていたのが、遠い昔に思える。


ハッキリ言って打たれ弱すぎた。

私自身、あの推している状況からここまで押し込まれるなんて思ってもいなかったけど、それは彼らの動揺によるところが大きい。



さっきまでイケイケムードだったのに、劣勢になりそうと見ると情けなくも逃げ帰ってくるここの陣営の生徒ども。


それが更に負けを呼び込んでるのを、気づいていない。



「と、取り敢えず攻めてるやつらを呼び戻そう。今は何よりも守りを重視するべきだと思う」

「そうだな。ちょっと俺、呼んで」


愚かにも命令に従って、呼び戻そうとしている頭の悪いヤツの前に、氷の壁を作り上げて道を塞ぐ。


無関心を貫いていた私が、いきなり干渉してきたことに、さっき会話していた3人揃って、驚いているみたいだった。


私自身、干渉する気なんて無かったけど、みすみす負けるのもなんだかかんだ癪に障る。

それで、由香に馬鹿にでもされたらと思うと、耐えられないし。


「呼び戻す? 冗談でも笑えないんだけど。むしろ、その逆。勝ちたいなら、全員で攻めに転じるべきでしょ」


上手く聞こえなかったのか、反応は鈍い。


鈍い中、3人の中の一人が恐る恐るといった形で尋ねてきた。


「そ、それじゃ守りはどうするんですか?」

「私がいるでしょ」


つまらない質問に、適当に答える。


そんな私の態度と発言に、不信感よりも先に、声に出してはいないけど全員が全員おそれの感情を抱いていた。


そういうところが、つまらなかった。




指示に従って、棒の上に乗る私以外の全員が向こうの陣地に攻めていくのを、私は一人見送った。


少しでも面白くなれば良いという、期待を込めて。


◇◇◇


「やば、短期決戦をかけに来られた。全員で攻めてくる」


棒の上ということもあって、他の人よりも状況を把握するのが速かったため、一人微妙そうな表情をして彼は呟いた。


微妙そうな表情をした意図はわかる。


彼の言う通り、全員で突撃するという大胆な作戦を敵がとってきたなら、不利になるのは間違いなくこっちだった。


なぜなら、向こうには恵南さんがいるから。


一人で防衛を完璧にこなせる時点で、敵がその手を今まで取らなかったことに苛立ちさえ覚えていたけど、ついに勝ちに来たらしい。


短期決戦を強いられたた場合、先に負けるのはこっちだから。


その悲しい事実に気づいている彼は、棒の上で一人、悔しそうに歯噛みしている。



ただ、それに気付けてるのは僕たちだけじゃなかった。



野生の感が働いたのか、斎藤さんを含む武闘派の3人は一気にペースを上げて、相手の陣地に突っ込んでいく。


3人とも、やられる前にやってやろうという精神だった。


残念なことに、それでこちらの守りは完全に0になった。後、ものの数分で、この棒は地面へと倒れ伏していることだろう。


僕たちが願うのは、そうなるより先に斎藤さんたちが向こうの棒にまでたどり着いて、恵南さんに一矢を報いること。


難易度だけでいうと、並大抵のことじゃない。


例え、戦闘力にいくら自信があったとしても、3人がかりでさえ恵南さんに勝つ未来は見えなかった。



「行けーーーー!!!! 斎藤さん!!!!」

「大和! 鉄刀! 頑張れ!!」


しかし、それでも応援せずにはいられない。



僕たちは存外、負けず嫌いだった。


◇◇◇


(遅い、遅い遅い)


相手の攻撃や異能力をかわしながら、私はたった一人で相手の陣地の中心の部分へと走る。


他についてきていた2人はいつの間にか消えていた。


ただそれでも私は走った。『麗姫』って人のところのもとに。


「あれが、『麗姫』……」


初めて生で見るその女性は、見たところ普通の女子高生だった。威圧感も感じないし、噂ほど怖いとも思えない。


ただ、自分の思っている以上に綺麗ではあった。


(どんな、コスメ使ってるんだろ)


今はそんなことを考えてる場合じゃないんだろうけど、そのことが気になって仕方がなかった。


最近できた友人に教えてもらったメイク。


私には必要ないとは言われたけど、それでも興味は持ってしまう。あの『麗姫』も、ファンデーションとか付けてるのかな?


「っ!!??」


オススメのブランドとかあったら教えてもらおう、とか考えていたら、そっちに気を取られてしまい足元がお留守になっていた。


いつの間にか、凍っていた地面に足元をとらわれる。



なんとか、立ち直せたものの今度は氷の壁が前に突き出てくる。


気づけば、周りの温度も少しばかり下がっている。もしかして、これも『麗姫』の異能なのだろうか。


だとしたら、強いと言われる理由もわかる。この速さに攻撃性、それに応用できる利便性。


ズルイと駄々をこねたくなるくらい、完璧だった。



気づけば、四方を高い氷の壁で囲まれて閉じ込められる形になる。こんなものまで手軽に作れるとしたら、自分との差を感じずにはいられなかった。



それでも、



目の前に聳える、氷の壁へ手を添える。


それだけで氷の壁が傾いて、棒の上に座っている『麗姫』のもとまで導く橋となった。

私は、その橋を駆け上がる。


彼女の驚いたような表情が目に映った。


ただそれだけで、満足しても良かったけど、やっぱり。


「勝てるなら……勝ちたいし」



足元へと伸びる氷を避けるように飛び上がり、『麗姫』の喉元まで詰め寄ることに成功する。


そして、その身体へと手を触れた。

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